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2021-10-14
「脳の健康究明で実現するウェルビーイング」をテーマに、Technology Laboratory所長を務める三治信一朗をファシリテーターに、脳の健康維持アプリ開発を手掛ける株式会社ベスプラの遠山陽介CEO、ヘルスケア/医薬・ライフサイエンス領域のコンサルティングを専門とするPwCコンサルティング合同会社パートナーの堀井俊介が語り合う本鼎談。ウェルビーイングの定義や、社会における健康への関心を高めるための仕掛け作りについて議論を交わした前編に続き、後編では、脳科学を用いた認知症予防に向けた取り組みの現在地や、脳科学の産業応用のエコシステムを構築する上での課題やあるべき方向性について議論します。
鼎談者
遠山 陽介
株式会社ベスプラ 代表取締役CEO
堀井 俊介
PwC コンサルティング合同会社 ヘルスケア/医薬・ライフサイエンス パートナー
ファシリテーター
三治 信一朗
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング パートナー
運営
小原 功嗣
PwCコンサルティング合同会社 ヘルスケア/医薬・ライフサイエンス シニアアソシエイト
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(本文中敬称略)
(左から)三治 信一朗、遠山 陽介氏、堀井 俊介、小原 功嗣
小原:
最新のテクノロジーの活用や学術研究の進展により、医療やヘルスケアは日々進化・成長を続けています。そのようなイノベーションをもたらすキーの一つとして、脳に着目した脳科学が注目されていると言えます。まだまだ未知の領域も多い分野ですが、一例として脳科学の最新の知見を反映したアプリも登場してきており、昨今注目を浴びています。後編では、ヘルスケアにおいて脳科学がどのようなイノベーションをもたらすことができるのか、またそのようなイノベーションをビジネスとして実現し、社会に展開していくために求められているものは何かを議論していただきます。
三治:
遠山さんは認知症の予防というミッションを脳に着目して解決されようとしていますが、その中で脳科学への造詣を深められていますね。例として、脳の健康管理指標であるBHQ(Brain Health Quotient)をサービスに取り入れようとされています。日本発の国際標準規格でもあるBHQに着目された理由を教えてください。
遠山:
ひょんなことからBHQという指標の存在を知ったのですが、「脳の機能の計測がすでにできるようになっているのか」と驚いたのを覚えています。自分の脳の状態を何かしらの数値で見ることができたら、「〇〇の数値が下がっているから、●●の機能が低下している可能性がある」といった具合に、自身の健康状態について腑に落ちることも多くなるはずです。
三治:
面白いですね。例えば「海馬が縮小しています」と言われても、ユーザーからすれば「そもそも海馬って何?」と疑問に持たれるかもしれません。BHQによって脳の健康度を直感的に理解できることで、サービス提供者とユーザーの意思疎通がスムーズになる効果もあるのですね。
堀井:
分かりやすさというのは、ヘルスケアにおいてはとても重要です。因果関係や明確な医療効果があるか否かを患者に分かりやすく伝えることで、よりよい医療行為を提供することが可能になるからです。テクノロジーの発達により、個人のバイタルデータとBHQを組み合わせることができれば、身体と脳との明確な結び付きの解明や、認知症の早期発見も期待できますね。
遠山:
そうですね。今後さらなる検証が必要ですが、BHQの測定データと私たちのアプリのデータを紐付けることで、各ユーザーの特性と認知症の因果関係が少しずつ見えてきています。例えば、日ごろの運動量が明らかに少ない人は、運動している人に比べて認知機能の低下が若年から始まる傾向にある、といったことです。
三治:
経年変化のデータを定期的に取得することの重要性はヘルスケアでよく強調されますが、自らの行動の結果が脳にどのような影響を及ぼしたかがBHQによって可視化されれば、ユーザーにとってはモチベーションになりますね。
堀井:
こうした状況は、ヘルスケアを提供する側、特に医療提供者にもメリットをもたらすと思います。認知症の領域においてはこれまで、目に見える事象からしか患者の状態を把握することができませんでした。しかし脳の状態が可視化されれば、それをもとにした処方が可能になります。
