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「未来の社会を支える会社」を長期ビジョンとする帝人では、バイオマテリアルの開発や完全循環型のバリューチェーン構築によって、サーキュラーエコノミーの実現を目指しています。その実現に向けては、先端素材を開発・供給する会社から、循環型バリューチェーンの構築を含む環境価値ソリューションを提供する会社への進化が必要になりそうです。同社の内川哲茂社長が描く変革のビジョンを、PwC Japanグループサステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスのリード・パートナー磯貝友紀が掘り下げます。
(左から)内川 哲茂氏、磯貝 友紀
対談者
帝人
代表取締役社長執行役員CEO
内川 哲茂氏
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
リード・パートナー
磯貝 友紀
※役職などは掲載当時のものです。
磯貝:内川さんがサステナビリティ経営やサーキュラーエコノミー(CE)の重要性について、深く考えるようになったきっかけや原体験のようなものはあるのでしょうか。
内川:私が入社した当時、帝人はポリエステル繊維などで世界的にも大きなシェアを持っていました。当時はまだ、サステナビリティ経営やCEという概念はありませんでしたが、今振り返ると、リーディングカンパニーとしての責任を意識して、社会課題の解決に先駆的に取り組んでいました。
内川 哲茂氏
例えば、私が入社後に配属された繊維研究所では、すでに重金属フリーのポリエステルのケミカルリサイクルの研究に取り組んでいる先輩研究者たちがいました。土壌中の重金属類などを除去する土壌浄化のパイロット事業なども始まっていました。
ケミカルカンパニーとして地球環境に貢献しなくてはならないという意識は、社内に連綿と受け継がれてきたものです。
磯貝:30代でオランダに駐在されたご経験から、何か影響を受けましたか。
内川:オランダで私が住んでいたのは、アムステルダム近郊のフードバレー(大学・研究機関を中心とする産官学連携の食品産業クラスター)でした。食品廃棄に関して強い問題意識を持つ人が多く、研究論文も多く発表されていました。
繊維の原料が化石燃料由来から生物由来に変わるのではないかという実感がオランダで深まり、バイオ原料で繊維を作る研究をしていました。食用の鶏の羽毛が大量に廃棄されていることを知り、人間のかつら用の繊維として再生できないか研究したこともあります。
当社は2021年に「欧州サステナブル先端技術開発センター」をオランダに開設したのですが、そこでバイオ由来のアラミド繊維の研究をしている研究者から、20年ほど前に私が書いた論文を読んだと聞かされて、当時を懐かしく思い出しました。
磯貝 友紀
磯貝:PwC Japanグループが発起人となり事務局を務めるエグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム(ESフォーラム)に参画いただいていますが、どのような感想をお持ちでしょうか。
内川:化学メーカーとしては、製造プロセスで排出する二酸化炭素(CO2)が大きな問題で、元々はカーボンニュートルラルを軸にCEを目指すという発想でした。
しかし、ESフォーラムに参加して、私たち人間は炭素だけでなく鉱物や窒素、水などを自然界から大量に採取し、CO2やプラスチック、窒素化合物などを回収できない形で自然界に拡散させ、生態系の均衡を崩していることを改めて認識しました。社内でも、地球に対する負荷全般を見渡して議論するようになりました。
磯貝:帝人は「サーキュラーエコノミーの実現」を自社のマテリアリティ(重要課題)の1つとして定義し、製品の長寿命化、ケミカルリサイクルの促進、リサイクル材料やバイオマス材料の活用など、どのように取り組んでいらっしゃいますか。
内川:私たちは長期ビジョンとして「未来の社会を支える会社」を掲げており、それをより具体化したものとして「地球の健康を優先し、環境を守り、循環型社会を支える会社」「より支えを必要とする患者、家族、地域社会の課題を解決する会社」を目指しています。
