PwC Legal Tax Newsletter (2025年3月)

グループ内再編による繰越欠損金の引継ぎに係る納税者勝訴地裁判決 (東京地判令和6年9月27日)

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今回は、グループ内再編による繰越欠損金の引継ぎに係る納税者勝訴地裁判決(東京地判令和6年9月27日LEX/DB文献番号25621971。以下「本判決」といいます)をご紹介します。
本件は、国側が控訴しており、控訴審において本判決の判断が維持されるか不明であるものの、適格合併による繰越欠損金の引継ぎについて法人税法132条の2の適用が争われ、同条を適用してなされた更正処分が裁判所によって取り消された初めての事案として注目に値するものと考えられます。

1. 事案の概要

本判決に係る事案(以下「本事案」といいます)においては、企業グループ内合併による繰越欠損金の引継ぎが問題となりました。
かかる事案の特質を踏まえ、以下、①繰越欠損金が生じた経緯(後記(1))、②資本関係の変動(後記(2))、③合併の概要(後記(3))、④グループ内再編に係る検討経緯(後記(4))、の順にて事案の概要を記載します。

(1) 繰越欠損金が生じた経緯

2009年2月2日付けで、ゴルフ場事業等を営む法人数社の買収(以下「本件買収」といいます)が行われたところ、かかる買収の対象となった法人の一つ(以下「S1」といいます)が、簿外債務(以下「本件簿外債務」といいます)を抱えている可能性が存したため、同年、本件簿外債務に係るリスクに対応すべく、以下の①及び②の方策が実施されました。

①本件簿外債務を除くS1の事業を新設分割により新設法人に移管(以下「本件分割」といいます)

②当該新設分割の対価としてS1が取得した当該新設法人の株式を譲渡(以下「本件株式譲渡」といいます)

  • 本件分割及び本件株式譲渡の結果、S1において多額の税務上の欠損金額(約58億円)が生じました。

(2) 資本関係の変動

ア 完全支配関係の成立

  • 2015年当時、S1の兄弟会社であった法人(以下「S2」といいます)の発行済株式の総数に占める、S2の直接の親法人(以下「P」といいます)が保有するS2株式の数の割合は99.99%であり、残りのS2株式は他の者(以下「H」といいます)が保有していました。
  • 然るところ、同年10月9日付けで、Hが保有するS2株式をS2が自己株式取得(以下「本件自己株式取得」といいます)した上で消却し、その結果、PがS2の発行済株式の全てを保有することとなり、S1とS2との間に法人税法(平成29年法律第4号による改正前のものであり、以下「法法」といいます)2条12号の7の6所定の完全支配関係(以下「完全支配関係」といいます)が生じました。
  • また、S2株式をHが保有し続けた場合、Pが属する企業グループが資金調達のために2014年2月25日付けで締結したシンジケートローン契約(以下「本件シンジケート契約」といいます)所定の条項(以下「本件コベナンツ条項」といいます)に違反する事態が生じ得たところ、本件自己株式取得には、かかるリスクへの対処との目的も存しました。

イ 合併直前の資本関係

  • 本件自己株式取得を経て、本事案にて問題となった合併(2016年12月14日付けで合併契約が締結され、2017年に効力発生したものであり、以下「本件各合併」といいます)の効力発生日直前時点における関係当事者の資本関係は下図の通りとなりました。

(3) 本件各合併の概要

  • 本件各合併は、以下の①の合併(以下「本件合併1」といいます)及び②の合併(以下「本件合併2」といいます)の2段階で実施され、具体的には、同日付けで、本件合併1の効力発生を停止条件として本件合併2が実施されました。

本件合併1:S1を被合併法人、S2を合併法人、対価を無対価とする吸収合併

本件合併2:S2、G1、G2及びG3を被合併法人、原告を合併法人、対価を原告株式とする吸収合併

  • また、以下の(i)及び(ii)の通り、法法上の個別規定の適用の結果、S1の繰越欠損金(以下「本件NOL」といいます)が、S2を経て原告に引き継がれました。

(i) 本件合併1に伴う本件NOLの引継ぎ:S1は事業を営んでいなかったものの、S1とS2との間に完全支配関係が存したため、本件合併1は法法2条12号の8所定の「適格合併」(以下「適格合併」という)に該当し、その結果、法法57条2項に基づき、本件NOLがS1からS2へ引き継がれた。

