
コラム‐GRC/ARCA Viewpoint 英国における重要サードパーティに係る規制動向の紹介
日本の金融機関がオペレーショナルレジリエンスに係る態勢構築を検討する上で参考となる、英国のCritical Third Party規制について解説します。
2020-01-23
オペレーショナルレジリエンスという言葉が、英国をはじめ海外の金融機関で近年、注目されています。例えば、英国の金融監督当局であるFCA(Financial Conduct Authority)ではビジネスプランにおいて、オペレーショナルレジリエンスを重要な領域として明記しています。また2019年12月に英国の中央銀行であるBOE(Bank of England)、FCA、健全性監督機構のPRA(Prudential Regulation Authority)からオペレーショナルレジリエンスに関するコンサルテーションペーパーが発出されています。レポートの内容についてはPwC 英国から概要の解説を公開しており、関心のある方はご覧ください。
英語版はこちら[PDF 331KB]/日本語版はこちら(仮訳)[PDF 334KB]
そもそもレジリエンスとは「回復力」や「復元力」という意味ですが、オペレーショナルレジリエンスはリスク事象(地震などの自然災害リスクやサイバーリスクなど多岐にわたる)が生じた場合にも企業が提供するサービスを継続できる、もしくは速やかに回復することができる能力のことを指します。
これだけを聞くと従来のBCP(事業継続計画)/BCM(事業継続マネジメント)とは何が異なるのか分かりにくいかと思います。本コラムでは、オペレーショナルレジリエンスにおけるいくつかの重要なポイントを紹介し、それを理解することで、顧客視点でリスク管理を捉える意義を考察します。
まず、オペレーショナルレジリエンスの考え方の特長ならびに重要なポイントとしては以下が挙げられます。
BCPやBCMにおいては多くの場合、自社の業務を起点にリスク評価を行い、重要な業務を特定・優先順位付けすることがなされていると筆者は考えます。オペレーショナルレジリエンスにおいては、重要な業務ではなく「重要なサービス」という言い方をしています。これは視点を金融機関からではなく、より顧客の視点から捉えることを強調したものです。つまり、顧客にとって重要な業務を特定し、有事でもサービスを継続するための施策を考案する、というアプローチを採るのです。
インパクトトレランス(impact tolerance)とはステークホルダーの視点から、企業の重要なサービスがリスク事象によって受ける影響をどの程度まで許容できるかを定めたものです。トレランスという言葉はリスクアペタイトフレームワークの中でもよく使用される言葉ですが、インパクトトレランスは顧客の視点でインパクトを捉えるものである点と、その発生の可能性については考慮しない点でリスクアペタイトとは異なります(リスクアペタイトは企業自体が自らの選好として取るリスクであり、その発生の可能性についても考慮するもの)。
End to Endとは言葉の通り、サービスのプロセスやバリューチェーンを最初から最後までつなげて捉えるという意味です。オペレーショナルレジリエンスにおいては、顧客にサービスが提供されるところまでを含めて、発生し得るリスク事象を考えます。また自社だけではなく、委託先を含むサードパーティをも含めて捉える必要があり、サービス提供に要する資源(システム、データ、人、有形資産も含む)まで全て含めたリスク認識・対策を行う必要があります。
一定の蓋然性を有するリスクシナリオを作成し、ストレス状況においてビジネスサービスの提供を継続できるか、またインパクトトレランスの範囲内で回復できるかを確認するストレステストも、オペレーショナルレジリエンスを測る上で重要な手段です。
ここまでポイントを説明してきましたが、PwCは主として欧米における金融機関に対する支援実績から、オペレーショナルレジリエンスに係るフレームワークを有しています。
PwCのオペレーショナルレジリエンスのフレームワークの特長は、現存する仕組み(BCP/BCM、サイバーセキュリティ、破綻処理準備態勢整備等)を保持したうえでそれらの整合性と連携を持たせるところにあります。
新たにオペレーショナルレジリエンスという枠組みを作るのではなく、オペレーショナルレジリエンスというフレームワークに既存の仕組みを組み込むというものです。
参考までに、PwC英国におけるサービス提供の経験から、おおまかな業態別に見たオペレーショナルレジリエンスの成熟度の現状を図表2に示します。
各業態においてオペレーショナルレジリエンスが浸透し、整備が進んでいるとは必ずしも言えません。しかしその準備は確実に進んでおり、今後その流れは加速するものと思われます。
出典:OPERATIONAL RESILIENCE IN FINANCIAL SERVICES: TIME TO ACT/ PwC, TheCityUK 2019 P.38[English][PDF 6,068KB](日本語訳は筆者)
ここまで読んでいただいた方の中には、顧客視点でのリスク管理という点で、コンダクトリスク管理を想起された方もいらっしゃると思います。
オペレーショナルレジリエンスもコンダクトリスク管理も、金融機関自らが顧客やステークホルダーからの期待を捉え、それに対して能動的に行動・リスク管理をしていくことが重要です。
オペレーショナルレジリエンスはサイバーセキュリティやシステム導入・更改などITやサードパーティに係るリスク、またコンダクトリスクは市場取引やセールスプラクティスに係るリスクがその中心として語られることが多く、両者が焦点を当てているリスクは必ずしも同一でないのが実際ではあります。しかし、顧客やステークホルダーを両リスク管理において同一のものとして整合させ、リスク管理の枠組みを捉え直すことは、顧客目線でのリスク管理を実現する上で有用なものと筆者は考えます。特にコンダクトリスクについては、その管理の方法はまだ確立されているわけではなく、オペレーショナルレジリエンスの考え方を参考にできる点も多いです。
両者を一体的に捉える考え方がトレンドとしてあるわけではありませんが、両者について整合する形で検討する場合に考慮すべき事項を以下にあげ、コラムを終わりにします。
日本の金融機関がオペレーショナルレジリエンスに係る態勢構築を検討する上で参考となる、英国のCritical Third Party規制について解説します。
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