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2022-09-05
Wellbeing(以下、ウェルビーイング)など、人々の心の豊かさや人生のいきがい、幸福を中心とした社会経済システムへの転換の必要性が語られるなか、そのベースとなる日々の健康管理の重要性が改めて問われています。PwCでは幸福を中心とした社会経済システムと、健康を確立するカギとなりうるテクノロジー「脳科学」に着目。同分野の知見や先端トレンド、課題と未来についてビジネスリーダーとともに考察していきます。
本鼎談では、PwCコンサルティング合同会社でTechnology Laboratory所長を務める三治信一朗が、カレンダーアプリ「ジョルテ」を運営し、脳の健康研究に踏み出した株式会社ジョルテの代表取締役・下花剛一氏と、ハイテク業界とヘルスケア業界を専門業界とし、さまざまな課題解決に取り組むPwCコンサルティング合同会社のパートナー・長谷川宜彦に、ウェルビーイング実現に向けた脳の健康管理を促すポイント、データの民主化、エコシステム形成のためのアプローチについて聞きました。
本編では株式会社ジョルテが脳の健康の研究を開始した経緯に始まり、健康に対するモチベーションを高める方法、地域差および世代の違いによるデータ活用の許容度などについて議論しました。
鼎談者
下花 剛一氏
株式会社ジョルテ 代表取締役社長
三治 信一朗
PwCコンサルティング合同会社
Technology Laboratory所長 パートナー
長谷川 宜彦
PwCコンサルティング合同会社
ハイテク産業事業部/ヘルスケア産業事業部 パートナー
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(本文中敬称略)
(左から)長谷川 宜彦、下花 剛一氏、三治 信一朗
三治:
本日は「人生100年時代を支える日々の脳の健康状態の可視化」というテーマで議論を交わしたいと思います。株式会社ジョルテでは脳の健康状態推定や脳の健康状態をきっかけとした行動変容の促進を実現する研究を今春よりスタートされています。そこでまず下花さんに、これまでのキャリア、ヘルスケアや脳の健康に取り組むことになったバックグラウンドについてお聞かせいただきたいと思います。
下花:
私は予定管理のための手帳・カレンダーアプリ「ジョルテ」など、スマートフォン向けアプリを開発する株式会社ジョルテを運営しています。もともと20年前に岡山県で立ち上げたソフトウェア開発会社で、ジョルテのアプリをリリースしたのは10年ほど前です。その後、ユーザーが一気に伸びたことをきっかけに東京に本社を移して現在にいたります。
もともとはヘルスケアとは全く関係ない会社ですので、「なぜ脳に関する研究をやるのか」とよく言われます。当社は「ジョルテ」というカレンダーアプリを生み出したことによって、多くのユーザーを持つカレンダーサービス企業へと成長することができました。カレンダーやイベント情報データベースを活用したビジネスを伸ばしていく中、やふと立ち止まって考えた時に、自分は意味のあることをやっているのだろうか、自分が本当にやりたいことは何なのかという思いに駆られました。
そのうち、カレンダーによる効率化でより高みを目指すことに人生を縛られているのではないかと、疑念を抱くようになりました。カレンダーで様々なビジネスを創出すること、利便性を追求することなど、それは本当に自分がやりたいことなのだろうか。「自分のやりたいことってなくてもいいんじゃないか」と思うようになりました。どこか、そういう自分を許す感覚ですかね。そうやって自分自身を縛っていた自分から離れてみたときに湧き上がってきたのが、「誰かの役に立つのはいいな」ということでした。それが、ヘルスケアや脳に目を向けるきっかけにもなっています。
もうひとつヘルスケアにアプローチする背景として、私自身がアレルギーを持っていたり、日ごろの疲れがなかなか取れなかったりと、体の状態を意識しないと仕事のパフォーマンスに影響する状況だったため、健康に対する関心や問題意識は常に持っていました。
地域のDXもひとつのテーマとして掲げています。地域のDXは、日本ではモチベーションを作るのが難しく、うまくいっている事例が少ないのが現状です。健康と同じく、切実に困った体験や、DX化を実現しなければならないという意識が希薄だからかもしれません。地域DXの本当の価値は、人の繋がりを作ることだと考えています。デジタル技術を活用して何ができるのかを、全国いろんな地域に入り込んでいろいろ試しながら模索している最中です。
三治:
地域とヘルスケアというキーワードが出ましたが、このふたつにはどのような関連性があると思われますか。
下花:
コロナの影響もあり分散型社会に向けて変わりつつある状況ではありますが、旅行やワーケーション、遠方での長期滞在など、人が移動するためには理由が重要です。
そして、脳が健康になるためには、新しいことにチャレンジしたり、ワクワクすることを経験したりといった刺激が効果的です。例えば、ある地域に長期滞在して地域のコミュニティに関わる活動をすると、必然的に「脳を健康にする」活動をすることになります。旅行に行きたいとは思っているけど、なかなか実行できない人は多いのではないでしょうか。脳を健康にするために旅行する、地方で長期滞在する、という分かりやすい理由があれば、人は新しい活動をしやすいのではと考えています。それをデジタルで実現しようとしています。地域のデジタル化と、脳の健康やヘルスケアは密接につながっているというのが私たちの考えです。
