
【セミナー】金融機関におけるリスク管理・規制対応の高度化
PwC Japan有限責任監査法人は、アルテリックス・ジャパン合同会社と共同で3月14日(金)に表題のセミナーをライブ配信します。
FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)とは、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与防止(Anti-money laundering and counter-terrorist financing: AML/CFT)対応に関わる国家の体制整備状況を審査する政府間会合です。
本稿では、2018年から2023年にかけて発表された、日本以外の主要13カ国・地域(英国、スペイン、イタリア、香港、ロシア、カナダ、シンガポール、スイス、米国、中国、フランス、オランダ、ドイツ)に対するFATF第4次相互審査の結果(再評価も含む)を解説します。
FATF第4次対日相互審査結果から見えてきた日本の課題については、PwC's View第35号「FATF第4次対日相互審査結果と今後のAML/CFT対策」をご参照ください。また、2022年9月に公表された日本のFATFへのフォローアップ報告結果は、同第42号「銀行・証券セクターの現状と課題──AML/CFTへの対応と実効性の高い1LoDの構築」の「I FATFへの第1回フォローアップ報告結果公表後のAML/CFTの重要課題」をご参照ください。
※本稿は、2021年12月10日に公表した「FATF第4次相互審査 – 海外主要国・地域の結果概要」に新たな情報を追加、作成したものです。
まず、主要国・地域のFATF審査結果を確認してみます。G7加盟国など、日本への影響が大きいとみられる13カ国・地域の項目別評価結果は図表1のとおりです。
出典:FATF資料を元に作成
(注)
1.40の勧告(技術的コンプライアンス/法令等整備状況)は、①Compliant(履行:「C」)、②Largely Compliant(概ね履行:「LC」)、③Partially Compliant(一部履行:「PC」)、④Non-Compliant(不履行:「NC」)の4段階評価。合格水準は①の「C」および②の「LC」
有効性評価(法令の運用面の評価)は、①High Level(高い「HE」)、②Substantial Level(十分「SE」)、③Moderate Level(中程度「ME」)、④Low Level(低い「LE」)の4段階評価。合格水準は①の「HE」および②の「SE」。
2.国名下のMは相互審査結果公表時の評価結果、Fは審査結果公表後のフォローアップ報告時の評価結果。
3.項目太字は、FATFが直接審査した30カ国の評価結果で未達成国が過半を占めた項目。
下表はFATFの指摘事項を国・地域別に要約・総括したものです。各国・地域のリスクの状況や金融制度の在り方などによって、それぞれ特徴があります。
英国 |
40の勧告への対処は概ね完了。企業の透明性確保に向けた対応は進んでいる。UK Financial Intelligence Unit(FIU)による疑わしい取引の調査の充実が課題。人材の拡充などの機能強化が必要。 |
スペイン |
IO4(予防措置)を合格水準に引き上げ、有効性評価項目への対応も概ね完了。 |
イタリア |
法執行と没収、経済制裁、金融機関の予防措置と監督、法人の透明性確保などにおいて強力な措置を講じ、脱税、汚職、麻薬売買などの調査・起訴・犯罪収益没収で実績。 |
香港 |
審査前の2018年に多くの重要な法改正を実施し、強力な法令および制度的枠組みを整備。PEP(Politically Exposed Person)の適用範囲についての見直しなどが課題。 |
ロシア |
AML/CFT対応の中心となるRosfinmonitoring(ロシア連邦金融監視サービス)の強制力・執行力を高く評価。複雑なマネー・ローンダリングの調査と起訴に優先して対応する必要あり。 |
カナダ |
大手行のAML/CFT理解は進んでいるが、DNFBPs(弁護士など)の対応力が弱い。40の勧告の改善が進んだことで通常フォローアップ先となったが、実質的支配者の確認などには依然課題。 |
フランス | AML/CFTに関する理解は全体として良好。DNFBPsの監督、予防措置に課題。実質的支配者の登録制度を確立。欧州の制裁対象者指定をリード。マネロン捜査、没収に成果。国際捜査協力も良好。 |
オランダ | 官民パートナーシップと情報共有が進展。データハブ、Financial Intelligence Unit(FIU)、各種機関間の協力などによる幅広い金融情報を調査に使用。非営利団体の管理やDNFBPsの監督等に課題。 |
スイス |
既存顧客の管理に課題があり、不備指摘は解消されていない。海外当局との情報交換も不十分。犯罪資産のローダリングのリスクは特にプライベートバンキングにおいて高い。 |
シンガポール |
マネー・ローンダリング/テロ資金供与(ML/TF)、拡散金融に対する強力な法的および制度的な枠組みはあるが、運用面には課題。特に、海外からの違法資金のリスクの理解、対処は十分ではない。 |
米国 |
AML/CFT制度は整備され、テロや拡散金融防止に成果。実質的支配者情報へのアクセスの適正化が課題。継続的なカスタマー・デュー・ディリジェンス(CDD)導入を進め、顧客管理は合格水準へ。 |
中国 |
法整備などは進んできたが、金融機関、DNFBPsはリスク認識・運用とも十分ではない。監督当局の金融機関などに対するリスク評価も途上。各地のFinancial Intelligence Unit(FIU)間の連携にも課題。 |
ドイツ | 法整備進展。300を超えるDNFBP監督者との間での調整に依然として苦慮。各州との調整も課題。現金およびハワラ(非公式の資金移動業者)に関連するリスクの軽減が課題。 |
全体を通じてみると、小規模金融機関や銀行以外の業態の理解が進んでいないとする見解が各国で見受けられ、注目すべき点と言えます。各国の評価については、以下をご参照ください。
New:2022年以降に第4次相互審査結果が公表されたもの
Updeted:2022年以降にフォローアップ報告結果の公表があったもの
未達成 | 未達項目 | 評価結果の概要 | |
---|---|---|---|
40の勧告 | 2 | 13, 29 |
|
有効性評価 | 3 | 3, 4, 6 |
未達成 |
未達項目 |
評価結果の概要 |
|
40の勧告 |
1 | 29 |
|
有効性評価 | 3 | 3,4,6 |
IO4評価 | コメント |
---|---|
ME |
|
他国の審査結果を、具体的な指摘事項に注目して確認していくと、何が評価され、どのような課題を抱えているのかが見えてきます。
日本は第4次相互審査において「金融機関、暗号資産交換業者、DNFBPsがAML/CFTに係る義務を理解し、適時かつ効果的な方法でこれらの義務を導入・実施するようにする。これらにおいては、事業者ごとのリスク評価の導入・実施、リスクベースでの継続的な顧客管理、取引のモニタリング、資産凍結措置の実施、実質的支配者情報の収集と保持を優先する」という厳しい指摘を受けました。他国も厳しい評価を受けていますが、その指摘事項の内容を比較すると、日本の金融機関の実務運用面に対するこのような網羅的な指摘がいかに厳しい内容であるかが良く理解できます。
国別の比較によって、日本の立ち位置を理解し、何が不足しているのかを明らかにしていくことは、実務における対策の策定および推進において有効であり、他国の実態も含めて理解を深めていくことが肝要と考えます。
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