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世界の消費者意識調査2023年6月 意思決定のポイント:購入前の消費者の体験を向上
本調査では、25の国と地域から消費者8,975人が回答しました。購入体験の前に摩擦を取り除くこと、および意思決定の重要な場面にある消費者にリーチする方法を解説します。その次に、これまでも重要だった分野における消費者の声に注目します。
仮想空間で人々が交流できるメタバース。ユーザー同士のコミュニケーションだけでなく、商品やサービスの提案、販売といった商機の可能性もあることから、保険業界や金融業界などのBtoB向けの商品開発を含め、あらゆる業界で新市場としての潜在性が注目されています。
現状、メタバースにおける各業界のBtoBへの取り組みはまだ始まったばかりであり、マネタイズに成功しているのはBtoC領域の一部新興企業に限られています。各業界の事業者は、自らの強みを活かしたビジネスを模索している段階と言えるでしょう。
メディア産業とメタバースとの関係性について考えたとき、今後メタバース空間でデジタルコンテンツ消費が一般化した際、これまではゲーム中心だったものが音楽・映像も含めたより大きな体験・消費に置き換わっていく可能性があると考えられます。この観点から見た時、メディア業界は、他業種と比較して圧倒的にメタバースの影響を受けやすく、いち早く適応する必要性が高いと考えられます。
本稿ではテレビ局やラジオ局といった放送局、出版社などのメディア業界に焦点を当て、メタバースに「人とコンテンツを結びつける機能」が備わった時にどのようなビジネス機会があるのかを、以下の5つの切り口から考えていきます。
前編
1. メタバースにおけるメディア企業のビジネス機会
2. メタバースはいつ本格化するのか
後編
3. メタバースが既存のメディア産業に与える影響
4. メディア企業がメタバース参入を検討する際に持っておくべき6つの視点
5. メタバース活用に向けた課題とメディア企業に求められるケイパビリティ
前項で述べたとおり、特にBtoC事業では、投資を始めてから収益化までの期間が長くなります。コスト負担も比較的大きくなることが予想され、現状、マネタイズに成功している企業は限られている状況です。一方、BtoC領域の中でも知的財産(IP)保有者による「強い」コンテンツを活用した取り組みは萌芽の兆しが見られます。キャラクターをはじめ、メディア企業が保有する強い自社コンテンツを戦略的にメタバース上に展開していくことで、メタバース市場においても競争力を発揮できる潜在力は十分にあると考えられます。
コンテンツ自体が持つ強さを、仮想空間を含めたマルチバースで「勝てる」コンテンツに育て上げるのにあたって重要になるのが、コンテンツ展開の戦略性です。自社IPにストーリー性を付与し、メタバース空間内にある他のサービスとどのような位置関係を取って展開するかを戦略的に検討することが、最短での収益化の要諦となり、その戦略の妥当性が後の事業の成否を左右する大きな要素になり得ます。
メディア企業は元来、商品化(IP制作)と販路(プラットフォーム)の両方の当事者でした。インターネットが爆発的に普及する以前は新規参入者が限られたため、制作から販売までを一貫して手掛けられることが大きな強みでしたが、情報通信環境の発達でメディアチャネルが乱立するようになり、メディア企業が擁してきた従来の販路の独占性やブランド価値は低下しつつあります。メタバース/WEB3時代のコンテンツ流通モデルは、メディア企業から消費者への一方的販路ではなく、「そのコンテンツが好き」といった共通の嗜好によるファンコミュニティがIP流通の媒体となり、広告塔となり、ひいてはマネタイズ機会の土壌となることが予想されます。つまり、メディア企業がメタバースに参入を検討する場合は、コンテンツの放送・掲載、発売を機に単発的かつ瞬間的に稼ぐのではなく、各IPでファンコミュニティを戦略的に形成し、長く、広く稼ぐモデルを構築することが重要になってくると言えます。