(ii) 本件合併2に伴う本件NOLの引継ぎ:S2と原告との間に完全支配関係は存せず、法法2条12号の7の5所定の「支配関係」(以下「支配関係」という)が存する状態であったが、S2は事業を営んでいたところ、法法2条12号の8ロ(1)所定の要件(以下「従業者引継要件」という)*1及び同号ロ(2)所定の要件(以下「事業継続要件」という)*2を充足する本件合併2は適格合併に該当し、その結果、法法57条2項に基づき、本件NOLがS2から原告へ引き継がれた。

(4) グループ内再編に係る検討経緯

ア 過去から採用されているビジネスモデル

  • 本事案にて問題となった企業グループ(以下「本件企業グループ」といいます)は、経営危機に陥るなどしたゴルフ場運営法人を買収して規模を拡大させ、多数のゴルフ場を本部で集中管理し、ゴルフ用品等を一括購入するなどしてスケールメリットを追求するとともに、買収により増え続ける子会社の数を合併により削減することにより、経営の合理化・効率化を追求するというビジネスモデル(以下「本件ビジネスモデル」といいます)の下で事業を営んでいました。実際に、かかる買収と吸収合併が繰り返された結果、本件企業グループ内の法人数は、2006年末をピークに、概ね右肩下がりに減少し、監査報酬・税理士報酬が15年間で累計7,734万円削減されるといった成果も生じていました。

イ S1を合併させることの事業目的

  • 本件企業グループにおいて、S1を同グループ内の既存法人に吸収合併することとしたのは、本件簿外債務に係る新たな債権者が現れる可能性が低く、本件簿外債務に係る債権は概ね時効により消滅しており、本件簿外債務に係るリスクが顕在化する可能性は低減していると評価し、S1を本件ビジネスモデルに基づく組織再編成の対象から除外して残存させておくべき特段の必要性はないと判断したことによるものでした。また、清算ではなく合併をした理由については、本件企業グループでは過去に清算の経験が少なかったこと及び清算の公告をすると潜在的債権者を刺激して何か反応をされる可能性があるためでした。

ウ 本件各合併に係る課税関係の検討

  • 本件各合併に先立って行われた本件企業グループの組織再編に係る検討過程にて作成された書面において、本件各合併によるメリットとして「被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことによる税金費用の削減」が挙げられるとともに、かかる検討の過程において、本件各合併につき、S1が「休眠会社」であることや、原告に対して本件NOLを引き継がせるに当たり、組織再編税制上、原告とS1が直接合併すると従業者引継要件及び事業継続要件の欠缺により適格合併ではなく非適格合併として取り扱われることになるため、本件企業グループ内におけるS2の株式の保有割合を100%にした上で、S1とS2が合併した後に、合併法人であるS2が原告と合併する二段階の合併が必要であることなどが指摘されていました。

2. 本件の争点

  • 本件の争点は、本件各合併が法法132条の2所定の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するか否かです(以下、かかる要件を「不当性要件」といいます)。

3. 判示の概要

(1) 不当性要件に係る判断枠組み

ア 先例に倣った判示

  • まず、本判決は、先例である最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁(以下「ヤフー事件最高裁判決」という)及び最判平成28年2月29日民集70巻2号470頁(以下「IDCF事件最高裁判決」といい、両判決を併せて「ヤフー・IDCF事件最高裁判決」という)に倣い、不当性要件に係る判断枠組みについて以下の通り判示しました。

「『法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』とは、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものである〔注:以下、かかる不自然なものであるとの特徴を「不自然性」という〕かどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由〔注:以下「合理的事業目的等」という〕が存するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である」〔下線・強調・傍点は当職ら。以下同じ〕

イ 独自の判示

  • 続けて、本判決は、独自の判示として、以下の通り判示しました。

「①適格合併が行われた結果、未処理欠損金額が引き継がれ、租税負担が減少する場合があるというのは、組織再編成税制が予定しているものであること…、②…株式会社が事業の目的に沿って種々の経済活動を遂行するに当たり、業務の管理・遂行上、財務上又は税務上等の様々な観点から、利益を最大化し得る方法を法令の許容する範囲内で自由に選択することができると解されること」から「行為・計算の不自然性が全く認められない場合や、そのような行為・計算を行うことの合理的な理由となる事業目的等が十分に存在すると認められる場合には、他の事情を考慮するまでもなく、組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用したものということはできず、不当性要件に該当すると判断することは困難である」

