2040年 未来シナリオ―「望ましい未来」をつくる技術戦略より(4)「Future of Energy より望ましいエネルギーの未来」

2021-07-30

マイクログリッドによる安全・安心なコミュニティ

2030年においては、マイクログリッド(小規模発電網)による安全で安心なコミュニティが形成されています。世界各地で相次ぐ自然災害やテロの脅威を背景に、停電への備えを含む電力の安定供給は、住民の安全やセキュリティ確保の面からも各国共通の社会課題となっています。地球温暖化対策として再生可能エネルギーの導入が進む中、マイクログリッドは諸課題への有望なソリューションとして注目されていますが、その構築と運用にはさまざまなノウハウが求められます。

マイクログリッドは自然災害やテロなど、国民の安全を脅かす事態に対応するために、主に米国で先行していた領域ですが、日本においても2020年ごろから経済産業省が主導し、地方都市においてマイクログリッド構築事業が推進されるようになりました。

マイクログリッドは、エネルギーの安全性と回復力を強化するとともに、カーボンフットプリントを削減しながら多くの場合エネルギーコストも全体的に低減させるため、大きな社会的メリットをもたらします。日本においては、人口の低密度化と地域的偏在が進み、地方における送配電インフラの維持管理が困難になることが想定されていましたが、より望ましい未来においては、水素エネルギーや分散型電源とマイクログリッドを併用することで、地方にエネルギー面の安心・安全を届けることが実現しています。

「より望ましい未来」への4つのドライバー

  • CO2フリー水素技術の段階的確立
  • 塗布型太陽電池(フィルム型ペロブスカイト太陽電池)の早期実用化
  • 再生エネルギーのさらなる普及を後押しする法整備
  • 個人およびコミュニティ単位における生産者兼消費者マインドの醸成

2021年における企業への示唆

より望ましい未来の実現に向けて、企業には、地政学的変化や法規制およびテクノロジーの変化などを注視しながら、水素エネルギーや分散型リソースとマイクログリッドを併用するなど、活用エネルギーシフトを検討することが求められます。また、カーボンリサイクル技術を活用し、CO2排出量の削減を重要施策として取り入れるなど、社会全体がゼロエミッション化に向けて加速する流れの中で他社に先んじて行動に移すことが期待されます。

「望ましい未来」をつくる技術戦略 社会課題の解決に貢献する有望技術105 望ましい2040年へのシナリオ(日経BP刊)

『「望ましい未来」をつくる技術戦略 社会課題の解決に貢献する有望技術105 望ましい2040年へのシナリオ』(日経BP刊)では、2040年をターゲットとした「12の望ましい未来」を描くとともに、社会課題の解決に貢献し得る、有望な105の技術を抽出し、技術解説や研究の動向を示したうえで、生み出す市場、その規模、市場化の課題を分析しています。

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【参考:文章上の関連技術の定義・説明】

技術名
概要
VPP(Virtual Power Plant)    

点在する小規模な再エネ発電や蓄電池、燃料電池などの設備と、電力の需要を管理するネットワークシステムをまとめて制御することを指す。需要家側のエネルギーリソースを電力システムに活用するために必須となる技術で、工場や家庭などが保有する蓄電池、電気自動車および発電設備などのエネルギーリソースを、IoTを活用した高度なエネルギーマネジメント技術で遠隔・統合制御することで、全体をひとまとめにして発電所のように機能させることができるようになる。

EMS(エネルギー・マネジメント・システム)

電気・熱・ガスなどのエネルギーの見える化や、電力運用の最適化などを実現するシステムを示す。データを表示して省エネ行動に繋げるケースや、自動的に使用量を調整するケースなど、需要側、供給側、送電側・監視側の連携程度によりさまざまなシステムが存在する。

CCS(Carbon Capture and Storage)/CCU(Carbon Capture and Utilization)

CO2を海底や地中に固定化・貯留することで大気への放出を回避する技術。CCUは、分離・回収したCO2を炭素資源として燃料、化学品、建材などを製造、または利用することを指し、EOR(Enhanced Oil Recovery)と呼ばれる原油増進回収技術、CO2の直接利用(CO2を原料として利用すること)、化学的・生物学的変換によるCO2の再利用、すなわちカーボンリサイクルの3つに分類される。

