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米国でのクリーンなアンモニア製造・供給プロジェクト、欧州での洋上風力発電事業買収、アジアの電力会社への出資など、今や国内エネルギー大手で海外でのプレゼンスが最も高いのがJERAと言えるでしょう。では、アジアを中心とした世界の脱炭素に向かってダイナミックな活動を続ける決断力と実行力の源泉はどこにあるのでしょうか。前編に続いて、同社の可児行夫会長グローバルCEO(最高経営責任者)にPwC Japanグループのサステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスのリード・パートナー磯貝友紀が聞きました。
(左から)可児 行夫氏、磯貝 友紀
可児 行夫(かに・ゆきお)氏
JERA代表取締役会長グローバルCEO。東京電力(現東京電力ホールディングス)入社後、主に燃料畑を歩む。2011年の東電福島第1原発事故後、原発事業を切り離した新会社の構想を当時の幹部に提案し、後にJERA発足につなげた。12年、出資先の豪州のLNG開発・販売会社社長。15年のJERA設立の翌年に同社常務取締役に就任。副社長を経て23年4月から現職。
磯貝 友紀(いそがい・ゆき)氏
PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス リード・パートナー。2003年より民間企業や政府機関、国際機関にて東欧、アジア、アフリカにおける民間部門開発、日本企業の投資促進を手がける。2011年より現職。著書に『SXの時代』『2030年のSX戦略』(共著、いずれも日経BP)
※役職などは掲載当時のものです。
磯貝友紀(以下、磯貝):JERAの2035年に向けたビジョンには、「再生可能エネルギーと低炭素火力を組み合わせたクリーンエネルギー供給基盤を提供することにより、アジアを中心とした世界の健全な成長と発展に貢献する」とあります。ASEAN(東南アジア諸国連合)地域ではこれからも高い経済成長が見込まれ、エネルギー需要は増えていく一方です。特にASEAN地域におけるエネルギートランジションの課題と解決策について、お考えを聞かせてください。
可児行夫氏(以下、可児):ASEANの経済成長と人口増加をこれまで支えてきたのは石炭を中心とする化石燃料です。近年でも多くの石炭火力発電所が建設されており、運転開始から日の浅い石炭火力発電所が多数存在します。
長期的には再エネへの転換を進めていく必要がありますが、風況の安定しない気候条件や山間部や島が多いなど地理的条件の問題があり、簡単ではありません。再エネの供給基盤が整う前に化石燃料の利用を停止すれば、エネルギー不足に陥ります。
可児 行夫氏
ASEAN各国は2050~60年の脱炭素を目標にしていますが、移行期においては石炭火力に比べてCO2(二酸化炭素)の排出が少ない天然ガス火力(発電量1kW時当たりのCO2排出量は石炭火力の半分以下)への置き換えや、化石燃料から水素・アンモニアへの転換、CCS(二酸化炭素の回収・貯留)の活用などを進めていく必要があります。それによって、エネルギーの安定供給と経済成長を両立させながら、最終的には再エネと(CO2を排出しない)ゼロエミッション火力の組み合わせで脱炭素を実現するのが、現実的なシナリオだと思います。
私たちは、米国や日本など先進国で実証した低炭素、脱炭素のソリューションをアジア各国の実情に応じて組み合わせ、パッケージとして提供することでエネルギートランジションを支援していきます。
こうしたトランジション戦略に対しては、欧州を中心に「石炭火力を延命させるものだ」といった批判があります。石炭火力発電所への投融資を引き揚げるダイベストメントの動きも強まっています。しかし、ダイベストしたからといって、アジアでのCO2排出量が減るわけではありません。
一方で、欧州で風が吹かず風力発電の発電量が減少すると化石燃料を買う、ウクライナ危機でロシアからのガス供給が細るとさらに化石燃料を買い集める。その結果、燃料価格が高騰し、しわ寄せが行くのが新興国です。こういったやり方では、アジアの脱炭素は進みません。
私たちはダイベストメントではなく、エンゲージメントを進めます。アジアの民間エネルギー会社の経営に参画し、石炭火力の新設の代わりにガス火力や再エネ、ゼロエミッション火力などの導入を実際の案件を通して進めていきます。
例えば、当社は2021年、フィリピンの大手電力会社であるアボイティスパワーに約27%出資しました。その際、アボイティスの経営陣とはかなり激しく議論しました。先方は「これからも石炭火力発電所をつくる」と言うので、「それなら出資できない。人もソリューションも出すから、石炭をやめてガスと再エネを入れよう」と説得しました。実際に今は当社から役員や技術者を送り込み、ガス火力の共同開発などを進めています。当社の日本の発電所で実地研修を行うために、アボイティスの社員も受け入れています。そうした研修機会を含めて、最先端のソリューションをパッケージにして提供し、アジアの脱炭素化にともに取り組むのが私たちのやり方です。
磯貝:明確なビジョンの下に、ダイナミックに脱炭素化に取り組んでいることがよく分かりました。他方、日本では受け身の姿勢でサステナビリティ経営に取り組んでいる企業が多いのが実情です。その違いは、どこから来るのでしょうか。
磯貝 友紀
