サーキュラービジネス成功のための未来トレンド

サーキュラービジネスシリーズ 6:⑤バリューチェーンの改革者になる ⑥システミックチェンジを起こす

  • 2024-12-02

PwCが定義する「広義のサーキュラー化」すなわち「採取と拡散の極小化」をビジネスにおいて実践するために押さえておくべき未来トレンド6つのうち、本コラムでは末来のビジネスを考えるうえで重要となる「バリューチェーンの改革者になる」「システミックチェンジを起こす」の二つを紹介します。

未来トレンド⑤バリューチェーンの改革者になる

スケールをもってサーキュラー化を実現するためには、バリューチェーン全体の改革が必須です。まずは、自社内でできることから始めて、その後、徐々に外へ広げていくことが考えられます。ここでは、バリューチェーンを改革するための四つの段階をご説明します。(図表①)

図表1 サーキュラービジネスの進化の4段階(製造業の場合)

第1段階は、自社内の取り組みです。まずは製品の設備・設計の変更、環境に配慮した素材の新規開発など、自社内で完結できる取り組みを検討することからはじめます。

第2段階では、顧客に目を向けます。部品の修理・交換、ソフトウエアのアップデートなど、アフターサービスやメンテナンスを強化することで顧客の製品利用の最適化を図ります。所有権を保持したまま顧客に製品を提供し、使用料を取る代わりに製品を定期的にメンテナンスし、利用が終わったら回収する「アズ・ア・サービス(製品機能のサービス化)型」のビジネスモデルにより、単発での売り上げではなく、長期にわたる売り上げを見込むことも可能です。

第3段階では、改革の対象を「生産者・サプライヤー」などの上流部分や「静脈産業」などの下流にまで広げます。持続可能な原材料の生産・調達、使用済みの製品を回収し、修理やリサイクルをして再利用する仕組みを整えるなど、循環型バリューチェーンの構築を目指します。このような難易度の高い変革においては、いずれも中長期的な視点と、部門単体ではなく事業全体での収支や付加価値を評価して取り組む姿勢が欠かせません。

最後の第4段階では、本格的に循環型バリューチェーンを構築するために、ビジネスモデル全体の刷新が必要になります。製品の企画・開発段階で、持続可能性のある原材料や素材を選び、モジュール単位での部品交換など修理やリサイクルなどをあらかじめ考慮した循環型設計を取り入れる必要があります。そのうえで、第2段階で述べた「アズ・ア・サービス型」に切り替えれば、より効果が大きくなるでしょう。この段階では、自社の事業構造を根本的に変え、バリューチェーンもつくり変える必要があるため、現在のところ大規模な成功例は多くありませんが、一部の先進的な企業ではすでに取り組みが進められています。

このように、採取と拡散を最小化し、地球環境の限界の中で企業が活動を継続していくには、バリューチェーンを変革し、サーキュラー化を実現していくほかありません。原材料の確保や地政学的なリスクが高まる中、この第4段階を目指して、ビジネスモデルを変革していくことが将来の競争力の強化につながります。

トレンド⑥システミックチェンジを起こす

複雑化するサステナビリティ課題への対応策として「システミック投資」というコンセプトが新たに注目されています。従来の投資は、リスクを最小化するために分散投資を行ってきました。既存のシステムの中に存在する投資対象であれば合理的な手法ですが、SXのように全く新しいシステムを構築する必要がある領域においては、従来型の投資は逆に不利になります。なぜなら、従来型の投資は、投資先を分散してリスクを下げることが主目的であり、新しいシステムが無事に立ち上がり機能するかどうかという俯瞰的な視点は持ち合わせていないからです。

こうした従来型投資に対し、システミック投資では、点ではなくシステム全体、あるいは影響を及ぼし合う複数のシステム全体を把握し、システムに影響を与える複数のポイントを押さえたうえで、それらのポイントに同時に投資します。個別のプロジェクトを通じて社会への影響をもたらそうとするインパクト投資とも、リスクを分散し、個別の投資機会を追求する従来型の利益追求投資とも大きく異なる考え方です。(図表②)

図表2 システミック投資と他の投資との違い

SXにおいては、システムそのものの再構築が求められます。SXやサーキュラー化に取り組む場合、ある特定の部分を対症療法的に変えていくのではなく、システムを根本から変えないと効果が現れないことも少なくありません。そのため、投資を考える際には、システミック投資の考え方が参考になるはずです。

システミック投資の概念を応用した「システミックトランスフォーメーション」によるサーキュラーエコノミーの実現については、「深化するSX」コラムを参照ください。

なお、本コラムの内容の詳細については、2024年7月に発売の書籍『必然としてのサーキュラービジネス「利益」と「環境」を両立させる究極のSX』をご参照ください。

主要メンバー

中島 崇文

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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齋藤 隆弘

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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屋敷 信彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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木下 尚悟

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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甲賀 大吾

ディレクター, PwCサステナビリティ合同会社

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細井 裕介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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