{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
2020-07-20
対談者
PwC Japanグループ※1 スペシャルアドバイザー
慶應義塾大学教授 (Jean Monnet Chair ad personam)ジャン・モネEU研究センター所長
庄司 克宏(写真右)
PwC Japanグループ ブレグジット・アドバイザリー・チーム
PwC Japan合同会社 ディレクター
舟引 勇(写真左)
2020年1月末に英国はEUを離脱しました。2020年12月31日までは離脱後の激変を緩和するための移行期間とされており、通商を含む将来関係に関する交渉が実施されています。しかし新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大による影響も大きく、交渉の進展は芳しくありません。また、6月末が移行期間の延長を決める期限でしたが、英国は延長を申請しませんでした。今回の対談では、PwC Japanグループ スペシャルアドバイザーであり、EUの法と政策が専門の慶應義塾大学の庄司 克宏教授と、PwC Japanグループ ブレグジット・アドバイザリー・チームの舟引 勇が、英EUおよび英日間の通商交渉、そして日本企業への影響について語ります。
舟引:
6月末が申請の期限でしたが、英国は移行期間の延長を申請しませんでしたね。
庄司:
6月15日に英EU首脳会議がオンラインで行われたのですが、その際に出された共同声明では、移行期間を年末で終了し延長しないことを確認したと発表されていました。
舟引:
もともと厳しいとされていた交渉期間ですが、今年に入ってからCOVID-19の影響で対面での交渉ができなかったことや、交渉関係者の感染も影響して、交渉が大幅に遅れていましたよね。移行期間が年内で終了ということは、さらに急いで交渉を進めないと間に合わないのではないでしょうか。
庄司:
そうですね、6月29日からは、約4カ月ぶりに対面での交渉が再開されました。今後は交渉を加速して行い、今年末までに批准の完了を目指すとされています。
舟引:
現在の交渉の争点はどこですか。
庄司:
問題は通商協定の内容ですね。EU側と英国側の協定ドラフトを比較したのですが、主な争点は、EU側はEUのルールで、英国は既存の国際協定をベースとする一般的な国際法で進めたがっているところです。また、レベル・プレイング・フィールド(同一競争条件)、漁業権、ガバナンス(英EU関係の運営や紛争解決手続きなど)も引き続き争点となっていますし、折り合いは難しいかもしれないですね。
舟引:
英国としてはEUルールから出ることを優先していますからね。年末に向けてどのようなスケジュールで交渉を進めるのでしょうか。
庄司:
EU側のシナリオとしては、7月から夏季休暇に入る前に枠組みについて原則合意し、9月中に集中交渉を実施して10月までに政治レベルで合意することを目指しています。そうすれば、10月15日から16日に開催されるEU首脳会議に間に合わせることができます。そういう意味では、交渉の山場は9月になると思います。
舟引:
なるほど。10月までに合意できないと、通商協定なき離脱になるということですね。前回の対談では、可能性は低いがまだ残っているとおっしゃっていましたが、現在はどうでしょう。
庄司:
「合意なき離脱バージョン2.0」とでもいうべきでしょうか。もともと英国のジョンソン首相はハードブレグジットを掲げて総選挙に勝ったため、妥協ができないでしょうね。短期間のさらなる延期なども考えていないでしょう。また、英国がEUと自由貿易協定(FTA)を締結できてもできなくても、EUを離脱することにより生じる経済的な損失は、EU残留の場合と比べればさほど差がないようです。したがって、英国は交渉をある程度進め、もし決裂してしまったら仕方がないと覚悟しているのではないでしょうか。
舟引:
引き続き交渉の行方を注視していく必要がありますね。関税の有無、原産地規則、通関手続きなどにも影響があります。
庄司:
先日、英国はFTAの有無に関わらず、移行期間後の半年間はEUからの輸入手続きを簡素化すると発表しました※2。もしFTAが締結されたら、EU側も通関手続きに対して多少の移行期間を持つと思いますが、不成立の場合は対応しないのではないでしょうか。
舟引:
企業としては、両方の場合に備えておく必要がありますね。英国は最大の貿易相手であるEUの他にも、米国、日本などとも通商協定の交渉を進めていますよね。
庄司:
英国政府は、移行期間終了後に発効する通商協定の相手国として、米国、日本、オーストラリア、ニュージーランドを最優先する方針を示しています。
舟引:
