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経理財務業務におけるDXについて取り上げる連載の第2回では、経理DXを進めるにあたり要となる考え方や、妨げとなる要因、業務・領域に従って施策に優先順位を付けることの重要性について解説しました。第3回ではそれらを踏まえ、経理業務において具体的にどのようなDXの機会があるのかを解説します。
経理財務業務に関するDXを進める際には、単純に経理部門における業務のみに焦点を当てるのでは、企業全体として狙う効果は小さくなってしまうことは連載の第2回でも説明したとおりです。経理部門の業務に留まらず、経理財務業務に係るサプライチェーンや企業内外のステークホルダーの業務までを対象とした上で検討を行うことが必要です。その中で「現在人の手による業務工数が掛かっている領域はどこか」「電子化・自動化できる領域はどこか」「その影響が大きい箇所はどこか」という順序で検討し、業務効率化などの投資対効果を大きく狙う必要があります。
実際にDXを進めるにあたっては、紙証憑・電子データが各部門に点在しており、どこから電子化・自動化に向けて着手すべきなのか、多くの企業が悩みがちです。その場合には、経理業務および経理に関する前後のプロセス全体として効果が大きく見込める箇所を電子化・自動化の対象として特定していくことが重要です。
具体的には、経理DXの対象範囲としては下記が想定されます。
上記3つの分類に基づき、DXにより創出できる効果についてそれぞれ言及したいと思います。
会計伝票作成上の基礎となる各種証憑類に関しては、これまでの取引慣習上、外部取引先との間では紙による証憑で受発注・納品・請求処理を行うことが通例です。また、これら証憑類に関しては、各取引先との間で個別のフォーマットでやり取りされてきていることが多く、必ずしも証憑類に関する標準化が進んでいるとは言えない状況です。
従前は紙での証憑受領が求められていたものの、2023年10月からはインボイス制度により、電子インボイス・電子証憑の保存が認められることとなりました。今後は電子証憑をやり取りすることで、紙証憑を経理業務担当者が受領・確認・保管する手間を省略することができ、業務工数の削減・効率化を図ることができます。
自社と外部業者間で電子証憑をやり取りすることが業務効率化の一歩となることから、請求書などを電子データにてやり取りするための外部プラットフォームを活用し、業務の効率化を図る必要があります。
会計伝票の起票・承認にあたっては、従前までの処理方法同様に請求書などの証憑に基づき、経理業務担当者が会計伝票を起票した上で、承認者が会計伝票・証憑間での整合性を確認し、承認するという流れが一般的になると思います。
一方で会計伝票の中には定型的・継続的に発生する伝票内容も多く、取引実施・証憑受領の都度、経理業務担当者・承認者の工数が取られることとなります。記帳業務におけるDXの内容としては、下記のような事例があります。
会計伝票のうち、定型的・継続的に発生する取引内容についてAI-OCR(証憑類より文字情報を読み取り、会計伝票の形式へ自動加工するツール)やRPAを活用することで自動化を図るケースが多く見られます。具体的には、請求書などの証憑類をAI-OCRにより読み込み、会計伝票の形式に自動転記した上で加工し、作成後の会計伝票情報についてはRPAを活用することで会計システムに自動入力する事例があります。
これらのツールを活用する際には、証憑が適切に作成され、システムへの入力が行われているか、経理人員により一定数チェックするプロセスも併せて検討する必要があります。しかし、近年ではAI-OCRの中には文字情報の読み取り精度が90%以上まで高まっている製品も多く、伝票の自動作成・入力に関して経理人員による手作業や確認の工数を大きく削減できる状況にあります。自動化の対象とする会計伝票の種類・内容を見極めたうえで自動化を進め、工数を削減することを検討すべきです。
入出金伝票に関しては、キャッシュレス化(立替経費の現金精算廃止、口座振替・対応の実施)を推進することにより、作成・承認する伝票数自体を削減し、工数の削減を図ることも必要でしょう。
これまでは外部企業との手形取引を行うにあたり、手形現物の振出しによりやり取りすることが通常でしたが、電子記録債権管理(「でんさいネット」)へ移行することで、紙手形を廃止し、手形のオンライン管理により事務作業の軽減を検討する必要があると考えられます。
紙手形がなくなれば印紙代を節約できます。また、「でんさいネット」より電子記録債権や債務データを会計システムに取り組んで仕訳に変換し、工数やコストの削減を図ることを検討すべきと考えます。
各会計伝票を起票・承認し、作成した財務諸表については、企業内部(経営層)に報告を行う必要があります。しかし、これらの報告資料を作成するために、科目・数値間の組み替え処理、数値変動内容の分析、報告資料の作成など、経理部門や経営管理部門の業務工数が非常に多くなっているケースが見受けられます。
これらは定期的に発生する業務内容でもあり、定型的な業務や継続的な業務に関しては、極力自動化を図るようにすることが求められます。その分創出される人員工数については、経営報告に向けた分析や示唆抽出など、非定型的かつ経営にとって付加価値の高い業務に充てるようにすべきです。このような対応を行うためのDXの事例を紹介します。
社内業績管理および経営報告に向けた資料を作成する際には、経理・経営管理部門担当者が、会計システムより会計データを表計算ソフトなどにダウンロードし、報告用に勘定科目・細目組替などの対応を行うことに時間・工数を費やしているケースが多く見られます。
