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2021-06-16
サーキュラーエコノミー(循環型経済)という言葉を日常的に耳にするようになりました。これまでの一方通行の「リネア型」の経済モデルから、廃棄製品や原材料などを新たな資源として経済活動の複層段階で循環させる「クローズドループ型」の経済モデルへの転換を目指す動きが世界中で見られます。本稿では、サーキュラーエコノミー実現に向けたルール・政策動向と共に、企業が取り得る施策や新技術活用の可能性についての紹介および政府に求められる役割などを考察していきます。
従来の経済活動は、自然界から資源やエネルギーを取り出し(Take)、それらを使って製品を製造し(Make)、使用後の製品を廃棄する(Waste)、という大量生産・消費を前提とした一方通行のリネアエコノミーが前提でした。サーキュラーエコノミーとは、リネアエコノミーにおいて廃棄が前提とされていた製品や原材料などを、新たな「資源」として経済活動の生産・消費・廃棄といった複層的な段階で再活用させることで、廃棄物を出さずに資源を循環させる経済の仕組みです。天然資源の採取や消費、埋め立て地への廃棄や環境汚染物質の排出につながる製品の大量生産モデルからの脱却を目指しており、産業革命以来250年間続いてきた生産と消費の在り方に対する最大の変革とも言えるでしょう。
日本もこれまで経済活動を通じて、公害問題への対処やCO2削減、リサイクル活動の推進など、環境問題に積極的に取り組んできました。国内では類似の概念として、資源や製品の循環を通じ環境への負荷低減を図る「循環型社会」がありますが、サーキュラーエコノミーは、循環型社会が推進する資源の循環利用や効率化促進だけでなく、経済成長や雇用創出を実現させることもその体系に組み込んでいる点に特徴があります。
サーキュラーエコノミーの潮流下において、企業はバリューチェーンおよびサプライチェーン上の観点から、多様な施策により従来のリネア型からクローズドループ型に転換することが求められています。PwCは1. 再生可能原材料の優先的な使用、2. 製品使用の最大化、3. 残渣物および廃棄物の回収、という3つの包括的な原則に基づき10の循環型戦略を定義しています。
サーキュラーエコノミーへの転換に向けた取り組みがここ数年加速していますが、この概念自体は実は50年以上前から存在します。1960年代に経済学者ボーディング氏*1が、資源が長期に経済に留まる「閉鎖的経済」の概念を発展させ、1970年代には欧州委員会への報告書においてループ経済の概念が紹介されています。1990年代になると、ドイツのブラウンガート氏*2や米国のマクダナー氏*3、ドイツ環境保護促進機関(EPEA)の科学者によって「ゆりかごからゆりかごへ(Cradle-to-Cradle)」のコンセプトが発展。2002年にブラウンガート氏とマクダナー氏の共著により出版された「Cradle to Cradle」では、従来の「廃棄はやむを得ない」とする考え方が見直され、環境効率よりも環境効果を重視し、また環境に害となることより有益となることを重視することで、全ての材料が資源に戻り、閉じられたループ内で循環し続ける仕組みを構築することが提案されています。
その後のサーキュラーエコノミーの普及には、2010年のエレン・マッカーサー財団の設立をはじめ、欧州における資源効率化に向けた一連の関連戦略の推進が大きく影響しています。エレン・マッカーサー財団は、情報の発信からグローバルネットワークの構築、学習コンテンツの提供までさまざまな取り組みを通してサーキュラーエコノミーへの転換を世界経済全体に促すために設立された、英国の登録慈善団体です。同財団は、異業種組織・団体同士のネットワーク構築を通じ、世界規模での研究・調査の機会を創出することを企図しています。国際ネットワーク「CE100」を主導して廃プラスチック問題に取り組むなど、企業や機関がサーキュラーエコノミーに対する認識の醸成に大きく貢献してきました。
