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2020-12-18
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、社会や人々の生活は大きく変化しました。物理的に「場所を共有する」ことが激減した一方、バーチャル空間を使って「時間を共有する」ことが当たり前になりました。その結果、東京を生活拠点とする意味や、中央集権的な都市化を進める意味があらためて問い直されています。
本稿では、森ビル株式会社で都市のデザイン・開発を手掛ける杉山央氏を迎え、PwCコンサルティング合同会社の三治信一朗と馬渕邦美が人々のライフスタイルの変容に伴う都市モデルの在るべき姿についてお話を伺いました。前編では、これからの都市開発におけるデベロッバーの役割に焦点を当て、個性的で魅力的な街づくりについて意見を交わしました。
(左から)三治 信一朗、杉山 央氏、馬渕 邦美
鼎談者
杉山 央氏(写真中央)
森ビル株式会社 タウンマネジメント事業部 新領域企画部 課長
三治 信一朗(写真左)
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング パートナー
馬渕 邦美(写真右)
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング マネージングディレクター
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
馬渕:
COVID-19の拡大防止の観点から、リモートワークを導入する企業が増加しました。そのような状況で、「都心のオフィスに人が集まる」というこれまでのスタイルも変わりつつあります。デベロッパーの立場からCOVID-19への対応が求められる中、今後、街はどのように変化していくと考えますか。
杉山氏:
私は、中央集権型の都市モデルは今後も続くと考えています。これまで人間はお互いを思いやりながら共同生活を送ってきました。他者と共生する中で幸せを見出し、創造的な活動を脈々と続けてきたのです。これは人工知能(AI)では実現できない人間らしい豊かな生活です。集団生活は、人間の幸せを加速させる「装置」としての役割を果たしていると思います。
馬渕:
COVID-19への対応で他者とリアルに協働するライフスタイルが一時的に遮断されました。しかし、これは未来永劫に続くライフスタイルではないと思います。やはり人間は、他者と共生する中でこそ幸せを見出すことができるのですね。
三治:
私もそう思います。外出自粛期間中、人々は娯楽に飢えました。私自身、娯楽から得られる非日常の世界や、他者と同じ場所で体験を共有するといったことは、生活に欠かせないと実感しました。
杉山氏:
これからはコンパクトシティが注目されると考えています。コンパクトシティは都市の理想形です。徒歩圏に社会の基礎となる「職(職場)」「住(住居)」「学(学校)」「楽(娯楽)」などさまざまな都市機能が揃っており、日常と非日常(娯楽)が混在しています。その場所でしか得られない、さまざまな刺激や出会いが生まれる要素がコンパクトシティの中には揃っているのです。
三治:
日本の都市は、どこでも同じような大手チェーンが店を構えており、個性がないと言われます。街の個性を創造するためには、どのような取り組みが必要でしょう。
杉山氏:
街の個性とは歴史や地形、その場所が持つ「記憶」の積み重ねであり、それを探求することが個性の発見につながると考えます。歴史がないところに街をつくるのは難しいですし、後付けのコンセプトでは、どの街も似通ってしまいます。
街の個性を出すには、「その街に来ないと得られない価値」を提供する必要があります。では、どのように街の価値を創造するのか。私はテナントに場所を提供しているデベロッパーがリスクを取ってその役目を果たすべきだと考えています。
例えば、六本木ヒルズの最上階には美術館があります。商業的な視点で考えれば、最も高い賃料が見込める場所に美術館を置くと採算が取れません。もし、美術館がテナントとして入居していたら、採算が取れずにすぐに撤退してしまうでしょう。これはデベロッパーである森ビルが六本木ヒルズの所有者だからこそ実現できたのです。そして、結果として美術館は、街を象徴する個性になりました。
馬渕:
リスクを取れるデベロッパーが自ら開発した街のサービスを作り上げることで、街に個性が生まれたのですね。
杉山氏:
はい、そう自負しています。今後、建物の所有者は不動産業だけにとらわれず、変わる必要があると考えています。個性的なエンターテインメントを創造したり、その場に行かなければ享受できないサービスを提供したりすることで、お客様から対価をいただく。そうしたビジネスモデルを確立させ、継続的に価値を提供していくことで、街の個性が作れると思います。
森ビル株式会社 タウンマネジメント事業部 新領域企画部 課長 杉山 央氏
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング マネージングディレクター 馬渕 邦美
三治:
次に地方の街づくりについて教えてください。これからの都市を考える上では、都会のみならず地方都市の在り方についても議論する必要があります。杉山さんは、「地方の個性を活かした街づくり」には、どのように取り組めばよいとお考えですか。
杉山氏:
