2024年度(令和6年度)税制改正

  • 2024-10-03

はじめに

2024年3月28日、2024年度税制改正関連の法律案(「所得税法等の一部を改正する法律案」および「地方税法等の一部を改正する法律案」)が成立し、3月30日に当該法律および政省令が公布されました。2024年度税制改正は、新しい資本主義における「賃金上昇はコストではなく、投資であり成長の原動力である」(令和6年度与党税制改正大綱)との認識を税制改正の中でも明確に位置付けたものです。具体的には、賃金上昇の実現を最優先の課題としつつ、世界の産業構造の変化に対応した投資環境の整備や、国内外の経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直しを行う以下の改正が盛り込まれています。

  • 構造的な賃上げの実現(定額減税、賃上げ促進税制)
  • 生産性向上・供給力強化に向けた国内投資の促進(戦略分野国内生産促進税制、イノベーションボックス税制等)
  • 経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直し(子育て支援等、所得合算ルール(Income Inclusion Rule:IIR)、プラットフォーム課税等)
  • 地域・中小企業の活性化(外形標準課税、固定資産税の負担調整措置等)
  • 納税環境整備(税務手続のデジタル化関連、不正対応関連)

本稿では、2024年度税制改正のうち、法人に関連する主要な改正事項を中心に解説します。

なお、本文中の意見に関する部分については筆者の私見であり、PwC税理士法人および所属部門の公式な見解ではないことを申し添えます。

1 政策税制

(1)賃上げ促進税制(給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度)

賃上げ促進税制では、構造的持続的な賃上げの効果を深めるために企業区分の見直しを行い、それぞれに異なるインセンティブが整備され※1、雇用の環境を改善するため、人材投資に加えて子育てと仕事の両立支援の取り組みに対する上乗せ措置が導入されました(図表1)

原則の税額控除率(継続雇用者給与等支給額が3%以上)が改正前の15%から10%に引き下げられたうえで、適用期限が3年延長されました。大企業については、継続雇用者の給与等支給額の増加に応じた基本控除率の増加について、さらに高い賃上げ率の要件が創設されました。常時使用従業員数2,000人以下の企業(その法人およびその法人との間にその法人による支配関係がある法人の常時使用する従業員の数の合計が1万人を超えるものを除く)については、改正前の賃上げ率の要件が維持され、大企業に比べて賃上げのメリットを受けやすい制度となっています。

上乗せ措置を含む合計控除率は改正前の30%から35%(控除上限額は法人税額等の20%)に引き上げられる他、控除率の上乗せ要件の見直し(教育訓練費を増加させた場合の上乗せ要件)および追加(プラチナくるみん認定またはプラチナえるぼし認定に係る上乗せ措置)が行われています。適用事業年度の教育訓練費の額の増加率は改正前の20%から10%に引き下げられますが、教育訓練費の上乗せ要件として、適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の全雇用者に対する給与等支給額の0.05%以上という条件が追加されました。

なお、中堅企業枠の創設に伴い、マルチステークホルダー方針の公表が要件となる企業の範囲が拡大されます。改正前では、資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上の大企業が対象でしたが、改正により常時使用する従業員の数が2,000人を超える企業も対象とされます。マルチステークホルダー方針の公表項目のうち、「給与等の支給額の引上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項」における取引先に消費税の免税事業者が含まれることが明確化されました。

中小企業向けの措置については、原則の税額控除率(継続雇用者給与等支給額が1.5%以上)は改正前の控除率が維持され、上乗せ要件の見直し・追加が行われる他、控除限度超過額の5年間の繰越控除制度が新たに設けられます。繰越控除は、繰越税額控除をする事業年度において、全雇用者の給与等支給額が前年度より増加している場合に限り、適用可能とされます。

給与等の支給額が増加した場合の付加価値割の課税標準からの控除制度についても延長され、法人が、2024年4月1日から2027年3月31日までの間に開始する各事業年度に、継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が3%以上である等の要件を満たすときは、控除対象雇用者給与等支給増加額を付加価値割の課税標準から控除できることとされます。

(2)戦略分野国内生産促進税制(産業競争力基盤強化商品生産用資産を取得した場合の特別税額控除措置)の創設

国として特段に戦略的な長期投資が不可欠となる投資を選定し、それらを対象として生産・販売量に比例して法人税額を控除する、戦略分野国内生産促進税制が創設されました(図表2)

