サステナビリティ/DX(AI)が企業にもたらす機会と脅威 最終回:デジタルと監査

2022-03-16

PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)は2021年11月25日、メディア関係者を対象とするセミナー「サステナビリティ/DX(AI)が企業にもたらす機会と脅威-2022年、東証市場再編やデジタルガバナンス・コード対応が本格化-」を開催しました。

当日の様子を振り返る連載の最終回は、PwCあらた執行役副代表の久保田正崇とアシュアランス・イノベーション&テクノロジー部長の近藤仁が、現行の監査業務における課題、その解決に資するPwCのリアルタイム監査やAI監査ツール「Cash.ai」について語ったセクション「デジタルと監査」の様子をお届けします。

登壇者

PwCあらた有限責任監査法人

久保田 正崇
執行役副代表・企画管理本部長・AI監査研究所副所長

宮村 和谷
システム・プロセス・アシュアランス部 パートナー
フィンテック&イノベーション室長(Co-Lead)

田原 英俊
パートナー
サステナビリティ・アドバイザリー部リーダー / ESG戦略室リーダー

鈴木 智佳子
銀行・証券アシュアランス部 パートナー
フィンテック&イノベーション室長(Co-Lead)
PwC Japan DX Internal Lead
アシュアランス Culture Change Officer

近藤 仁
パートナー
アシュアランス・イノベーション&テクノロジー部長

(左から)近藤 仁、鈴木 智佳子、久保田 正崇、田原 英俊、宮村 和谷

(左から)近藤 仁、鈴木 智佳子、久保田 正崇、田原 英俊、宮村 和谷

近藤:
宮村・鈴木による「DXの先に求められるAIへの信頼と、それを担う人財」では、企業に求められるデータ&AIガバナンスについてご説明しましたが、続く本セクションでは、私たちの監査領域におけるDXについてご説明します。

PwCあらたは2016年に「AI監査研究所」を立ち上げ、テクノロジーを活用した監査業務の在り方を探求してまいりました。今回はさまざまな取り組みを通じて私たちが実感した「現行の監査業務における課題」や、その解決に資するPwCのリアルタイム監査、AI活用の進捗などをご紹介します。

まず、現行の監査業務における課題については、図表1の上部をご覧ください。課題は主に2つあり、1つ目は「紙面資料を前提に、企業および監査法人の業務が組み立てられていること」です。

その代表例が、企業のシステムから出力したデータと、データを裏付ける請求書や契約書などの証憑書類との整合性を確かめる「証憑突合」という監査手続です。この手続では従来「判が押された紙の証憑書類」を閲覧することが多く、企業への提出依頼や収集、目検、共有といった前処理に多くの時間を要してきました。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)によるリモートワークの拡大を受け、企業が紙面資料を扱うことは減りつつありますが、結局「紙が電子ファイルに変わっただけ」で、未だ表計算ソフトへの入力などが必要なケースが多いのが現状です。

図表1 現行の監査業務における課題

2つ目の課題は「企業のデータのフォーマットや粒度が統一されておらず、データを加工・分析する前処理に多くの工数を要すること」です。

監査法人は企業から入手したデータを、用途に応じて加工してから監査手続を始めます。しかし、企業ごとにシステムやデータの仕様が異なるケースも多く、データの整理・入力といった前処理に時間を要してしまいます。その上、データがシステムから正しく出力されたものか、データそのものの信頼性を確認しなければならない場合もあります。

こうした「前処理」に費やす時間は、一般的に監査全体の3〜4割を占めるとも言われていますが、前処理は「本質的な監査業務」ではありません。PwCあらたは前処理の時間削減に向け、特に「標準化」と「自動化」の両面からアプローチを進めることで、図表1下部の「将来」の部分で示している在り方を目指しています。

企業の資料・データは千差万別で、年度によってその見え方が異なることもあります。単に自動化するだけでは毎年メンテナンスを行う必要があるため、標準化と組み合わせることが重要なのです。

久保田:
この具体的な取り組みについては図表2、リアルタイム監査のモデル図をご覧ください。左の「被監査対象」の多様なデータが右の「監査法人」に自動連携される際、中央にあるデータプラットフォームがデータを標準化・蓄積するという仕組みになっています。

会計システムごとにデータの仕様や出力形式は異なりますが、仕訳の日付や勘定科目、金額、起票者、承認者などの情報は必ず入力されています。私たちは、こうした「どのシステムにも存在するデータ」をPwCグローバル共通のデータモデルに合わせて扱いやすいように標準化し、分析などに活用しています。