地方には人口流出や少子高齢化など、喫緊に解決すべき課題が山積しています。あくまで個人の仮説ですが、最新技術やサービスを駆使し、課題解決を試みる「実験の場」として価値を創出することが、地方の個性になるのではないでしょうか。
例えば、自律走行型ロボットやドローンを使った生活圏での実証実験は、都会よりも地方のほうが実施しやすいと思います。都会では既存ビジネスや既得権があり、新たなことにチャレンジする参入障壁が高いですが、地方ではそれほどでもありません。都会に限らず、他のどの街にもない最新技術を駆使した固有のサービスが提供できるようになれば、街の価値は上がり、個性が確立できると考えています。
三治:
「社会課題の解決に取り組む地方の街」ですか。面白い発想ですね。
杉山氏:
もう1つは、個人が都市と地方の両方に拠点を持ちやすくする取り組みが考えられます。
人々の価値観は多様化しており、自然の中で暮らしたいと考える人も増えています。COVID-19の影響で自分のライフスタイルを見直した人も多いでしょう。リモートワークが普及している状況下では、週の半分を田舎で過ごすというライフスタイルに価値を見出す人も一定数いると考えます。
「都市と田舎を住み分ける」ことは、一人の人間が都市のよさと地方のよさを享受できるということです。そうした新たなライフスタイルが広がることによって、地方にも個性が生まれるのではないでしょうか。もちろん、そうした仕掛けはデベロッパー1社だけではできません。本格的に取り組むのであれば、行政も巻き込む必要があります。
馬渕:
完全な2拠点生活をするなら、住民税を分割納税したり2拠点で住民票を登録したりする仕組みなども考えなければいけませんね。同時に納税の仕組みが変われば、地方に対する新たな投資も期待できます。
杉山氏:
例えば、地方に保養所を有している企業が、保養所をサテライトオフィスにして「(都心とサテライトの)どちらのオフィスに出社してもよい」とすれば、生活拠点を地方に移す人も増えるでしょう。また、デベロッバーが「都心のオフィス+地方のオフィス」といった「セット物件」を提供すれば、地方活性化のきっかけになるかもしれません。
三治:
次に海外の街づくりと日本の街づくりの相違点について教えてください。両者には明確な違いがあるのでしょうか。
杉山氏:
森記念財団が運営している都市戦略研究所では、毎年「世界の都市総合力ランキング(Global Power City Index, GPCI)」を発表しています。これは、世界の主要48都市の総合力を、「経済」「研究・開発」「文化・交流」「居住」「環境」「交通・アクセス」の6分野で複眼的に評価し、順位付けしたものなのですが、2019年版では東京は第3位なんですね。その指標の内訳を見ると、注目すべき点として、東京は「文化・交流」が世界4位と高評価であることが挙げられます。
日本にはアニメなどの独自文化のほか歌舞伎をはじめとする伝統芸能があり、海外から人を呼び寄せる役割の一端を担っていると思われます。1位のロンドンや2位のニューヨークにあるような、海外に誇れる歴史のある美術館はないかもしれませんが、2018年に東京都内にオープンしたデジタルアートミュージアムには、開設から1年間で230万人を超える来場者が訪れました。このミュージアムは海外でも評判が高く、多くの国・エリアから来館者があり、来館した訪日外国人のうち半数が同館を目的に東京を訪れたとの調査結果もあります。
このミュージアムの主な展示はテクノロジーを駆使した作品ですが、その場に行かなければ鑑賞したり体験したりできないものばかりです。都市の個性を生かすには、そこに行かなければ出会えない「本物」をたくさん作ることです。
音楽業界を考えてみてください。デジタル配信やストリーミング配信が普及したことで、CDを1枚買うことに比べればコンテンツの価格は低くなりました。今、音楽業界が利益を得ているのは、コンサートです。つまり、コンサートは本物に会える唯一無二の場所であり、時間であり、その価値を高めることで大きな利益を得ているのです。
同じようにデジタルアートミュージアムも「本物に出会う場所」としての価値があると思います。そして、デジタル化が進めば進むほど、本物としての価値は高くなるでしょう。特に現代アートのミュージアムは「他人の考え方を理解する場所」でもあります。こうした場所や機会は、社会の中でなくてはならない存在です。
三治:
空間と時間を共有し、相手の思考を理解することは、感受性を育むためにも大切です。それができる街は、明確な個性があると言えるのですね。
杉山氏:
私たちは、都市には人や物を引きつける磁力が必要だと考えています。その磁力を高めるためには、都市の創造力を高める必要があります。文化の発信拠点として美術館やホールなどを作っているのも磁力を高める活動の一環であり、それが都市の創造力を高め、ひいては都市生活が豊かになっていくものだと確信しています。
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング パートナー 三治 信一朗
PwCコンサルティングのTechnology Laboratoryは、世界各国におけるPwCのさまざまなラボと緊密に連携しながら、先端技術に関する幅広い情報を集積しています。製造、通信、インフラストラクチャー、ヘルスケアなどの各産業・ビジネスに関する豊富なインサイトを有しており、これらの知見と未来予測・アジェンダ設定を組み合わせ、企業の事業変革、大学・研究機関の技術イノベーション、政府の産業政策を総合的に支援します。