改正産業競争力強化法の施行日(2024日6月7日から3カ月内の政令で定める日)から2027年3月31日までの間に、産業競争力強化法の認定を受けた認定事業適応事業者が、産業競争力基盤強化商品の生産設備の新設等を行った場合に、認定の日以後10年以内に生産され、販売されたものの数量等に応じた金額とその産業競争力基盤強化商品生産用資産の取得価額を基礎とした金額※2とのうちいずれか少ない金額の税額控除ができます(図表3)

図表3:産業競争力基盤強化商品と単位あたりの税額控除額

物資 物資のスペック 単位あたり控除額※2
EV等・蓄電池※1 EV

乗用車・商用車(二輪は対象外)

搭載している蓄電池について、供給安定性などの要件を課すことを検討

40万円/1台
FCV 40万円/1台
軽EV・PHEV 20万円/1台
グリーンスチール 高炉・転炉による生産プロセスから革新的な電炉による生産プロセスへの転換を行う場合における、当該電炉から生産される鉄鋼製品 2万円/1トン
グリーンケミカル 従来の化石原料であるナフサからグリーン原料(バイオ原料、廃プラスチック等)に原料転換することで生産される化学品 5万円/1トン
SAF ASTM(国際規格であり、航空機燃料の品質規格)D7566の規格を満たした航空機燃料 30円/1リットル
半導体※3 マイコン 28〜45nm相当 1.6万円/1枚
45〜65nm相当 1.3万円/1枚
65〜90nm相当 1.1万円/1枚
90nm以上 7千円/1枚

アナログ半導体

(パワー半導体含む)

パワー(Si) 6千円/1枚
パワー(SiC・GaN) 2.9万円/1枚
イメージセンサー 1.8万円/1枚
その他 4千円/1枚

※1 蓄電池に対する直接の措置は講じない。
※2 競争力強化が見込まれる後半年度においては、控除額を段階的に引き下げる(8年目:75%、9年目:50%、10年目25%)。繰越期間は、半導体以外が4年間、半導体は3年間。当期の法人税額に係る控除上限は、半導体以外が40%、半導体が20%。
※3 補助金による初期投資支援の対象となっている計画は対象外。先端ロジック半導体・メモリ半導体および半導体の製造装置・部素材・原料は対象外。
出所:財務省「令和6年度税制改正」パンフレットをもとにPwC作成

産業競争力基盤強化商品とは、電気自動車等(蓄電池)、グリーンスチール、グリーンケミカル、SAF(持続可能な航空燃料)、半導体を指し、各年度の控除上限はDX投資促進税制およびカーボンニュートラル投資促進税制の控除税額と合わせて、法人税額の40%(半導体については20%)とし、4年間(半導体は3年間)の税額控除の繰越期間が設けられています。なお、本税制の効果を高めるための措置として、所得の金額が前期の所得の金額を超える一定の事業年度での適用に当たっては、一定の賃上げまたは設備投資を行っていることが要件とされます。また、半導体生産用資産に係る控除税額を除き、本制度による控除税額は、地方法人税の課税標準となる法人税額から控除されません。

(3)イノベーションボックス税制(特許権等の譲渡等による所得の課税の特例)の創設

企業が国内で自社の研究開発によって取得等をした特許権またはAI分野のソフトウェアに係る著作権について、2025年4月1日から2032年3月31日までの間に開始する事業年度において行った居住者もしくは内国法人(関連者※3であるものを除く)に対する特定特許権等の譲渡または他の者(関連者であるものを除く)に対する特定特許権等の貸付け※4(以下、合わせて「特許権譲渡等取引」という)に係る所得(当期所得金額と特許権譲渡等取引に係る所得の金額に一定の割合を乗じた金額とのいずれか少ない金額)の30%の損金算入を認める制度が設けられました(図表4)

本制度の適用において、法人が対象となる特許権等の開発に当たって関連者に対して支払う特定特許権等の取得費またはライセンス料が独立企業間価格に満たない場合には、独立企業間価格によることとし、国内の関連者に対してこれらの費用を支払う場合には、所要の書類を作成し、税務当局からの求めがあった場合には遅滞なく提示し、または提出することが義務付けられます。