三治:
ジョルテ社の取り組みは、その文脈においてすべて繋がっているのですね。長谷川さんから見たジョルテ社の取り組みはいかがでしょうか。
長谷川:
カレンダーアプリの運営事業者であるジョルテ社がヘルスケアに着眼したというのは非常に興味深いですし、個人的にもそのアプローチに共感しています。実は私は大学卒業後すぐにコンサルティングビジネスに携わり、25年以上にわたり自身の健康を気にもかけず走り続けてきた人間なのですが、最近は真剣に健康について考えていかなければならない年齢になってきたことを様々な場面で痛感しているところです。
近年、PwCではさまざまな社会課題の解決に挑戦させてもらう機会を得ていますが、取り上げるテーマには難問が多く、やはり精神的にも身体的にも、健康という土台があればこそ志の高いチャレンジが成立することを日々実感しています。
また、私は、ハイテク業界のクライアントを中心に支援していますが、一方で、ヘルスケア業界も担当しており、製薬メーカーや医療機器メーカーの方と接するなかで、ヘルスケア企業単体では、人類のウェルビーイングの実現や、地球上の全ての人の健康に貢献していくことがなかなか難しいという話を聞く機会が増えてきました。ヘルスケア業界以外の複数の企業、医療機関、行政機関、地方自治体とも力を合わせて、人間の幸福や健康を追求する時代になってきたという気持ちが日毎に深まっています。
それぞれの役割を担う企業や行政が共創型で公益性の高い基盤を生み出すようなエコシステム型の世界と、プラットフォーマーがカスタマーをロックインして、そこに乗りたい企業を引き寄せ集めるようなディスラプター主導型の世界。そのどちらの潮流を軸に未来のウェルビーイングが実現されていくのか、という点に注目しているとともに、PwCとしてどのように貢献できるか社内でも検討していたところですので、今日は下花さんとヘルスケアにおけるデータ活用について議論できるのを楽しみにしていました。
株式会社ジョルテ 代表取締役社長 下花 剛一氏
PwCコンサルティング合同会社 Technology Laboratory所長 パートナー 三治 信一朗
三治:
ありがとうございます。ではまず、人々の健康に対するモチベーションや、日々の行動を変えるポイントはどこにあると思われるか、下花さんのご意見を伺いたいと思います。
下花:
私自身、ランニングや食事制限などがあまり長く続かないタイプなのでよく理解できるのですが、やはり自分の健康状態が可視化されることが重要なポイントになる気がします。またパーソナライズされたプログラムなど、個人の数字や指標の変化が分かる環境をつくることが、健康に対する意識やモチベーションを高め、行動変容を生むことに繋がると感じています。
三治:
たしかに、健康の傾向を理解するために一般的な指標は役立ちますが、人によってはストレスが高くても、お酒を飲んでいても、健康状態がそれほど悪くない人もいます。逆もまたしかりでしょう。個々人の生活習慣をより深く掘り下げて可視化することの重要性には強く共感します。
日本社会においてはこれまで、健康診断の結果しかり、医者が言うことに黙々と従う風潮がありました。ただ「言われたから」という理由だけでは、自らの健康を維持・改善しようというモチベーションには繋がりにくい。変化のためには、ご指摘の通り、健康状態の可視化によって価値を見出したり、自分たちのデータを有効活用したりといった課題があると思います。長谷川さんはこの点についてどのようなお考えをお持ちですか。
長谷川:
私は可視化された結果としての健康指標データと、それらと因果関係ないしは相関関係があり、行動様式を変えるための行動指標データが個人の手元にあり、さらには、その個人情報が安全に保持された状態でPDCAを回していくことができる環境が整っていることが、個人の健康増進に最も役立つ状態だと考えています。
指標にもいろいろありますが、御社がコンソーシアムに参加され、アプリにも採用している 脳の健康指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)は非常にシンプルで分かりやすい指標です。ただし、BHQの数値だけではなく、行動指標も同時に活用していかないと、自分の行動様式を変えていくモチベーションにダイレクトには繋がらないでしょう。また、個人の医療データであるPHR(Personal Health Record)も重要になってきますが、長らく国主導で議論されているものの、制度やデータ基盤に関し、社会全体として合意形成には至っていないのが現状です。
ここでは、データの民主化がひとつのキーワードになると思います。データの民主化を進めるための議論では、国や行政主導が望ましいという方向性の他に、もうひとつの方向性があると思っています。それは、ディスラプターや一部の天才が破壊的ソリューションを生み出し、あらゆる人が使い始めて、結果としてデータが個人の手元にどんどんたまっていくというシナリオです。