図表2 人とテクノロジーが共創した「リアルタイム監査」

これにより、海外で開発されたアプリケーションを日本で使う場合も、投入データは標準化されていることが前提なので、アプリケーションごとの前処理は不要になります。例えば、PwCドイツで開発したものを、PwCあらたでそのまま活用できます。逆に、PwCあらたが開発したアプリケーションを輸出する時も同様です。さまざまなシステムのデータを自動連携・標準化してリアルタイム監査につなげていくことを目標に、私たちは日々開発・ブラッシュアップを進めています。

リアルタイム監査の実現には、企業側のデジタル化やデータ標準化も重要です。データが企業の保有段階から標準化されていると、一連の監査業務をさらに迅速化できます。現在、データの自動連携から標準化までクリック1つで1〜2時間で行えている事例もある一方、手作業が一部必要になるために10営業日を要してしまうという事例もあります。手作業の必要性が残っていれば、当然、リアルタイム監査は難しくなります。

申し上げるまでもなく、企業にとって「デジタル化」は喫緊の課題ですが、デジタルや自動化のメリットを最大限獲得するには「標準化」も不可欠です。標準化されたデータはコンピューターで処理しやすく、適切な分析結果も導きやすくなり、AIの正しい学習を促します。データの標準化は企業・監査法人の双方に大きなメリットがあるのです。

PwCあらたは世の中の標準化に関する取り組みに積極的に関与しており、官民で進めている全銀EDIシステムや電子インボイス推進協議会などにも参加・協力しています。社会全体で標準化に取り組むことはDXだけでなく、その前提となる「情報の信頼性確保」につながると考えています。

近藤:
最後に、自動化・標準化の先にある「未来の監査」に資するものとしてPwCが開発を進める、AIを活用した監査ツール「Cash.ai」をご紹介します。図表3をご覧ください。

「Cash.ai」は、現金及び預金の監査手続を自動化するツールです。AIを活用して銀行・被監査対象のデータを読み込み、その上でデータを標準化し、監査手続を自動で実施して文書化まで行います。

図表3 PwCのAI - Cash.ai

開発当初は、データを読み込む部分で相当の補正を要しましたが、機械学習を重ね、精度を高めることができました。PwC英国などでパイロットテストが進んでおり、2021年には「人間による監査よりも品質が高い」という結果が得られ、非常に将来性が期待されています。

日本での導入に向けては、銀行・被監査対象のデータを数多く学習させることが必要です。その上で十分な精度を達成できる見込みが立てば、近い将来に実用化できると考えています。この点においても、企業側で資料やデータの標準化が進んでいれば、精度の向上は早まるとみています。

久保田:
本メディアセミナーでは「信頼」をキーワードに、4つのセクションを通じて「サステナビリティ」と「DX(AI)」が企業にもたらす機会と脅威についてご説明してまいりました。図表4に、企業が2022年およびその先に検討すべき事項をまとめましたので、ご覧ください。

図表4 サステナビリティ/DX(AI)が企業にもたらす機会と脅威

田原と私のセクション「今後、企業が取り組むESG情報開示」でもお話ししましたが、コーポレートガバナンス・コード改訂や東京証券取引所の市場区分再編の中で、従来の「自由演技的な開示・コミュニケーション」は通用しなくなってきており、開示内容や各種ガバナンスの信頼に対する要求が高まっています。その要求に明確に応えられる企業にとって2022年は大きな飛躍の年となり、ブランドイメージをも一変させる機会となるでしょう。

しかし、その要求に応えられない場合はビジネス全体に悪影響が生じるでしょう。これまで、財務情報の開示ミスは「会計上の問題」と捉えられてきた側面がありますが、非財務情報の開示ミスは企業・事業そのものへの脅威になり得ます。デジタル化の遅れ・失敗は、致命的な経営リスクに発展しかねません。だからこそ「信頼を確保するための仕組み」を事業戦略あるいはガバナンスの中に組み込んでいくことが重要なのです。特にプライム市場上場会社には、本メディアセミナーでお伝えした内容は「経営の前提」として実現することが求められていきます。

PwCあらたはこうした背景を踏まえ、社会や資本市場を構成するさまざまなステークホルダーが各種取引や活動を円滑に行えるよう信頼を構築し、維持するためのガバナンスの一翼を担い、企業あるいは社会そのものと多様な課題の解決に取り組んでまいります。

主要メンバー

久保田 正崇

代表, PwC Japanグループ

Email

宮村 和谷

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

田原 英俊

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

鈴木 智佳子

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

近藤 仁

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

サステナビリティ/DX(AI)が企業にもたらす機会と脅威

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