FATF第4次相互審査 – 海外主要国・地域の結果概要(2023年5月更新版)

FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)とは、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与防止(Anti-money laundering and counter-terrorist financing: AML/CFT)対応に関わる国家の体制整備状況を審査する政府間会合です。

本稿では、2018年から2023年にかけて発表された、日本以外の主要13カ国・地域(英国、スペイン、イタリア、香港、ロシア、カナダ、シンガポール、スイス、米国、中国、フランス、オランダ、ドイツ)に対するFATF第4次相互審査の結果(再評価も含む)を解説します。

FATF第4次対日相互審査結果から見えてきた日本の課題については、PwC's View第35号「FATF第4次対日相互審査結果と今後のAML/CFT対策」をご参照ください。また、2022年9月に公表された日本のFATFへのフォローアップ報告結果は、同第42号「銀行・証券セクターの現状と課題──AML/CFTへの対応と実効性の高い1LoDの構築」の「I FATFへの第1回フォローアップ報告結果公表後のAML/CFTの重要課題」をご参照ください。

※本稿は、2021年12月10日に公表した「FATF第4次相互審査 – 海外主要国・地域の結果概要」に新たな情報を追加、作成したものです。

1. 主要13カ国・地域の項目別評価結果(2023年5月末時点)

まず、主要国・地域のFATF審査結果を確認してみます。G7加盟国など、日本への影響が大きいとみられる13カ国・地域の項目別評価結果は図表1のとおりです。

図表1:日本を含む主要国・地域の項目別評価結果
①40の勧告
赤枠:2022年以降に公表・再評価されたもの
① 40の勧告
②有効性評価
赤枠:2022年以降に公表・再評価されたもの
② 有効性評価

出典:FATF資料を元に作成

(注)
1.40の勧告(技術的コンプライアンス/法令等整備状況)は、①Compliant(履行:「C」)、②Largely Compliant(概ね履行:「LC」)、③Partially Compliant(一部履行:「PC」)、④Non-Compliant(不履行:「NC」)の4段階評価。合格水準は①の「C」および②の「LC」

有効性評価(法令の運用面の評価)は、①High Level(高い「HE」)、②Substantial Level(十分「SE」)、③Moderate Level(中程度「ME」)、④Low Level(低い「LE」)の4段階評価。合格水準は①の「HE」および②の「SE」。

2.国名下のMは相互審査結果公表時の評価結果、Fは審査結果公表後のフォローアップ報告時の評価結果。

3.項目太字は、FATFが直接審査した30カ国の評価結果で未達成国が過半を占めた項目。

3.まとめ

他国の審査結果を、具体的な指摘事項に注目して確認していくと、何が評価され、どのような課題を抱えているのかが見えてきます。

日本は第4次相互審査において「金融機関、暗号資産交換業者、DNFBPsがAML/CFTに係る義務を理解し、適時かつ効果的な方法でこれらの義務を導入・実施するようにする。これらにおいては、事業者ごとのリスク評価の導入・実施、リスクベースでの継続的な顧客管理、取引のモニタリング、資産凍結措置の実施、実質的支配者情報の収集と保持を優先する」という厳しい指摘を受けました。他国も厳しい評価を受けていますが、その指摘事項の内容を比較すると、日本の金融機関の実務運用面に対するこのような網羅的な指摘がいかに厳しい内容であるかが良く理解できます。

国別の比較によって、日本の立ち位置を理解し、何が不足しているのかを明らかにしていくことは、実務における対策の策定および推進において有効であり、他国の実態も含めて理解を深めていくことが肝要と考えます。

執筆者

井口 弘一

チーフ・コンプライアンス・アナリスト, PwC Japan有限責任監査法人

Email

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}