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2020-12-25
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、社会や人々の生活は大きく変化しました。物理的に「場所を共有する」ことが激減した一方、バーチャル空間を使って「時間を共有する」ことが当たり前になりました。その結果、東京を生活拠点とする意味や、中央集権的な都市化を進める意味があらためて問い直されています。
本稿では、森ビルで都市のデザイン・開発を手掛ける杉山央氏を迎え、PwCコンサルティング合同会社の三治信一朗と馬渕邦美が人々のライフスタイルの変容に伴う都市モデルの在るべき姿についてお話を伺いました。後編では、物理空間と仮想空間が共存する都市の在り方と共に、「スマートシティ」を巡る業界の動向に焦点を当てて議論を深めました。
(以下本文敬称略)
(左から)三治 信一朗、杉山 央氏、馬渕 邦美
鼎談者
杉山 央氏(写真中央)
森ビル株式会社 タウンマネジメント事業部 新領域企画部 課長
三治 信一朗(写真左)
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング パートナー
馬渕 邦美(写真右)
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング マネージングディレクター
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
三治:
前編では「その場所に行かないと体験できない価値の重要性」についてお話しいただきました。後編では「デジタルとリアルが融合する街づくり」についてお伺いします。
拡張現実(AR)や仮想現実(VR)といった技術が普及し、私たちの生活のさまざまな領域で活用されるようになっています。こうしたトレンドは街づくりにも反映されていくのでしょうか。
杉山氏:
10年後にはリアルの世界とデジタルの世界の境界線が曖昧になり、自分がリアルとデジタルのどちらの世界にいるのか分からなくなる、といった未来を想像する方もいます。しかし、私は人間の生活が全てデジタルに置き換えられるとは考えていません。なぜなら、「身体」はリアルな世界にあるからです。
人間が生活していくには視覚だけでなく、五感の全てを使います。移動にコストや時間がかかっても直接人と会って時間と空間を共有するのは、そのほうが得られる情報が多いからです。
例えば、電話の登場により離れた人と会話ができるようになりましたが、直接会うメリットはなくなっていません。また、インターネットは仕事のやり方を劇的に変えましたが、人々の生活の根幹に関わる部分までは変えていません。
とはいえ、今の子どもたちは、近所の裏山に集まるのではなく、オンラインゲームの世界の中で集まっているということもまた事実です。今はデジタルがリアルの世界に入り込んでいく過渡期だと考えています。
馬渕:
デジタルでできることが、徐々に積層されているイメージでしょうか。
杉山氏:
そうですね。デジタル化が進むことで、街に関する記録も蓄積されています。ですから、過去に記録された街のデジタルデータをARで再現すれば、以前その場所で活動をしていた人たちの様子を知ることができます。そうすれば、これまで出会えなかった人とつながりが持てたり、新たなコミュニティを形成したりすることも可能になります。
森ビル株式会社 タウンマネジメント事業部 新領域企画部 課長 杉山 央氏
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング パートナー 三治 信一朗
馬渕:
リアルとデジタルの融合で注目されているのが、スマートシティです。スマートシティの開発にはデベロッパーだけでなく、あらゆる業種の企業が参入しています。今後、スマートシティの開発は誰がイニシアチブを取り、どのような形で進んでいくとお考えですか。
杉山氏:
一言でスマートシティと言っても、手掛ける範囲は多岐にわたります。国内外を見ても、巨大IT企業や自動車会社などがスマートシティ構想に参入していますね。もはや「都市開発」はデベロッパーだけが手掛けるものではなくなっています。森ビルは比較的規模の大きな街づくりを手掛けていますが、都市全体で見れば、それは部分的な領域に過ぎません。
三治:
六本木ヒルズをスマート化する取り組みと、都市全体をスマート化する取り組みでは規模が異なります。そうなると、桁違いの莫大な投資ができる企業が有利になってしまうのではないでしょうか。
杉山氏:
はい。まずは「どの企業が都市OSを提供するか」が大きなポイントです。都市OSとは都市のデータを収集・管理し、データの連携を可能とするプラットフォーム(基盤)です。これまで森ビルの競合は同じデベロッパーでした。しかし、グローバルな巨大IT企業がスマートシティに本腰を入れて都市OSを提供したら、彼らが競合になるのです。
