自動運転社会の構造と実現に向けたアジェンダ

  • 2023-09-19

はじめに

自動車産業における環境変化を表したキーワードである「CASE」(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)は業界内外に広がっており、現在さまざまな企業があらゆる角度から対応を推進しています。CASEの中でも特に、自動運転(先進運転支援を含む)の実現に向けた官民の取り組みは加速し続けており、自動車産業のみならず社会全体の大変革が求められています。

自動運転車が普及することで、交通事故の減少、渋滞の緩和、交通弱者の交通手段確保、物流コストの低減といった社会課題の解決が進むと想定される一方で、各自動車メーカー、サプライヤー、政府には自動運転車の安全性の保障、法整備、インフラ整備など多岐にわたる対応が求められます。

自動運転社会の実現に向けては、各社が個別に対応を進めるだけでなく、数多くのプレイヤーが相互に密接に連携し、エコシステムを構築することが不可欠となります。

本稿では、自動運転社会の全体構造を構成要素およびプレイヤーの観点から整理した上で、自動運転車のライフサイクルを通して、誰が何をすべきかを説明します。なお、「R&D領域における自動運転車開発への対応」「安心安全を確保するセキュリティ対応」、「自動運転移動サービスの事業化に向けた対応」については、主要な課題を掘り下げる形で個別のコラムで詳細を解説します。

自動運転社会の実現に必要な要素

自動運転社会実現のためには、4つの領域(規制、技術、経済、社会)がバランス良く成熟することが必要です(図表1)

図表1: 自動運転実現に必要な要素

規制

自動運転車の導入に伴い、交通システムの変革が想定されるため、新たな交通システムに対応した法律を整備することが自動運転社会の実現に向けた第一歩と言えます。こうした法整備に際しては、車両の自動運転機能に係る内容が反映されるのは当然のことですが、車両の運行を含むサービスの安心・安全についての規制も強化されています。先行する規制としては、自動車OEMに対して、サイバーセキュリティ(UNR155/CSMS)ソフトウェアアップデート(UNR156/SUMS)自動車線維持システム(UNR157/ALKS)のそれぞれに関する管理システムや技術仕様を定めた国連標準の整備・適用が進んでいます。

技術

企業は自動運転関連法規/国際標準(ルール)に従い、適切にルールを守ることが求められます。従来の車両に対する型式認可では、車両を販売する時点で車両機能が基準を満たしているかどうかを審査することで自動車の安全性を担保していました。しかし、自動運転車ではそれに加えて、消費者が実際に使用している期間の車両安全性を管理するための組織および業務プロセスを構築することも求められます。また、安心・安全を担保するために、暗号化や脆弱性対策などの技術開発も必要となります。

経済

自動運転車を活用したサービスにより、いかに提供価値を拡大し、収益を上げるビジネスモデルを構築することが重要です。もしくはこれまでの既存交通サービスと比較し、コスト低減効果を得ていくことについて、自社のみならず、自動運転技術の周辺機能も含めた多様なステークホルダーと協調して対応することが求められます。

社会

「人が運転する」という大前提が覆されることにより、自動車を取り巻く交通システムに変革が起こることは必然と言えます。道路交通利用者(歩行者や自転車利用者など)や、住民の自動運転車に対する正しい理解の促進を図り、安心・安全なサービスの実現を通じて、クルマとヒトが共存共栄する新たな社会を構築することが、自動運転車の普及を加速する重要な要素と言えます。

自動運転社会を実現するプレイヤー

自動運転社会の実現に向けては、従来自動車業界を牽引してきた自動車OEMやサプライヤーだけでなく、官公庁、自治体、AD開発事業者、従来の交通事業者、モビリティサービス事業者、自動車業界以外の異業種プレイヤーを含むさまざまなステークホルダーと協調することが求められます(図表2)

自動運転関連の事業を効率的かつ確実に推し進めるためには、前述した必要な要素と各プレイヤーの役割の全体像を正しく理解し、いかに自社のポジションを確立するか、誰と手をつなぐべきかを戦略的に検討することが求められます。

図表2: 自動運転社会を実現する主なプレイヤー

自動運転車導入の流れと主な課題

ここまで、さまざまな領域において数多くのプレイヤーが対応することにより、初めて自動運転社会の実現が可能となることを示してきました。ここでは自動運転車導入に向けて「誰が、何をすべきか」「どのような課題があるのか」を整理します。

自動運転車導入の流れとして、「制度設計および適用」「技術およびシステムの開発」「自動運転サービスの事業化」というプロセスが考えられます。

自動運転のライフサイクルにおける、各フェーズのプレイヤーごとの対応内容および課題を(図表3)にまとめました。官公庁による制度設計(法規および国際標準の整備)を土台として、OEMやAD開発事業者には、自動運転技術の開発、サプライヤーによる周辺機能や部品の開発が求められます。また、自動運転サービスの事業化に向けたビジネスモデルの構築、エコシステムの構築、サービスの実証、サービスの運営については、モビリティサービス事業者をはじめ、従来の交通事業者など多数のプレイヤーが有機的に連携し、ユーザーに安心・安全かつ効率的なサービスを提供する必要があります。また、安心・安全を担保するためには、サービス運営事業者が中心となってガバナンスを強化し、一定のセキュリティレベルを維持、担保することも重要となります。

これらの一連のサイクルにおいて、各プレイヤーが対応すべき課題は複数の領域に跨り、かつ複雑化しています。これらの課題は一朝一夕に対応できるものではないため、早い段階から着実に対応を推し進める必要があります。

図表3: 自動運転サービスの導入に向けた流れと主な課題

まとめ

本稿では、自動運転社会実現に必要な構成要素およびプレイヤーの観点から、自動運転車のライフサイクルにおいて、「誰が何をすべきか」を解説しました。

自動運転社会実現に向けては、各プレイヤーが個別に対応を進めるだけでなく、それぞれが相互かつ密接に連携し、エコシステムを構築することが不可欠となります。

それぞれのプレイヤーが今後立ち向かうべき課題については次回以降のコラムで深堀りし、PwCが考える解決への道筋を解説します。

主要メンバー

矢澤 嘉治

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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寺島 克也

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

藤田 裕二

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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納富 央

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

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