(4)研究開発税制

イノベーションボックス税制の創設を受けて、研究開発税制については、試験研究費が減少した場合の控除率の引下げと下限(改正前1%)が撤廃され、試験研究費の額から内国法人の国外事業所等を通じて行う事業に係る試験研究費の額が除外※5されることとなります(図表5)

(5)カーボンニュートラル投資促進税制(生産工程効率化等設備等を取得した場合の特別償却または税額控除)

カーボンニュートラル投資促進税制の適用対象資産を見直したうえで(改正前の需要開拓生産設備は対象から除外)、認定要件(炭素生産性向上率)を15%以上に引き上げ(中小企業者は、改正前の7%から10%以上)、対象法人は2024年4月1日から2026年3月31日までに事業適応計画の認定を受けた法人とされ、認定から3年以内に事業供用された資産が対象とされます。

(6)大企業における特定税額控除規定の不適用措置

大企業における、研究開発税制等の特定税額控除規定の不適用措置にかかる上乗せ要件(給与増加要件・国内設備投資要件)の適用対象が拡大され(前年度が黒字で従業員数2,000人以上の大企業)、上乗せ要件(国内設備投資要件)についても強化され、適用期限も3年延長されました(図表6)

図表6:特定税額控除規定の不適用措置の適用要件の概要

  改正前 改正後
前年度が黒字の大企業(資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上)
  • 所得金額:対前年度比で増加、または設立事業年度ないし合併等事業年度のいずれかに該当
  • 次のいずれの要件も充足しない

①継続雇用者の給与等支給額が対前年度比で1%以上増加

②国内設備投資額が当期の減価償却費の30%超

  • 所得金額:対前年度比で増加、または設立事業年度ないし合併等事業年度のいずれかに該当
  • 次のいずれの要件も充足しない

①継続雇用者の給与等支給額が対前年度比で1%以上増加

②国内設備投資額が当期の減価償却費の40%超

前年度が黒字の大企業(資本金1億円超かつ従業員数2,000人超)
  • 所得金額:対前年度比で増加、または設立事業年度ないし合併等事業年度のいずれかに該当
  • 次のいずれの要件も充足しない

①継続雇用者の給与等支給額が対前年度比で増加

②国内設備投資額が当期の減価償却費の30%超

上記以外の大企業(資本金1億円超)
  • 所得金額:対前年度比で増加、または設立事業年度ないし合併等事業年度のいずれかに該当
  • 次のいずれの要件も充足しない

①継続雇用者の給与等支給額が対前年度比で増加

②国内設備投資額が当期の減価償却費の30%超

対象となる租税特別措置 研究開発税制、地域未来投資促進税制、5G導入促進税制、DX投資促進税制、カーボンニュートラル投資促進税制

出所:PwC作成

2 中小企業関連

(1)賃上げ促進税制(給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度)

赤字企業への賃上げ支援として、当期の税額から控除できなかった税額控除額について、5年間の繰越控除を認める制度が創設されました。

上乗せ要件を含めた最大控除率の引き上げ(改正前の40%から45%)が行われる他、控除率の上乗せ要件の緩和(教育訓練費を増加させた場合の上乗せ要件)および追加(女性活躍・子育て支援に係る上乗せ措置)が行われています。外形標準課税の対象範囲の拡大に係る改正に合わせ、給与等の支給額が増加した場合の付加価値割の課税標準からの控除制度について、2025年4月1日か2027年3月31日までの間に開始する各事業年度に、雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合が1.5%以上である等の要件を満たすときは、控除対象雇用者給与等支給増加額を付加価値割の課税標準から控除できることとされます。

(2)中小企業事業再編投資損失準備金制度

合併・事業譲渡による中小事業の生産性向上の支援として、改正前の中小企業等経営強化法に基づく株式取得に加えて、改正産業競争力強化法(以下、改正産競法)に基づく株式取得制度が追加され、複数回のM&Aを実施する場合には、積立率は最大100%(改正前の制度では70%)に拡充され、据置期間も10年(同5年)に延長されました(図表7)。改正前の制度についても経営力向上計画の認定の運用改善がされたうえで適用期限が3年延長されました。なお、いずれの場合も一定の表明保証保険契約を締結している場合は制度の適用外または準備金の取崩し事由とされます(株式等の取得をした事業年度後にその事業承継等を対象とする一定の表明保証保険契約を締結した場合)。

