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JERAは売上高3兆7,107億円、営業利益5,634億円(2024年3月期)の事業規模を持つ日本屈指のエネルギー企業であり、国内火力発電のほか、世界を股にかけたガス田の開発、燃料の輸送やトレーディング、再生可能エネルギー発電事業などを手がけるグローバルプレーヤーでもあります。そのJERAは、再エネ発電と(二酸化炭素を排出しない)ゼロエミッション火力を組み合わせた独自のアプローチで、アジアを中心に世界の脱炭素化に挑んでいます。豊富な国際人脈を持つことで知られる可児行夫会長グローバルCEO(最高経営責任者)に、PwC Japanグループのサステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスのリード・パートナー磯貝友紀が、同社のゼロエミッション戦略について聞きました。
(左から)可児 行夫氏、磯貝 友紀
可児行夫(かに・ゆきお)氏
JERA代表取締役会長グローバルCEO。東京電力(現東京電力ホールディングス)入社後、主に燃料畑を歩む。2011年の東電福島第1原発事故後、原発事業を切り離した新会社の構想を当時の幹部に提案し、後にJERA発足につなげた。12年、出資先の豪州のLNG開発・販売会社社長。15年のJERA設立の翌年に同社常務取締役に就任。副社長を経て23年4月から現職。
磯貝友紀(いそがい・ゆき)氏
PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス リード・パートナー。2003年より民間企業や政府機関、国際機関にて東欧、アジア、アフリカにおける民間部門開発、日本企業の投資促進を手がける。2011年より現職。著書に『SXの時代』『2030年のSX戦略』(共著、いずれも日経BP)
※役職などは掲載当時のものです。
磯貝友紀(以下、磯貝):JERAは、「世界のエネルギー問題に、最先端のソリューションを提供する」をミッションとして定義し、水素・アンモニアを活用した火力発電と再生可能エネルギーを組み合わせ、世界を脱炭素社会に変革するというビジョンを掲げています。その基盤になるものとして、サステナビリティ経営やサーキュラーエコノミー(循環経済)の重要性をどのように捉えていらっしゃいますか。
可児行夫氏(以下、可児):JERAは東京電力(現東京電力フュエル&パワー)と中部電力の合弁で2015年に設立された会社です。両社の燃料事業や海外発電事業を段階的に統合し、19年に既存火力発電事業の統合をもって燃料上流・輸送・調達から発電、電力・ガスの卸販売に至る一連のバリューチェーンがJERAに一元化されました。
そして、同年4月に会社のパーパス(存在意義)に当たるものとして発表したのが、「世界のエネルギー問題に、最先端のソリューションを提供する」というミッションです。翌20年10月には、50年時点で国内外の当社事業から排出されるCO2(二酸化炭素)を実質ゼロにすることに挑戦する「JERAゼロエミッション2050」を発表しました。当時の菅義偉首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言するのと同じタイミングで、50年の脱炭素化を具体的な目標として掲げたのは、日本ではおそらく当社が初めてだと思います。
当社のミッションで言及している世界のエネルギー問題とは、クリーンな社会の実現に向けたサステナビリティ(sustainability)、手ごろな価格を実現するアフォーダビリティ(affordability)、人々の暮らしや産業を支える安定供給(stability)の3つをいかに同時に達成するかという問題です。再生可能エネルギーを最大限導入していくことは気候変動対策の観点から待ったなしですが、再エネ発電は日照時間や風量などの気象条件に左右されます。それを火力発電で補完し、「再エネ+ゼロエミッション火力」で脱炭素社会を実現するのが、当社のアプローチです。
可児 行夫氏
磯貝:ゼロエミッション火力は、JERAが打ち出した独自のコンセプトですね。