「株式会社が合理的な事業目的のある組織再編成を行うに当たり、通常は想定されない手順や方法ではなく、実態と乖離した形式を作出するものでもない、不自然性の全く認められない複数の手順や方法の中から最も税負担の少ないものを採ったとしても、そのことから直ちに組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用したものということはできない(例えば、…いつ合併するかは基本的に当事者の自由であり、合併につき合理的な事業目的がある場合には、税務上の効果が最大となる時期を見定めて合併を実行したとしても、そのことから直ちに不当性要件に該当すると判断することはできないと解される。)」

(2) 法法57条2項等の趣旨及び目的

  • 前記(1)に記載の判断枠組みにおいては、適格合併が行われた場合における未処理欠損金額の取扱いを定めた法法57条2項及び81条の9第2項2号イ(以下「法法57条2項等」という)の本来の趣旨及び目的を踏まえた判断が必要であるところ、本判決は、当該趣旨及び目的について、結論として、以下のように判示しました。

「組織再編税制に係る法人税法57条2項等の趣旨及び目的は、組織再編成により資産を移転する前後で経済実態に実質的な変更がない場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させるというものであり、経済実態に実質的な変更がないか否かを判断するなどのために、法人税法2条12号の8及びこれを受けた法人税法施行令4条の3等において、適格合併と判定するための具体的な要件が定められているものと認められる」

完全支配関係適格合併〔筆者ら注:被合併法人と合併法人との間に完全支配関係がある場合の適格合併。以下同じ〕の場合において、『合併による事業の移転及び合併後の事業の継続』が法人税法57条2項等の適用の『前提』となっているとか、『合併による事業の移転及び合併後の事業の継続』がない完全支配関係適格合併に上記規定を適用することはその本来の趣旨及び目的に反するなどと解することはできない

  • また、かかる結論を導くに当たっては、例えば、以下のような点が考慮されています。

① 平成13年度税制改正により導入された組織再編税制の基本的な考え方
「実態に合った課税を行うという観点から、原則として、移転資産等についてその譲渡損益の計上を求めつつ、組織再編成により資産を移転する前後で経済実態に実質的な変更がない場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を維持させるというもの」

② 平成12年の税制調査会法人課税小委員会(以下「小委員会」という)における組織再編税制に係る議論及びその後の組織再編税制の立法の過程(国会審議を含む)

③ 平成13年度税制改正の際に立法作業に関与した者の意見書等

④ 法法132条の2に係る課税実務
「完全子会社の事業継続が困難となり、親会社が当該完全子会社を吸収合併した上で、継続困難となった当該事業を取り止めるというような事案において、課税実務上、資産の移転が独立した事業単位で行われておらず、合併後に事業が継続していないという理由により、法人税法132条の2に基づき親会社の行為又は計算を否認するとの取扱いがされていることはうかがわれない」

⑤ 法令の文言
「租税法律主義の原則に照らすと、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈したり拡張適用したりすべきではない…。…それにもかかわらず、…法人税法及びこれを受けた法人税法施行令の規定上、支配関係適格合併〔筆者ら注:被合併法人と合併法人との間に支配関係がある場合の適格合併。以下同じ〕及び共同事業適格合併〔筆者ら注:被合併法人と合併法人との間に完全支配関係及び支配関係がない場合の適格合併。以下同じ〕においては、従業者引継要件及び事業継続要件等が必要とされているのに対し、完全支配関係適格合併については、これら従業者引継要件及び事業継続要件等のいずれについても必要とされていない。また、法57条2項等の規定をみても、完全支配関係のある法人間の合併について、事業の継続がない場合には一律に適用がない旨をうかがわせる文言はない
法令上、上記のような合併の場合〔筆者ら注:完全支配関係のある法人間の合併について、事業の継続がない場合〕に組織再編税制の適用を一律に否定するとの趣旨を読み取ることはできない
「法令上に明記されていない一律の『前提』(事実上の要件)を明確な根拠もなく想定すべきではない」

(3) 本件への当てはめ①(繰越欠損金が生じた経緯)

