PwC Legal Tax Newsletter (2024年9月)

知的財産権と税務の交錯-生成AIサービス提供海外事業者への支払いと源泉徴収の要否

PwC弁護士法人のタックスローヤー(税法を専門とする弁護士)は、税務コンプライアンスを意識した経営を志向される企業の皆様のニーズに応えるため、付加価値の高い総合的なプロフェッショナルタックスサービス(税務アドバイス、事前照会支援、税務調査対応、税務争訟代理等)を提供しています。PwC Legal Tax Newsletterでは、当法人のタックスローヤーが、企業や個人の取引実務や税務上の取扱いに影響し得る裁判例・裁決例その他税法に関するトピックを取り上げて、その内容の紹介や解説をします。

昨今、AI技術の進展により、人間の自然言語や画像等による指示を受け、人間が自力で作成したものと見紛うような文章や画像等のコンテンツを生成することのできる生成AIを利用したサービス(以下「生成AIサービス」といいます)の普及が急速に進んでいます。今後、企業が業務効率化を図るためには、生成AIサービスを利用することが必要不可欠となると考えられますが、かかる生成AIサービスを業務上利用する際には、さまざまな法的問題を検討することが必要です。その中には、著作権侵害や個人データ保護法制上の問題に関する検討のみならず、外国企業が提供する生成AIサービスの利用の対価を日本企業が支払う際の源泉徴収の要否(所得税法212条1項、161条1項11号ロ)などの税務上の問題の検討が含まれます。

そこで、今回は、外国企業が提供する生成AIサービスを日本企業が利用する事例を念頭に、源泉徴収の要否を判断する際の考え方について解説します。

1. 事例

日本企業が、シンガポール企業に対してサービス利用料(以下「本利用料」といいます)を支払い、当該シンガポール企業が開発した、AIを用いた広告生成プログラム(以下「本プログラム」といいます)を、自ら利用し、又は、シンガポール企業に利用させ、それにより生成された広告(以下「本広告」といいます)を業務上利用する事例として以下の2つ(総称して、以下「本事例」といいます)を想定した上で、本利用料の支払いの際の源泉徴収の要否を検討します。

なお、昨今、クラウドサービス等の普及により、上記のような場面において、日本企業が、プログラム自体については、複製等の著作権法21条から28条に規定されている各支分権の内容となっている行為(以下「法定利用行為」といいます)を行わない事例も増加しております。

そこで、以下のいずれの事例においても、日本企業が本広告を業務上利用することにより源泉徴収が必要となるか否かとの観点に絞って検討を行い*1、その他に、日本企業による本プログラムに係る法定利用行為、シンガポール企業に帰属する著作権の日本企業への譲渡並びにシンガポール企業が有するノウハウの日本企業による使用及び譲受は存しないことを前提とします。

(1) 事例①

シンガポール企業は自己のクラウドサーバー上でユーザーに本プログラムを利用させるクラウドサービスを提供しているところ、日本企業が本利用料を支払って当該クラウドサービスを利用し、それにより生成された本広告について業務上、複製等の法定利用行為を行う事例(以下「本事例①」といいます)

(2) 事例②

シンガポール企業はユーザーからの依頼を受けて、自ら本プログラムを利用して本広告を生成・納品するサービスを提供しているところ、日本企業が本利用料を支払って当該サービスを利用し、納品された本広告について業務上、複製等の法定利用行為を行う事例(以下「本事例②」といいます)

2. 「著作権…の使用」の意義

日本の所得税法上、外国法人に対し、国内において「著作権…の使用料」(同法161条1項11号ロ)の支払いをする者は、その支払いの際に源泉徴収が必要となります(同法212条1項)。ここでいう「著作権…の使用」の意義については、所得税基本通達161-35において、「著作権の使用料とは、著作物(著作権法第2条第1項第1号《定義》に規定する著作物をいう。以下この項において同じ。)の複製、上演、演奏、放送、展示、上映、翻訳、編曲、脚色、映画化その他著作物の利用又は出版権の設定につき支払を受ける対価の一切をいう」とされていること等を踏まえると、著作権法上の法定利用行為を意味すると考えられます。

この点、本事例では、日本企業が本広告について業務上、複製等の法定利用行為を行うところ、本広告に係る著作権がシンガポール企業に帰属する場合には、当該「著作権…の使用」が存することとなります。

また、本事例では、シンガポール企業が本プログラムを開発し、本プログラムを利用したサービスを提供しているところ、本プログラムのAI学習用データに、シンガポール企業自身が著作権を有する著作物(過去に自身で作成した広告等)が含まれている場合には、当該「著作権…の使用」の有無が問題となります。

