エンタテイメント&メディア業界の断層と亀裂

第3回:NFTのユースケースの広がりと課題解決に向けたロードマップ

  • 2023-04-12

PwC Japanグループは2022年12月15日、メディア関係者を対象に、VR空間上でセミナー「エンタテイメント&メディア業界の断層と亀裂―新たな競争環境におけるイノベーションと成長―」を開催しました。当日はPwC Japanグループの各法人からそれぞれの領域のプロフェッショナルが登壇し、業界のトレンドやNFTビジネス、メタバースに関する今後の展望ならびに課題について講演しました。

当日の様子を振り返る本連載の第3回は、第2回でご紹介したNFTに係る法務・監査・税務の課題に続き、NFTのユースケースの広がりおよび課題解決に向けたロードマップについて、PwCコンサルティング合同会社Technology Laboratoryディレクターの丸山智浩がご紹介します。また、PwCコンサルティング合同会社Strategy& パートナーの森祐治がNFT業界の展望について総括しています。

登壇者

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
丸山 智浩

PwCコンサルティング合同会社 Strategy& パートナー
森 祐治

(左から) 丸山、森

(左から)丸山、森

※法人名・役職などはイベント開催当時のものです。

NFTユースケースの広がりと課題

丸山:
NFTが最初に話題になったのは、アート作品にNFTが付与されて何十億円もの値段がついて取引されたことだったかと思います。このNFTというテクノロジー自体は、デジタルの世界で唯一性を証明するものです。例えば、皆さんのいるリアルの世界でお手元のお札を見ていただくと、一つひとつシリアルナンバーが刻印されているかと思います。そのお札を所有するということは、見ようによっては、世界でたった1枚しか存在しないお札を持っていると捉えることもできます。

NFTはこの点に着目しています。ブロックチェーンはご存じのとおり、もともと暗号資産を実現したテクノロジーです。しかし、この暗号資産、いわゆるトークンというもの一つひとつにシリアルナンバーを付けて、誰が持っているかということを証明することによって、デジタルデータの唯一性を保証する、という仕組みになっています。

これの何が画期的かと言うと、もともとデジタルデータというのは簡単にコピーできるということがその性質でしたが、このNFTが生まれたことで初めて、デジタルデータであるにも関わらず、世界唯一のモノを誰が持っているかということを証明できることになったわけです。

その活用の一歩目が、NFT1.0と呼ばれるものです。先に述べたようなアート作品などの希少度の高いものにNFTが紐づけられ、その希少性に基づいてオークション形式をとり、金額価値を生むといったことが注目を浴びたわけです。しかし、これはあくまでユースケースの1つにしか過ぎません。

NFT2.0の世界では、集めてきたデジタルデータを、さまざまなプラットフォームで利用することができるようになっていきます。例えば、自分が持っているデジタルアートコレクションを展示したり、あるいはあるゲーム世界で入手したアイテムを別のゲーム世界で使用したりするなど、さまざまなデジタル世界で所有したものを活用していくというシーンが広がっていくでしょう。

また、NFT2.0の世界において、それらのデータを持っていることがコミュニティへの参加権になるといったこともあるでしょう。例えば、特定のアーティストの絵を持っている、特定のアーティストの音楽を集めているといったことがファンであることの証明となって、そのコミュニティへの参加権になっていくという使われ方です。

さらに、もともとの暗号資産(仮想通貨など)は、この所有やデータの流通に関する情報がオープンになっているので、例えば自分がどのような暗号資産を持っているか、どのような購入履歴があるかということを公開し、証明することが可能になっています。そのことによって、自分がどのような属性の人間なのか、あるいは他者がどのようなコミュニティに所属する権利を持つのかということを確認できるようになります。

ここまでの話は考えられ得るストーリーの一部に過ぎませんが、NFTという技術が、このデジタルの世界においてさまざまな活用の仕方が考えられるということを示せたかと思います。

図表1:NFTユースケースの広がり―NFT1.0からNFT2.0へ―

上記のとおり、NFTはアートからスタートしましたが、あらゆる産業においてこのNFTというものが活用できるのではないかという期待を集めています。

例えば、コレクティブルという分野ではシリーズ物での収集を目的として、教育の分野では学歴であるとか学習履歴の証明としてNFTを使うというユースケースも考えられています。本連載の第1回では広告ビジネスが伸びていくという話もありましたが、広告枠をNFTとして販売するといった事例も出てきていますし、NFTと組み合わせてスポーツのムービーの価値を高めていくという事例は皆さんよくご存じかと思います。それ以外にも、例えばイベントチケットとして利用する場合には、転売行為はもとのチケット販売業者に利益が渡らないため、日本では現在は違法行為とされていますが、NFTを使えば、どういった経路でそのチケットが渡っていったかを捕捉できるので、それによって販売者に対して利益を還元するような、より健全にチケットを販売する仕組みを構築できるという可能性も広がってきます。

このようにNFTという技術は、多様な産業に対してデジタル世界の所有の在り方を提起するとともに、さまざまな使い方が考えられています。

図表2:NFTユースケースの広がり―さまざまな分野での活用―

このような可能性を実現するためには、さまざまな課題を乗り越えなければいけません。図表3の一番下には、第2回でご紹介したような法務・会計・税務といった観点での課題があります。その他にもブロックチェーンの観点であれば、デジタル世界での本人とリアルな世界での本人の紐づけというのはこれから解決しなければならない課題ですし、所有しているデジタルデータがそもそも本物であるのかどうかといった確認も必要です。

このような解決しなければならない課題が縦軸にいくつも並んでいますが、それらを今後一つずつ解決していくことによって、ユースケースが広がり、それがプラットフォームを跨って、やがて一般的に使われるようになっていくでしょう。

今は一部の方しか使わないような技術になってしまっていますが、これが一般化していくことで、キャズム(ある製品やサービスが一部の顧客に受け入れられてから、広く普及するまでの間に存在する、大きな溝)を超えてさらに利用のユースケースが広がっていく、という循環が生まれる可能性があります。これが冒頭に加藤から話のあった、NFTにおける今後のベストシナリオであると考えています。

図表3:NFTの課題解決のロードマップイメージ

総括

森:
NFTは分かりづらく、また課題も多い領域のため、まだまだ現実味に欠けるのではないかという考えの方も多いと思います。しかし、最後に丸山から説明があったとおり、もう既に実用化が行われている領域もいくつも存在します。今後の普及という点では、技術としての成熟よりも、むしろ社会的受容性という部分が重要となるでしょう。規制なども今後整備されてより活用しやすくなっていくだろうということを考えると、今現在はまだ扱いづらい技術かもしれませんが、「将来的には対応せざるを得ない」と考えていく必要があると思います。

現在の規制環境下では結論が出ていないところもありますが、既に適用可能な部分、あるいは適用すべき部分もしっかりとあるという指摘がありました。意思決定しづらいところもあると思いますが、第2回および今回ご紹介した4人のプロフェッショナルから説明があったように、専門家の適切なサポートを受けながら、実践の試みを進めていくことが将来的な優位性の確立につながるでしょう。

次回は、NFTと同じくエンタテイメント&メディア業界のトレンドの一つであるメタバースに関する今後の展望と課題をご紹介します。

主要メンバー

森 祐治

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

丸山 智浩

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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