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2022-09-07
Wellbeing(以下、ウェルビーイング)など、人々の心の豊かさや人生のいきがい、幸福を中心とした社会経済システムへの転換の必要性が語られるなか、そのベースとなる日々の健康管理の重要性が改めて問われています。PwCでは幸福を中心とした社会経済システムと、健康を確立するカギとなりうるテクノロジー「脳科学」に着目。同分野の知見や先端トレンド、課題と未来についてビジネスリーダーとともに考察していきます。
本鼎談では、PwCコンサルティング合同会社 Technology Laboratory所長を務める三治信一朗が、カレンダーアプリ「ジョルテ」を運営し、脳の健康研究に踏み出した株式会社ジョルテの代表取締役・下花剛一氏と、ハイテク業界とヘルスケア業界を専門業界とし、さまざまな課題解決に取り組むPwCコンサルティング合同会社パートナー・長谷川宜彦に話を聞きました。鼎談後半では、ウェルビーイング実現のための要件や、大きなアジェンダを解決していくための新たなエコシステム形成のアプローチなどにフォーカスし議論を交わします。
鼎談者
下花 剛一氏
株式会社ジョルテ 代表取締役社長
三治 信一朗
PwCコンサルティング合同会社
Technology Laboratory所長 パートナー
長谷川 宜彦
PwCコンサルティング合同会社
ハイテク産業事業部/ヘルスケア産業事業部 パートナー
※法人名、役職、インタビューの内容などは掲載当時のものです。
(本文中敬称略)
(左から)長谷川 宜彦、下花 剛一氏、三治 信一朗
三治:
前編では健康に対するモチベーションを高めるためにすべきこと、データ活用に対する地域および世代間の意識の違いなどについて議論させていただきました。また終盤では、下花さんに日本のヘルスケア産業の可能性についても示唆いただきました。
長谷川:
ここでご紹介しておきたい資料があります。英国のNHS(国民保健サービス)が「精神的ウェルビーイング」の獲得方法を5つにまとめたものです※。まず地域や家族と繋がりを持つこと。次に身体的運動を行い、運動が自分の生活の楽しみの一部となるようなものであること。三番目に、料理でも楽器でも自転車修理でも何でもいいのでスキルを得ようと学ぶこと。四番目が笑顔や言葉などささいなものでもよいので他人に与えること。最後は自分に向けた内省、今この瞬間の自分の内面に注目すること。いわゆるマインドフルネスです。
これらの要件を満たすことが精神的ウェルビーイングを実現できるという指摘です。下花さんが語られた日本のヘルスケアの可能性は、この要件の日本版をつくっていくことだと感じ、興味深くお聞きしていました。日本におけるウェルビーイングの在り方をどのように確立すべきか、ぜひお考えを聞きしたいです。
下花:
私も、まだウェルビーイングについて確固とした答えがなく模索している最中です。
これまで私は多くの経験を経て、今も新たなサービスを立ち上げようとする状況にありますが、どこかしら、人生に虚しさを感じていた側面があります。企業が生き残るには変化が必要で、常に手を伸ばさないといけない。でも、伸ばした先には何もないのではないか。なぜ苦労して生き残るのか、何のために企業経営をしているのか、そういう問いかけを自分にしてきました。そこで企業理念を大きく見直し、成長、充実感、繋がり、そして人の役に立つことを重視することに決めました。それまでは自分への執着が強かった私が、自分の成長よりも社員の成長のほうが面白いと感じられるようになりました。
これはNHSの定義の「与えること」と繋がっていると思います。そのように、日本社会のあらゆるところで気づきを蓄積することで、ウェルビーイングの在り方を見直していくべきだと思います。
長谷川:
繋がりを構築し、他者に与えて感謝されることの積み重ねが、個人そして社会・国全体の自信や誇りに繋がる。そしてそれが前に進むための原動力になるということですね。
三治:
「与えること」というのは、エコシステム形成の肝になる議論かもしれません。本質的には、根底にある「与えること」「価値観を広げること」「より躍動感のある生き方」などをベースにした発想で、エコシステムを構想していかなければならないと思いました。