図表7:中小企業事業再編投資損失準備金制度

  既存の制度(中小企業等経営強化法) 改正で追加される制度(改正産競法)
株式取得要件等 中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定(2024年3月31日までを2027年3月31日までに延長)を受けた中小企業者が、購入により取得した特定株式等(取得価額の上限は10億円)を損金経理(または剰余金の処分)により中小企業事業再編投資損失準備金として積み立て 改正産競法の特別事業再編計画の認定(改正産競法施行日から2027年3月31日までの間に認定を受けた者に限り、過去5年以内にM&Aを実施していることが認定の要件)を受けた認定特別事業再編事業者が、購入により取得した株式等(取得価額は1億円以上100億円以下)を損金経理(または剰余金の処分)により中小企業事業再編投資損失準備金として積み立て
税制措置 取得価額の70%を損金算入、据置期間は5年 取得価額の90%(最初に取得した株式)、または100%(2番目以後に取得した株式)を損金算入、据置期間は10年

出所:PwC作成

(3)少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例

対象法人から、e-Taxによる法人税申告義務があり、常用従業員300人超の法人は除外したうえで、適用期限が2年延長されました。

3 その他

(1)オープンイノベーション促進税制

オープンイノベーション促進税制(特定事業活動として特別新事業開拓事業者の株式の取得をした場合の課税の特例)について、適用期限が2年延長されました。

(2)暗号資産の評価方法等の見直し

発行者以外の第三者が継続的に保有する暗号資産(譲渡についての制限その他の条件が付されている市場暗号資産)の期末評価額について、暗号資産を取得した日の属する事業年度に係る確定申告書の提出期限までに納税地の所轄税務署長に評価方法(原価法または時価法)を届け出ることが義務付けられます。なお、評価方法を選定しなかった場合には、原価法により期末評価額を計算します。改正は、2024年4月1日以後終了事業年度の法人税について適用されます。

(3)産業競争力強化法の事業再編計画認定に基づくスピンオフ税制

産業競争力強化法の事業再編計画認定に基づくスピンオフ税制(認定株式分配に係る課税の特例)の認定計画の公表時期を見直す(その認定の日からその認定事業再編計画に記載された事業再編の実施時期の開始の日まで〔改正前:認定の日〕)とともに、税制適格要件の見直し(認定株式分配に係る完全子法人が主要な事業として新たな事業活動を行っていることを要件に追加)が行われ、適用期限が4年延長されました。

(4)交際費

損金不算入となる交際費等の範囲から除外される一定の飲食費に係る金額基準について、2024年4月1日以後の支出について、1人当たり5千円以下から1万円以下に引き上げられ、交際費の損金不算入制度および接待飲食費に係る損金算入の特例(資本金100億円以下の法人について接待飲食費の50%まで損金算入)および中小法人に係る損金算入の特例について、適用期限が3年延長されました。

4 国際課税

(1)グローバル・ミニマム課税への対応

2023年2月にOECD BEPS包摂的枠組みから公表された執行ガイダンスを踏まえて、一定の所有持分の時価評価損益等について国別計算所得等から除外しないことができる選択制度と、一定の導管会社等に対する所有持分に係る税額控除について調整後対象租税額に加算することができる選択制度が追加されました。

また、2023年7月に公表された執行ガイダンスを踏まえて、構成会社等の所在地国で一定の要件を満たす国内ミニマム課税(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax:QDMTT)が導入されている場合、その所在地国に係るグループ国際最低課税額をゼロとする適用免除基準(QDMTTセーフハーバー)が定められました。

さらに、2023年7月に公表されたグローバル税源浸食(GloBE)情報申告に関するガイダンスを踏まえ、特定多国籍企業グループ等報告事項等の提供制度について、特定多国籍企業グループ等報告事項等の簡素化等の見直しが行われます。

外国税額控除の見直しとして、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に相当する税、および外国の構成会社等に対して課される税で所得合算ルール(IIR)以外のもの、すなわち軽課税所得ルール(Undertaxed Profits Rule:UTPR)で課される税は、外国税額控除制度の対象外とされ、(外国で課された)QDMTTは外国税額控除の対象とされます。