更に、本事例②に特有の問題として、シンガポール企業が本プログラムに対して広告生成の指示を行う際に、自身が著作権を有する著作物を入力した場合には、当該「著作権…の使用」の有無も問題となります。

なお、本事例では、日本とシンガポールとの間の租税条約*2(以下「日星租税条約」といいます)が適用されますが、同条約は、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる「使用料」に対して、当該「使用料」が生じた締約国においても、当該締約国の法令に従って租税を課することができると規定しています(同条約12条1項、2項)。そして、ここでいう「使用料」には、「文学上、美術上若しくは学術上の著作物…の著作権…の使用若しくは使用の権利の対価として…受領するすべての種類の支払金」が含まれています(同条3項)。したがって、日星租税条約上も、「著作権…の使用」の意義が問題となりますが、日星租税条約には「著作権…の使用」の定義は定められていないことから、原則として日本の所得税法と同様に解することとなります(同条約3条2項等参照)。

3. 「著作権…の使用」の有無

以上を踏まえ、本事例において、シンガポール企業に帰属する著作権について、日本企業による「著作権…の使用」が存するか否かを検討します。

(1) 本事例①について

①本広告に係る著作権がシンガポール企業に帰属するか

1993年11月に公表された「著作権審議会第9小委員会(コンピューター創作物関係)報告書」(以下「第9小委員会報告書」といいます)*3は、コンピュータ・システムを使用した創作活動の成果として出力された表現(以下「コンピュータ創作物」といいます)について、人間がコンピュータ・システムを道具として創作したものとして著作物性が肯定されるためには、思想感情をコンピュータ・システムを使用してある結果物として表現しようとする「創作意図」、及び、創作過程において具体的な結果を得るための人間による「創作的寄与」が必要である*4とした上で、「コンピュータ創作物に著作物性が認められる場合、その著作者は具体的な結果物の作成に創作的に寄与した者と考えられるが、通常の場合、それは、コンピュータ・システムの使用者であると考えられる。…プログラムの作成者は、プログラムがコンピュータ・システムとともに使用者により創作行為のための道具として用いられるものであると考えられるため、一般的には、コンピュータ創作物の著作者とはなり得ないと考えられる」という見解を示しています。また、2017年3月に公表された「新たな情報財検討委員会報告書」*5(以下「新たな情報財検討委員会報告書」といいます)36頁は、上記第9小委員会報告書の見解を踏まえた上で、「AIのプログラムや学習済みモデル作成者は、一般的にはAI生成物の著作者になり得ないと考えられる。もっとも、第9小委報告書の指摘を前提に考えれば、AIのプログラムや学習済みモデルの作成者と利用者の創作行為に共同性が認められるような例外的な場合*6、AIのプログラムや学習済みモデルの作成者と利用者が共同著作者となる余地がある。同じく同報告書は『プログラムの作成者が自ら特定の創作物の作成を意図して、そのために作成されたものであると客観的に認識できる程度の特定性があるプログラムを作成し、使用者は単なる操作者にとどまる場合には、当該プログラムの作成者が単独でコンピュータ創作物の著作者となることもあり得ると考えられる。』とするが、これについても、AIのプログラムや学習済みモデルの作成者を前記『プログラムの作成者』に、学習済みモデルの利用者を前記『使用者』に、置き換えて理解することができると考えられる」という見解を示しています。

以上の第9小委員会及び新たな情報財検討委員会報告書の見解を踏まえると、本事例①では、シンガポール企業は、本プログラムを開発・提供しているものの、本広告の生成に際して自ら本プログラムを利用しないため、当該シンガポール企業に本広告に係る著作権が帰属するのは例外的な場面に限られると考えられます*7

したがって、本広告に係る著作権がシンガポール企業に帰属し、日本企業による当該「著作権…の使用」が存すると判断され、その点を理由として日本企業において本利用料の支払いの際に源泉徴収が必要となると判断される場面は少ないと考えられます。

②本プログラムのAI学習用データにシンガポール企業自身が著作権を有する著作物が含まれている場合

AI生成物の作成が既存の著作物に依拠しており、かつ、当該AI生成物から当該既存の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができる場合、当該AI生成物を作成する行為は当該既存の著作物の「複製」(著作権法2条1項15号)又は「翻案」(著作権法27条)に該当します*8

そして、2024年3月に公表された「AIと著作権に関する考え方について」*9(以下「文化庁の『考え方』」といいます)34頁は、生成AIの学習用データに既存の著作物が含まれている場合、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合には、通常、当該著作物への依拠があったことが推認される*10という見解を示しています。