※ National Health Service “5 steps to mental wellbeing” (https://www.nhs.uk/mental-health/self-help/guides-tools-and-activities/five-steps-to-mental-wellbeing/)
株式会社ジョルテ 代表取締役社長 下花 剛一氏
PwCコンサルティング合同会社 ハイテク産業事業部/ヘルスケア産業事業部 パートナー 長谷川 宜彦
三治:
下花さんは、エコシステム形成のためにどのような自治体・消費者向けアプローチをイメージされていますか。幸せになるという観点の広げ方や、ワクワク感を伝播させていくような仕組みや仕掛けについて構想があれば教えてください。
下花:
コロナ禍で読書量が増えたことで、哲学や仏教についても学ぶ機会がありました。利他精神は幸せに生きるためのすごく合理的なテクニックで、よく考えた抜かれた仕組みだと気づかされました。
ブッダが説いたような悟りの真髄は、ものの見方を変えることなのだと思います。自分の目ではなく、自分から離れた視点を持つことが幸福感を得るための最良の方法のひとつであると理解しています。
自分の目で会社を経営すると、自分が成功する、儲けることが優先になります。社員のためとは言いますが、本当の意味ではそうはなっていなかったりします。しかし社会や関係する人たち、自分以外の人という自分を離れた視点に立つことで自分の感情を切り離して考え、合理的な判断によって自分にも周りにも良い結果を導き出せるのだと思います。
地域活動に関しても同じでしょう。それぞれが自分の居場所という観点ではなくて、地域全体に立った視点を持つことができれば、変化を伴う新しい取り組みを増やしていけるはずです。加えて私が地域の変革のために必要だと思うのは、我々のようなサービス提供者だけでなく、課題が自分と地域に直結している方々、変われる、もしくは変わらざるを得ない方々と一緒に地域づくりを進めることです。
長谷川:
下花さんがおっしゃったように、社会のなかで企業や自分がどういう役割を果たすべきかをしっかり俯瞰の視点で理解して行動することが満足感ややりがいに繋がりますし、ウェルビーイング実現や新たなエコシステム形成に強く影響してくると感じました。
また、人間は目の前の事柄にどう対処するかを考えがちですが、これからは未来志向がエコシステム形成には欠かせない気がします。自分の得られる利益が仮に満点ではなく60点であっても、他者や社会に貢献しながら前に進もうという意識がエコシステムには求められるでしょう。
そして中央集権的なテクノロジーで人々や企業をいわば強引に引き寄せてしまうようなモデルよりも、適材適所で配置されたプレーヤーが同じ目標に長期的に向かっていく協調的モデルを生み出すのが日本らしい戦い方ではないかと改めて感じています。
下花:
もうひとつは、これからの地域づくりやコミュニティづくり、エコシステム形成にはマッチングの仕組みが重要になるということです。地方だけでなく企業もそうですよね。私は、仕事やいろんな活動において、「何を」するということよりも「誰と」するということのほうが重要だと考えています。それは、モチベーションや幸福感だけでなく、結果やパフォーマンスにも大きく影響することを実体験から学びました。人の繋がりは大事であり、さらに繋がりの質も重要ということです。
各地域にはそれぞれ特有かつ硬直化したコミュニティや、都心ではあまり理解できないような複雑な人間模様があります。しかし今や、デジタルの力を借りれば、人は自由に移動し、出会い、関係を構築することができます。きっと効果的なマッチングが達成できれば、地域の境界を越えて新しい関係が構築され地域の活性化にも繋がるはずです。
三治:
そういう意味では都市設計の有り様も変わるのかもしれないですね。メタバース上とリアルなコミュニティをそれぞれ最初から設計してから人が集まれるようにすれば、モチベーションが同じ人々が集まってくるので、一気にデジタル化やデータのやりとりが活性化していく可能性があります。