人工光合成技術 光エネルギーを反応の駆動力として、水(H2O)と他の原料となる物質を基に、別の有用な物質を生成可能とする技術群を指す。元々、自然界における光合成とは、植物や藻類が太陽光を利用して無機炭素から有機化合物を合成する反応であり、これを人為的に実現する技術という発想から「人工」光合成と呼ばれる。
SSPS(Space Solar Power System)

宇宙空間に巨大な太陽電池とマイクロ波送電アンテナを配置し、太陽光エネルギーを電気に変換した後にマイクロ波に変換して地球上に設置した受電アンテナ(レクテナ)へ送電、 地上で電力に再変換し、エネルギー源として用いる構想を指す。太陽からの日射エネルギーを用いるSSPSは、再生可能エネルギーの一つとして分類ができる。

ワイヤレス給電

「電線を使わずに電力を伝送する技術」であり、「WPT(Wireless Power Transfer)」「ワイヤレス電力伝送」「無線給電」「非接触給電」などとも呼ばれるが、本稿では主に「ワイヤレス給電」の名称を用いている。特に電力をより遠距離に1対Nで届ける「空間伝送型ワイヤレス給電」が実現すると、ケーブルやバッテリーといった目に見える形で電気を意識することが無くなるため「インビジブルパワー」とも呼ばれ注目されている。

マイクログリッド

大規模発電所の電力供給に頼らず、コミュニティでエネルギー供給源と消費施設を持ち地産地消を目指す、小規模なエネルギーネットワークのことを指す。エネルギー供給源には、分散型電源である太陽光発電、風力発電、バイオマス発電などが利用される。

【参考文献】

  • World Energy Council & PwC, 2020.『PERFORMING WHILE TRANSFORMING: THE ROLE OF TRANSMISSION COMPANIES IN THE ENERGY TRANSITION』.
  • 一般財団法人 電力中央研究所, 2020.『次世代電力需給プラットフォームとセクターカップリング』(2020年9月8日閲覧).
  • Speeda, 2020.「レポート『スマートスピーカー』」(2020年9月8日閲覧). 
  • 日本経済新聞, 2020.「火力発電も「脱炭素」探る 三菱重や川重が水素混合設備」 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56969730Y0A310C2TJ1000/?n_cid=SPTMG002.(2020年9月8日閲覧).
  • 経済産業省 資源エネルギー庁, 2019.「カーボンリサイクルについて」資源エネルギー 長官官房 カーボンリサイクル室資料.
  • 日本経済新聞, 2020.「CO2で素材・燃料生産 三菱ケミなど16社が連携」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49062150X20C19A8MM8000/. (2020年9月8日閲覧). 
  • 日本経済新聞, 2013.「進むCO2の農業利用 温暖化の「悪玉」を有用資源に」. https://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXNASFK1301Y_T10C13A2000000&uah=DF110520102205. (2020年9月8日閲覧)
  • 経済産業省 資源エネルギー庁, 2020.「2020年、水素エネルギーのいま~少しずつ見えてきた「水素社会」の姿」省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギーシステム課資料.
  • Speeda, 2020.「レポート『水素エネルギー』」(2020年9月8日閲覧). 
  • 経済産業省 資源エネルギー庁, 2018.「脱炭素化に向けた次世代技術・イノベーションについて」資源エネルギー庁資料.
  • 経済産業省 資源エネルギー庁, 2020.「地域マイクログリッド構築事業について」資源エネルギー庁環境課資料.
  • 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構, 2019.「分散型エネルギーシステムの最新動向と導入事例~マイクログリッドの最新動向と仙台・ドイツシュタットベルケ等の取組事例紹介」.
  • 経済産業省 資源エネルギー庁, 2018.「CO2フリー水素ワーキンググループ(第12回)‐配布資料」資源エネルギー庁 水素・燃料電池戦略室資料.

執筆者

三治 信一朗

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

三山 功

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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枝元 美紀

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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2040年 未来シナリオ『「望ましい未来」をつくる技術戦略』より

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2040年 未来シナリオ―「望ましい未来」をつくる技術戦略より(7)「予測ではなく、描き、実現する未来を」

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