企業会計基準委員会(以下、ASBJ)は、2024年3月22日に改正実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下、税効果に関する実務対応報告)および実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下、法人税等に関する実務対応報告)を公表しました。これらの実務対応報告は、2023年3月28日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(以下、改正法人税法)を受けて、グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計および法人税等の取扱いを明らかにしています。また、開発において、会計処理および開示に必要な情報を適時に入手することが困難であるため、財務諸表作成者に負担が生じる等の意見が寄せられたことから、取扱いは財務諸表作成者に配慮したものとなっています。
本稿では、これらの実務対応報告の公表の経緯と概要、および適用にあたっての留意点を解説します。
なお、文中の意見は筆者の私見であり、PwC Japan有限責任監査法人および所属部門の正式見解ではないことをお断りします。
2021年10月に、経済協力開発機構(OECD)/主要20カ国・地域(G20)の「BEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework on Base Erosion and Profit Shifting)」において、当該枠組みの各参加国がグローバル・ミニマム課税について合意しました。これを受けて、わが国においても2023年3月28日に改正法人税法が成立しました。改正法人税法はグローバル・ミニマム課税のルールのうち所得合算ルール(Income Inclusion Rule:IIR)に係る取扱いを定めており、2024年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。わが国では、グローバル・ミニマム課税制度を導入するために数年にわたって法人税法が改正される予定であり、今後、所得合算ルール(IIR)以外の軽課税所得ルール(Undertaxed Profit Rule:UTPR)および国内ミニマム課税ルール(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax:QDMTT)についても導入が予定されています。グローバル・ミニマム課税の各課税ルールの概要は(図表1)のとおりです。
図表1:グローバル・ミニマム課税の各課税ルールの概要
課税ルール | 課税ルールの概要 |
所得合算ルール (Income Inclusion Rule:IIR) |
軽課税国に所在する子会社等の税負担が最低税率(15%)に至るまで親会社の所在する国において課税 |
軽課税所得ルール (Undertaxed Profit Rule:UTPR) |
軽課税国の親会社等関連企業の税負担が最低税率(15%)に至るまで親会社等関連企業への支払いを行っている子会社等の所在する国において課税 |
国内ミニマム課税ルール (Qualified Domestic Minimum Top-up Tax:QDMTT) |
軽課税国が国内法によって、軽課税国に所在する構成会社等の税負担が最低税率(15%)に至るまで構成会社等の所在する国において課税 |
出所:PwC作成
ASBJは、改正法人税法が適用されることによりグローバル・ミニマム課税制度の適用が見込まれる企業に対して、連結会計年度および事業年度の決算において、グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用すべきか否かを検討しました。しかし、グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計の適用については、特に財務諸表作成者から実務上の対応が困難であるとの意見が寄せられたことから、2023年3月31日に特例的な取扱いを定めた実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(以下、2023年実務対応報告)を公表しました。さらにASBJは、2023年実務対応報告が所得合算ルール(IIR)に係る取扱いを定めた改正法人税法に対応したものであることから、今後の軽課税所得ルール(UTPR)および国内ミニマム課税ルール(QDMTT)の導入も踏まえた検討を行い、2024年3月22日に税効果に関する実務対応報告(2023年実務対応報告を改正)および法人税等に関する実務対応報告を公表しました。
グローバル・ミニマム課税制度の税効果会計の適用については、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、税効果適用指針)の定めにかかわらず、連結会計年度および事業年度の決算において、その税効果会計適用の影響を反映しません(税効果に関する実務対応報告3項)。
繰延税金資産および繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づき、将来の会計期間における減額税金または増額税金の見積額を計算します(税効果適用指針44項)。そのため、税効果適用指針に基づくと、グローバル・ミニマム課税制度の対象となることが見込まれる企業は、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度および事業年度の決算において、グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計を適用することになります。
