第1の柱・利益Bに関する報告書を公表(OECD)

2024-05-13

2024年2月19日、OECD/G20包摂的枠組み(IF)は、第1の柱・利益Bに関する報告書を公表した。これは、特定の基本的な卸売マーケティング・販売活動に係る移転価格について、簡素化・合理化されたアプローチとして、2つのオプションを各国・地域に導入するものである。本報告書は、OECDが、2022年12月および2023年7月に利益Bに関して行った公開協議(本誌2023年2月号および9月号参照)に続くものである。本報告書の内容は、OECD移転価格ガイドライン(TPG)(2022年版)の第4章(移転価格に関する紛争の回避および解決のための税務執行上のアプロ-チ)の附属書(Annex)として組み込まれることになる。IFは、利益Bに関する追加ガイダンスを策定中で、2024年3月31日までに作業終了見込みとしている(その時点でTPGに追加される予定である)。利益Bを採用する国・地域のリストは、OECDのウェブサイトで公開される。

各国・地域は、2025年1月1日以後に開始する事業年度について、当該国・地域内で対象となる基本的販売活動を行う販売業者の対象取引に関して、本簡素化・合理化アプローチの適用を選択できる。本報告書では、対象となる販売業者の特徴を規定しており、たとえば、特定の経済的に重要なリスクを負うことや、ユニークで価値のある無形資産を保有することはできない。さらに、コモディティーやデジタル商品の販売など、特定の活動を行う場合は、適用対象外となる可能性がある。本ガイダンスの範囲は依然として有形商品の販売に限定されており、サービス(デジタルサービスを含む)は含まれていない。本簡素化・合理化アプローチでは、対象となる販売業者の売上利益率の決定に係る3ステップのプロセスを示している。また、文書化、移行に係る論点および税の安定性に係る検討事項についてのガイダンスを示している。本報告書には、以下が含まれる。(注1)

  • すべてのIFメンバー国・地域が本簡素化・合理化アプローチを採用する必要はない(選択性)。各国・地域が本簡素化・合理化アプローチを採用する場合、以下の2つのオプションがある。
    (i)すべての納税者に対して拘束力を持たせる
    (ii)納税者の選択(セーフハーバー)とする
  • 採用国・地域における利益Bに基づく移転価格結果は、非採用国・地域には拘束力を持たない。ただし、本報告書では、採用国・地域が一定の低キャパシティー国・地域('low-capacity jurisdiction’)である場合、利益Bに基づいて決定された結果をIFは尊重する旨のコミットメントがあるとしている。ただ、これにはいくつかの条件/例外がある点に留意が必要である。(注2)
  • 適格取引の範囲基準(Section 3)は、2023年7月の協議文書で提示された「代替案B」の定性的アプローチではなく、「代替案A」の定量的アプローチに従っているとみられる。なお、IFは、追加のオプションについて、基本的でない活動を行う販売業者を特定するための追加ステップとして、各国・地域が選択的に適用できる定性的な適用範囲の基準に取り組んでいる(2024年3月31日までに作業完了予定)としている。
  • 「価格マトリックス」(Table 5.1)は、特定の基本的な卸売マーケティング・販売活動に係る合意された利益率を示しており、2023年7月の協議文書と一貫している(売上に対する純利得の指標(NPI)が、業界グループ(販売商品により3区分)と、一定要素(純売上・純営業資産比率(OAS)および純売上・営業費用比率(OES)の高低に基づく5区分)の2つの軸でマッピングされている。価格マトリックスは引き続き15(3区分×5区分)の目標利益率があり(いくつか増減はあるものの)、売上利益率の全体的な範囲は1.5%から5.5%のまま(プラスマイナス0.5%を許容)となっている。以前提案されていた「修正価格マトリックス」は含まれていないが、「適格国・地域」(未定)に係るソブリン信用格付けに基づく純リスク調整(0.0%(BBB+、BBB)~8.6%(CCC-以下))は維持されている。
  • 価格マトリックス内の売上に対する純利得の指標を「クロスチェック」するための営業費用に対する利益率のレンジ(OASの高低に応じ、上限(‘cap’)は40%、60%、70%(適格国・地域は45%、70%、80%)の3段階、下限(‘collar’)は一律10%)のアプローチについて、より詳細な情報がある。

(注1)本報告書の附属書として、ベンチマーク検索基準(Appendix A)、および8つの事例(Appendix B)がある。
(注2)インドは本コミットメントに同意していない。また、ニュージーランドは利益Bを採用しない(既存の簡素化措置や移転価格ルールで対応する)旨を公表しており、オーストラリアにも同様の動きがみられる。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2024年4月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修