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帝人の内川哲茂社長とPwC Japanグループの磯貝友紀の対談の前編では、ポリエステルやアラミド、炭素繊維など帝人のマテリアル製品における循環チェーン構築の取り組みについて聞きました。後編となる本稿では、産業バリューチェーン全体で責任や負担を分かち合うことによるサーキュラリティの推進、脱資源依存戦略としてのサーキュラーエコノミーのあり方などについて、意見を交えました。
(左から)内川 哲茂氏、磯貝 友紀
対談者
帝人
代表取締役社長執行役員CEO
内川 哲茂氏
PwC Japanグループ
サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス
リード・パートナー
磯貝 友紀
※役職などは掲載当時のものです。
磯貝:循環チェーンの構築には他のプレーヤーとの連携が欠かせません。サーキュラーエコノミー(CE)の実現に向けて、企業や業界の枠を超えたコラボレーションをどう進めていくお考えですか。
内川:例えば、先ほど述べたポリエステル衣料では、当社の技術でポリエステルを抽出してリサイクルし、除去したポリウレタンは他社にリサイクルをお願いするといったように、各社が得意技術を生かしながら水平分業することが考えられます。経営者レベルで話をしていると、そうした考え方に賛同してくれる人が増えています。
かつて「エコサークル」(ポリエステルの循環型リサイクルの仕組み)がうまくいったのは、体操服や制服を学校単位、職場単位でまとめて回収できた点も大きかったのですが、一般の洋服を回収するとなると仕組みをどう構築するかを考えなくてはなりません。私たち素材メーカーだけでなく、アパレルメーカー、(廃棄物の回収・再加工などの)静脈産業を含めて、なるべく多くの事業者の力を結集することが必要です。
また、これも前に述べたことですが、リサイクル設備のある中国に使用済みリサイクル原料を輸出できなくなったことが、エコサークルを断念する原因となりました。これからは、グローバルで1つの循環チェーンを構築するのではなく、地域ごとに完結した地産地消型のバリューチェーンをつくり、その輪がグローバルでつながるような仕組みが必要だと考えています。
磯貝:洋服の売り切り型ビジネスではなく、シェアリングサービスが広がれば循環チェーンを構築しやすくなりそうですね。
内川:おっしゃるとおりです。洋服だけでなく自動車などでも「所有から利用へ」の流れがもっと強まると、循環チェーンを構築しやすくなります。オフィス複合機でリサイクル素材の使用率が高い理由の一つは、売り切りではなくリースが主流だからです。
内川 哲茂氏
炭素繊維は今後、燃料電池自動車向けの車載用圧縮水素タンクや水素ステーション向けの大型タンクでの採用拡大が見込まれます。LPガスのように容器の規格が決まっていれば、水素タンクの循環チェーンを構築しやすくなります。メーカーや車種の違いを超えて、同じ規格のタンクを再利用できるようになるといいのですが、それには完成車メーカーの理解と協力が不可欠です。
磯貝:EUバッテリー規則*1では、自動車用や産業用などの使用済みバッテリーのリサイクルについて、拡大生産者責任を課しています。欧州委員会が2023年7月に発表した廃棄物枠組み指令の改正案も、繊維廃棄物についてメーカーに回収・分別・再利用などの費用負担を求める内容になっています。完成品メーカーと素材・部品メーカーが協力して資源循環の責任を果たすよう、外的圧力が強まっています。
内川:そうですね。垂直統合型の典型である自動車産業でも、完成車メーカーと私たちサプライヤーが協力する余地が十分にあると思います。
完全循環型のバリューチェーンをつくっていく上では、拡大生産者責任を課すだけでなく、使用者にも一定の負担を求めることが必要になってくるのではないでしょうか。家電製品やパソコンと同じように使用者が費用の一部を負担して、メーカーが回収・リサイクルするシステムをつくることができれば、完全循環チェーンの実現性が高まります。バリューチェーン全体でサーキュラリティを支える仕組みをつくれるといいですね。
磯貝:サステナブルな社会の実現に向けては、ジャストトランジション(Just Transition:公正な移行)の視点が欠かせません。例えば、食品のバリューチェーン全体を見ると、川上の農業生産者が得ている利益は少なく、食品メーカーや小売業など川中・川下が多くの利益を得ています。途上国にいくほど、こうした不公正の度合いが強まります。
磯貝 友紀
一方、食品バリューチェーンでは、CO2(二酸化炭素)の多くを農林水産業が排出しているとされますが、現状では農業生産者がCO2排出量を減らしても利益配分が増えるわけではありません。