ここで、グローバル・ミニマム課税制度に基づく基準税率(15%)までの上乗せ税額は、多国籍企業グループ等を構成する事業体等について国別に算定された実効税率が基準税率を下回る場合、国別に集計された純所得に対する基準税率に至るまでの税額を、最終親会社等がその所在地国の税務当局に支払うものです。しかし、上乗せ税額の課税の源泉となる純所得が生じる企業と、納税義務が生じる企業が相違するため、税効果会計の適用について明らかではないと考えられています(税効果に関する実務対応報告10項)。そのため、グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の取扱いについては、その考え方が必ずしも明らかではないこと、特に見積りにおいて財務諸表作成者の負担も想定されることから、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないとされました。
わが国においては、グローバル・ミニマム課税制度を導入するために今後数年にわたって法人税法の改正が行われる予定です。また、軽課税所得ルール(UTPR)および国内ミニマム課税ルール(QDMTT)についても法制化が予定されています。そのため、税効果に関する実務対応報告は所得合算ルール(IIR)のみならず、軽課税所得ルール(UTPR)および国内ミニマム課税ルール(QDMTT)も含めて、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないことを明らかにしています(税効果に関する実務対応報告15-5項)。この取扱いは、国際会計基準審議会(IASB)が2023年5月に公表した「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号「法人所得税」の修正)」(以下、修正IAS第12号)の取扱いと整合するものとなります(税効果に関する実務対応報告15-4項)。
グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、対象会計年度となる連結会計年度および事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき、当該法人税等の合理的な金額を見積り、損益に計上します(法人税等に関する実務対応報告6項)。
連結財務諸表においては、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、多国籍企業グループ等の当連結会計年度の連結財務諸表を構成する会社等の国別の純所得(利益)に基づいて算定されるものであることから、税金等調整前当期純利益とグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を含めた法人税、住民税及び事業税等とを対応させることが適切と考えられています(法人税等に関する実務対応報告BC6項)。また、個別財務諸表においては、グローバル・ミニマム課税制度を適用して発生する上乗せ税額は、親会社等の所得(利益)に直接的には対応しないものの、納税義務を生じさせる事象が対象会計年度において生じていると考え、対象会計年度の損益に計上するとされています(法人税等に関する実務対応報告BC7項)。
グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積りにあたって、対象会計年度となる連結会計年度および事業年度において適時に情報を入手することが困難な場合においては、財務諸表の作成時点で入手可能な情報に基づき見積ります(法人税等に関する実務対応報告BC10項)。適用初年度の翌期以降は、会社の情報入手の体制整備が進むことや実績値の把握により、見積りのために入手可能な情報が増加することが予想されます。企業が見積りのために新たな情報を入手することにより、見積った金額と翌事業年度の見積金額または確定額との間に差額が生じた場合、適時に入手可能な情報に基づき合理的な金額を見積っている限り、当該差額は誤謬にはあたらず、差額が生じた期の損益に計上します(法人税等に関する実務対応報告BC11項)。
わが国におけるグローバル・ミニマム課税制度に関する申告および納付期限は、会計年度終了の日の翌日から1年3カ月(適用初年度は1年6カ月)と定められています。これは、企業がグローバル・ミニマム課税に関する納税を行うために必要な情報は、多国籍企業グループの全体的な活動の理解や企業グループを構成する会社の所在地国の税制度の理解などに役立つ多岐にわたる情報であり、従来、グループ会社から入手していない情報も含まれることから、その情報の入手に相当の時間を要すると考えられるためです。例えば、企業は国別にグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を見積るために、課税の対象となる子会社等を判定することになりますが、対象範囲の判定には、恒久的施設等および特殊な会社等に関する国別の情報(会計数値および会計数値以外の個別計算所得等の金額や調整後対象租税額の算定に使用する調整項目に関する情報等)を入手する必要があります。また、企業は個別計算所得等の金額および調整後対象租税額等の算定のために、各構成会社等の所在地国の税制の理解や国別に切り分けた情報が必要になります(法人税等に関する実務対応報告BC3、BC4項)。
開発過程において、企業が必要な情報を適時に入手できず、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積りが困難になることについて懸念が寄せられていました。さらに、適時に十分な情報を入手できない場合にグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を見積るための具体的な指針を求める意見もありました。ASBJは、これらの懸念や意見を踏まえて、「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する見積りについて」(以下、補足文書)を公表しています。補足文書は、法人税等に関する実務対応報告の適用の参考文書として開発され、財務諸表の作成にあたって情報を入手することが困難な場合に考えられる対応例を示しています(図表2)。
