深化するSX 第1回:Scope3およびサーキュラーエコノミーへの挑戦

  • 2024-09-17

2024年1月に開催された世界経済フォーラム(通称、ダボス会議)では「気候、自然、エネルギーの長期戦略」についてのパネルディスカッションが行われ、複雑化するサステナビリティ課題への対応策として、「システミック投資」が注目されました。

「システミック投資」とは、バリューチェーンの構造と変革メカニズムを「システム」として解明し、変革の要所に対して投資・開発活動を行うことで、単一で行う投資より遥かに大きな変化を生み出す手法です。

連載コラム「深化するSX」の第1回「Scope3およびサーキュラーエコノミーへの挑戦」では、「システミック投資」の概念を応用した「システミックトランスフォーメーション」という視点で、Scope3およびサーキュラーエコノミーの実現に向けた挑戦について解説します。

Scope3およびサーキュラーエコノミーの動向と課題

サステナブルな環境、社会、経済の構築に向けて、「ネットゼロ(脱炭素)」「ネイチャーポジティブ」「人権」が主な課題となっています。これら3つの課題解決に向けては、そのポジティブ、またはネガティブな相関関係を考慮しつつ対応することが求められます。とりわけ、現時点では、制度整備で先行する「ネットゼロへ」の対応が急がれます。

SBTi(Science Based Targets initiative)のフレームワークに則ると、自社工場やオフィスが排出するCO2のみならず、原料調達から物流、販売、消費、廃棄までのサプライチェーン全体におけるCO2の排出量削減、すなわちScope3の削減が求められます。Scope1、2への対応が一巡した昨今、Scope3への取り組みを強化する企業が増加しているものの、自社の努力だけでなく、サプライヤーなど他のステークホルダーを巻き込み、削減努力を実らせた結果として削減しなければいけないところに難しさがあります。

Scope3の中でも、特に構成比が大きいのがカテゴリー1の「原材料調達の炭素排出」、すなわちサプライヤーが材料や部品を製造する際に発生するCO2です。その削減に向けては、石油や石炭などの原料燃料に依存しないモノづくりの推進や、製品使用における寿命延長、廃棄物のリサイクルなどが必要になります。そしてその実行策として、「サーキュラーエコノミー」を位置付けることができます。

PwCでは、サーキュラーエコノミーを「自然界からの採取と拡散を最小化し、物質を循環させることで、サステナビリティ課題の解決と経済の両立をはかるもの」と定義しています。人間の経済活動は、自然の均衡を壊す形で大量の資源採取や大量廃棄、CO2の拡散をもたらしています。これにより、資源の枯渇や、生態系の破壊、気候変動、環境汚染が引き起こされます。このような問題の根源となる採取と拡散を極小化するため、経済活動を循環構造に変えていく。それがサーキュラーエコノミーです。

具体的には、再生可能原材料の優先的使用、製品使用の最大化、残渣物・廃棄物の回収を原則とし、リサイクルのみならず、シェアリングや製品のサービス化など、多様なビジネスモデルに適用することができます。

課題解決と経済の両立に向けてさまざまな挑戦が行われている中、既に成立している、経済合理性の伴ったビジネスを3つご紹介します。

【事例1】1つ目は、故障したモバイルデバイスなどから回収した半導体や部品を回収し、再販売するビジネスです。単価が高い製品でれば、再処理や物流に要すコストを売価に対して低く抑えることができるため、利益を確保することができます。代表例として、半導体や医療機器が挙げられます。

【事例2】2つ目は、コーヒーマシンに付随するプラスチックカプセルのカスケードリサイクルです。高収益製品であれば、マージンから追加コストのねん出が可能であり、リサイクルによる環境貢献をブランドとすることで、顧客である高所得者層に訴求できます。結果、コスト増分を販売数量増でカバーすることで、利益を増加させることが可能です。

【事例3】3つ目はプラスチック食品トレーの水平リサイクルです。大量の物量を、絞られた物流経路や顧客で動かすことができるビジネスであれば、動脈と静脈の物流を共通化したり、自主回収による分別を簡素化したりすることが可能となり、静脈側のコストを極小化できます。売価アップが認められにくい中でも、設備の減価償却が進むことで利益確保が可能となります。

このように、ある条件に当てはまる、いわば局所的なサーキュラーエコノミーは既に普及段階に入っており、カスケードリサイクル、水平リサイクル、リファービッシュ(何らかの不具合が見つかって、回収された製品を整備して再販売すること)など、各社が新規事業として取り組んでいます。

一方で、環境社会課題の抜本的解決に向けては、循環対象をQCDが未確立の領域まで技術的に広げていく必要があり、個社のみならず、あらゆるステークホルダーを含めたサプライチェーン全体が関与し、多様で広域的なサーキュラーエコノミーの構築が求められます。PwCではサーキュラーエコノミーとしてマテリアル、カーボン、バイオの3つのサーキュラーがあり得ると考えており、その代表例を記載しています。

このような、局所から広域へとサーキュラーエコノミーを拡大させるためには、以下の4つの要諦を押さえる必要があります。

1つ目はイノベーション。マテリアル、バイオサイエンスやエンジニアリング技術の革新により、根本的な課題解決とコスト低減に向けた、具体的な打ち手を用意します。2つ目はサプライチェーンの組み直し。循環化に伴う新たな多様なステークホルダーを巻き込み、各々の役割と目的をデザインする必要があります。3つ目はビジネスモデル。先に述べたようにマネタイズに向けた多様な工夫が必要です。4つ目はスケール化。法制度や消費者意識に目が行きがちですが、どちらも欧米に遅れている現状を踏まえると、それらへの過度な依存は避けるべきです。むしろ、自ら成功例を作り、業界を動かすフロンティアランナーとしての動きが望まれます。

これら4つを揃え、かつ、複数の企業・機関が同時に、協調的に動く必要があります。日本では国費によるイノベーション促進や、コンソーシアムによるサプライチェーン構築が進む一方、ビジネスモデルやスケール化の仕掛けは遅れる傾向にあります。日本のサーキュラーエコノミーが直面している最大の課題がここにあります。複雑で大きな課題を解くために、「システミックトランスフォーメーション」という考え方が必要になってくるのです(次回コラムに続く)。

執筆者

中島 崇文

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

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上田 航大

シニアマネージャー, PwCサステナビリティ合同会社

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井上 マリア

シニアアソシエイト, PwCサステナビリティ合同会社

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篠塚 嶺

シニアアソシエイト, PwCサステナビリティ合同会社

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