例えば同じ症状で同じ治療を施したとしても、BHQが同じように向上するとは限らないでしょう。つまり脳の状態や特性をもとに、どのようなアプローチが対象にとってベストかを判断できるようになるのではと思うのです。
株式会社ベスプラ 代表取締役CEO 遠山 陽介氏
PwC コンサルティング合同会社 ヘルスケア/医薬・ライフサイエンス パートナー 堀井 俊介
三治:
遠山さんが展開する脳に着目したソリューションは、ヘルスケア業界全体にとっても刺激になると思います。これを刺激に終わらせず、ヘルスケアそのものの進化につなげていくためには、前編で堀井さんが言ったような「うねりを生み出す」ことが必要です。自らの積極的な行動がうねりの第一歩であること、行動の具体例として地方自治体との協力を前編で紹介しましたが、スタートアップと大手企業がタッグを組むというのも有効な手段ではないでしょうか。
堀井:
そうですね。製薬会社をはじめとする大企業は資金力を元手に、スタートアップの支援やタイアップを積極的に行っています。ただ、互いのポテンシャルを十二分に引き出せているかと聞かれると、決してそうとは言い切れないのが実情であると感じます。支援やタイアップによる効果を適切に予測したり、成果を評価したりする仕組みがまだ確立されていないのですね。そのため、両社の組み合わせやビジネスを設計できる第三者機関的な存在が必要だと思います。
遠山:
堀井さんの発言に同意します。大切なのは、解決したい課題が互いにしっかりとマッチしていることであり、言ってみれば「根幹」が揺らがなければ、プロジェクトやサービス開発は上手く進むというのが、経験から来る実感です。
三治:
なるほど。第三者がただのビジネスマッチングに留まらずにエコシステムを作る設計図を持ち、その上で両社を「お見合い」させることで確度を高め、互いの意見や課題のすり合わせをしやすくする「緩衝材」としても機能するということですね。
遠山:
私自身、ほんの少しのミスマッチで企業と企業がすれ違うのを何度も見てきましたので、三治さんがおっしゃったような「かゆいところに手が届く」絶妙な調整を行ってくれる機関が、国や自治体、民間を問わず必要だと痛感しています。
三治:
ここまで、ウェルビーイングを軸にしたヘルスケアの変化の可能性やイノベーションの起こし方など、多岐にわたる議論をさせていただきました。最後に、お二人にとって「ウェルビーイングとは何か」をお聞かせください。
遠山:
難しいですね……。私たちスタートアップは、目の前の課題の解決にただひたすらに真摯に取り組んでいるだけですが、それこそがウェルビーイングなのかなと。つまり、毎日の積み重ねが、いずれユーザーやその家族、さらには社会のウェルビーイングにつながると信じているんです。
昨今、ウェルビーイングという言葉が世の中に広く浸透していることは望ましいと考えています。私たちが日々従事していること一つひとつが誰かの幸せに寄与することなのだと実感しやすい世の中になっているからです。そのような思いを持てれば、従業員も私も、また他のスタートアップの方々も、やりがいを持って課題解決に邁進していけるはずです。
堀井:
幸福感や喜び、感動といった言葉は常に存在してきましたが、ウェルビーイングという言葉にぴったりと該当する日本語はない気がします。もしかすると、これは日本人がこれまでに持っていなかった概念なのかもしれません。
今すぐ価値につながるかは分からなくても、自分がよいと思うことを全力でやっていきたい。きっとその行動がうねりのきっかけになり、渦になり、やがて波になって世の中を変えていけるのではないかと、今日のディスカッションを通じて意を新たにすることができました。
三治:
非常に興味深いお話をありがとうございました。お二人との議論を通じて、脳科学によるイノベーションの可能性や、ウェルビーイングのありさまについて、より具体的に分かるようになってきたと思います。お二人の活躍がさらに楽しみになりました。
PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング パートナー 三治 信一朗
PwCコンサルティング合同会社 ヘルスケア/医薬・ライフサイエンス シニアアソシエイト 小原 功嗣
PwCコンサルティングのTechnology Laboratoryは、世界各国におけるPwCのさまざまなラボと緊密に連携しながら、先端技術に関する幅広い情報を集積しています。製造、通信、インフラストラクチャー、ヘルスケアなどの各産業・ビジネスに関する豊富なインサイトを有しており、これらの知見と未来予測・アジェンダ設定を組み合わせ、企業の事業変革、大学・研究機関の技術イノベーション、政府の産業政策を総合的に支援します。