QDMTTおよびUTPRを含め、経済協力開発機構(OECD)において来年以降に実施細目が議論される見込みであるものについては、国際的な議論を踏まえ、2025年度税制改正以降での法制化が検討されることとなります。

(2)外国子会社合算税制(CFC税制)の見直し

ペーパーカンパニー特例に係る収入割合要件について、外国関係会社の事業年度に係る収入等がない場合には、その事業年度における収入割合要件の判定が不要とされ、内国法人の2024年4月1日以後開始事業年度から適用されます。

(3)子会社株式簿価減額特例

子法人から受ける対象配当金額のうち特定支配関係発生日以後の利益剰余金の額から支払われたものと認められる部分の金額を除外することができる特例計算について、特定支配関係発生日の属する事業年度内に受けた対象配当金額(その特定支配関係発生日後に受けるものに限る)についても、その特例計算の適用を受けることができることとされ、内国法人の2024年4月1日以後開始事業年度から適用されます。

(4)過大支払利子税制

2022年4月1日から2025年3月31日までの間に開始した事業年度において過大支払利子税制の適用により損金不算入とされた金額(超過利子額)の繰越期間が10年(原則7年)に延長されます。

(5)内国法人が外国法人の本店等に無形資産等の移転を行う現物出資

内国法人が外国法人の本店等に無形資産等の移転を行う現物出資について、適格現物出資の対象から除外する措置が講じられ、移転資産等(国内不動産等を除く)の内外判定についても見直しが行われました。

無形資産等とは、①工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式またはこれらに準ずるもの(これらの権利に関する使用権を含む)、および②著作権(出版権および著作隣接権その他これに準ずるものを含む)で、独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って譲渡、貸付け等が行われるとした場合にその対価が支払われるべきものです。

現物出資により移転する資産等(国内不動産等を除く)の内外判定は、内国法人の本店等もしくは外国法人の恒久的施設を通じて行う事業に係る資産等または内国法人の国外事業所等もしくは外国法人の本店等を通じて行う事業に係る資産等のいずれに該当するかによることとされます。

改正は、2024年10月1日以後に行われる現物出資について適用されます。

5 地方税

(1)外形標準課税

2004年度に導入された外形標準課税の対象法人は、減資を中心とした要因により導入時に比べて約3分の2まで減少したため、企業の稼ぐ力を高める法人税改革の趣旨や、地方税収の安定化税負担の公平性といった制度導入の趣旨を踏まえ、適用対象法人のあり方について制度的な見直しが行われました。

減資への対応として、前事業年度に外形標準課税の対象であった法人が資本金1億円以下になった場合でも、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える場合には外形標準課税の対象とされます。改正法は2025年4月1日に施行され、同日以後開始する事業年度から適用されます。なお、経過措置として、公布日(2024年3月30日)を含む事業年度の前事業年度(公布日の前日に資本金が1億円以下となっていた場合には、公布日以後最初に終了する事業年度)に外形標準課税の対象であった法人であって、施行日以後最初に開始する事業年度に資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超えるものは、外形標準課税の対象とされます。

また、資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人等の100%子法人等のうち、資本金が1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が2億円を超える法人も外形標準課税の対象とされます。なお、中堅企業等のM&Aに係る配慮措置として、改正産競法の特別事業再編計画に基づいて行われるM&Aにより100%子会社となった法人等は、5年間対象外とする措置が設けられています。改正法は2026年4月1日に施行され、同日以後開始する事業年度から適用されますが、新たに外形標準課税の対象となる100%子法人等については一定額を法人事業税額から控除する軽減措置が施行後2年間講じられます(図表8)

図表8:改正後に外形標準課税の対象となる100%子法人等

対象となる法人等と措置 内容

特定法人

  • 資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人(非課税または所得割のみで課税される〔外形標準課税対象外〕法人等である場合を除く)
  • 相互会社、外国相互会社
100%子法人等

事業年度末日の資本金が1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が2億円超の以下のいずれかの法人