その中で、気候変動の緩和と適応など4つの重要社会課題の1つとして定義しているのが、CEの実現です。バイオマテリアルやCEの技術開発といった環境価値ソリューションの提供を通じて、顧客やパートナー企業、地域社会などとともにCEの実現を目指しています。現在のところ先行しているのは、ポリエステル繊維とアラミド繊維の循環チェーン構築の取り組みです。
磯貝:先ほどもおっしゃっていましたが、帝人では早くからポリエステルのケミカルリサイクルに取り組んでいたのですね。
内川:ペットボトルや衣料のケミカルリサイクルには、30年以上前から取り組んでいます。2002年には、ケミカルリサイクル技術を基盤にしたポリエステルの循環型リサイクルの仕組み「エコサークル」を立ち上げ、アパレルメーカーなどと協力して学校の体操服や工場の作業服、会社の制服などを回収、中国のリサイクル設備で原料に再生していました。
しかしながら、2017年に中国で施行された廃棄物由来原料の輸入規制によって、使用済みリサイクル原料を日本から輸出できなくなったことから、エコサークルでの製品の回収は18年に終了を余儀なくされました。
その後も使用済みのポリエステルを新たな繊維に再生する「繊維 to 繊維」の技術開発を続ける中で、衣服からポリウレタン弾性繊維を除去して、ポリエステルを効率的に取り出す技術の開発に成功しました。
近年、衣料品市場では速乾性や防シワ性、着用時の快適性が高い機能性衣料の需要が高まり、ポリエステルとポリウレタン弾性繊維を組み合わせた製品が増えています。異なる素材が含まれる衣料品をポリエステルのケミカルリサイクル工程で処理すると、再生品の品質が劣化する問題がありましたが、新しく開発した異素材除去技術によって、ポリウレタン弾性繊維を含む使用済みポリエステル衣料品のリサイクルが可能になりました。
回収ルートの確立を含めて、いろいろな企業と力を合わせ、「繊維 to 繊維」のリサイクルに再チャレンジしていきます。
磯貝:帝人がマーケットリーダーの立場にあるアラミド繊維については、どのような循環チェーンを構想しているのですか。
内川:軽くて強度や耐久性に優れたアラミド繊維は、タイヤや光ファイバーケーブルの補強材、自動車のブレーキバッド、防弾・防護衣料などに使われています。当社では2021年、アラミドの主力製品「トワロン」が使用された製品を回収・リサイクルし、バージン品と同等の性能を持つ再生繊維を生産する技術を開発しました。
まずは一定のサイクルで更新需要がある防弾ベストの回収・リサイクルから始めており、他の用途の製品にも広げながら、完全循環型のアラミドバリューチェーンの構築を目指しています。また、アラミドについては化石燃料由来からバイオ由来の原料への転換も進めています。
磯貝:航空機や自動車、風力発電機などで使われている炭素繊維のサーキュラリティに関しては、何か取り組みを始めていらっしゃいますか。
内川:炭素繊維複合材料のリサイクルシステムの構築に取り組んでいます。米国の大手自動車メーカーでは、ピックアップトラックの一部車種の荷台に当社の製品が使用されています。これを回収して砕き、再成形して荷台パネルとして水平リサイクルできることを確認しています。2〜3回リサイクルした後は、テールゲートリフター(トラックの荷台後部の昇降装置)などで再利用することも可能です。
ただ、自動車は廃棄されるまでに5〜10年程度、航空機だと20〜30年程度とライフサイクルが長い点に、循環チェーン構築の難しさがあります。完成品メーカーにリサイクル部品や再生素材の利用を前提とした循環型設計に取り組んでもらうなど、バリューチェーンの各プレーヤーが連携しながら循環チェーンを構築する必要があります。
完成品のライフサイクルの長さを考えると、循環チェーンの構築よりも、再生可能エネルギーなどを活用した炭素繊維の製造工程における脱炭素化が先行する可能性もあります。
これからの企業経営において、環境・社会と経済成長を両立させるには「サーキュラーエコノミー」が不可欠であることをシンプルなフレームワークで示し、環境問題とビジネスの本質的な関係を整理します。そしてビジネスチャンスの創出や競争優位性の確立という攻めの経営にも役立つ「サーキュラーエコノミー」の実現について、豊富な先進的企業の事例とともに論じます。