図表2:入手できない情報と考えられる対応例
入手できない情報 | 考えられる対応例 |
対象範囲の判定に必要な情報
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従来の連結財務諸表の作成にあたって入手している子会社等の情報のみに基づき国別実効税率を算定する等の方法により対象範囲の判定を行う |
個別計算所得等の金額の算定に必要な情報
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従来の連結財務諸表の作成にあたって入手している子会社等の会計数値に基づき個別計算所得等の金額の見積りを行う |
出所:PwC作成
連結および個別貸借対照表において、グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示します(法人税等に関する実務対応報告8項)。
連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、法人税、地方法人税、住民税及び事業税を示す科目に表示し、個別損益計算書においては、法人税、地方法人税、住民税及び事業税を表示した科目の次にその内容を示す科目を区分表示するか、法人税、地方法人税、住民税及び事業税に含めて表示し、金額を注記します(金額の重要性が乏しい場合、注記の省略も可)(法人税等に関する実務対応報告9、11、12項)。
連結および個別財務諸表におけるグローバル・ミニマム課税に係る税金費用の表示は、(図表3)のようになります。
連結損益計算書においては、修正IAS第12号との整合性を考慮し、重要性がある場合に注記が必要です(法人税等に関する実務対応報告10項、BC21項)。また、損益計算書においては、グローバル・ミニマム課税に係る法人税等は納税義務が生じる親会社等の所得(利益)に直接的には対応しませんが、連結損益計算書と表示区分を合わせています(法人税等に関する実務対応報告BC25項)。
四半期財務諸表および中間財務諸表においては、四半期(連結)会計期間および中間(連結)会計期間を含む対象連結会計年度および事業年度に関するグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができます(法人税等に関する実務対応報告第7項)。グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しない場合、その旨を注記します(法人税等に関する実務対応報告13項)。
四半期財務諸表および中間財務諸表では、入手可能な情報が年度の財務諸表より限定的になることも考えられ、年度の財務諸表と比較してもさらに見積りが困難になることが予想されることから、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことも認められています(法人税等に関する実務対応報告BC12項)。
税効果会計に関する実務対応報告は公表日である2024年3月22日から適用されます(税効果に関する実務対応報告4-2項)。また、法人税等に関する実務対応報告は2024年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます(法人税等に関する実務対応報告14項)。これは、改正法人税法が2024年4月1日以後開始する事業年度から適用されることに対応しています。
ただし、四半期財務諸表および中間財務諸表においてグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しない場合の注記(法人税等に関する実務対応報告13項)は、適用初年度においては財務諸表作成者の準備期間が短く、対象会計年度においてグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が生じるかどうかの判断が困難と考えられるため、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用することとなっています(法人税等に関する実務対応報告15、BC33項)。
3月決算会社の適用初年度と翌年度における年度財務諸表、四半期財務諸表および中間財務諸表の対応は、(図表4)のようになります。
税効果に関する実務対応報告および法人税等に関する実務対応報告が公表されたことにより、グローバル・ミニマム課税制度に係る会計処理および財務諸表での取扱いが明らかになりました。グローバル・ミニマム課税制度の影響を受ける企業は2025年3月期の年度財務諸表から対応が必要になります。
実務対応報告の開発において関係者から懸念が示されたように、グローバル・ミニマム課税制度の影響の判断や影響額の算定には、企業が今まで入手していなかった情報も必要となるため、相当の時間を要することが予想されます。さらに、企業は必要な情報を子会社等から入手するのみではなく、システムの導入や変更、会計処理や表示および開示のための業務プロセスの構築が必要になる場合もあると考えられます。影響を受ける企業は早くて2025年3月期の年度財務諸表からの対応になりますが、早めに検討しておく必要があります。
また、グローバル・ミニマム課税制度が適用される企業は多国籍企業グループと考えられますが、在外子会社について実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」を適用して連結財務諸表を作成する場合、国際会計基準や米国会計基準におけるグローバル・ミニマム課税の取扱いを日本基準の取扱いに修正することなく、連結財務諸表に取込むことになります。そのような場合、本稿で解説した日本基準の取扱いのみならず、各国の税制度および国際会計基準や米国会計基準の取扱いも考慮して検討しておく必要があります。
PwC Japan有限責任監査法人
コーポレート・レポーティング・サービス部
パートナー 鷺谷 佑梨子