サーキュラービジネス成功のための未来トレンド

サーキュラービジネスシリーズ 4:①スケールの壁を乗り越える ②窒素循環を取り戻す

  • 2024-12-02

PwCが定義する「広義のサーキュラー化」すなわち「採取と拡散の極小化」をビジネスにおいて実践するために押さえておくべき未来トレンド6つのうち、本コラムでは「スケールの壁を乗り越える」「窒素循環を取り戻す」の二つを紹介します。

未来トレンド①スケールの壁を乗り越える

ビジネスを拡大する際に、必ず突き当たるのが「スケールの壁」です。欧州においては、サステナビリティを本業の中に位置付けたうえでスケールの壁を乗り越え、投資回収の段階に至っている企業も少なくない一方、日本のサステナビリティビジネスは社会貢献事業的な位置づけで規模の小さなものが多く、そもそも拡大を目指していない企業も多いという現状があります。では「スケールの壁」を乗り越え、サーキュラービジネスを軌道に乗せるためには、どうすればよいのでしょうか。ここでは三つのポイントを見ていきます。

先発者(ファーストムーバー)として動く

新製品をスケールさせるには、メーカー側がマーケティングによって徐々に市場を掘り起こしていく「サプライヤードリブン」な方法が一般的です。しかし、サステナビリティ関連のビジネスでは、製品のユーザーが先発者(ファーストムーバー)として長期購買にコミットすることで需要を牽引し、メーカー側の低価格化を実現するといった「市場ドリブン」の動きが見られます。ファーストムーバーとして大胆に行動することで、素材・製品・技術のスケールを牽引するだけでなく、拡大後の市場や調達を先回りして押さえることができる場合もあります。

スケールの出やすいものと出にくいものを区別する

SX先進企業は、SXに有効な素材や原料に関して、市場における価格とスケールに対して、自社が主導して影響を及ぼすこと、すなわちスケールをもって価格をどのように低下させるかを考えています(図表①)。

図表1 リサイクル素材、サステナブル商品のスケールと価格

サーキュラービジネスの例としてよく挙げられるような細かい製品や素材のリサイクルは、再利用にも莫大なコストと手間がかかり、事業化は簡単ではありません。しかし、それらの製品や素材においても、「高価格・高付加価値」「回収先が少数かつ明確」な商材であれば、採算を合わせることは可能です。

前述したファーストムーバーとなれば、環境・社会によい製品を必要とする新しい市場を先駆けて獲得できるほか、SXの鍵となる素材や原料をいち早く囲い込むことも可能です。環境・社会によい商材は、今後ニーズが急拡大して調達が困難になることが予想されるため、企業として先手を打っておくことが重要になります。

小さいものを組み合わせ事業全体でスケールを出す

「高価格・高付加価値」「回収先が少数かつ明確」という条件を満たせれば、自社単独で比較的シンプルなサーキュラーのビジネスモデルを構築することができますが、それに当てはまらない場合、「スケールが足りないものをいくつか組み合わせてスケールを出す」「個別の活動を組み合わせ、事業全体へのインパクトで投資効果を計り回収を考える」のいずれかの方法を検討する必要があります。サステナビリティへの投資は、一部分だけを見ると投資回収できないと思えることが少なくありません。しかし、その投資が本業に及ぼすインパクトを精査し、財務的な数字に落とし込み、それを考慮したうえで投資回収を評価することで、会社全体に及ぼす財務メリットが見えてくるようになるでしょう。

未来トレンド②窒素循環を取り戻す

気候変動やCO2削減に続く焦点として、生物多様性は深刻で重要な課題となっています。ここでは、特にビジネスセクターとの関係性が強いトピックとして、窒素循環の問題を取り上げます。窒素は、たんぱく質やDNAの構成要素として重要な物質ですが、そのままでは動植物の身体の中に取り込むことはできません。生物が取り込めるのは、反応性窒素(窒素化合物)と呼ばれる状態になったものです。かつて自然界では、反応性窒素の総量は限られていました。土壌中の微生物が生物を分解して窒素化合物(アンモニア態窒素)を生み出し、それを栄養源として植物は育ちます。その植物を草食動物が、またその草食動物を人間が食べ、人糞は肥料として土に還っていきます。このように、人間にとって、微生物の力によって生まれた窒素化合物しか利用できない時期が長く続いていました。

その状況を一気に変えたのが、1906年のハーバー・ボッシュ法の発明でした。空気中の窒素から反応性窒素(アンモニア)をつくり出す方法が発明され、人類はアンモニアを原料とする窒素化合物の化学肥料を製造できるようになりました。この結果、農作物の生産量は飛躍的に増加しました。しかし、ハーバー・ボッシュ法が自然界や生態系に及ぼす「副作用」もまた甚大でした。莫大な量の反応性窒素が生み出され、地球の生態系が反応性窒素であふれ返ることになった結果、水質悪化、生態系や生物多様性の破壊、大気汚染などの諸問題が加速しました。この窒素(反応性窒素)の採取と拡散を最小化するためには、化学的に合成した窒素肥料に頼ってきた農業を変えていく必要があります。リジェネラティブ(環境再生型)農業や、植物による窒素吸収をより効率的にする技術など、窒素肥料の使用削減に役立つ手法・技術の開発が期待されています。

世界の人口は今後も増え続け、2058年には100億人を突破すると推計されています*1。食料確保は不可欠であり、現実的には、化学的に合成した窒素肥料を使わないわけにはいきません。だからこそ、「いかに合成窒素肥料の使用量を減らし効率的に使うか」を考える必要があるのです。

次のコラムでもサーキュラービジネスを考える要素になるトレンドを引き続きご紹介していきます。

なお、本コラムの内容の詳細については、2024年7月に発売の書籍『必然としてのサーキュラービジネス「利益」と「環境」を両立させる究極のSX』をご参照ください。

*1 United Nations Department of Economic and Social Affairs, 2022. "A World of 8 Billion";
https://www.un.org/development/desa/pd/sites/www.un.org.development.desa.pd/files/undesa_pd_2022_pb_140.pdf

主要メンバー

中島 崇文

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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齋藤 隆弘

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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屋敷 信彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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木下 尚悟

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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甲賀 大吾

ディレクター, PwCサステナビリティ合同会社

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細井 裕介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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