かかる見解を踏まえると、本事例①において、本プログラムのAI学習用データにシンガポール企業自身が著作権を有する著作物が含まれており、かつ、当該著作物と本広告が類似している場合には、通常、当該著作物への依拠が推認されることとなり、更に、生成された本広告から当該著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができる場合には、日本企業が本プログラムを利用して本広告を生成する行為は、当該著作物の複製又は翻案に該当すると考えられます。複製又は翻案に該当する場合、本広告は当該著作物の複製物又は二次的著作物(著作権法2条1項11号)になるため、日本企業による本広告の生成及び本広告についての複製等の法定利用行為はいずれも、シンガポール企業に帰属する当該著作物に係る「著作権…の使用」に該当します。

(2) 本事例②について

①本広告に係る著作権がシンガポール企業に帰属するか

新しい情報財検討委員会報告書36頁は、「AI生成物を生み出す過程において、学習済みモデルの利用者に創作意図があり、同時に、具体的な出力であるAI生成物を得るための創作的寄与があれば、利用者が思想感情を創作的に表現するための『道具』としてAIを使用して当該AI生成物を生み出したものと考えられることから、当該AI生成物には著作物性が認められその著作者は利用者となる。…一方で、利用者の寄与が、創作的寄与が認められないような簡単な指示に留まる場合…当該AI生成物は、AIが自律的に生成した『AI創作物』であると整理され、現行の著作権法上は著作物と認められないこととなる」という見解を示しています。

この点、創作意図については、第9小委員会報告書が「コンピュータを使用して自らの個性の表れとみられる何らかの表現を有する結果物を作る」という程度の意図があれば足りるという見解を示しているところ、かかる見解に従えば、AI生成物の著作物性及び著作者を検討する上で創作意図が問題となることは少ないと考えられます*11

これに対し、創作的寄与については、どのような場合に認められるかが問題となるところ、文化庁の『考え方』39-40頁は、創作的寄与の有無に関して考慮されると考えられる要素の例*12として、①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、②生成の試行回数、及び③複数の生成物からの選択を挙げるとともに、各要素に関する考え方を示しています。これらの要素のうち、特に①については、AI生成物を生成するに当たっての「創作的表現といえるもの」を具体的に示す詳細な指示が、②については、生成物を確認し、指示・入力を修正しつつ試行を繰り返したことが、創作的寄与が認められる可能性を高めることが示唆されています*13

以上を踏まえると、本事例②において、例えば、シンガポール企業が日本企業から、希望する広告の抽象的なイメージや広告の目的等をヒアリングした上で、当該ヒアリング結果に沿うような広告を具体的にイメージしつつ、そのような広告が生成されるよう、広告の具体的な表現(イラストと文章の位置関係等)を詳細に指定する指示を本プログラムに対して入力するとともに、生成された本広告を直ちに納品するのではなく、当該イメージに到達するまで、本広告の具体的な表現に関する修正指示を本プログラムに繰り返し入力し、試行錯誤を重ねたような場合には、シンガポール企業の本広告を得るための創作的寄与が認められ、シンガポール企業に本広告に係る著作権が帰属する可能性があると考えられます。シンガポール企業に当該著作権が帰属する場合、日本企業は納品された本広告について複製等の法定利用行為を行うことから、当該「著作権…の使用」が存することとなります。

②本プログラムのAI学習用データにシンガポール企業自身が著作権を有する著作物が含まれている場合

本事例②においても、本プログラムのAI学習用データにシンガポール企業自身が著作権を有する著作物が含まれている場合には、前記3.(1)②にて解説した内容が基本的に妥当すると考えられます。

もっとも、本事例①に係る前記3.(1)②の場面では、本プログラムを利用するのはユーザーたる日本企業であり、当該著作物の表現内容を認識していないことが少なくないと考えられる一方で、本事例②においては、本プログラムを利用するシンガポール企業は、自身が著作権を有する当該著作物の表現内容を認識しているという差異があります。

この点、前記3.(1)②のとおり、AI生成物の作成が既存の著作物に依拠しており、かつ、当該AI生成物から当該既存の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができる場合、当該AI生成物を作成する行為は当該既存の著作物の複製又は翻案に該当するところ、文化庁の『考え方』33頁は、「AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AIを利用して当該著作物の創作的表現を有するものを生成させた場合」には、当該既存の著作物への依拠が認められるという見解を示しています。また、そのような場合の例として「Image to Image(画像を生成AIに指示として入力し、生成物として画像を得る行為)のように、既存の著作物そのものを入力する場合」及び「既存の著作物の題号などの特定の固有名詞を入力する場合」が挙げられています。

