生成AI―新たな働き方革命の波に乗る―テクノロジー最前線 生成AI(Generative AI)編(14)

中長期的な価値創出への生成AIの貢献に関する考察

  • 2024-03-27

1. 日本企業が生成AIに期待する効果

生成AI活用に向けた企業の取り組みが活発化しています。PwCが実施した「生成AI実態調査2023秋」の結果でも生成AIに対する認知や、活用の推進度合いが大幅に向上し、日本企業が生成AIを1つの重要なトピックに捉えている現状が明らかになりました。

また、その動機を掘り下げると生成AI活用推進のモチベーションが「他社に負けないこと」にあり、生成AIに期待する効果が労働時間の削減や生産性の向上、コスト削減といったことにあることが分かりました。

図表1 生成AIに期待する効果

これらの状況を整理すると、日本企業の生成AI活用の目的は、より効率的に売上を稼ぎ、現状のコストを削減することで他社よりも財務的に優位に立つことであることが分かります。また生成AIに取り組まなければ逆に他社がこれらの便益を享受し、自社との差が開いてしまうのではないかといったリスクにも注意を払っていると言えるでしょう。

図表2 生成AI活用の脅威とその理由
図表2 生成AI活用の脅威とその理由

こういった状況を踏まえて、生成AIを普段の業務や生活の一部として活用する実際のシーンを思い浮かべてみると「ブレインストーミング」「ディスカッション」「要約」「クリエイティブの生成」といった、財務効果としては表れにくい部分に対して大きな効果を発揮していると感じます。

こういった活用は短期的な工数削減効果としては見えにくいですが、普段の私たちの業務や活動の質の向上に明確に寄与していると実感できます。

本コラムでは短期的な生産性向上によらない生成AIの新たな価値創造に関して考察します。

2. 経営管理のメガトレンドから見える中長期的価値創出の重要性

生成AIの価値創出について論じる前に、私たちを取り巻く企業評価、経営管理にまつわる市場環境を整理します。

CSRDが2028年から域外企業にも適用されることが決定し、ISSB S1/S2開示基準1の2023年6月からの適用も確定しました。日本版の確定基準は2024年度中に公表され、その後開始する事業年度からの早期適用が可能となる予定です。会計ビッグバン2時と同じように、開示制度(経営者の成績表)が変われば経営も変わることも想定されます。

また加えて、日本企業の間接金融依存度は減少傾向にあり、東証一部上場企業においては、実質無借金経営の企業が6割超となっています。これにより、担保能力や返済能力といった「財務諸表で表現される短期・実績」の重要性が低下していると言えるでしょう。

それに伴い、国内外の投資家は短期的財務成果よりも、経営理念、戦略、サステナビリティといった中長期的成長につながる視点を重視しており、特に直近3年においては、サステナビリティを重視する姿勢の高まりが顕著であることも調査結果から伺えます。

欧米企業と比較してPBR3が低水準に留まっている中、こういった会計開示制度の変更に伴う中長期的成長重視の経営評価の潮流を、企業価値向上のための変革の契機と捉える日本企業が増えてきていると感じます。

図表3 経営管理のメガトレンド

3. 生成AIがもたらす新たな価値創出に対する考察

こういった市場背景を踏まえ、生成AIが中長期的な企業成長にどのような貢献を果たすのか、いくつかの事例を見ながら考察してみます。

ある研究結果では、事前のテストで成績が下位だったメンバーが、アイディアの企画・創出業務に生成AIを活用することで業務品質を大きく向上させたという事例があります。個人が得意ではない業務に対して生成AIのサポートを受けることでその品質をカバーし、自身の得意領域にフォーカスすることができるという点は、仕事へのモチベーションを向上させ、ワークエンゲージメント上昇に大きく寄与すると考えられます。

また、ヘルスケア分野ではテキスト、音声、画像など複数のデータを組み合わせて、精神健康ケアを向上させる新しいアプローチが検討されています。ウェアラブルデバイスとのデータ統合により、ユーザーの感情状態、健康状態、脳の状態をリアルタイムで追跡し、よりパーソナライズされたケアが提供できるのです。人間と違い、生成AIは24時間365日アクセス可能で、かつ相談コストが大幅に減少します。経済的な障壁に直面している人がより少ないコストで便益を享受できるようになり、アクセシビリティを大きく向上させたヘルスケアの実現に大きく期待がされています。

美容業界では画像撮影により肌のコンディションを分析した上で、「今日はプレゼンテーションを行う」といった特定の場面を踏まえることで、メイクアップアドバイスを提供してくれるサービスが注目を集めています。これには、今までメイクが苦手だった人たちが性別を問わずメイクアップを楽しみ、自身を輝かせるインクルージョンへの貢献が期待されています。

生成AIを活用して架空のペルソナを作成し、マーケティング調査を行う試みも開始されています。より安価に少ない工数で幅広い質問に対する回答結果を得ることが可能になり、これまでの商品販売への貢献に加えて、顧客との長期的な関係構築を目指したサービスの設計や提供が可能になることが考えられます。これにより顧客に長期的な価値を提供する商品がより多く上市され、カスタマーウェルビーイングの向上に寄与すると考えられます。

図表4 生成AIがもたらす効果の事例

そしてこれらの効果をさらに拡張させるのが「エンドユーザーコンピューティング」です。既にチャット形式で自身専用のアプリケーションを開発できるサービスが誕生しており、これまでは限られた人でしか実現できなかったAI開発と業務適用がユーザー単位で促進され、さまざまな価値が継続的に創出され、複利的に効果が生まれるでしょう。

前項で述べたとおり、日本企業のPBRは欧米企業に比して低水準となっています。PBRが欧米と比較して低い理由はいくつかありますが、その中の1つとして、日本企業は財務数値には表れない非財務資本を企業価値創造に十分活用できていないという点がと考えられています。

生成AIが創出する知識や情報は企業が社内で新たな非財務資本を生み出す原動力となり、雇用環境改善によるエンゲージメント向上や、顧客との継続的なリレーション構築、社会課題への貢献などに寄与すると考えられます。これらは企業の中長期的な存続や成長、企業価値の向上をもたらすでしょう。

こういった状況を踏まえると、企業が取り組むべきは、生成AIを活用することによる短期的な効果創出に加えて、将来的な企業価値創出に向けた企業内の教育から、人事評価、組織設計やビジネスモデルまで含めた新たな企業変革です。

企業変革が実現されれば、社員一人ひとりのエンパワーメントや能力拡張を通して人的資本、知的資本といった非財務資本へその影響が派生し、企業価値向上に大きな貢献がもたらされると考えます。

図表5 生成AIによる中長期的な価値創造プロセス

1 ISSB S1/S2開示基準:国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が2023年6月26日に発表したIFRSサステナビリティ開示基準。「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(IFRS S1号)」および「気候関連開示(IFRS S2号)」

2 会計ビッグバン:1990年代の後半から行なわれた会計制度改革のことであり、日本の会計制度をグローバル化させようとする一連の動きの総称

3 PBR:株価純資産倍率(Price Book-value Ratio)。純資産から見た「株価の割安性」。株価が直前の本決算期末の「1株当たり純資産」の何倍になっているかを示す指標

執筆者

三善 心平

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

上野 大地

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

本ページに関するお問い合わせ