IFRSを開示で読み解く(第38回)「公正価値測定」②レベル区分

2021-03-23

2021年3月23日
PwCあらた有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部

前回の「公正価値測定」①概要では、公正価値ヒエラルキーに基づくレベル区分(レベル1、レベル2またはレベル3)の概要についてご説明しました。

今回の公正価値シリーズ第2弾では、2020年11月末時点の日経225銘柄のうち、直近の有価証券報告書でIFRS連結財務諸表を公表している76社について、公正価値ヒエラルキーに基づくレベル区分の開示状況を紹介します。

1. 公正価値ヒエラルキーに基づくレベル区分の開示

IFRSにおいて公正価値で測定される項目はいろいろありますが、金融商品はその代表例といえます。「株式」「国債」「社債」といった項目の中でもインプットの観察可能性などに応じて商品ごとにレベル区分を検討する必要があります。

【公正価値ヒエラルキーに基づくレベル区分に関する開示例】

キリンホールディングス株式会社(2019年12月期)

公正価値ヒエラルキーに基づく レベル区分に関する開示例

レベル1に区分されるのは、活発な市場における無調整の相場価格で公正価値を算定している場合であり、一般に上場株式や上場社債などがレベル1に区分されます。一方、レベル2とレベル3の区分については、項目によってはレベル区分の判断が難しいものもあるかもしれません。以下では、調査対象としたIFRS適用企業76社におけるレベル2および3についての開示状況をまとめています。

レベル2および3についての 開示状況

次のセクションでは、上図でハイライトした項目についてレベル区分の検討要素に着目してさらに詳しく見ていきます。

2. レベル区分の検討

調査対象のIFRS適用企業76社では、公正価値測定の評価技法とインプットについて以下のような説明を付していました(各社の開示より抜粋)。

デリバティブ資産/負債

レベル2
・相対取引のデリバティブであり、ブローカーによる提示相場及び観察可能なインプットに基づき測定しております。
・観察可能な金利、イールド・カーブ、為替レートの市場のデータ、また測定日における類似の金融商品に含まれるボラティリティなどを指標とする評価モデルを使用しています。
・通貨デリバティブは先物相場や契約を締結している金融機関から提示された価格等、金利デリバティブは契約を締結している金融機関から提示された価格等、商品デリバティブは契約を締結している取引先から提示された価格等に基づいております。

レベル3
・先物時価を見積もった上で、観察不能なインプットとして使用し、インカム・アプローチなどにより評価しています。

公社債

レベル2
・金融機関等の独自の価格決定モデルに基づき、信用格付けや割引率などの市場で観察可能な基礎条件を用いて測定しています。

レベル2、3
・主に売買参考統計値、ブローカーによる提示相場等、利用可能な情報に基づく取引価格を使用して測定しているほか、リスクフリーレートや信用スプレッドを加味した割引率のインプットを用いて、割引キャッシュ・フロー法で測定しており、インプットの観察可能性および重要性に応じてレベル2またはレベル3に分類しています。

債権/貸付金

レベル2
・元利金の受取見込額を、新規に同様の貸付を行った場合に想定される利率で割り引いた現在価値に基づき算定しております。
・市場金利などの観察可能なインプットを基に、割引キャッシュ・フロー法を用いて公正価値を算定しております。

レベル3
・主に個別債権の信用スプレッド、デフォルト確率、予想損失率などの重要な観察不能インプットを基に割引キャッシュ・フロー法を用いて評価しております。
・一定の期間ごとに区分した債権ごとに、債権額を満期までの期間及び信用リスクを加味した利率により割り引いた現在価値に基づいて算定しております。したがって、信用リスクが観察不能であるため、公正価値の測定はレベル3に分類しております。

社債/借入金

レベル2
・市場価格に基づき算定する方法によっております。
・同一の残存期間で同条件の借入れを行う場合の金利を用いて、将来キャッシュ・フローを割引く方法により算定しております。

レベル3
・将来キャッシュ・フローを国債の利回り等適切な指標に信用スプレッドを上乗せした利率で割り引いて算定しており、公正価値ヒエラルキーはレベル3に分類しております。

レベル区分は測定に用いたインプットに基づき決定されます。例えば「割引キャッシュ・フロー法」という同じ評価技法を使用していても、そこに投入されるインプットの観察可能性およびその重要性によって、レベル2に区分されるケースもあればレベル3に区分されるケースもあります。それは、全体の測定にとって重要なインプットのうち最も低いレベルのインプットと同じレベルの公正価値ヒエラルキーに区分されるからです。

では、上記の公社債《レベル2、3》の開示内容を用いて、公正価値ヒエラルキーに基づくレベル区分をより具体的に考えてみましょう。

図解

※ここではインプットの性質(観察可能/観察可能でない)を以下のとおり仮定します。

  • 将来キャッシュ・フロー(CF):観察可能なインプット
  • 割引率(リスクフリーレート(RFR)):観察可能なインプット
  • 割引率(調整を行うためのインプット(IP)):観察可能でないインプット
インプットの 性質

観察可能でないインプットが重要でない場合はレベル2の公正価値測定、観察可能でないインプットが重要である場合はレベル3の公正価値測定と判定されます。

3. レベル間の振替

公正価値のレベル区分は当初認識後に変更される場合があります。例えば、非上場株式がその後上場株式となったケースでは、レベル3からレベル1へ区分変更されると考えられます。

このようなレベル間の振替について、企業は「振替時点の決定に関する方針」、すなわち、どのタイミングでレベル間の振替が発生したと考えるかの会計方針を開示します。企業は任意に方針を決定することができますが、首尾一貫した適用が求められます。一般には次のいずれかがよく用いられています。

  • 報告期間の期首時点
  • 振替を生じさせた事象または状況の変化の日
  • 報告期間の末日時点

【振替時点の決定方針に関する開示例】

ヤマハ株式会社(2020年3月期)

振替時点の決定方針に関する 開示例

実際にレべル間の振替が発生した場合は「振替の金額」および「振替の理由」を以下のように開示します。

【振替の金額・理由の開示例】

大塚ホールディングス株式会社(2019年12月期)

振替の金額・ 理由の開示例

調査対象としたIFRS適用企業76社についてレベル間の振替に関する開示企業数をまとめると以下の結果となりました。

レベル間の振替に関する 開示企業数のまとめ

振替理由としては、保有銘柄の上場や保有銘柄の上場廃止が多く挙げられていました。このような事実や環境の変化は、インプットの観察可能性および重要性に変化を生じさせるため、公正価値ヒエラルキーに基づくレベル区分に影響を及ぼすことがあります。

まとめ

公正価値シリーズの第2弾として、本稿では公正価値ヒエラルキーに基づくレベル区分の開示状況を紹介しました。

公正価値測定は、同じ評価技法を使用していてもインプットの観察可能性や重要性によってそのレベル区分が分かれます。

次回は、評価技法とインプットについてさらに詳しく紹介していきます。

※法人名、部署、内容などは掲載当時のものです。

執筆者

長谷川 友美

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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飛田 朋子

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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