Web3.0に代表される情報分散管理型のソリューションが普及し、データが分散化・個人化されていく世界が迫るなかで、PHRあるいはデータの民主化という文脈がどう繋がって実装されていくか、私自身もトレンドを見極めようとしています。
また、ミレニアル世代やZ世代の“超合理的”な考え方も見逃せません。若い世代は自分の健康に資するデータであれば率先してクラウドに拠出、ないしは手元のデバイスに蓄積してアプリ内で個人データが分析に活用されても心理的障壁がない。そんな世代に対してどんなソリューションが響くのかを考えていく必要性を感じます。
三治:
世代間の話題は非常に興味深いですね。デジタルに対する適応力についても、脳と関連が取り沙汰されています。若い世代は脳の働きが柔軟。若い世代はスポンジのように情報を吸収し、成長曲線のなかで新しいテクノロジー取り入れていきます。それがデータに対する許容度などにも表れているかもしれません。
データに対する感覚をどう変えていくかについて、下花さんのお考えはいかがでしょうか。地域コミュニティで得たヒントなどあれば教えてください。
下花:
多くの人が自分のデータを共有することによっていろいろな分析が可能になり、健康に近づくためのソリューションも生み出しやすくなるはずです。
たしかにZ世代や次のα世代(2010年以降に生まれた世代)は自分のデータに対してはそれ以前の世代に比べて新しい感覚を持っています。自分の位置情報を友人同士で共有し合える世代ですので、体内情報やプライバシーについても前世代とは感覚が異なるのではと感じています。とは言え、日本の大きな企業や地方は年齢層が高く、プライバシー問題の懸念を持つ人は多いのではと思います。デジタルソリューションで健康維持向上を目指すためには、そのリスクも深く検討しなければなりません。
三治:
デジタル化やデータ化に抵抗を感じているのは、自治体の首長クラスなのか、現場の役所レベルなのか、地域住民なのか、はたまた全体なのかなど、雰囲気はどうなのでしょうか。
下花:
私たちはどちらかというと高齢化が進んでいる地域にお邪魔することが多いのですが、デジタルそのものに対する許容力や積極性を増すことで、より多くの可能性を見出せるのではないかという印象を抱いています地方は人口減少が大きな課題ではありますが、住民からすると何とか生きていけているし、大きく困っているわけでもないという話をよく聞きます。その状況で新しい変化を受け入れるよう地域の人たちを説得し、デジタル化を推進することは容易なことではありません。
長谷川:
私も以前、街づくりを手掛けるクライアントと議論をしたことがあります。その際、街全体に同社のテクノロジーが埋め込まれた製品を実装して、様々なセンサーで個人の行動データや感情データ等を常に収集するようにし、健康・安全・快適な街を実現するというコンセプトがミレニアル世代、Z世代、α世代に響くと提案したことがあります。すると、クライアント企業の幹部と若手のリアクションにかなりのギャップがありました。
どちらが良い悪いという話ではなく、こういった未来を見据えた議論には、様々な価値観を混ぜて議論していくことが重要だと思います。幹部の方はビジネス経験が豊富なため、ユーザーのデータ許容度を含めたリスクに注目します。一方で、若い人は、未来がワクワクするものに変化するというきわめてポジティブな捉え方をします。どちらも大切な視点です。似たようなことがいろいろな局面で起こっていると感じますし、議論の中心に若い世代をはじめ多様な考え方を持つ人材がいるかどうかは非常に重要な気がします。
下花:
私は、このギャップもいずれ時間が解決してくれると考えています。なぜかというと、米国などではZ世代の人口割合も大きく、その世代をターゲットとした新しいソリューションやプラットフォームが数多く生まれています。今の日本はそういった海外の新たなサービスを受け入れている状況なので、データに対する意識も変わっていくことでしょう。米国など海外でデータを共有し健康になることが見えてきたら、日本でもなし崩し的に動きが加速するはずです。
ただその流れが来る前に、日本でやれることがたくさんあるはずです。日本は長寿大国であり、BHQなど脳を数値化できる仕組みも先行しています。脳の健康というテーマは間違いなく日本に強みがある。世界の人々もきっとみんな健康になりたいはずですし、日本が脳のヘルスケア分野で世界をリードするとなれば、これからの日本の若い世代にも新たなチャレンジ環境を作れるのではと思います。私たちもサービス化のアプローチとして、日本に響かなかったらまず海外に出て逆輸入するという方法も考えています。
三治:
ありがとうございます。鼎談後半ではウェルビーイングを実現するための視点やエコシステム形成についてさらに議論を深めていきたいと思います。
PwCコンサルティング合同会社 ハイテク産業事業部/ヘルスケア産業事業部 パートナー 長谷川 宜彦
PwCコンサルティングのTechnology Laboratoryは、世界各国におけるPwCのさまざまなラボと緊密に連携しながら、先端技術に関する幅広い情報を集積しています。製造、通信、インフラストラクチャー、ヘルスケアなどの各産業・ビジネスに関する豊富なインサイトを有しており、これらの知見と未来予測・アジェンダ設定を組み合わせ、企業の事業変革、大学・研究機関の技術イノベーション、政府の産業政策を総合的に支援します。