都市OSの開発には莫大なコストがかかります。前回は「街づくりのリスクを取れるのは建物の所有者」だと言いましたが、それは自社が手掛けた街の中だけの話です。所有者としてリスクを取り、魅力ある街づくりを手掛けるには、都市OSを提供する立場にならなくてはいけません。
三治:
資金力は別として、現代アートのようなコンテンツや、それを生かした街づくりのノウハウを持っているという点で、森ビルは強みを発揮できるのではないでしょうか。
杉山氏:
これまで森ビルは「リアル」な街づくりを手掛けてきました。ですから、都市OSで管理されているデータを活用し、「バーチャル六本木ヒルズ」を構築したとしたら、森ビルならではの面白い仕掛けを盛り込むことができると思います。特に「リアル六本木ヒルズ」を体験している人は、「森ビルが提供する価値=ブランド」を感覚的に理解してくれていると感じます。
馬渕:
以前、日本と台湾を拠点とする建築設計事務所noiz architectsの豊田啓介氏とお話した際、「デジタル化によって、これまでフィジカルの世界で行ってきた会議や対面での情報交換が、バーチャル空間で実行できるようになる」と指摘されました。リアルと紐付いていないメタバース(仮想の三次元空間)の世界での街づくりについてはどのように捉えられていますか。
杉山氏:
メタバースの世界での街づくりは、森ビルがイニシアチブを取れる可能性がある領域だと考えています。
リアルとバーチャルの世界に同じ空間が存在した場合、時間軸さえ一致していれば、両方の世界で行動できます。例えば、複合現実(MR)対応のウェアラブルデバイスを着装して会議に出席したら、隣にいる人がリアルなのかバーチャル(アバター)なのかは関係なくなりますよね。
メタバースの中にオフィス環境を作るニーズがあれば、森ビルがこれまで培ってきたノウハウが生かせます。将来的に「メタバースオフィスに毎日出社し、そこで同僚と協力しながら業務に取り組む」という働き方も登場するかもしれません。
三治:
今後、森ビルのテナントを借りたら、自動的にメタバースオフィスも利用できるといったサービスも考えられますね。
杉山氏:
そうですね。「バーチャル六本木ヒルズ」が既存の六本木ヒルズと同じぐらいのブランド力を持てるようになれば、いろいろな方に興味を持っていただけるかもしれません。
バーチャルオフィスのメリットは、物理的な距離を意識することなく人が集まれることです。ですから、プロジェクト単位でメタバースオフィスを立ち上げ、グローバルに散らばっているメンバーと共同作業をするといった働き方も可能です。
また、バーチャル六本木ヒルズ内で誕生したコミュニティが活性化し、それがリアルの世界に波及するといったことも考えられます。例えば、美術館の建物も含めた企画展全体をデータ化し、実際に歩いて作品を閲覧できるようなメタバースを作り上げることは可能です。こうしたサービスが定着すれば、「バーチャル美術館を使いたい」といったニーズも生まれてくるかもしれません。
馬渕:
スマートシティとは領域が異なりますが、メタバースの活用は非常に可能性がある取り組みですね。
杉山氏:
長期にわたる「ステイホーム」で、多くの人は「デジタルコンテンツに課金する」ことに積極的になったと言われています。これは一つの希望だと思います。これまで「デジタルコンテンツは無料」というのが従来は当たり前でしたが、その考え方は大きく変わってきています。メタバースにおけるビジネスモデルの構築も、以前に比べると検討しやすくなっているのではないでしょうか。
三治:
お話を伺って、今後の街づくりはさまざまな分野の企業が競合相手になることがよく分かりました。森ビルのように「街」というアセットを持っていても、都市全体で見た場合、あらゆる領域の競合と戦っていかないとならないのですね。
杉山氏:
これまでデベロッパーの競合はデベロッパーでした。しかし今後、スマートシティを見据えた場合、デベロッパー同士が連携して都市OSを開発するなど、協調領域と競合領域を分けて都市開発を進めていく必要があるでしょう。
スマートシティの構築には、都市に関する膨大なデータはもちろん、「街をよくするためのソフトウェア」が必要です。そうしたソフトウェアは1社だけで開発し、そこから得られる利益を総取りすればよいというものではありません。
街の中心はあくまで「人」です。そこに集う人が幸福を感じ、充実した生活ができるか。それこそが都市開発に関わる企業が探求する課題だと思います。
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング マネージングディレクター 馬渕 邦美
PwCコンサルティングのTechnology Laboratoryは、世界各国におけるPwCのさまざまなラボと緊密に連携しながら、先端技術に関する幅広い情報を集積しています。製造、通信、インフラストラクチャー、ヘルスケアなどの各産業・ビジネスに関する豊富なインサイトを有しており、これらの知見と未来予測・アジェンダ設定を組み合わせ、企業の事業変革、大学・研究機関の技術イノベーション、政府の産業政策を総合的に支援します。