また、EUが2015年に公表した行動計画「Closing the loop – An EU action plan for the Circular Economy」において、優先分野を特定し、また廃棄物処理、製品設計に係るルール改正などを含めた包括的な政策パッケージを提示し、サーキュラーエコノミー推進の先陣を切る姿勢を示したことも、企業の実際の行動を加速させました。欧州委員会は2020年に「A New Circular Economy Action Plan for a Cleaner and More Competitive Europe」を発表し、サーキュラーエコノミーを欧州グリーンディール政策の中核に位置付けるなど、経済発展との両立を目指す域内全体での戦略的分野として、積極的に取り組む姿勢を見せています。
サーキュラーエコノミー実現に向けた仕組みの構築など、活動推進の波は欧州内に留まらず世界各国に広がっています。例えば中国は、「循環経済促進法」の施行や、「循環経済発展戦略および短期行動計画」*4を発表しました。科学技術分野の研究開発支援や重要プロジェクト、情報サービスの実施などを掲げ、資源の採掘から使用に至るまでバリューチェーン全体にわたる資源ループを閉じるための開発モデルの検討を進めることが狙いです。
また、民間企業レベルでの連携や、サーキュラー型工業団地の建設や先進的都市、地域の選定も行うなど、トップダウンによる規制・政策によってアジアで先進的な存在となることを企図しています。今後、主に欧州の海外企業や産業団体から技術、ノウハウの提供を受け、参考としながら実装を進展させていくことが期待されています。*5
EUでは、前述のサーキュラーエコノミーパッケージに基づき、廃棄物やエコデザインに関連するルールの整備、プラスチックバイオマスなどの優先分野における取り組みが率先して実施されています。同時に、EUは廃棄物枠組み指令(2008/98/EC)、埋め立て指令(1999/31/EC)の目標更新を検討し、サーキュラー型システムの幅広い観点から廃棄物関連法制の見直しを推進しています。また、包装材および包装廃棄物指令(94/62/EC)に関しては、容器包装廃棄物の発生を抑制する施策や、そのリサイクル、リユース、リカバリーを促進する措置を規定する内容に見直しが図られました。
持続可能な製品の生産促進のための主要施策としては、エコデザイン指令(2009/125/EC)やエネルギーラベル規則(2017/1369/EU)など関連ルールの整備が進められています。域内で販売される製品の満たすべき最低限の環境基準を設定し、基準をエネルギーラベルと結び付けることで、消費者が購入する機器のエネルギー効率を把握できる仕組みが構築されました。また、エネルギー基準に加えて耐久性やリサイクル性、再利用性などの重要目標も考慮・統合することで、より包括的に資源の効率のよい循環を追求しています。資源をEU経済圏内で循環させ、中古品についても域内で再製造、修理、アップグレードを図る仕組みを構築することには、域内に新たなリペア・再製造の市場を創造し、雇用を生み出す狙いもあると考えられます。EUでは、規制としてのエコデザイン指令の推進だけでなく、欧州標準化委員会(CEN)、欧州電気標準化委員会(CENELEC)によってマンデートに基づくエコデザイン要件の基準作りも進められています。今後は、製品の耐久性や再利用・更新・修理可能性の改善、製品中の有害化学物質対策、リサイクル材の含有率向上、売れ残り耐久消費財の廃棄禁止も法令の一部とし、補足的な法案も検討されていく見込みです。
なお、人間がパスポートを持ち、自身のIDを証明できるのと同様に、製品のバリューチェーン上におけるサーキュラリティを証明できる「デジタル製品パスポート(digital product passports)」によるサーキュラリティの可視化、製品情報のデジタル化も進められています。*6
プラスチック分野においては、ウミガメの体内からプラスチック製の袋やマイクロプラスチックが見つかるなど、プラスチックごみが野生動物の生命を脅かし、環境を損なっていることが国際的な問題となっています。EUは、2018年1月に「プラスチック戦略」を公表し、2030年までにEU域内から使い捨てプラスチック包装をなくし、全てを再利用するか素材としてリサイクルすること、海洋投棄を抑制することなどを宣言しました。
