企業のためのメタバースビジネスインサイト

メディア業界とメタバース―テレビ局や出版社は好機をいかに活用すべきか【前編】

  • 2023-05-23

はじめに

仮想空間で人々が交流できるメタバース。ユーザー同士のコミュニケーションだけでなく、商品やサービスの提案、販売といった商機の可能性もあることから、保険業界や金融業界などのBtoB向けの商品開発を含め、あらゆる業界で新市場としての潜在性が注目されています。

現状、メタバースにおける各業界のBtoBへの取り組みはまだ始まったばかりであり、マネタイズに成功しているのはBtoC領域の一部新興企業に限られています。各業界の事業者は、自らの強みを活かしたビジネスを模索している段階と言えるでしょう。

メディア産業とメタバースとの関係性について考えたとき、今後メタバース空間でデジタルコンテンツ消費が一般化した際、これまではゲーム中心だったものが音楽・映像も含めたより大きな体験・消費に置き換わっていく可能性があると考えられます。この観点から見た時、メディア業界は、他業種と比較して圧倒的にメタバースの影響を受けやすく、いち早く適応する必要性が高いと考えられます。

本稿ではテレビ局やラジオ局といった放送局、出版社などのメディア業界に焦点を当て、メタバースに「人とコンテンツを結びつける機能」が備わった時にどのようなビジネス機会があるのかを、以下の5つの切り口から考えていきます。

前編

1. メタバースにおけるメディア企業のビジネス機会

2. メタバースはいつ本格化するのか

後編

3. メタバースが既存のメディア産業に与える影響

4. メディア企業がメタバース参入を検討する際に持っておくべき6つの視点

5. メタバース活用に向けた課題とメディア企業に求められるケイパビリティ

1. メタバースにおけるメディア企業のビジネス機会

まずはメタバース市場を構成するプレイヤーを整理しましょう。現時点でのプレイヤーは主に以下の3つに分類されます。

  • プラットフォーマー
    • インフラを整備し、提供することでシステム利用料などによる収益化を図る事業者
  • サービス、コンテンツの提供者
    • プラットフォーマーが構築したプラットフォーム上でサービスやコンテンツを展開する事業者
  • 利用者(ユーザー)
    • プラットフォーム上に展開されたサービス、およびコンテンツを利用する個人

本稿では「プラットフォーマー」「サービス・コンテンツの提供者」としてのメディア業界(企業)に着目します。現状のメタバース市場への参入事例を概観すると、市場自体が黎明期にあるということもあり、本格的なマネタイズに成功しているビジネスモデルは限られています。多くの企業が自社の提供する商品やサービスに関連するコンテンツなどを仮想空間に展開しつつありますが、プロモーションやブランディングを目的にメタバースを活用しているのが現状です。

従来、伝統的なメディア企業の多くはコンテンツの提供者であることはもとより、放送や媒体の発行など、プラットフォーマーとしての役割を同時に担い、その中で自社のブランディングとマネタイズの双方を追求してきました。今後、メディア企業がメタバース市場への参入を検討する場合、どのような立ち位置を取るべきなのでしょうか。「メタバース参入の主目的」と「プラットフォームの在り方」を軸に考えていきましょう。

図1: メディア企業のメタバース参入スタンス

「プラットフォームの在り方」の視点

メディア企業は自社でプラットフォームを構築した上でメタバースビジネスを展開すべきでしょうか(「プラットフォーマー」になるケース)。それとも、すでにサービスとして提供されているプラットフォーム上にコンテンツを展開するべきでしょうか(「サービス、コンテンツの提供者」になるケース)。それぞれのメリットとデメリットを考えていきます。

  • 自社でプラットフォームを構築する場合(「プラットフォーマー」になる場合)
    メタバース空間を自社の世界観に合わせて思い通りに構築できるため、他者のサービスとの差別化を図りやすくなります。また、メタバースではユーザーの行動解析が可能です。そのため、自社プラットフォーム上でサービスを展開する「サービス、コンテンツの提供者」に対してデータを販売するといった、収益化に向けた環境の構築が可能となる点も特徴です。ただし、ゼロからのプラットフォームの立ち上げとなると、集客コストや機能実装のための開発コストなどの初期費用に加え、サーバーの整備費用や運用費用なども自社で負担しなければならないため、初期投資とランニングコストは必然的に高くなります。
  • 既存のプラットフォームを活用する場合(「サービス、コンテンツの提供者」になる場合)
    最大のメリットはコストの低さです。既存のプラットフォームにはすでに固定のユーザーが集まっている場合が多いため、集客コストを抑えやすくなります。また、機能開発の投資も不要で、複数の企業が「サービス、コンテンツの提供者」としてサービスを展開済みであれば運用費も割安になります。ただし、自社のプラットフォームではないため、思い通りに空間のカスタマイズができず、自社ブランドのユニークなサービス像や世界観を表現しきれない可能性は拭えません。また、個々のユーザーの行動解析にはプラットフォーマーによる制約があり、収益化へのハードルになりかねません。

「メタバース参入の主目的」の視点(マネタイズかブランディングか)

企業のメタバース参入の目的は、主に以下の2つに分類されます。

・マネタイズ
・ブランディング

  • マネタイズ
    目的により企業が取るべきメタバース戦略は大きく異なります。メタバース単体での中長期的なマネタイズを目的とする場合、機能やユーザー分析に制約がある状況では、効率的な収益化にはつながりにくくなります。ただ、一定数のユーザーが定着すれば伸びしろがあると考えられるため、既存サービスに乗る戦略よりも自社でプラットフォームを持つ戦略との親和性が高いと考えられます。
    現時点では、自社でプラットフォームを持ちつつマネタイズに成功している事例は世界的にも希少ですが、日本国内のメディア企業がVtuberを活用したインフルエンサーマーケティング事業を展開してマネタイズしつつあるといった事例が見受けられます。今後、ユーザーの増加に伴って成功例は増えてくることが予想されます。
  • ブランディング
    現時点では、メタバースを認知度の向上や親近感の醸成といったブランディングの場として活用する企業が多いのが実情です。すでに一定数のユーザーが集まっており、コスト面でも合理的な既存プラットフォームを活用する戦略との親和性が高いということができるでしょう。

企業のためのメタバースビジネスインサイト

メタバースのビジネス動向や活用事例、活用する上での課題・アプローチなど、さまざまなトピックを連載で発信します。

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執筆者

岩花 修平

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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小林 公樹

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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奥野 和弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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長嶋 孝之

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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栗原 岳史

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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中山 晋吾

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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