内川:牛のげっぷに含まれるメタンが、全世界におけるGHG(温室効果ガス)排出量のかなりの割合を占めると言われていますが、生産者が自前で回収するのは難しいでしょう。他産業でも同じことですが、GHG削減への貢献に応じた何らかの配分をバリューチェーン全体で適正に行う仕組みが必要です。そうでないと、川上の人たちは脱炭素に向けた投資ができません。
磯貝:食品に限らず、途上国で生産され、先進国で消費されるものは数多くあります。先進国で消費されるものをつくった結果、途上国のCO2排出量が増え、それを削減する責任を途上国だけが負うというのはあまりにも不公正です。最終消費者を含めてバリューチェーン全体でサーキュラリティを支えるという考え方はとても大事だと思います。
内川:当社では、スコープ3までを含むCO2削減目標に加えて、CO2削減貢献量の目標も開示しています。これは、当社の製品・サービスを使用することによるサプライチェーン川下でのCO2削減効果を貢献量として算出するものです。2030年度までに、グループ全体およびサプライチェーン川上におけるCO2総排出量を、CO2削減貢献量が上回るようにするのが目標です。
各プレーヤーのCO2削減貢献量を可視化することが、バリューチェーン全体でサーキュラリティを支える仕組みの1つになると思います。
磯貝:今後も人口増加と経済成長が見込まれるASEAN(東南アジア諸国連合)では、多くの日本企業が経済活動を行っています。しかし、ASEANは先進国の製造工場であると同時に、ごみ廃棄場としての役割を担っているという現実はあまり知られていません。
フィリピンやマレーシアなどでは、最終処理廃棄物が大幅な輸入超過となっています。主な輸入相手は欧州と日本、米国などです。つまり、先進諸国の廃棄物を大量に受け入れているのです。一方で、資源再利用産業は未整備で、ASEAN全体の廃棄物リサイクル率は2.5%、循環率は0.8%にとどまります。ASEAN各国がサステナブルな成長モデルへと公正に移行できるよう、私たちが果たすべき責任は大きいと思います。
少しずつですが、ASEANでも静脈産業が育ちつつあります。プラスチックや金属をリサイクルする業者が生まれているのですが、中国が今、その再生金属を買い集めています。金属リサイクル業者を買収する例もあります。
CEとは、いかに脱資源依存を進めるかが基本であり、廃棄物をごみではなく資源として再定義し、自然界からの資源採取を極小化する必要があります。中国は資源戦略の一環として、再生金属の輸入に力を入れ始めているようです。
内川:日本ではまだ、CEをごみ処理問題の延長と捉えている人が多いですが、資源確保という側面があります。例えば、EV(電気自動車)用バッテリーには希少金属や希土類など、特定の国でしか採れない鉱物が使用されています。地産地消型の循環チェーンを構築することが、資源確保にもつながります。
磯貝:循環チェーン構築に向けて今後、帝人はどうイニシアティブを発揮していくのか、お聞かせください。
内川:当社では、モビリティ、インフラ&インダストリアル、ヘルスケアの3つを成長事業領域と位置付けた事業ポートフォリオ変革に取り組んでいます。これらの領域において、サーキュラリティに資する技術開発、サービス開発に注力し、サステナビリティを起点にした成長を目指します。
具体的なイメージを当社の在宅医療事業を例に説明しましょう。当社では1970年代から、酸素濃度を高める酸素富化膜の研究開発を進め、82年に国産初の医療用膜型酸素濃縮装置の販売を始めました。これによって、呼吸不全の患者さんが自宅療養できる在宅酸素療法(HOT)の道を開くことに貢献しました。
HOTの普及に伴って、在宅医療機器のレンタルや24時間対応の保守サービス、訪問看護ステーションなどの事業基盤を整備しました。医療・介護従事者が患者さんの血圧や酸素飽和度などのバイタルデータを共有できるシステムや、入退院の調整を支援するクラウドサービスを提供するなど、国が推進する地域包括ケアシステムにも貢献しています。
素材や製品の販売にとどまらず、販売後の保守サービス、患者さんや医療・介護従事者を支援するサービスへとバリューチェーンを広げたことにより、当社は在宅医療分野で圧倒的なリーディングカンパニーのポジションを築くことができました。レンタルしている在宅医療機器は当社の資産ですので、循環チェーンも構築できます。
他の事業分野でも、こうしたソリューション提供型ビジネスを強化することによって、循環チェーンの構築を主体的に推進する存在になっていきたいと考えています。
磯貝:サステナビリティを起点とした成長モデルの実現は今後もますます社会からの期待が高まると思います。
*1 2023年8月発効、今後段階的に適用が進む
これからの企業経営において、環境・社会と経済成長を両立させるには「サーキュラーエコノミー」が不可欠であることをシンプルなフレームワークで示し、環境問題とビジネスの本質的な関係を整理します。そしてビジネスチャンスの創出や競争優位性の確立という攻めの経営にも役立つ「サーキュラーエコノミー」の実現について、豊富な先進的企業の事例とともに論じます。