  • 特定法人による完全支配関係がある法人
  • 100%グループ内の複数の特定法人に発行済株式等の全部を保有されている法人

公布日以後に100%子法人等がその100%親法人等に対して資本剰余金から配当を行った場合においては、当該配当に相当する額を加算した金額

税額の軽減措置

外形標準税額が従来方式で計算した事業税額を超える額(超過額)の一定割合を控除
2026年4月1日〜2027年3月31日開始事業年度:2/3控除

2027年4月1日〜2028年3月31日開始事業年度:1/3控除

改正産競法における 対象除外措置
  • 対象法人:2027年3月31日までの間に改正産競法の特別事業再編計画(仮称)の認定を受けた認定特別事業再編事業者(仮称)が、当該計画に従って行う一定の特別事業再編(仮称)として行う買収(株式等の取得、株式交付または株式交換)により100%子会社化した法人、および計画認定前5年以内に買収した100%子会社(いずれも、買収日以降も引き続き株式等を有している場合)
  • 適用除外年度:買収日の属する事業年度からその買収日以後5年経過日の属する事業年度までの各事業年度(ただし、上記の対象法人が資本金1億円超である場合、または改正後の減資対応の基準で外形標準課税の対象である場合は、特例措置の対象外)

出所:PwC作成

(2)固定資産税等

土地に係る固定資産税等の負担調整措置について、2024年度から2026年度までの間、宅地等および農地の固定資産税等の負担調整の仕組みと地方公共団体の条例による減額制度が継続されます。

6 消費税

(1)プラットフォーム課税制度の導入

デジタルサービスを提供する国外事業者に代わって、一定規模のプラットフォーム事業者(特定プラットフォーム事業者)に納税義務を課す制度(プラットフォーム課税)が導入されます。プラットフォーム課税の対象となる役務提供は、国外事業者がデジタルプラットフォームを介して行う電気通信利用役務の提供(事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除く)のうち、特定プラットフォーム事業者を介してその対価を収受するもので、当該役務提供については特定プラットフォーム事業者が行ったものとみなされます。改正は、2025年4月1日以後の電気通信利用役務の提供から適用されます。

(2)インボイス制度関連

適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置について、一の免税事業者からの課税仕入れの額の合計額が事業年度で10億円超の場合、超過部分についての経過措置は不適用とされます。改正は、2024年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

7 個人所得課税関連

ストックオプション税制(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)における保管委託要件について、企業買収時において機動的に対応できるような管理方法(交付を行った法人による管理)が新設され、譲渡制限株式については金融商品取引業者等への株式保管委託要件が不要とされます。

また、ストックオプション税制の年間の権利行使価額の上限(現行1,200万円)について、設立後5年未満の会社が発行したものは2,400万円、設立後5年以上20年未満の非上場会社または上場後5年未満の会社が発行したものは3,600万円に引き上げられました。適用対象となる特定従事者にかかる要件も緩和されています(社外高度人材の要件緩和、範囲の拡大)。

改正は令和6年分以後の所得税について適用されますが、2024年4月1日前に締結された契約で改正前の要件に沿って定められているもののうち、2024年12月31日までに改正法の要件に対応した契約の変更が行われた場合には、改正法が適用されます。

8 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置

防衛力強化に係る財源確保のための税制措置については、2027年度に至る各年度の防衛力強化に係る財源確保の必要性を勘案しつつ、所得税、法人税およびたばこ税について所要の検討を加え、その結果に基づいて適当な時期に必要な法制上の措置を講ずることが、所得税法等の一部を改正する法律附則第74条に明記されました。


※1 ①常時使用従業員数2,000人超の大企業については、より高い賃上げへのインセンティブを強化する観点から、控除率の上乗せについて、さらに高い賃上げ率の要件を創設、②常時使用従業員数2,000人以下の企業は、新たに「中堅企業」と位置付けて控除率を見直し、より高い賃上げを行いやすい環境を整備、③欠損法人が多い中小企業については、従来の賃上げ要件・控除率を維持しつつ、新たに繰越控除制度を創設

※2 産業競争力基盤強化商品生産用資産およびこれとともにその産業競争力基盤強化商品を生産するために直接または間接に使用する減価償却資産に係る投資額の合計額として事業適応計画に記載された金額

※3 移転価格税制における関連者と同様の基準により判定

※4 特定特許権等に係る権利の設定その他他の者に特定特許権等を使用させる行為を含む

※5 2025年4月1日以後開始事業年度から適用


執筆者

PwC税理士法人
ディレクター 荒井 優美子

PwC税理士法人
ディレクター 山田 盛人