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障がいなど人の属性に関わらず、テクノロジーの力で多様性の包摂を実現する「テックインクルージョン」について、株式会社キズキ 代表取締役社長 安田 祐輔氏と取締役 林田 絵美氏にお話を伺いました。
鼎談者
株式会社キズキ 代表取締役社長
安田 祐輔氏
株式会社キズキ 取締役
林田 絵美氏
PwCコンサルティング シニアマネージャー
パブリックサービス部 デジタルチーム
山本 真也
モデレーター
PwCコンサルティング ディレクター
パブリックサービス部 Social Impact Initiative
下條 美智子
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
左から山本 真也、林田 絵美氏、安田 祐輔氏、下條 美智子
株式会社キズキ 代表取締役社長
安田 祐輔氏
株式会社キズキ代表取締役社長。国際基督教大学(ICU)卒業後、総合商社を経て、株式会社キズキを立ち上げ。現在は、不登校・発達障害の方向けの学習塾「キズキ共育塾」・家庭教師「キズキ家学」、自治体や国の委託を受けて、生活保護受給家庭や生活困窮家庭の子ども等の困難を抱える方を支援する公民連携事業、うつや発達障害の方向けの就労支援「キズキビジネスカレッジ」などの事業を全国50カ所で展開。
新宿区自殺対策総合会議委員、ICU評議員、明治学院大学社会学部社会福祉学科非常勤講師などを歴任。
著書:『暗闇でも走る』(講談社)、『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本』(翔泳社)、『学校に居場所がないと感じる人のための 未来が変わる勉強法』(KADOKAWA)
株式会社キズキ 取締役
林田 絵美氏
株式会社キズキ取締役CFO。発達障害当事者。公認会計士。
早稲田大政治経済学部卒業後、2015年に外資系大手監査法人に就職。その後発達障害(ADHD)の診断を受ける。「発達障害当事者として、生きづらさを感じる人を支えたい」と考え、2018年に「何度でもやり直せる社会をつくる」をビジョンに掲げる株式会社キズキに入社。2019年、うつや発達障害の方のための就労移行支援事業所「キズキビジネスカレッジ」立ち上げ。
現在は、さまざまな困難を経験した人たちがもう一度やり直すことができるよう新規事業開発を行う。
※本文敬称略
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
下條:
日本の社会では、精神や発達に障がいのある方の就労支援はまだまだ途上です。就労環境を改善し、賃金もしっかり支払い、社会全体で多様性と包摂性を育て、雇用の輪を広げる未来を実現するにはどんな課題があるのでしょうか。本日はテクノロジーの力を使って解決方法を生み出そうと奔走する株式会社キズキの安田さんと林田さんをお招きし、障がいなど人の属性にかかわらず、テクノロジーの力で多様性の包摂を実現する「テックインクルージョン」について、議論を進めたいと考えています。
私が最初に御社と関係を持たせていただいたのは2017年ごろでした。当時から少しずつ、障がい者雇用の課題についていろいろと話す機会があったのを覚えています。そして今、精神や発達に障がいのある方の就労支援を事業として一段と本格化する段階に来たと理解しています。まずは御社の概要と、就労支援の課題について教えてください。
安田:
もともと2011年にNPO(特定非営利活動)法人をつくって、2015年にもっと大きくしようとの思いから株式会社をつくりました。現在、当社には3つの事業があります 。1つ目は不登校や発達障がいの方に特化した塾・家庭教師です。2つ目は自治体や国の委託を受けて生活保護受給家庭や生活困窮家庭とその子どもなどの困難を抱える方を支援する事業です。3つ目が今回のテーマである精神障がいや発達障がいの方を対象とした就労支援です。
1つ目の学習支援と3つ目の就労支援のスタートは同じです。何か可能性を秘めている人が、今のままだと可能性を発揮できないのではないか、という問題意識が土台にあります。ここ数年、ようやく不登校や精神・発達障がいへの理解はじわりと進んできましたが、ひと昔前だと、不登校になっただけで周りの人から「怠け者」と見られがちだったと思うのです。今もそうした偏見は残っていると感じます。でも、さまざまな理由でやっぱり学校という枠がなかなか合わない方がいるのも事実です。
就労の場でも似たような課題があります。本来ならビジネスパーソンとして活躍できるかもしれない方が、たまたま会社と合わなかったり、苦手なことをうまく克服できなかったり、得意なことへの理解が不十分で強みを発揮する場を見つけられなかったりすることで、自分の将来のキャリアへの希望を失ってしまう。そういう環境に置かれている方は少なからずいると思います。
ただ、そういった働くことに困難を抱える方の就労支援となると、企業側も「ちょっとよく分からないので障がい者雇用で単純な事務作業をやってもらおう」という発想に陥りがちだと感じています。やはり、個人の特性をちゃんと見極め、その方の適性に合った働き方ができれば、本人も企業もハッピーですよね。私たちは精神・発達障がいの特徴がある方を対象として支援しています。一般的には障がい者は「障がい者雇用」以外の形で働くことが難しいと思われがちですが、当社の場合は実際には卒業生のうち障がい者雇用での就職の割合は50%程度、残りの50%が一般雇用で就職されています。障がいのある方でも、強みを見極めれば一般雇用が可能であることを証明しています。障がい者雇用制度を否定しているのではなく、現実として一般雇用の方が賃金体系も高いので、雇用者・雇用主双方に問題が生じないのであれば、一般雇用の方が生活の上では良い面は多いと思っています。
株式会社キズキ 代表取締役社長 安田 祐輔氏
