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新興技術(エマージングテクノロジー)は社会に浸透することで、望ましい未来のデザインを可能とし、また国際的な課題を解決しつつ「あるべき姿の実現」を目指すデマンドプル型経済活動と融合することで、社会変革を加速させています。この融合は、研究開発とイノベーションに関わる研究者、企業、政策立案者など全ての関係者に対し、イノベーションプロセスの変革を求めるものです。
本コラムシリーズでは、欧州で議論が先行する「責任ある研究とイノベーション(RRI)」の実践が作り出す社会経済の好循環を読み解きます。第2回では、RRIとテクノロジーガバナンスの関係、欧州で急速に進むRRIの政策的導入について紹介します。
※本コラムは大阪大学社会技術共創研究センターとの共同研究の成果に基づくものです。
ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)や人工知能(AI)といった新興技術は、何らかの社会課題を解決し、人々に良い進歩をもたらすために生み出されたものです。しかしそれら新興技術の社会浸透により、その進歩という正の影響のみならず、新たに負の影響ももたらされました。例えばSNSの過度な利用によるメンタルヘルスの不調や、AIサービスによる富の不均衡などの問題が表面化しました。そしてその特徴として、「負の影響」が意図せず生じたものなのか、特定のイノベーターが意図的あるいは戦略的に発生させたものなのか、明確な区別がつけられないことが挙げられます。
RRIは近年、テクノロジーガバナンスと結びつけて議論されています1。RRIの文脈における「ガバナンス」とは、イノベーションにより誕生する新たな科学技術を単に規制することを意味するものではなく、新興技術の研究開発を方向づけるための無数の制度、意思決定、その他の規範的なメカニズムを含めたイノベーションプロセスそのものを管理することに焦点を当てています2。RRIはまた、イノベーションが社会ニーズに基づき推進されつつも、国や地域の価値観と調和されることを重視しています。従って、新興技術分野で経済的に国際優位性を確保するためには、さまざまな国・地域のRRIへの取り組みを知ることも重要です。
欧州連合(EU)は2010年頃からRRIフレームワークの開発に取り組んできました。そして2014年から7年間継続的に実施された政府主導のイノベーションプログラム「Horizon2020」に、RRI起点のガバナンスを含む6つの要素で構成されたRRIフレームワークを導入しています3,4(図表1)。
EUによるこのアクションを機に、アカデミアではRRIに関連した研究が増加しており1、政策立案者や企業を巻き込みつつ、ガバナンス構築を含めたRRIのフレームワークや手順の策定に向けた議論が活発化しています。
EUは歴史的に、科学技術に関するデファクトスタンダード(事実上の標準・規格)の構築を促し、公的機関による標準・規格策定において戦略的に優位性を確保してきました。RRIにおいても既に世界をリードしつつあることから、国際的なデファクトスタンダードの登場に注意が必要です。
RRIは広範な科学技術について、ある程度合意された共通の価値観や手順を有しますが、定型のアプローチではありません。そのため、研究開発・イノベーションが扱う新興技術ごとにその技術的特性を加味して、固有のRRI手法を構築する必要があります5。
量子技術は未来社会のゲームチェンジャーとして注目され、世界的に政策投資が増加している新興技術の1つです。技術開発はいまだアカデミア寄りに位置付けられていますが、経済安全保障上のリスクへの懸念から、RRI導入の議論が活発化しています。
PwCコンサルティング合同会社は2023年9月より、大阪大学社会技術共創研究センター(センター長:岸本充生)と「責任ある量子技術開発」に係る共同研究を開始し、海外の政策的取り組みを調査しました6。
日本を含む38カ国が加盟する国際機関である経済協力開発機構(OECD)は、主としてソフトローによるリスク管理を主眼に、量子領域でのRRIを起点とする先見的ガバナンスの実現に向けて組織や予算制度といった公共セクターでの改革を提案しています7。一方、民間組織が主導する国際機関である世界経済フォーラム(WEF)の場合には、主としてさまざまな企業が量子経済の恩恵を受けるために、自律的にRRIを実践するための指針や倫理的ガイドラインの提案に積極的に取り組んでいます8。こうした国際的指針が相次いで提案されていることと並行して、英国やオランダなど欧州の国々においては、国家レベルの量子技術領域におけるRRI導入の具体化が進んでいます。
第3回コラムでは、欧州におけるRRI導入の具体化をレビューしながら、日本におけるRRIの実践に向けて政府や企業などが取り組むべきことについて考察します。
1 Pierre-Jean Barlatier, Valentine Georget, Julien Pénin, Thierry Rayna, 2023. The Origin, Robustness, and Future of Responsible Innovation. Journal of Innovation Economics & Management 43(1), pp. 1-38.
2 OECD, Technology Governance, Accessed September 3 2023.
https://www.oecd.org/sti/science-technology-innovation-outlook/technology-governance/
3 Directorate-General for Research and Innovation, European Commission, 2012. Responsible Research and Innovation Europe’s ability to respond to societal challenges. European Commission, 2012. pp. 1-4.
4 QuantERA, 2022. D6.2 Guidelines in Responsible Research and Innovation in QT. Accessed March 08 2024.
https://quantera.eu/guidelines-in-rri-in-qt/
5 Cecilie A. Mathiesen, 2023. ERA4Health Responsible Research and Innovation (RRI) Guidelines1. Accessed February 28 2024.
https://era4health.eu/responsible-research-and-innovation-rri/
6 榎本啄杜,長門祐介,岸本充生,2024,RRIを量子技術領域へ適用する:政策レビュー,大阪大学社会技術共創研究センター『ELSI NOTE』,NO. 38,
7 OECD, 2023, OECD Science, Technology and Innovation Outlook 2023: Enabling Transitions in Times of Disruption,Accessed March 3 2024.
https://www.oecd.org/sti/oecd-science-technology-and-innovation-outlook-25186167.htm
8 WEF,2024, Quantum Economy Blueprint, Accessed February 5 2024.
https://www.weforum.org/publications/quantumeconomy-blueprint/