可児:はい。火力発電の燃料である石炭とガスを、燃やしてもCO2を出さないアンモニアと水素に転換することで脱炭素化するのが、ゼロエミッション火力です。
地域別に見て、エネルギー関連の温室効果ガス排出量が最も多いのはアジアですが、欧米などに比べると再エネ発電の適地が少なく、新興国では送配電網などのインフラが整っていないため、再エネだけで脱炭素化を目指すのは現実的ではありません。日本を含めて火力発電に頼っているアジアの国々では、「再エネ+火力の脱炭素化」が最適な組み合わせだと考えています。
ゼロエミッション火力は、火力発電設備で使用する燃料をアンモニアと水素に徐々に置き換えていくものですから、既存の設備を生かしながらCO2排出量を減らせます。火力発電所の新設が続いているアジアの実情から見ても、現実的なアプローチと言えます。
磯貝:エネルギーに起因する環境問題への一律的な解決策はなく、各地域の実情に応じた取り組みが重要だということですね。
可児:そのとおりです。地理的な条件やインフラ整備状況などは国・地域によって異なりますから、脱炭素化を進めていくためにはそれぞれの実情に合わせて、最適なソリューションを提供する必要があります。当社は再エネとゼロエミッション火力だけでなく、蓄電池やCCS(二酸化炭素の回収・貯留)などさまざまな先端技術の研究・実証に取り組んでいます。
JERAは国内最大手の発電事業者であり、LNG(液化天然ガス)の取扱規模は世界最大級。最近では再エネ発電でもアジアでトップクラスのプレーヤーになりつつあります。最先端のソリューション提供によって、アジアを中心に世界の脱炭素化を牽引していくことが、グローバルシチズン(世界市民)としての責務だと考えています。
磯貝:ゼロエミッション火力では、アンモニアの活用を先行して進めていますが、どういった理由からでしょうか。
可児:アンモニアは石炭火力発電、水素はLNGを利用したガス火力発電との相性がいいのですが、石炭のCO2排出係数は天然ガスの約2倍で、脱炭素の点では石炭のアンモニア転換の方が緊急性の高い課題です。今でも世界の電源構成の4割近くが石炭火力です。
磯貝 友紀
また、アンモニアは主に肥料用として世界で2億トン程度製造されており、製造や運搬、貯蔵などサプライチェーンの技術や設備を燃料アンモニアに生かすことができます。さらに、窒素と水素の化合物であるアンモニアは、水素キャリア(水素を運搬しやすい物質・状態に変えて運ぶ手段)の有力候補であり、アンモニアの製造・輸送・貯蔵といったバリューチェーンを構築することが、水素火力への道を開くことにつながります。
当社では、大型商用石炭火力発電機における世界初となるアンモニア利用の実証試験(燃料の20%をアンモニアに転換)を碧南火力発電所で開始しました。30年代前半にはアンモニア50%以上の商用運転、水素についても実証実験から利用率拡大による商用運転を目指しています。
磯貝:現在取引されているアンモニアのほとんどは化石燃料由来で、製造過程で大量のCO2を排出しています。ゼロエミッション火力を実現するには、クリーンなアンモニアの調達が必要です。
可児:クリーンなアンモニアには、製造過程で排出されるCO2を回収して地中に貯留するブルーアンモニアと、再エネを使って水を電気分解して水素を取り出し、窒素と合成するグリーンアンモニアがあります。
こうしたクリーンなアンモニアの安定供給と低コスト化の実現に、私たち自身が直接関与していきます。当社はLNGを調達し発電するだけでなく、ガス田開発、液化基地、船による輸送、トレーディングなどバリューチェーンを独自に構築することで、ビジネスを拡大してきました。例えばブルーアンモニアで回収したCO2を埋め戻すガス田を持っているのはオイルメジャーや国営石油会社なのでLNGで培ってきた彼らとの人間関係も大いに活用できますし、アンモニアの輸送船を仕立てるのにもLNGの船の輸送チームが活躍してくれます。また、洋上風力を中心とした再エネ発電事業のチームもいますので、グリーンアンモニアの親和性も高い。これは水素も同様です。アンモニアと水素の市場を拡大する上で、この専門性とノウハウを生かせます。
