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2021-09-02
鼎談者
三治 信一朗(写真右)
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング パートナー
中川 理紗子(写真左)
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング マネージャー
橋田 貴子(写真中央)
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング マネージャー
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(左から)中川 理紗子、橋田 貴子、三治 信一朗
三治:
内閣府はSociety 5.0を「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会の実現」と定義しています。ただし、Society 5.0を支えるデータ基盤は、抽象的なアーキテクチャが検討されています。そのため、「具体的に何を実現するのか」が明確になっていない印象を受けます。現在、橋田さんはSociety 5.0のデータ基盤構築のリファレンスモデルに取り組んでいますよね。取り組みを通じて感じる課題や、成功への布石があれば教えてください。
橋田:
中編で取り上げたHealth Smart District規模の議論と同様に、Society 5.0も取り組む規模や単位、スコープが重要になると思います。三治さんや中川さんが指摘されたとおり、取り組む規模が大きすぎると、多くの人は「自分事」として捉えられなくなります。
Society 5.0そのものに関して言えば、定義やコンセプトに関し、一定の標準化がなされようとしています。しかし、そのような基準・コンセプトをどのようにして個別領域・分野に応用していくかの基準は、これから決めていくことになるでしょう。スーパーシティやMaaS(Mobility as a Service)のような大規模構想と同様あるいはそれ以上のスケールとなることも想定されますが、最初からすべて取り組もうとすると、さまざまなステークホルダーの思惑が絡んで前に進めなくなります。「何を/どこから/どのように実装するか」を決めていくのはかなり大変です。
中川:
多くの人はSociety 5.0に対して漠然としたイメージしか持っていないのではないでしょうか。ですから、皆さんが「Society 5.0ってこういうことなのか。自分たちの暮らしがこう変わるのか」とイメージできるようにするには、「Society 5.0ではどのようなことに取り組むのか」を明確にしなければなりません。
たとえば介護分野を考えてみてください。日本はものすごい勢いで高齢化が進んでいます。内閣府が公開した「令和2年版高齢社会白書」によると、2036年には人口の33.3%が65歳以上の高齢者になります。Society 5.0をデザインする際には、「高齢者中心の社会には何が必要なのか」を考えなくてはなりません。橋田さんがおっしゃったように「どこにスコープを合わせるか」が問われますし、「どこに視点を定めるか」によって、将来の見通しも変わってきます。
三治:
そういった意味では厚生労働省が取り組んでいる「地域包括ケアシステム」は素晴らしい制度だと考えます。同システムは重度の要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしをまっとうできるように、住環境や医療、介護、予防、生活支援が一体的に提供される仕組みです。住民の顔が見える生活圏内で必要なものを提供していく。この取り組みはSmart Districtでも大いに参考になりますし、Society 5.0もこの位の規模感で取り組むことがよいのではないでしょうか。
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング パートナー 三治 信一朗
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング マネージャー 中川 理紗子
三治:
最後に、二人がこれから注力していきたい取り組みと、それに対する意気込みを聞かせてください。ヘルスケアデータを活用して実現したいことは何でしょうか。
中川:
先に例でも挙げましたが、興味があるのは介護の領域です。日本は世界に先駆けて超高齢化社会を迎えるわけですから、高齢化社会の課題解決も日本が率先して取り組むことで、最新モデルを世界に示すことができると思います。
ヘルスケアデータ利活用に向けては、政府・自治体などが旗振り役になり、進められてきている部分もあります。介護に関するデータの収集にも努めていますし、介護データベースも保有しています。