これらの見解及び例を踏まえると、本事例②において、少なくとも、シンガポール企業が本プログラムのAI学習用データに含まれている自身が著作権を有する著作物との類似物を生成させる意図を有していた場合には*14、生成された本広告の当該著作物への依拠が(「推認」ではなく)認められるものと考えられます。

この場合、更に、仮に生成された本広告から当該著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができる場合には、本広告は当該著作物の複製物又は二次的著作物になると考えられ、日本企業がシンガポール企業から納品された本広告について複製等の法定利用行為を行うことは、シンガポール企業に帰属する当該著作物に係る「著作権…の使用」に該当すると考えられます。

③シンガポール企業が本プログラムに対して自身が著作権を有する著作物を入力した場合

前記3.(2)②で紹介した文化庁の『考え方』33頁の見解及び例を踏まえると、本事例②において、シンガポール企業が本プログラムに対して広告生成の指示を行う際に、自身が著作権を有する著作物を入力した場合には、それによって生成された本広告の当該著作物への依拠が認められるものと考えられます。

したがって、仮に本広告から当該著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができる場合には、本広告は当該著作物の複製物又は二次的著作物になると考えられ、日本企業がシンガポール企業から納品された本広告について複製等の法定利用行為を行うことは、シンガポール企業に帰属する当該著作物に係る「著作権…の使用」に該当すると考えられます。

4. 「著作権…の使用若しくは使用の権利の対価」の意義とOECDコメンタリー

仮に本事例において、シンガポール企業に帰属する著作権について、日本企業による「著作権…の使用」が存するとしても、直ちに、本利用料の支払いの際に源泉徴収が必要となるわけではありません。源泉徴収が必要となるのは、本利用料が日星租税条約上の「著作権…の使用若しくは使用の権利の対価」(同条約12条3項)に該当する場合であるため、「対価」への該当性について別途検討する必要があります*15

この点、「著作権…の使用若しくは使用の権利の対価」の意義については、日星租税条約、所得税法及び著作権法のいずれにおいても定義されていません。もっとも、日星租税条約は、経済協力開発機構(以下「OECD」といいます)が作成したモデル租税条約(以下「OECDモデル租税条約」といいます)に倣ったものであるところ、OECDモデル租税条約については、各条項の具体例及び解釈を示すためにOECD租税委員会によって作成されたコメンタリー(以下「OECDコメンタリー」といいます)が存在します。OECDコメンタリーには、「著作権…の使用若しくは使用の権利の対価」への該当性を判断するための一般的かつ明確な基準までは示されていないものの、(「著作権…の使用」が存する場合であっても)「著作権…の使用若しくは使用の権利の対価」には該当しないと考えるべき複数の事例等が示されています。

そして、OECDコメンタリーは、判例上、条約法に関するウィーン条約(昭和56年条約第16号)32条にいう「解釈の補足的な手段」として、日星租税条約の解釈に際しても参照されるべき資料とされていますので*16、本利用料が「著作権…の使用若しくは使用の権利の対価」に該当するか否かの検討に当たっては、(日本企業による「著作権…の使用」の存否を検討するのみならず、更に)「対価」に該当するか否かについて、上記のOECDコメンタリーが示す事例等も踏まえつつ、個別具体的に検討していく必要があります。

5. まとめ

以上のように、生成AIサービス提供海外事業者に対して日本企業が対価を支払う際に、所得税法161条1項11号ロ所定の「著作権…の使用料」へ該当することを理由として源泉徴収を要することになるか否かを判断する際には、(a)AI生成物に係る著作権が当該事業者に帰属しているか、又は、AI学習用データに含まれる若しくはAI生成物を作成する際に入力される当該事業者自身が著作権を有する著作物その他の関連する当該事業者の著作権は存するか、(b)当該著作権について日本企業が法定利用行為を行うか、及び(c)当該対価について、OECDコメンタリーを踏まえてもなお関連する租税条約上、日本に課税権が認められるか(日星租税条約が適用される場合、同条約12条3項所定の「著作権…の使用若しくは使用の権利の対価」に該当するか)について検討する必要があります。

これらの検討は、契約内容等を含む諸般の事実関係を踏まえ、著作権法及び租税法双方の観点から個別具体的に行う必要があるため、企業において重要な取引となる場合には、生成AIサービスを利用する前に弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。