当社単独でアンモニアのグローバル市場を拡大するのは難しいですから、仲間を作る活動にも注力しています。22年には、クリーンなアンモニアの製造プロジェクトに当社も参画することを条件に、アンモニア調達の国際競争入札を実施しました。現在、世界的なアンモニア製造大手の米CFインダストリーズと大規模なブルーアンモニアの製造プロジェクトを進めています。
また、米エクソンモービル、米コノコフィリップスといったオイルメジャーとの間でもLNGで培った関係をベースに、それぞれテキサス州でアンモニアや水素を製造するプロジェクトを検討しています。当社が出資しているインドの再エネ事業大手リニューとは、グリーンアンモニアの製造プロジェクトを共同で進める契約を交わしました。
発電用を基礎需要としてアンモニアや水素のバリューチェーンを構築すれば、船舶用燃料など他の用途にも供給することができます。発電所の多くは工業地帯にあり、周辺には中小企業の工場も多いですから、そうした工場で使っている化石燃料の代替としてアンモニア・水素を供給することで、マルチパーパスで脱炭素の裾野を広げることも視野に入れています。
磯貝:再エネ事業でJERAは後発ですが、2023年に国内外で2つの大型買収を発表されました。
可児:ベルギーの大手洋上風力発電会社パークウィンドを約15.5億ユーロ(約2,300億円)で完全子会社化しました。世界の洋上風力の関係者が驚いたようですが、これで大きな一歩を踏み出せました。国内では、NTTアノードエナジーと共同で、グリーンパワーインベストメント(GPI)を買収しました。GPIは国内における再エネのリーディングカンパニーで、24年1月には北海道の石狩湾新港で国内最大規模の洋上風力発電所の商業運転を開始しました。
国内ではその他にも、政府の洋上風力公募の第2ラウンドで、当社と電源開発、伊藤忠商事、東北電力の4社連合が秋田県男鹿市、潟上市および秋田市沖の案件を落札していますし、海外では台湾や米国、英国ベトナムなどでも再エネ事業を手がけています。
24年4月には再エネ事業のグローバル本社を英国に移し、JERA Nex(ネックス)としてスタートさせました。東京の本社社でグローバル再生可能エネルギーのヘッドを担っていたナタリー・オースターリンクは、拠点を東京からロンドンに移し、JERAネックスのCEOに就任しています。
洋上風力をはじめとする再エネのプロフェッショナル人材は欧州に集中しており、人材獲得競争は熾烈です。ナタリーは、ベルギーの洋上風力発電会社でCEOを務めたこともあるプロ中のプロですが、彼女を中心としたセンター・オブ・エクセレンス(優秀な人材、技術、ノウハウなどを集めた拠点)を欧州につくり、グローバルな再エネの開発・導入をさらに加速させます。35年度までに2,000万kW(キロワット)の開発が目標です。
磯貝:老朽化した火力発電所や風力発電の風車の撤去などに伴って、今後マテリアル(部品・部材)のサーキュラー(循環)も重要になると思いますが、その点についてはどうお考えですか。
可児:少し前までは発電所の撤去をゼネコンに一括して発注していたのですが、私たち自身が責任を持って撤去を進めようということで、撤去専門のチームを社内に立ち上げ、外部から専門人材も採用しました。
発電所はコンクリートと金属の塊ですが、コンクリートのがれきでも砕いて再利用することができます。自分たちが撤去工事の計画から完了まで一貫して関わることで、そうしたノウハウを蓄積し、サーキュラリティ(循環性)を高めていきたいと思います。撤去が決まった発電所の部品や予備品はなるべく自社で再利用しますが、一部はカタログ化して国内外で販売する取り組みを始めています。
磯貝:オランダにマテリアル再利用のマッチングを行っている会社があります。そういうプラットフォームも活用すれば、サーキュラリティをより高めることができると思います。
これからの企業経営において、環境・社会と経済成長を両立させるには「サーキュラーエコノミー」が不可欠であることをシンプルなフレームワークで示し、環境問題とビジネスの本質的な関係を整理します。そしてビジネスチャンスの創出や競争優位性の確立という攻めの経営にも役立つ「サーキュラーエコノミー」の実現について、豊富な先進的企業の事例とともに論じます。