  • 前記1(1)に記載の繰越欠損金が生じた経緯について、本判決は、以下のように判示しました。

「本件買収、本件分割及び本件株式譲渡は、…利益の追求とリスクの最小化を図る過程において行われたものであり、…未処理欠損金額の引継ぎを目的として行われたものではない」

(4) 本件への当てはめ②(S1を合併したこと)

  • 前記1(4)イに記載の通り、S1を本件企業グループ内の既存法人に合併したのは、S1を本件ビジネスモデルに基づく組織再編成の対象から除外して残存させておくべき特段の必要性はないと判断したことによるものであり、また、清算ではなく合併をした理由については、過去に清算の経験が少なかったこと及び清算の公告をすると潜在的債権者を刺激する可能性があるためであったところ、これらの判断の評価について、本判決は、以下のように判示しました。

「①たとえ休眠会社であっても、残存させておけば、何らの利益を生み出さないにもかかわらず、毎年一定の管理コストが継続的に発生し得ること、②我が国においては、バブル経済の崩壊後、全国各地でゴルフ場の経営が大幅に悪化したなどのため、多くのゴルフ場運営会社において経営の合理化が模索・実践されていること…、③特に、…〔注:本件企業〕グループにおいては、本件ビジネスモデルの下、繰り返し合併を行い、子会社の数を削減することにより、経営に係る意思決定や監査の迅速化等を包む経営の合理化・効率化を継続的に追求しており、これにより大幅な費用の削減が実現されていること」からすると、上記の判断の下、S1を残存させず、本件企業グループ内の既存法人に合併することには、「合理的な理由となる事業目的が十分に存在するといえる上、何ら不自然なものではない

(5) 本件への当てはめ③(本件各合併に係るスキームと本件直接合併手法の比較)

ア 不自然性に係る判示①(通常は想定されない組織再編成の手順や方法)

  • まず、本件直接合併手法(各社を原告へ直接合併させる1段階の合併)ではなく本件各合併に係るスキーム(本件合併1の直後に本件合併2を実施する2段階の合併)を採用したことが「通常は想定されない組織再編成の手順や方法」に該当するか否かとの点について、本判決は、結論として、以下のように判示しました。

「原告が…〔注:S1、S2、G1、G2及びG3〕の全てを直接吸収合併するのではなく、…本件合併1…の効力発生を停止条件として、原告が…〔注:S2等〕を吸収合併したこと(本件合併2)は、『通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づくもの』などではなく、むしろ、一般に採られている合理的な手順・方法の一つと認められる

  • また、かかる結論を導くに当たっては、以下のような点が考慮されています。

① 3以上の法人の合併に係る会社法上及び課税実務上の取扱い等
「実務上…A社をB社が吸収合併し、その効力発生を停止条件として、同日付でB社をC社が合併するという、二段階にわたる重畳的な合併も行われている。」
「課税実務上も、…私法上は原則としてその順序に応じ個々の合併の効力が生ずることとなるから、税制上もその順序どおり合併が行われたものとして、適格合併への該当性の判定を行うこととされている。」
「したがって、本件各合併が二段階で行われたからといって、必ずしも、通常は想定されない手順や方法が採られたということはできない。」

② 本件各合併と本件直接合併手法の事務負担の差
本件合併1について原告株式の割当て・交付が不要な本件各合併とは異なり、本件直接合併手法では、S1と原告の合併についても合併比率を計算して原告株式をPに割当て交付する必要があるため、「一定の事務の煩雑さがあることは否めない」
これに対し、本件直接合併手法ではなく、本件各合併のスキームを採ることにより、「事務負担が大幅に増大するとは認められない」
これらのことからすると、本件直接合併手法ではなく、本件各合併のスキームを採用したことは、「客観的にみて、効率的な事務の遂行に資するものであったと評価することができる
「本件各合併のスキームは、①課税上のメリットがなく、かつ、事務効率化のメリットもない(事務の煩雑さがある)手順・方法(原告が直接…〔注:S1〕を吸収合併する場合)と、②課税上のメリットがあり、かつ、事務効率化のメリットもある(事務の煩雑さが生じない)手順・方法(本件各合併の場合)のうち、後者を採用したというものであるから、事務効率化のメリットを数値化したり、課税上のメリットと事務効率化のメリットの大小や目的の主従関係を比較したりして検討するまでもなく営利企業にとって合理的な経済活動と評価できるものであって、何ら不自然なものではない

