
従来のやり方にはとらわれない「新しい仕事のスタイル」をつくるゼロから始まった大林組のデジタル変革
総合建設会社大林組の「デジタル変革」に伴走し、単なるシステムの導入ではなく、ビジネスプロセスの抜本的な変革を推し進めたPwCコンサルティングの支援事例を紹介します。
環境問題や人権問題などの社会的課題が企業活動においても重要な課題となっている昨今、建設業界ももちろん例外ではなく、サステナビリティ経営に多くの関心が集められています。本稿では、主に環境問題に対する建設業界における現状の取り組みと今後の方向性について考察します。
サステナビリティ経営について、PwCでは「長期で利益を出し続けるために、リソース配分を行う経営」と定義しています。事業基盤である環境・社会を維持・増強しながら、経済活動としての事業を持続的に成長させていくために、長期的に生じる構造的な変化に対して自社の強み・能力(ケイパビリティ)でその変化に対応できるのか、対応できない部分があるとしたら何が足りないのかを考え抜き、強い意志をもって自社の変革をリードして、変化を乗り越えることが求められています。
サステナビリティ経営を効果的に推進するためには、取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を特定することが重要です。その特定においては、国際的な基準やガイダンスに基づく網羅的な検討と、自社とステークホルダーの複合的な視点での抽出が必要です。
ステークホルダーの視点については、社会の大きな流れ(メガトレンド)が参考になります。PwCにおいても5つの視点(気候変動、テクノロジー、人口動態の変化、世界の分断化、社会の不安定化)からメガトレンドを特定しています。
また本稿では国際的な基準のひとつとしてSASB(サステナビリティ会計基準審議会)が公表している建設業界のマテリアリティの中から、環境に関連したもの(表1の太字テキスト)について紹介します。
トピック (マテリアリティ) |
会計メトリクス (定量的な数値や重要な観点に関する説明の要求) |
プロジェクト開発における環境影響 | 環境許認可、基準および規制違反事例の件数 |
プロジェクトの設計、立地および建設に関連する環境リスクを評価および管理するプロセスの説明 | |
構造上の完全性と安全性 | 欠陥および安全関連の手直し費用額 |
欠陥および安全関連災害に伴う法的手続に起因する金銭的損失の総額 | |
労働者の安全衛生 | (1)(a)正社員および(b)契約社員の総記録災害度数率(TRIR)、および(2)死亡率 |
建物およびインフラストラクチャーのライフサイクルにおける影響 | (1)第三者機関による多属性サステナビリティ基準の認証を受けた受託プロジェクト、および(2)そのような認証取得を目指して進行中のプロジェクトの件数 |
プロジェクトの計画および設計に、運用段階のエネルギーおよび水効率の考慮事項を組み入れるためのプロセスの説明 | |
事業構成に対する気候影響 | (1)炭化水素関連プロジェクト、(2)再生可能エネルギープロジェクトのバックログ量 |
炭化水素関連プロジェクトに関連するバックログのキャンセル量 | |
気候変動の緩和に関連する非エネルギープロジェクトのバックログの量 | |
企業倫理 | トランスペアレンシーインターナショナルの腐敗認識指数で下位20位までに含まれる国において(1)進行中のプロジェクト数、および(2)バックログ |
(1)賄賂または汚職、および(2)反競争的行為の告発に関連する法的手続による金銭的損失の総額 | |
プロジェクトの入札プロセスにおける(1)賄賂や汚職、および(2)反競争的行動を防止するための方針および実務の説明 |
出所:SASB(サステナビリティ会計基準審議会)https://sasb.org/
SASBは財務へのインパクトを重視するという立場をとっており、該当するプロジェクトのバックログ(いわゆる受注残)や必要に応じて補足説明を要求している点等が特徴的といえます。なお、PwCではTOPIX100の企業を対象としてSASB基準の適用対応について調査を行っています。
次に日本の建設業界の環境に関するマテリアリティおよびKPIに関して目を向けていきます。
国内の大手・準大手の建設会社計12社の公表資料を基に、うち何社が当該指標を掲げているかをまとめたのが表2です。
重要課題 (マテリアリティ) |
No. | 指標(KPI) | 割合(%) |
脱・低炭素 | 1 | CO2の削減 | 100 |
2 | ZEBへの取り組み | 75 | |
3 | 再生可能エネルギーの利用や事業拡大 | 67 | |
循環型社会 | 4 | 廃棄物の削減 | 92 |
5 | 木材活用の促進 | 25 | |
生物多様性 | 6 | 生物多様性プロジェクトの推進 | 50 |
7 | 環境汚染防止 | 33 | |
その他 | 8 | 従業員等への教育・啓蒙 | 42 |
9 | 外部機関の評価取得 | 25 | |
10 | 環境技術の開発 | 33 | |
11 | その他(水、電力の消費量削減など) | 42 |
※重要課題に対する指標の分類は一般的なパターンに組替
指標の中でも高い割合のものは「CO2の削減」「ZEBへの取組」「廃棄物の削減」となっています。その背景としては、
等が考えられますが、いずれにせよ建設会社として不可避的な課題と言え、多くの企業で共通して指標として用いられているのは理解がしやすいと思います。
一方、近年では従来の「自然環境への負の影響を抑える」という発想から大きく踏み込んで「生物多様性を含めた自然資本を回復させる」というネイチャーポジティブという概念が重要性を増しています。
そこで「生物多様性」という重要課題について注目してみると、「脱・低炭素」や「循環型社会」と比較すると、指標を挙げている企業の割合が少なくなっており、重要課題として認識はするものの、指標への落とし込みについて各社の取り組み姿勢に差がある点が読み取れます。
日本の建設業界もこれまでの経験の蓄積や技術の伝承により自然資源の再生回復に資する技術や資産を保有しており、積極的に活用することが期待されています。ネイチャーポジティブの概念の浸透とともに、今後はこの重要課題において、各企業の積極的な姿勢が指標となって表れていくものと考えられます。
サステナビリティをめぐる世界の動きが加速化し、日本の建設業界の各企業もグローバルトレンドにアンテナを張りながら試行錯誤を続けられているものと思います。不確実な時代において、環境や社会を含む外部環境の変化とそれによって生じるリスクと機会を理解し、積極的・自発的に企業の事業全体を適応させていく姿勢が求められます。
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