サーキュラービジネスシリーズ 1:サステナビリティ課題解決の鍵を握るサーキュラーエコノミー

  • 2024-12-02

昨今、世界的にサステナビリティ経営の機運の高まりを背景に、サーキュラーエコノミー/循環型経済という言葉が多く聞かれるようになりました。一方で、これまで日本が取り組んできた廃棄物リサイクルと何が違うのか、サーキュラーエコノミーがどのように自社のリスク・機会に繋がるのか、と疑問に思われている方も多いのではないでしょうか。

本コラムでは、サーキュラーエコノミーを再定義しながら、「なぜ今、サーキュラーエコノミーに取り組む必要があるのか」「サーキュラーエコノミーでどのように利益を生み出していけるのか」という疑問に対して、いくつかの観点からお答えします。

地球の限界の範囲内での、個のウェルビーイングの追求

サーキュラーエコノミーの大前提にあるのは、サステナビリティ経営の考え方です。しかし、サステナビリティと聞くと、「何かを我慢しなければならない」といった制限のイメージを抱く方が多いのではないでしょうか。しかし、そうではなく、サステナビリティを考えることが、企業の将来的な成長に結びつくという考え方に注目が集まってきています。

サステナビリティ経営の先進的な地域と言われる欧州に目を向けてみると、サステナビリティを積極的に進めている企業の幹部たちが共通して有しているのは、ウェルビーイングの視点です。すべての人が豊かに、幸せに、便利に暮らせるようにするという目的を、地球の限界の範囲内でどう実現できるか。それに対してビジネスが果たすことのできる役割を彼らは追い求めているのです。

人類の活動によって地球はすでに限界点を超えており、今までと同じやり方を続けていると取り返しのつかない事態を招くことは明白です。その事実を踏まえたうえで、「地球の限界の範囲内で、個のウェルビーイングを追求する」ことを新たな価値創出の方向性に据え、それを実現することこそビジネスの役割と捉えているのです。

複数の環境課題を解決する「広義のサーキュラー化」

そのためには、ビジネスのやり方を大きく変える必要があります。そこで、「サーキュラーエコノミー」はあらゆる環境課題の包括的な解決策となると考えられます。

サーキュラーエコノミーを狭義に捉え、廃棄物リサイクルのことだと考えている方が少なくありません。もちろんリサイクルは重要ですが、それはサーキュラーエコノミーのほんの一部分にすぎません。サーキュラー化というのは、バリューチェーンの上流から下流までその全体にわたって変革が求められる非常にスケールが大きい話です。サーキュラー化は、金属やプラスチックなどの素材の循環としてみなされがちですが、より広義に、炭素(C)や、自然(食糧)の循環も含む概念として捉えると、広く環境課題一般に適用できる解決策と考えることができます。

では、サーキュラーエコノミーはどのように環境・社会の課題解決につながるのでしょうか。PwCでは、サステナビリティの課題を「環境」と「社会」の二つに分けて整理しています。環境課題は「CO2・気候変動」「資源・廃棄物」「水」「生物多様性」の四つです。(図表①)

図表1 そもそもサスティナビリティ課題とは何か

これらの課題を踏まえた時、「CO2・気候変動」に対しては、「Ⅰ 脱炭素化(炭素のサーキュラー化)」が、「資源・廃棄物」に対しては「Ⅱ マテリアル(鉱物・プラなど)のサーキュラー化」が、そして「生物多様性」や「水」に対しては、「Ⅲ 自然資源のサーキュラー化」が解決策となります。また、「Ⅰ 脱炭素化」が気候変動による降水量の異常を緩和することで、渇水や洪水といった「水」の課題の解決にもつながるなど、それぞれの解決策は他の環境課題の解決にも間接的に寄与します。私たちは、この三つを合わせて「広義のサーキュラー化」と定義します。

一方、社会課題は、「身体的人権」「精神的人権」「社会的人権」の三つで、解決の方向性は「Ⅳウェルビーイングの追求」です。しかし、「人間中心主義なビジネスの観点から考えると、環境課題と社会課題は並列ではなく、ウェルビーイングを実現していくことが究極の目的になります。そして、その基盤にある環境課題の解決のために「広義のサーキュラー化」を進めていく、ということになります。

規制対応の要請の高まり

サーキュラーエコノミーに関して生まれている様々な法令や規制が、企業にとってのリスクとなり、多くの企業が対応を迫られています。特に注視が必要なのはEUの「持続可能な製品のためのエコデザイン規則」です。本規則では、エコデザイン要件として、耐久性・信頼性、修理可能性、リサイクル素材の使用率などを規定し、これらの要件に関する情報を、デジタル製品パスポートを通じて消費者に提供することを求めています。これにより、自動車、電気・電子機器、容器・包装、化学、医療機器・医療用品、日用品など様々な業界への影響が想定されます。

また、個別の業界に特化した規制としては、自動車・自動車部品業界を対象にした「使用済み自動車規則案」や「バッテリー規則」があげられます。自動車が廃車された際に生じる廃棄物の抑制やバッテリーの設計、生産、廃棄に関する新しい基準の設定など、いずれもサプライチェーン横断での改革が求められます。これらはEUが定めた法令ですが、欧州で製品を上市する日本企業は対応が必要な場合があります。さらに今後日本でもサーキュラーエコノミーに関する規制整備が進展することも想定され、規制強化の動向への注視が必要です。

拡大するビジネス機会

一方で、サーキュラーエコノミーの推進によって様々な分野で大きなビジネスチャンスが生まれることも分かっています。WEF(世界経済フォーラム)によれば、サーキュラーエコノミー化によってアクセスし得るネイチャーポジティブ関連のビジネス機会は、2030年に世界全体で年間約10兆米ドルの規模になると推計されています。その内訳は、食料・土地・海洋の利用が3兆5,650億米ドル、エネルギー・採取活動で3兆5,300億米ドル、インフラ・建築環境で3兆150億米ドルとなっています。(図表②)

図表 2

このように拡大が見込まれるビジネスチャンスをつかむためにも、サーキュラーエコノミー化に向けた事業変革が必要です。

以上のように、サーキュラーエコノミーはあらゆるサステナビリティ課題の包括的な解決策となる取組みとなるだけでなく、幅広い分野の企業にとってのリスクと機会の双方を生み出しています。だからこそ、自社の事業においてサーキュラーエコノミーに取り組むことが、いま強く求められているのです。

次に、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、企業は具体的に何をすべきなのでしょうか。本質的な課題解決を考える際に参考にしていただきたいのが、「採取」と「拡散」の観点から、自社の事業を捉え直すことです。次回のコラム「「採取」と「拡散」の極小化と、サーキュラー化の核となる四つの物質」ではこのフレームワークの考え方や、自社が考慮すべき対象となり得る物質ごとの具体的なサーキュラー化の進め方について、ご説明します。

なお、本コラムの内容の詳細については、2024年7月に発売の書籍『必然としてのサーキュラービジネス「利益」と「環境」を両立させる究極のSX』をご参照ください。

主要メンバー

中島 崇文

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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齋藤 隆弘

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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屋敷 信彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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木下 尚悟

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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甲賀 大吾

ディレクター, PwCサステナビリティ合同会社

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細井 裕介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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