日英間の貿易交渉は6月9日に開始されましたが、先日、日本は英国とFTAに合意するまでの期限を7月末までの6週間と発表していました。日本の国会での承認を考慮しての期間のようですが、こちらも交渉期間が随分短いですね。
庄司:
確かに短期間ですが、既存の日EU経済連携協定の条件をベースに、とりあえず年末の批准発効に間に合わせるようにするのでしょう。
舟引:
英国からすると、米国はともかく日本との貿易額はあまり多くないと思いますが、なぜそこまで短期間で日本との交渉を優先するのでしょうか。
庄司:
英国は日本とのFTAを足掛かりに、TPP11協定(CPTPP、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)への加入を視野に入れているようです。最近、英国の国際貿易大臣もそのように発言していますし、先ほど挙げた米国以外のFTA交渉国は全てCPTPP加盟国です。
舟引:
CPTPP加盟国の人口は計5億人、GDPは世界の13.5%で、EUに近い規模ですしね。そして、日本は米国がTPPから抜けた後、CPTPPを主導してきましたから、英国にとってもまずは日本とのFTAが重要になるということですね。そういった視点では、日本企業にとっては、日英FTAの交渉の行方も気になるところです。仮にFTAが締結されない場合は、英国のUKグローバルタリフが適用されて、例えば乗用車であれば10%の関税がかかることになります。
舟引:
今年に入ってからは、やはりCOVID-19拡大の影響が大きいですね。
庄司:
欧州は、ご存じのとおり時系列的には中国に次いでCOVID-19流行の中心地となり、感染被害が深刻です。英国は初期段階で対応も遅れ、欧州でも特に影響が大きいとされています。
舟引:
PwC英国でもCOVID-19の影響を踏まえた英国の経済予測[English]を出していますが、6月末時点で、2020年のGDPは感染状況における最悪のシナリオでは最大で12%の縮小を予測しています。
庄司:
COVID-19に、さらにブレグジットのインパクトが続くことになりますね。
舟引:
経済やビジネスにも大きな影響がありましたからね。ロックダウンや自粛による消費の冷え込みや、リモートワークで出社もできず、経済活動がしづらい状況にありました。
企業もCOVID-19の対応に追われ、ブレグジットへの対応が遅れて期限に間に合わなくなるのではないでしょうか。
庄司:
日本企業だけでなく、世界の企業も同様だと思います。
舟引:
しばらくCOVID-19による混乱は続きそうですが、今こそブレグジットへの対応計画をあらためて見直すタイミングではないかと思います。2021年1月に発生する可能性のある全てのシナリオ、つまりFTAがある場合とない場合の両方に備える必要がありますね。
多くの企業では、これまでの2019年の3月や10月の離脱タイミングで、いわゆる合意なき離脱に備えて準備したでしょう。しかしCOVID-19の拡大がビジネスにもたらした影響を踏まえて、これらの準備を再確認したほうがよいと思います。時間の経過による需要やビジネスの変化に対応するために、計画を修正する必要も出てきます。
庄司:
そうですね。どちらのシナリオになっても、多少の混乱は避けられないでしょう。英EUはFTAの交渉で関税や割当枠をゼロにすることを目標にしていますが、全ては貿易協定が成立した際に明らかになります。しかし、成立まで待ってからの対応では遅いかもしれません。
舟引:
FTAが結ばれるかどうかにかかわらず、英国とEUとの将来の関係について詳細は何年も不透明なままかもしれません。そしてCOVID-19の影響によるビジネス環境の不確実性も、しばらくは続くと思われます。度重なった英国のEU離脱の延期と、COVID-19の課題の双方に対処しなければならないというこの状況では、「後悔しない」ための決断に向けて、アジャイルにプランニングしていくことが、これまで以上に重要になってきました。PwCは以前より、企業の皆様に対してブレグジット対応における8つの「後悔しないための意思決定の検討」をお勧めしてきましたが、ぜひこのタイミングで再確認していただけるとよいかと思います。
以上
※1:PwC Japanグループは、日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社の総称です。各法人は独立して事業を行い、相互に連携をとりながら、監査およびアシュアランス、コンサルティング、ディールアドバイザリー、税務、法務のサービスをクライアントに提供しています。
※2:Government accelerates border planning for the end of the Transition Period[English]