イ 不自然性に係る判示②(実態とは乖離した形式の作出)

  • 続けて、本件直接合併手法ではなく本件各合併に係るスキームを採用したことが「実態とは乖離した形式を作出」に該当するか否かとの点について、本判決は、以下のように判示しました。

本件各合併を総体としてみても、原告を合併法人として…6社が合併するというものであり、本件各合併の前後で経済実態に実質的な変更はないのであって、その実態と形式との間に乖離はみられない

ウ 不自然性に係る判示③(まとめ)

  • 前記及びの判示等を踏まえ、本件直接合併手法ではなく本件各合併に係るスキームを採用したことの不自然性について、本判決は、以下のように判示しました。

「〔注:S1等を〕吸収合併することは、本件ビジネスモデルに基づくものであり、合理的な事業目的が十分に認められる上、本件各合併のスキームを見ても、通常は想定されない手順や方法ではなく、一般に採られている合理的な手順・方法の一つと認められ、かつ、実態と形式との間に乖離はみられない
本件各合併につき、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるものということはできず、組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものと評価することもできない

エ 合理的事業目的等に係る判示

  • また、本件直接合併手法ではなく本件各合併に係るスキームを採用したことの合理的事業目的等について、本判決は、以下のように判示しました。

「前記…のような事情〔注:本件直接合併手法ではなく、本件各合併のスキームを採用したことは、客観的にみて、効率的な事務の遂行に資するものであったと評価することができるとの事情等〕があったから本件各合併に係るスキームを採用したことについても、合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在していたということができる

(6) 本件への当てはめ④(本件自己株式取得による完全支配関係の成立)

  • 本件自己株式取得によりS1とS2との間に完全支配関係が生じたことについて、本判決は、以下のように判示しました。

「〔注:本件自己株式取得によりS1とS2との間に完全支配関係が生じたことをもって、〕本件各合併につき、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態と乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものということはできず、しかも、〔注:S2の〕完全子会社化には合理的な事業目的が存在したから、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるものとはいえないのであって、組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものと評価することはできない

(7) 本件への当てはめ⑤(税務目的の併存)

  • 本判決は、本件企業グループが「本件各合併のスキームを採用するに当たり、本件未処理欠損金額〔注:本件NOL〕の原告への引継ぎを重視したことは否定し難い」(前記1(4)ウ参照)としつつ、以下のように判示しました。

本件各合併に係るスキームは、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなどといった、不自然なものでは全くないのであるからそのスキームの採用に当たり、本件未処理欠損金額〔注:本件NOL〕の原告への引継ぎを重視したとしても、このことをもって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるものとはいうことはできない

(8) 本件への当てはめ⑥(まとめ)

  • 前記(1)~(7)の判示等を踏まえ、本判決は、以下のように判示しました。

「本件合併1…の効力発生を停止条件として、原告が…〔注:S2等〕を吸収合併する(本件合併2)という本件各合併について、その各部分を個別にみた場合においても、その全体をみた場合においても、『通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づくもの』でも『実態とは乖離した形式を作出したりするもの』でもなく、何ら不自然なものとはいえないし、かかるスキームを採用して合併を行うことの『合理的な理由となる事業目的その他の事由』が存在することからすると、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるものとは認められない
「したがって、本件各合併は、組織再編税制に係る法人税法57条2項等の各規定を租税回避の手段として濫用することによって法人税の負担を減少させるものとはいえず、『法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』(同法132条の2)に当たるということはできない

4. まとめ

以上の通り、本判決は、被合併法人から合併法人への繰越欠損金の引継ぎが認められるためには、(合理的事業目的等が存しない限り)事業の移転及び継続が必要であるという考え方を明確に退けた初の裁判例であり、その点に本判決の重要な意義があると考えられます。また、本判決は、その他にもいくつか重要な論点を内包しており、今後の控訴審の判断も注目すべきものといえます。

*1 当該合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち、その総数の概ね100分の80以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること、との要件をいいます。

*2 当該合併に係る被合併法人の当該合併前に営む主要な事業が当該合併後に当該合併に係る合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること、との要件をいいます。

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執筆者

北村 導人

北村 導人

パートナー, PwC弁護士法人

黒松 昂蔵

ディレクター, PwC弁護士法人

福井 悠

PwC弁護士法人

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