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2021-06-30
サーキュラーエコノミー(循環型経済)という言葉を日常的に耳にするようになりました。これまでの一方通行の「リネア型」の経済モデルから、廃棄製品や原材料などを新たな資源として経済活動の複層段階で循環させる「クローズドループ型」の経済モデルへの転換を目指す動きが世界中で見られます。本稿では、サーキュラーエコノミー実現に向けたルール・政策動向と共に、企業が取り得る施策や新技術活用の可能性についての紹介および政府に求められる役割などを考察していきます。
企業がサーキュラー型ビジネスを推進するには、政府によるサーキュラー型事業への転換の必要性についての共通認識やインセンティブを醸成する施策も必要となります。そのためには、製品の製造や流通に留まらず、ライフサイクル、サプライチェーン全体を考慮した基準やルールを検討することが不可欠です。例えば、バリューチェーン上において、材料の生産から最終製品の製造までを自社のみで完結できている企業は稀であることから、調達や製造に係る特定の化学薬品やマテリアル使用に関する情報開示を求めていくことで、製品に対する透明性とトレーサビリティを確保し、よりスムーズに再製造、修理、改修、二次利用などの経済活動につなげていく施策が考えられます。
再生可能・生分解可能な原料やエネルギーの確保、生産という点においては、現行の持続性の高いエネルギーが従来のものと対等、またはそれ以上のコストメリットを担保できれば、企業の行動転換を後押しすることができるでしょう。再生可能エネルギーの発電および取引にかかるコストや、CO2排出権のように環境に与える影響の大きさが価格に反映される、あるいは環境負荷の高い素材や原料に対して支給される助成金額を縮小するといった施策も、サーキュラー型資源への転換を促すと考えられます。また、インセンティブにより企業行動の変革を後押しできるとも考えられます。フランスでは反廃棄物および循環経済法に基づき、企業が環境負荷の低減に取り組めるよう、再生材料や再生可能な資源の使用、耐用性、修理、再使用の可能性、危険物質の有無などの基準が設けられています。基準を満たす製品に対しては生産者がエコオーガニズム*1へ支払う拠出金が割り引かれ、満たさない製品に対しては拠出金が割り増しするというインセンティブ制度が導入されており、企業の行動変革に貢献しています。
廃棄物に関連する法規についても見直していく必要があります。日本は廃棄物の埋め立て地不足を解消するため、2001年以降廃棄物の削減、部品および資源の再利用促進、リサイクル向上を企図して循環型社会形成推進基本法を導入し、同基本法に基づいて策定された基本計画を5年ごとに見直しています。ただし、この基本計画は静脈産業を主眼としており、EUにおけるサーキュラーエコノミー政策のように調達や製品設計、修繕・アップグレードといった利用の在り方にまでは踏み込んでいません。また廃棄物処理法や資源有効利用促進法により廃棄物発生の抑制を狙っていますが、それだけでは十分ではなく、廃棄物や中古製品の二次利用を受け入れる制度の構築が求められます。中古品や使用済み素材の使用価値の向上、あるいは関連するデータの活用、情報交換プラットフォームの構築・活用促進などにより、廃棄物の活用にはリスクが伴うという企業の誤った認識を正していくことも、サーキュラーエコノミーへの転換には重要となるでしょう。
サーキュラーエコノミーへの投資や転換が企業にとってプラスとなるという機運を醸成し、そのための道筋となるガイダンスを提示し、企業が自主的にサーキュラーエコノミーへの転換に取り組む契機を創出することも、今後求められるでしょう。企業によるサーキュラーエコノミーの取り組み、投資促進のため環境省と経済産業省が2021年1月に発行した「サーキュラーエコノミーに係るサスティナブルファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」はその一例です。これはサステナビリティトランスフォーメーション(SX)を推進するため、企業が情報開示し、それに基づき投資家などが対話やエンゲージメントを行う際の手引きとして位置づけられており、開示・対話の際、あるいは事業を市場価値向上につなげる際に着眼すべき項目(「価値観」「ビジネスモデル」「リスクと機会」「戦略」「指標と目標」「ガバナンス」)を提示した上で、上位方針、実行、PDCAの階層ごとに相互関係を意識し、説明しいくことの重要性を提唱しています。こうした方向付けにより、サーキュラー型ビジネスへの転換には経済合理性が伴い、具体的なアクションが必要であるという合意形成を社会全体で図っていくことは、今後も不可欠となるでしょう。
サーキュラーエコノミー分野においては、EUが戦略・法規制・施策などについての域内・国際社会に対する発信力、実装の面で半歩リードしています。他方で、日本もこれまでの国際社会に対する貢献度は高く、その実績や環境対策のノウハウおよび技術を生かすことで、サーキュラーエコノミーに関連するルールや仕組みづくりに係るグローバルな舞台に積極的に参画し、発信していく余地が十分にあると考えられます。
2019年に大阪市で開催されたG20サミットでは、海洋プラスチック問題が主要テーマの1つとして取り上げられ、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」などが共有されました。また、経済産業省は同年、海洋生分解性プラスチックの開発・導入普及を官民一体で促進するため、海洋生分解性機能に係る新技術・素材の開発段階に応じ、技術・経済・制度面の主要課題と対策を取りまとめた「海洋生分解性プラスチック開発・導入普及ロードマップ」を策定しました。今後、当施策に基づいて実績を積み重ねることで、重要かつ重点的に取り組むべきアジェンダとして国際社会に継続的に発信していくことが期待されます。
当該分野においては国際標準化の目標も掲げられています。現在、海洋生分解性機能プラスチックに関する発行済みの国際規格(ISO22766*2、ISO22403*3)提案国は、イタリアとドイツのみであり、プラスチック製造企業が主体となり推進しています。日本としても今後、国内企業の技術水準、高性能な製品品質を考慮した性能・手法を適正に評価し、ビジネス拡大の契機となるような国際規格を策定するといった標準化戦略の検討も並行して行っていくことが望まれています。
国際的な場でのアジェンダ提示や標準化などを推進していく上では、潮流の見極めや長期的視点での人材育成も不可欠です。政府として、業界横断的にサーキュラーエコノミー施策による影響や企業の当分野での取り組みにおける技術革新や転換ポイントを見極めていくこと、国際社会への継続的な参画・発信が可能なサステナビリティ人材を育成していくことが、発信力やプレゼンスの向上につながっていくと考えられます。
*1:エコオーガニズム(Eco-organisme)は、2005年に法令によって設置された、使用済み製品や機器の回収を行う組織で、使用済み製品や機器の生産者と連携し、拡大生産者責任(EPR)の義務遂行を推進している
*2:「ISO 22766:2020 Plastics — Determination of the degree of disintegration of plastic materials in marine habitats under real field conditions」として廃棄プラスチックが多く堆積する海岸線周辺と海岸線から水深200mまでを試験地に想定した崩壊性試験を規定
*3:「ISO 22403:2020 Plastics — Assessment of the intrinsic biodegradability of materials exposed to marine inocula under mesophilic aerobic laboratory conditions — Test methods and requirements」として海洋での生分解性の評価方法を規定
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