PwCコンサルティング シニアマネージャー 山本 真也
山本:
個人の特性を見極める、というのは難しいですよね。障がいのある方と話をする中で、どういうコミュニケーションが苦手なのか、得意なのか、実はこういう仕事が向いているのではないか、という「気づき」を提示できるようにするにはどうすればいいのでしょうか。
安田:
そのノウハウは我々の強みの1つと言えます。塾でも同じように、不登校と発達障がいの方の特性を見極め、生徒の個性に合う講師をマッチングさせるような仕組みを整えてきました。「生徒と講師」の関係を就労支援に置き換え、「個人と就職先の組織」のマッチングに応用しようとしています。もちろん、就職なので難度は高いです。そのため、1年くらいかけて自己理解を深めたり、苦手なことはできるだけ克服したり、という支援もします。
これは障がい者に限らず、どんなビジネスパーソンも同じかもしれませんね。成長していく前提で、つまり変わらないといけないところは変える努力をする、という前提で、個人の資質をより高い解像度で理解するという仕組みを社内でしっかりと整えています。何百、何千の質問項目があって、回答ごとに分岐を繰り返して、どういうことができるのか、どういうことができないのかを深掘りしていきます。
例えば「コミュニケーションが苦手」と言われたら、一対一が苦手なのか、一対多数が苦手なのか、初めて会う人だとちょっと緊張してしまうのか、もしくは慣れている人でもやっぱり疲れてしまうのか。苦手という感覚の解像度をどんどん上げていくと、その人の特性が見えてきますよね。苦手と感じる対象を明らかにして、本人の苦手意識や思い込みも分析していくことで、職業の選択肢ってガラッと変わるはずなんですよ。
山本:
解像度を上げるように質問を重ねながら確認をしていくと、苦手な部分と得意な部分が浮かび上がってくる。その過程で苦手を克服する、あるいは得意を伸ばす、という個人の意思も引き出せるような仕組みですね。
安田:
はい。これらはテクノロジーがあってこそできることですが、デジタルプロダクトだけではやりきれないことでもあります。コーチングはやはり人と人でないと難しいです。テクノロジーと人の力の組み合わせです。分析や解像度の深掘りといったテクノロジーでやれることはできるだけ活用する。そのうえで個人の意欲を高めるところは人間が伴走する、というのが大事だろうと思っています。
下條:
効率化するところはテクノロジーで効率化して、支える、背中を押す、一緒に走るといったところにより多くの時間を使っていきたいということですね。
林田:
どこが得意でどこが苦手か、という得意・不得意の要因を解き明かすだけでも救いになると思うのです。例えば注意欠陥・多動性障害(ADHD)という障がい診断でも、集中しすぎて周りに目が配れないパターンと、注意力が散漫で目の前のことに集中できないパターンがあります。ただ、ケアレスミスをするという事象は変わらない。前者の人に「もっと集中しなさい」と言ってしまうと余計ミスにつながりかねません。本人も「なんでこんなことが起きるのだろう」と原因を特定できないですよね。その謎をきちんと解き明かして示す、というのが救いになっているようです。
山本:
周りも本人も気づかない、その人個人の内にあるダイバーシティを「見える化」することで気付きが生まれ、「得意なこと」「苦手なこと」を客観性をもって示す。それが苦手なことを克服しようというモチベーションにもつながってくる、ということですね。進むべき道がはっきりするというか。
林田:
そうですね。「障がいは個性だから気にすることない」という言葉がありますが、その通りだなという側面もありつつ、言ったところで何も解決になってないですよね。ケアレスミスをしたら、本人も気にするし、周りからも「個性だからしょうがないよね」とは認められない現実があります。どこで何につまずいているのか、というファクトを解き明かして、ファクトに基づいて何が苦手なのか、何が得意なのかというのを見極めていくのが大事だと感じます。
株式会社キズキ 取締役 林田 絵美氏
PwCコンサルティング ディレクター 下條 美智子
下條:
御社は「何度でもやり直せる社会をつくる」をビジョンに掲げています。今、こうした考えこそ求められる社会になっているのではないかと感じています。
安田:
実は最近、経営会議でちょうど議論になりました。「やり直す」というのは少し言葉が違うのではないか、という意見も出ました。
林田:
例えば、不登校だった生徒が再び進学することを「やり直し」だと定義すると、不登校を失敗という風に位置付けているのではないか、という捉え方も出てきます。
安田:
でも、当事者としては失敗だと思っている人がいるのも現実です。失敗か、失敗じゃないかは本人が決めることであり、本人のその先の人生で決まることです。おそらくキャリアの選択とか人間の生き方も同じで、「ちょっとうまくいかないな」ということがあっても次の機会に修正すればいいだけと思えれば、失敗という概念もなくなるのではないかと思うのです。1度の失敗が「黒歴史」になってしまって辛いと感じるけれど、それもいい学びだった、とポジティブに捉えられる社会になるのが理想ですよね。
山本:
面白い視点ですね。アジャイルな要素というか。自分の適性を調べたうえでトライしてみたものの、解像度を上げて分析してみると決して適した仕事ではなかったとします。しばらくして世の中のニーズが変わり、自分でできることも増やしていくと、さらに適した仕事とマッチングできる可能性が出てくるかもしれない。やり直す、というのは自らをアップデートさせる考えとも言えます。
下條:
デジタルの力を使って効率化できる部分は効率化をし、浮いた時間やコストで人対人で伴走する時間を確保する。その積み重ねが新たな障がい者雇用の未来を築く礎になるのではないか、と改めて感じました。後編では、障がい者雇用を取り巻くさまざまな課題やこれから目指すビジネスモデルなどについて、議論を深めたいと思います。
鼎談の様子