本来、経理・経営管理部門人員は、分析を通じた原因の特定や、次なる打ち手の整理を行い、経営層に提案することが求められています。これらの分析・示唆抽出に時間・工数を割くためにも、会計システムからのデータ抽出や分析・報告資料フォーマットへの数値データ転記処理については極力自動化することが不可欠です。これらの分析・報告用のデータ転記処理といった対応に関しては、「手順・フォーマット標準化」を行ったうえで、RPAを活用した「データ転記および分析対象箇所の特定自動化」を行うことが必要です。
特に、業務効率化に向けては「手順・フォーマット標準化」を行うことがポイントとなります。RPAを活用した自動処理を導入する場合、RPAは定められた要件・手順に基づいた処理を実行するため、データ転記元(元データフォーマット)と転記先(分析表または報告資料フォーマット)が的確に定義されている必要があります。仮に作成の都度異なるフォーマットを用いるとなると、RPAでは適切にデータ転記処理を行うことはできません。システム導入を行う場合と同様に、自動化処理を行う上では、「実行すべき要件は何か」「入力および出力するデータフォーマットは何か」を定義し、標準化することが必要となります。
分析・報告資料を作成する度に、各種データを人の手で集計する必要があったり、作成する際のフォーマットが部門ごとに異なっていたりするようでは、データの集計・加工に大きな時間・工数が掛かってしまいます。資料作成やデータ加工に関しては、定型的な業績報告フォーマットを整備し、データ加工の手順を定義した上で、RPAによる自動化を活用することで資料作成の迅速化を図ることが重要です。そして、削減できた分の人の工数を分析に充て、経営層に対してより深い示唆を提示できるようにすべきです。
RPAなどの自動化を組み込んだ業務プロセス改善を図るとしても、依然として表計算ソフトなどを活用したデータの管理や連携によるバケツリレーが残り、各データ・ファイルを個々に管理し、メンテナンスする工数や手間は残ってしまいます。全社の事業・機能部門間でのデータ管理・連携・分析・報告に係る計画と実績の管理報告を迅速化し、効率化するためには、BIツールを活用した「経営ダッシュボードの電子化」も有効なソリューションの1つとして検討すべきです。
これまでの日本企業における計画と実績のデータ管理の実態としては、往々にして各事業・機能部門に係る予算計画・営業計画・需給計画・人員計画などのデータがそれぞれの部門に点在し、各種各様の形式で管理されている状況が多数でした。データ管理の粒度や単位、管理ファイルの形式がバラバラであり、計画および実績の管理、経営層への報告にあたっては、経営管理部門がデータを整理し、加工するために多くの工数を費やしていました。その結果、価値創出の要となる分析や、将来予測までを十分に行えないケースが散見されました。
このような計画および実績の管理業務については極力自動化し、経営管理部門での分析・示唆出しの工数を確保するようにすべきです。また、企業内の事業・機能組織横断でデータ連携を行いながら、経営層が確認したい粒度・観点に応じたデータやレポートをリアルタイムで更新し、意思決定の正確さや迅速さに資するようにするべく、経営管理高度化の観点から経営ダッシュボードの電子化も検討すべきDXの1つとなります。
企業内報告のほか、関係諸法令に基づく外部開示書類(有価証券報告書など)の作成および開示、税務関連書類の作成・申告業務などの外部報告対応に関しても、経理業務において大きく工数が掛かります。これらの業務の中でも、数値の転記や入力などの定型的な作業は自動化し、開示対応に係る工数負担を軽減するソリューションを活用することも検討すべきです。
開示書類上の定量情報(当期実績などの数値情報)と定性情報(開示内容に関する定性面での注記・補足情報)のうち、定量情報に関しては経理人員による転記工数を削減し、誤記載を防ぐべく、会計システムからXBRLへ数値データを転記し、集計する処理を自動化するツールを活用することが考えられます。開示書類上における定性情報の内容は年々増す一方であり、定性情報の検討に時間・工数を確保するためにも、数値転記などについては極力自動化し、効率化を図るべきです。
これまで税務申告書類を作成する際には、税務部門担当人員が個々の会計数値実績や各種証憑を参照し、転記しながら申告書を作成してきましたが、担当者の負担も大きく、参照・転記の際に誤りが生じるリスクもありました。
これらの税務申告業務については、申告書の作成に必要な税務ロジックを設計し、上流システムからデータを抽出・集計・加工を自動で行うツールを活用することや、RPAを活用することで税務申告書の作成を自動化することも検討する必要があります1。
経理財務業務においてこれらのDXの機会が見込めた場合、導入するツールの機能に合わせた標準業務の設計、実業務への適合が必要となります。導入のためのIT投資額・業務変革に係る工数負担とそれに見合う効果を出せるように、ツール導入後のあるべき業務の姿を業務部門側で検討することが必要となります。
これまで述べてきたように、DXを進めるにあたっては「部門個別最適の業務・システム」から「全体最適での業務・システム」へ移行することが必要となります。経理・経営管理部門に閉じて取り組むのではなく、経理・経営管理を軸としながら上流から下流まで連なる業務全体を捉え、いかに迅速化・効率化して効果を導出するかを検討することが肝要です。
それを実現するためには、他の関係各部門や外部とともに業務プロセス自体を変革することが必要となります。これまで各部門最適化で動いていた業務・システムからの変革となるため、各部門側からの出てくる意見によってDXが進まなくなる可能性もあります。しかし、企業として中長期的に成し遂げたい姿を経営層が根気強く説明しながら、全体最適での業務・システムに変革を行うことが必要です。
1 税務申告書類自動化に関する解説・事例紹介
中尾 侑一郎
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社