なお企業同士の寄り合いや仲間づくりを考えた際には、好き嫌いだけでなくさまざまな思惑も絡んでくると思います。長谷川さんは、エコシステム形成を企業視点で捉えるにはどのように考えていけば良いと思われますか。
長谷川:
ヘルスケアやウェルビーイングに限らずですが、社会課題ともいえる大きなアジェンダが世の中に増えてきているので、企業一社で論点をカバーすることが難しくなってきています。これまではエコシステムの座組の中心にいるのは行政や地方自治体でしたが、そうした体制では適切な解を出すのが厳しくなってきています。公平性を担保することはもちろん重要なのですが、ソリューションやサービス、アーキテクチャがテクノロジーを駆使したものになっているので、技術面でキャッチアップするのが難しくなっているからです。加えて、それぞれの参加者の利害調整や将来の目標設定を官がリードしていくことにも限界が見え始めています。
今後は自分たちの最低限のプロフィットは確保しながらも、採算面での折り合いをつけながら、各プレーヤーに対してフェアにプロフィットとリスクを分配しつつ、上手くコントロールできる行司のようなプレーヤーが求められていくでしょう。
三治:
新しいエコシステムの基盤設計には、エンジェル的な立ち位置、もしくは成功した企業が一部支援しながら進めて行く流れや座組が必要になってくるのでしょうね。最後にこれからお二人が目指す取り組みについてお聞かせいただければと思います。
下花:
ジョルテはカレンダーアプリの会社ですが、いま全国で「地域情報のデジタル化」を成し遂げるという目標を掲げています。どこで何ができるのかをすべてデータ化し、全て時間軸ベースで収集して並べようとしています。その目的は「知っていたらやっていたのに」という機会損失を減らすこと。知らないことでいろんな経験や、人との出会い、学びのタイミングを逸することはとても損している状態です。また健康についても知らないことで損していることがたくさんあるでしょう。デジタル化によって多くの方々に、自分が出来ることにもっと気付いてもらい、人の可能性や人生の選択肢、充実感を最大化するという新しい価値を提供していきたいと考えています。
長谷川:
自分のやりたいことを存分にやるためには、身体と精神の健康に気を使わずとも良い状態をつくりだすことが絶対に必要です。そしてそれが最終的に幸福感を得るための、一つの要件になるでしょう。
今日はトピックがヘルスケア、DX、エコシステムと広範囲にわたりましたが、それらはあくまでもツールにすぎないと思います。私としては、PwCが携わるビジネスを通じて、幸せな人をひとりでも多く増やしていきたいと考えています。
エコシステムへの貢献は、お金だけでなく人材や知恵を出すなど、いろいろなアプローチや方法がありえます。コンサルタントが人間の幸福に貢献するための新たな取り組みとは何か、PwCでも試行錯誤を続けて、それらをどんどん形にし、社会に還元を進めていきたいです。
三治:
リーダーシップの発揮の仕方には、過去と比べると非常に異なった観点が必要になってきています。私もPwCのメンバーたちには、「ギブアンドテイクであれば先にギブすべきだ」と常に伝えています。与えることから始めないと相手が信用してくれないし、興味を持ってくれない。そして結果として物事が前に進まず、自分たちも充足感や幸福感を得ることができません。私たちTechnology Laboratoryはまだ新しい組織ですので、先に「ギブすることから始める」という価値観を今後も磨いていきたいと思っています。本日はありがとうございました。
PwCコンサルティング合同会社 Technology Laboratory所長 パートナー 三治 信一朗
PwCコンサルティングのTechnology Laboratoryは、世界各国におけるPwCのさまざまなラボと緊密に連携しながら、先端技術に関する幅広い情報を集積しています。製造、通信、インフラストラクチャー、ヘルスケアなどの各産業・ビジネスに関する豊富なインサイトを有しており、これらの知見と未来予測・アジェンダ設定を組み合わせ、企業の事業変革、大学・研究機関の技術イノベーション、政府の産業政策を総合的に支援します。