*1 本事例のような場面においては、関連する租税条約の内容次第では、実務上、外国企業が「国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令で定めるものを行う者」(所得税法161条1項6号)に該当し、日本企業が当該外国企業に支払う対価が「当該人的役務の提供に係る対価」(同号)に該当することを理由として、源泉徴収が必要となるか否かについても検討する必要性が生じ得ますが、知的財産権に関連する税務について解説するという今回のテーマに鑑み、検討の対象外とします。

*2 正式名称は、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定」(平成7年条約第8号)です。

*3 文化庁「著作権審議会第9小委員会(コンピューター創作物関係)報告書」(1993年11月)。

*4 厳密には、第9小委員会報告書では、創作意図及び創作的寄与に加えて、「結果物が客観的に思想感情の創作的表現と評価されるに足る外形を備えていること」も必要とされていますが、「この点の判断については、コンピュータ創作物であっても、コンピュータを使用しない通常の創作物であっても変わるものではないと考えられる」という見解も併せて示されており、コンピュータ創作物の著作物性との関係で特に問題となるのは創作意図及び創作的寄与の有無であると考えられます。

*5 知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会新たな情報財検討委員会「新たな情報財検討委員会報告書-データ・人工知能(AI)の利活用促進による産業競争力強化の基盤となる知財システムの構築に向けて-」(2017年3月)。

*6 第9小委員会報告書では、プログラムの作成行為と使用者の創作行為に共同性が認められるのであれば、プログラムの作成者とコンピュータ・システムの使用者が共同著作者となる場合もあり得るという見解が示されており、例として、「使用者とプログラマーが特定の創作物を共同して創作する意図の下に共同作業計画を策定し、それを踏まえてプログラマーが特定の創作物作成の用に供するためのプログラムを作成する場合」が挙げられています。

*7 前田健「AI生成物の著作物性」上野達弘=奥邨弘司編『AIと著作権』(勁草書房、2024)164頁では、「AIを作成する者には、通常、創作的寄与が認められない。ただし、(追加)学習用データの重要な部分に自己の著作物を用いるなどして、生成物の創作的表現の幅を規定することに多大な貢献をしたと認められる例外的な場合においては、創作的寄与をしていると認められる場合もあるように思われる」という見解が示されています。

*8 髙部眞規子「著作権侵害訴訟における主張立証と『AIと著作権に関する考え方について』」ジュリスト1599号(2024)80-81頁、髙部眞規子『実務詳説 著作権訴訟〔第2版〕』(きんざい、2019)252-253頁等参照。

*9 文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)。

*10 文化庁の『考え方』34頁では、当該生成AIにおいて、学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において出力される状態となっていないと法的に評価できる場合には、AI利用者において当該評価を基礎づける事情を主張することにより、当該生成AIが開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合であっても、当該既存の著作物への依拠はないと判断される場合はあり得る旨の見解が示されています。

*11 前田・前掲注7 160頁では、「創作意図は、当該結果物を得たいという意図があれば足り、予め計画してその具体的な表現を意図的に作成したことまでは求められない」という見解が示されています。

*12 文化庁著作権課「『AIと著作権に関する考え方について(素案)』に関するパブリックコメントの結果について」(2024年2月29日)中の「『AIと著作権に関する考え方について(素案)』に関する意見募集に寄せられた主な意見」(以下「パブコメ回答」といいます)No.368参照。

*13 パブコメ回答No.378参照。

*14 なお、文化庁の『考え方』33頁が「生成AIを利用した場合であっても、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AIを利用して当該著作物の創作的表現を有するものを生成させた場合は、依拠性が認められ」ると述べていることからすれば、文化庁の『考え方』の見解は、AI利用者が既存の著作物との類似物を生成させる意図を有していなかった場合であっても、既存の著作物を認識している場合には、常にAI生成物の既存の著作物への依拠が認められるとする見解であると解する余地があります。もっとも、中川達也「AIと著作権(生成・利用段階について)」ジュリスト1599号(2024)70頁は、AI利用者にこのような意図がない場合に、AI利用者の既存の著作物の認識のみをもって既存の著作物への依拠を認めるか否かについて、文化庁の『考え方』は「肯定も否定もしていないと理解するのが適当と考える」旨の見解を示しています。

*15 本論点の詳細については、当法人のニュースレター「知的財産権と税務-『著作権の使用料』の解釈と源泉徴収の要否」もご参照ください。

*16 最判平成21年10月29日民集63巻8号1881頁(グラクソ事件)参照。

PDF版ダウンロードはこちら

執筆者

北村 導人

北村 導人

パートナー, PwC弁護士法人

黒松 昂蔵

ディレクター, PwC弁護士法人

黒瀧 海詩

PwC弁護士法人

本ページに関するお問い合わせ