可児:当社はもともと変革のために生まれた会社です。地域独占が長く続いた電力業界で、戦後初めての大型再編によって誕生したのがJERAです。最初は反対も多く、当社のコアメンバーはそうした反対の中で修羅場をくぐってきた経験があります。だから、ぶれないし、強い。
磯貝:今のJERAの青写真を描いたのは、可児さんだと伺っています。変革に挑む原点はどこにあるのですか。
可児:私は東京電力でLNG(液化天然ガス)の調達に長く携わりました。資源調達は国益に直結しますから、修羅場の連続ですし、悔しい思いを何度も味わいました。エネルギーのバリューチェーンは上流に超過利潤が集中します。(油田やガス田の開発をしている)世界的なエネルギー大手に利益が集まるので、下流の電力会社は利幅が薄い。その結果、電力価格が下がらない。
その構造を変えるために、まず燃料の輸送に進出し、上流のガス田開発にも乗り出しました。そうしたタイミングで起こったのが、2011年の東日本大震災です。その時、私はオーストラリアでガス田開発の基本合意を終え、(西部の中核都市)パースの空港にいました。「もう新規の電源はつくれない。このままでは電力の安定供給が危うくなる」と思って、今のJERAの基本骨格を帰りの機内で書き上げました。
その後、すぐに事業再編を実現できたわけではありませんが、挫折しながらも仲間を増やしていき、多くの人に助けられて今に至ります。ですから、かれこれ20年以上、エネルギー会社としてのあるべき戦略を考え、仲間を巻き込んできました。会社をつくってから戦略を考えていたら、JERAはここまで来ていなかったでしょうね。
磯貝:大きな変革には強い志と、それを共有できる仲間が欠かせないということでしょうか。
可児:例えば、水素・アンモニアのバリューチェーンを構築するにしても、仲間がいないとできません。
短期的な利益を考えるなら、LNGだけやっていた方がいいし、リスクも少ない。水素・アンモニアのバリューチェーン構築には多額の投資が必要で、リスクも大きい。洋上風力発電への投資にしても、キャッシュが入ってくるのは何年か先のことで、それまではキャッシュアウトです。
それでもなぜやるのかというと、それが私たちのミッションだからです。グローバルシチズン(世界市民)として事業を展開していく上で、我々の存在意義は何かを考え抜いて、ミッション(「世界のエネルギー問題に、最先端のソリューションを提供する」)を定義しました。
脱炭素への道は、真っ暗なジャングルの中に分け入っていくようなものです。どんな危険があるか分からない。でも、そこを抜ければ脱炭素社会という緑の草原が広がっていると信じているから一歩を踏み出せるし、仲間も一緒に歩んでくれる。未開のジャングルを踏破する最大の秘訣は、仲間とのコラボレーションです。チームを組んだ方が、冒険が成功する確率は格段に上がります。
可児:脱炭素への冒険を航海に例えてもいいのですが、これから長く厳しい航海に出る船に乗るとき、磯貝さんだったら何を確かめますか。
磯貝:まず目的地、企業で言えばミッションやパーパスでしょうか。
可児:そうですよね。もう1つ、決定的に大事なことがあります。それはカルチャーです。脱炭素の実現まで20年、30年の長旅を共にするわけですから、カルチャーが合わないと思ったら船に乗ってくれません。
当社では経営層と現場が近いフラットなカルチャー、多様性に富んだチームづくりに徹底してこだわっています。そういうカルチャーがあれば、皆でアイデアを出し合って、ビジネスをアジャイル(俊敏)に回せますし、働く場所、コラボレーションの相手として当社を選んでくれる仲間が増えます。当社のウェブサイトに載っているエグゼクティブチーム(経営執行陣)を見れば、多様なメンバーが集まっていることを分かってもらえると思います。私よりずっとプロフェッショナルで、面白いメンバーがたくさんいます。
JERAは新しくできた会社ですから、ミッションやカルチャーを自分たちで一からつくることができました。それは大きかったですね。裏を返せば、そのために新しく会社をつくったとも言えます。
可児:可児さんの大胆な発想力や粘り強い実行力は、個人的な原体験というか、何か深いところにモチベーションの源泉があるのではないですか。
サステナビリティやサーキュラーエコノミーは、企業にとって長期の取り組みであり、大きな変革ですから、リーダーに強いモチベーションがないと続かないと思っているので、あえて伺いました。
可児:私は幼い頃に英国の寄宿学校にいたことがあるのですが、今のご質問でその頃のことをふと思い出しました。学校のすぐ近くに森があって、私はそこに秘密基地をつくりたいと思いました。そこで、クラスメイトを集めて、基地をつくる目的や段取りを説明して、一緒にやろうと誘ったのです。
要するに、ワクワクすることがしたかったんですね。ワクワクしないことはサステナブルじゃないし、人が集まらない。今やっていることと同じかもしれません。
磯貝:おっしゃるとおり、眉間に皺(しわ)を寄せて取り組むような活動は長続きしません。ワクワクしながらサステナビリティに取り組む企業が増えるような活動を、私もしていきたいと思います。
これからの企業経営において、環境・社会と経済成長を両立させるには「サーキュラーエコノミー」が不可欠であることをシンプルなフレームワークで示し、環境問題とビジネスの本質的な関係を整理します。そしてビジネスチャンスの創出や競争優位性の確立という攻めの経営にも役立つ「サーキュラーエコノミー」の実現について、豊富な先進的企業の事例とともに論じます。