コンテンツをめぐる「消費」の概念についても、あらためて考え直す必要があるでしょう。従来、消費者がメディア企業保有のコンテンツを改編して発表することは、IP保有者に対する明確な権利の侵害でした。しかし、コンテンツがデジタル化し、加工が技術的に容易になった今、どれだけオリジナルを「料理」できるか(2次利用、3次利用、n次利用ができるか)が新たな価値となりつつあります。言い換えれば、誰もが制作者になれる時代であり、彼らがつながるクリエイターエコノミーにおけるユーザー生成コンテンツ(UGC=User Generated Contents)が、ファンコミュニティの形成と発展、ひいてはIPの価値の高度化を左右する因子になる可能性があります。
いまだ発展途上ではあるものの、ブロックチェーンやNFTといったWEB3技術によって、従来とは異なる方法で権利情報の管理・更新や対価の配分が可能になりつつあります。メタバースでのファンコミュニティ形成、そしてビジネス機会創出のためには、保有するIPの権利の再定義と、それを技術的に裏付けする環境整備が必要になると考えられます。
PwCが提唱するメタバースのフレームワークでは、メタバースの構成要素として以下の6つを定義しています。
この中で、メタバース市場に参入するメディア企業が特に留意すべき要素として、従来とは全く異なるユニークな体験をいかに演出できるか(Experience)と、コンテンツを提供するプラットフォームとユーザーをいかに違和感なくつなげられるか(Interoprability)の2つが挙げられます。
通信販売や固定の店舗など、コンテンツ提供者が定めたフォーマット上で消費がなされる従来型メディアと異なり、没入型のメタバースでは信条や理想、好みなどのユーザーそれぞれの嗜好に基づいて、独自の体験(エクスペリエンス)を提供することが望まれます。ゲームを含む仮想現実(VR)および拡張現実(AR)においては、どのようなユーザーエクスペリエンスが顧客満足につながるかが徐々に明らかになってきています。メディア企業の重要成功要因(KSF)は、自社コンテンツをプラットフォーム上でいかにユニークな形で提供し、消費者に満足してもらえるかにかかってくると考えられます。
消費者の好みや行動を注視し続け、トレンドを正しく予見すると同時に、プライバシーを確保し、安心して使用できるメタバース空間での体験を提供することが消費者ロイヤルティの向上に寄与すると考えられます。
メタバースをビジネスに活用するには、ユーザーとプラットフォーム間のシームレスな相互運用性が必要となります。この相互運用性はユーザーとつながり、ユーザーを理解する新たな可能性を提供します。一方で、データの収集と保護を実現するには、十分なサイバーセキュリティとプライバシーの担保といった課題を克服することが求められます。この考え方は、特定のプラットフォームにユーザーとそのデータを留めておくことを前提にした、従来のメディア企業のIP展開戦略の根幹を揺るがすことになるかもしれません。メタバースに参加するユーザーに向けて、信頼の置ける運用手法を(ハードウェアおよびソフトウェアを通して)提供できる企業が、競争優位性を獲得する可能性があります。
では、実際にどのようにメタバース市場に踏み出していくべきでしょうか。PwCでは、メタバースを活用したビジネス機会を探るために、企業が取るべき行動として、3つの短期的なアクションと、3つの長期的なアクションを提唱しています。それぞれをメディア企業に置き換えて、必要なケイパビリティを考えてみましょう。
1. 迅速に動く。メタバースは変化が早く、そして大きい分野です。トレンドや他社の動向を把握し、いざ商機と見るやすぐにアクションに起こすことが重要となってくるでしょう。例えば組織内にプロジェクトチームを設けたり、外部の専門家に意見を仰いだりと、迅速な意思決定ができるよう準備しておくことが肝要です。