プラスチック分野における法整備も進められおり、2019年5月のEU理事会では、使い捨てプラスチック製品の流通を2021年から禁止とする「特定プラスチック製品の環境負荷低減に関わる指令(SUP指令)」が採択されました。皿、カトラリー、ストロー、マドラー、コップ、風船用の棒、綿棒の軸、発砲ポリスチレン製の食料・飲料用容器、オキソ分解性プラスチック製の全製品については、「一般的に利用される使い捨てプラスチック製品」として流通禁止の対象となりました。欧州の流通産業団体はSUP指令の採択について、持続可能な消費の在り方を提示するものとして支持すると同時に、加盟国政府に対し製造禁止対象製品の定義のハーモナイゼーション、十分かつ適切なインフラ整備の奨励を呼びかけています。また、「新循環経済アクションプラン」(2020年)が掲げる食品接触プラスチック向けのリサイクル物質の安全性ルールに対応するため、プラスチック食品接触規則((EU)10/2011)の改正も行われています。さらに直近2021年1月には、プラスチック廃棄物の輸出入およびEU内輸送に関する新規則が施行され、EUからOECD非加盟国へのプラスチック廃棄物の輸出も原則禁止となりました。
プラスチック分野においては、拘束力のある規制だけでなく、官民関係組織による自主的な取り組みも進められています。2019年にプラスチックバリューチェーンに係る官民関係組織によりサーキュラー・プラスチック・アライアンスが組成され、「プラスチック戦略」にある「2025年までに最低1,000万トンのリサイクルプラスチックを毎年、新たな製品・包装に使う」との目標達成に向け、製品の設計・改修、再生利用・ケミカルリサイクルなどR&Dに係る具体策を進めることが宣言されました。さらにサーキュラー・プラスチック・アライアンスによる目標をより具体的に推進するため、幅広いステークホルダーが自主的に参加する欧州プラスチック協定(European Plastics Pact)が2020年3月に始動しました。
このようなEU域内における施策を国内法令に積極的に取り込み、サーキュラーエコノミーを推進している国の一例として、フランスが挙げられます。フランスはかつてEU平均よりも国内リサイクル率が低いことが問題となっていましたが、関連法令・政策を打ち出し、2020年には「反廃棄物および循環経済法」*7を採択しました。同法は、アパレルメーカーや服飾品ブランドに対し在庫商品・返品商品の廃棄を禁止する他、環境汚染につながる製品の廃棄に係る費用の一部メーカー負担、修理可能性スコアの導入などを規定しています。また、パリ協定の採択や資源循環・削減に係る一連の施策による取り組み実績や正当性をレバレッジとして、国際標準化機構(ISO)においても技術委員会(ISO/TC323 Circular Economy)を主導しています。
欧州勢による新たな規制や指標づくりは、日系企業にとっても製品の調達・生産活動や廃棄段階におけるオペレーション、ステークホルダーとのコミュニケーションなど、バリューチェーン上の活動に影響を及ぼすものであり、「知らなかった」ことによる対策の遅れや企業全体のレピュテーションヘの影響が生じないよう、継続的な注視が必要でしょう。
*1: Kenneth Ewart Boulding
*2:Michael Braungart(ドイツの科学者)
*3:William McDonough(米国の建築家・工業デザイナー)
*4:2013年に国務院が公布した「循环经济发展战略及近期行动计划」を指す
*5: 中国は他にも固形廃棄物の輸入禁止など、トップダウンによる規制を実施。資源再利用に関するノウハウなど、推進に際して不十分な面において、欧州企業との連携などにより対応している側面がある
*6:欧州委員会、加盟国、民間団体は、より資源効率のよい経済に移行するためのハイレベル指針策定のための委員会「資源効率性プラットフォーム」を発足させ、製品パスポートおよび産業共生イニシアティブを通じた企業間での資源効率性改善のための取り組みを推進している
*7: Loi du 10 février 2020 relative à la lutte contre le gaspillage et à l'économie circulaire
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