ただし、その内容は介護記録にとどまっているのが現状です。自立支援を進めるうえでは、身体特徴だけでなく、身体機能がどのくらいの割合で低下しているのかといったヘルスケアデータは重要になります。介護はある程度パターン化できますが、個別介護にはこうしたヘルスケアデータが不可欠です。
ですから、自立支援のために必要な介護機器の開発などに、さまざまな介護データを活用できれば、これまでにない新機器やサービスが誕生するでしょう。そうなれば、介護に携わる方や介護される方もヘルスケアデータ/介護データを活用するメリットが実感できると考えています。
三治:
介護に関するデータ収集は、あらゆる部分が未熟だと指摘されていますね。行政も介護機器を扱うベンダーもさまざまなデータを収集しているものの、具体的な活用のアイデアもノウハウも開発途上の段階で、現在はその使い方を検証しているフェーズだと聞いています。
中川:
おっしゃるとおりです。
三治:
介護機器を開発するベンダーの課題としては、「どのヘルスケアデータが/何に役立つか」をきちんと把握していないことが挙げられます。もちろん、介護に携わる方々のニーズを確認しながら機器の開発を進めていますが、現場のニーズを汲み取ったからといって、すぐにそのニーズを満たすような機器が開発できるわけではありません。一般的にニーズとシーズにはミスマッチがあります。ですから、両者をマッチングするためにも、ビジネスとして成立する仕組み作りを支援することが重要です。
中川:
介護現場はテクノロジーの導入が遅れている産業の一つです。実際に現場での記録も圧倒的に紙ベースが多く、データの集計も手作業です。ただでさえ人手が足りない現場で「記録したデータを(国が管理する)システムに入力してください」とお願いしても、現場を疲弊させてしまうだけです。よりよい介護を実現するための技術が、現場の負担になってしまっては意味がありません。
ですから、現場の負担にならないようなデータの取り方を、われわれが考えて支援していく必要があります。世の中に新しいテクノロジーを普及させるには、こうした地道な作業を行いつつ環境を整備することが大切です。
三治:
非常に重要なポイントです。介護は長期スパンで改善を続けていかなければならない領域です。橋田さんは今後、どのような課題解決に取り組みたいですか。
橋田:
日本独自の「Health Smart District」コンセプトを打ち出し、それを一つのスタンダードとしてパッケージ化、海外に展開する「Health Smart Districtのノウハウ輸出」などは面白いのではと思います。
たとえば、スマートシティをめぐる国際標準化では、フランスが持続可能な都市とコミュニティを主題とし、技術専門委員会(Technical Committee)を設置、スマートシティの国際標準を主導しています。そして、策定した国際規格を、アフリカ等の新興国でも実装していけるよう、展開・普及に向けた活動も行っています。また、中国もスマートシティに注力しており、ASEAN(東南アジア諸国連合)の国々に自国で実践したノウハウを輸出すべく活動を活発化しています。
三治:
そうした国々は自分たちがイニシアチブを握れるように、着々と準備をしているのですね。
橋田:
はい。Society 5.0に資する「人間中心」のHealth Smart Districtは、同分野で日本が独自性を発揮できる1つのコンセプトになりうるのではと考えています。ヘルスケアデータを活用し、生活習慣の改善や健康教育等、健康な状態を維持する仕組みが考えられます。
テクノロジーも「すべての人を監視して行動を把握する」という、ともすれば人権的な部分が問われるような方向に活用するのではなく、人間が自立して生活をする中で、利便性を向上させ、ウェルビーイングを実感できるような「人間中心」の社会を目指すのです。そうした価値観を日本のHealth Smart Districtとして海外にも展開できるよう仕組みを検討していくことも、日本の強みをより活かす一手段になるのではと思います。
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング マネージャー 橋田 貴子
三治:
二人に共通しているのは、「プロデューサー型」の人材を目指していることだと感じました。一つのコンセプトを定めて自分の中で課題を咀嚼し、課題解決を達成するために価値交換の仕組み自体を通じて自己実現をしていく。中川さんと橋田さんがTechnology Laboratoryのメンバーであることは、所長としても非常に頼もしいです。
今回取り上げた「データ利活用とWell-beingの促進」というテーマは、さまざまな課題が複雑に絡み合い、課題解決も一筋縄ではいかないでしょう。それでもチャレンジする価値はおおいにありますし、Technology Laboratoryにはそのためのツールや知見があります。また、PwC としても、二人が取り組みたい課題解決を全面的に支援するバックグラウンドがあると自負しています。今後の活躍に期待しています。3回にわたり、ありがとうございました。