2. 戦略を立てる。上述したとおり、自社でプラットフォームを保有するのか、既存のプラットフォームでサービスを展開するのか、その上でコンテンツをどのように展開・管理するのかを検討し、判断できるようにしなければなりません。そのためには、メタバースで自社は何ができるのか、それを実現する上で埋めるべきギャップは何かを特定する必要があります。デジタル人材の育成・採用や外部パートナーとの連携が有効な手段と考えられます。
3. 試運転をしてみる。現時点でビジネス機会として活用できそうなものを実際に試してみることが大切です。BtoC事業であれば、自社が保有するIPをもとにしたグッズのデジタル化と、それの展示および販売、自社がリアルで保有するグッズ販売店や撮影スタジオのバーチャルツアーなどが考えられるでしょう。前述のとおり。マネタイズには時間がかかりますが、ブランド認知を高め、顧客とのつながりを深めるためには役立ちます。
4. 信頼性にフォーカスする。メタバースを実際に活用していくとなると、必要なのはコンテンツ戦略だけではありません。サイバーセキュリティやプライバシーの担保、規制遵守、不正防止対策などの「守り」の施策も求められます。消費者をはじめとするステークホルダーと建設的な関係を築いていくには、信頼が不可欠です。これまでリアルの世界で積み重ねてきた信頼をもとに、メタバース空間を通じて自分たちは何を提供できるのか、収集したデータをどのように管理しているのかなどを、ステークホルダーに丁寧に伝える必要があります。
5. 自社環境を見直しながら、コアコンピテンシー(核となる得意分野)を再検討する。デジタル環境では、リアルの世界でのコンテンツの人気度が競争優位性を決定付けるわけではありません。コンテンツの新規性やエクスペリエンスの意外性、シームレスな決済、時には外部コンテンツとのコラボレーションなど、社外のアセットも活用しながら、自社が優位性を発揮できる空間を構築していく必要があります。こうしたアイデアの源となるのは人材です。従業員のデジタルアップスキリングを通じて、自発的にビジネスアイデアを創出できる環境作りやデータ利活用の方法の見直しに今から着手すべきでしょう。
6. リアルとデジタルを連携させたエクスペリエンスを提供する。メタバースが今後さらに普及すれば、リアルとデジタルの垣根はさらに曖昧になると考えられます。リアルでコンテンツを購入するとメタバース空間上のファンコミュニティに招待されたり、メタバース空間で購入したキャラクターグッズが後日、リアルで届いたりといった、2つの世界を融合したサービスが出てくる可能性があります。リアルとデジタルの両空間を念頭に置いたブランドエクスペリエンスの設計は、ビジネスにおける大きな差別化のポイントになり得ます。
「2.メタバースはいつ本格化するのか」で述べたとおり、9割もの企業がメタバースをビジネス機会として捉えており、新たなビジネスや市場を創出するものとして期待しています。特に、インターネットの普及によって、この10年間守勢を強いられてきた従来のメディア企業にとっては、コンテンツを展開する新たなメディア空間としてのメタバースでイニシアチブ(主導権)を取れるかどうかが極めて重要です。今後のビジネスの浮沈に大きく関わる岐路に立っていると言っても過言ではありません。
こうした中で、メタバースに参入する目的の明確化や費用対効果の説明などに課題を抱えている企業も多く、いまだ活用イメージが明確になっていないケースがうかがえます。求められるスピーディーなアクションが必要である一方で、内部への説明責任が求められる狭間において、ジレンマに陥っている可能性もあるでしょう。具体的な取り組みを始める企業が増えている中で、メタバースへの取り組みや事業化が遅れることは、既存の自社ビジネスに影響を及ぼすことすらあり得ます。すなわちビジネス機会であったはずのメタバースが、他社の取り組みが先行するために脅威となってしまうかもしれないのです。たとえ小さくても、今、最初の一歩を踏み出しているかどうかが、その企業の近い将来のビジネス像を大きく占う可能性があるということを、私たちはあらためて認識しておく必要があるのです。
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