グローバルCSRD対応実態調査2024(Global CSRD Survey 2024)

CSRD報告への期待と現実

mountain and wind farm path
  • 2024-08-19

企業は、規制導入までの厳しいスケジュールやその複雑性に直面しながらも、EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく報告が、ビジネス上の具体的なメリットをもたらすと考えている。

EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく報告への準備を通じて、企業は、ビジネス上の意思決定においてサステナビリティを重視するようになってきています。同指令に基づき提出の準備を行う企業の約4分の3(EU域外に本社を置く企業を含む)が、意思決定にサステナビリティの要素をより多く織り込んでいる、あるいは織り込む予定であるとしています。これらの企業はまた、環境パフォーマンスの向上、ステークホルダーとのエンゲージメントの改善、リスクの緩和など、CSRDから複数のビジネス上のメリットがもたらされると考えています。

PwCが今回初めて実施したCSRDに関するグローバル調査から得られたこれらの結果は、新たな報告制度の支持者の主張、すなわちサステナビリティの透明性を高めることが企業行動の変化を促すことになるという主張を裏付けています。しかし同時に、企業はデータの入手可能性、スタッフの能力、新たな技術投資の必要性など、CSRDの導入において複数の課題に直面しているとされています。

CSRDは、12の欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)を基盤として、企業に対しサステナビリティパフォーマンスについての詳細な開示、ならびにサステナビリティの自社事業への影響を、気候変動、企業の行動論理、資源利用、汚染、生物多様性など幅広いトピックにわたり検討するよう求めています。これにより、全世界では、約50,000社が影響を受けることになるでしょう(詳細については、下記「CSRDについて」を参照してください)。

これまでも私たちが示してきたとおり、この指令は、新たな報告義務であるのみならず、サステナビリティが今日のビジネスモデルにどのような課題をもたらし、成長と改革の機会を生み出すかを、リーダーがより深く理解する機会となるものです。今回の調査は、企業がこのポジティブな可能性を評価し始めていることを示しています。上述の間接的なメリットに加え、調査参加者の約3分の1が、CSRDの導入が直接的に収益の増加やコスト削減につながることを期待しています。ここで重要なのは、導入が進んでいる企業ほど、あらゆる側面でのビジネス上のメリットについて、より楽観的であるということです(図表1を参照)。

CSRDは、サステナビリティ報告を財務報告と同等にすることを目標としています。この目標を達成するために、企業はバリューチェーン全体にわたりサステナビリティに関連するインパクト、リスク、機会(IRO)に関する信頼できる情報を提供しなければなりません。同指令は、開示要件を詳細に規定している欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)を基盤にしています。

ESRSは、2つの横断的基準(一般的な報告原則、基本的な概念およびCSRDの適用範囲に含まれる全ての企業が求められる包括的な開示を定義)と、10のトピック別基準(環境、社会、ガバナンス事項に関するさまざまな特定の報告要件をカバー)から構成されています。

経営層は、1,000を超えるデータポイントのうち、どの開示要件がマテリアルで報告に含める必要があるかを判断しなければなりません。さらに、各IROの評価に関する定性的な報告と、それらの対応計画を提供する必要があります。これらの情報は全て独立した保証が必要ですが、限定的なレベルでの保証から始め、その後、合理的な保証となります。

CSRDは、多くの企業にとって馴染みのない「ダブルマテリアリティ」という概念を用いています。これには、サステナビリティ事項が事業に与える財務的影響(「財務的マテリアリティ」、リスクと機会で表される)と、事業が環境や社会に与える影響(「インパクトマテリアリティ」)の両方が含まれます。

CSRDの影響を受ける企業には、EU規制市場における上場企業および一定規模のEU非上場企業(EU域外に本社を置く企業の子会社を含む)が含まれます。

現在EUの非財務情報報告指令(NFRD)の適用を受けている企業は、2024年1月1日以降に開始する事業年度からCSRDに基づく報告を行わなければならず、2025年度に初回の提出を行うことになります。他のEU非上場企業で規模の閾値を満たす企業はさらに遅く、2025年1月1日以降に開始する事業年度から報告し、2026年に初回の提出を行います。上場中小企業および特定の金融機関は、2026年1月1日以降に開始する事業年度から報告しなければなりません。EU域内で重要な事業活動を行う非EU企業は、2028年1月1日以降に開始する事業年度から報告することが求められます。

導入に向けた進捗

多くの企業では、年次サステナビリティレポートを作成し、他のサステナビリティフレームワークに照らした報告を行っていますが、CSRDの要求事項を満たすためには、こうした開示のプロセスを通常、拡大・強化する必要があります。これは同指令が企業に対し、自社の事業活動だけでなくバリューチェーン全体を対象としたサステナビリティ報告や、多くの企業がこれまで検討してきた内容よりも幅広いトピックの報告を求めていることに起因します。さらに、報告が投資適格となるためには、反復可能で十分に文書化が行われる、独立監査人またはその他の第三者保証プロバイダーにより保証されるプロセスが必要とされています。

では、CSRDの幅広い報告範囲やその複雑性に直面する中で、企業はどのように導入を進めているのでしょうか。私たちの調査では、回答者は強い自信を示していましたが、その回答からは、取り組みが初期段階にあるものについては完了率が低いこと、一部の企業では上位のステークホルダーが関与していないこと、効率的かつ継続的に報告を行うためのテクノロジーの採用率が低いことなど、潜在的な課題も明らかになっています。

前述のとおり、回答者の圧倒的多数は、要求された期日までにCSRDに基づく報告準備を整えることについて少なくともある程度の自信を見せています。2025年度に提出を予定している企業のうち、「自信がない」と答えたのはわずか3%でした(図表2を参照)。

もう少し掘り下げてみると、自信の度合いは企業間だけではなく、報告基準で定められているトピックによっても大きく異なることが分かりました。回答者は、既存の開示に一般的に含まれているトピック(例えば、労働者、企業の行動倫理、気候変動)については強い自信があるとしています。しかし、生物多様性、循環経済、汚染、バリューチェーンの労働者など、あまり馴染みのないトピックについては、報告要件を満たす自信がないと回答しています(図表3を参照)。

また、2025年度に報告予定の企業でも、事前のスコーピング活動を完了している企業は少数派でした(下の図表4を参照)。調査結果では、スコーピングの進捗によって自信が増すことも明らかになっています。例えば、非常に自信があるとした企業のうち3分の1以上が報告オプションや免除要件の確認を終えて、ダブル・マテリアリティ・アセスメントの完了および開示ギャップ分析の完了まで進めています。一方で、導入準備を始めたばかりの企業にはあまり自信がないことが分かります。

重要なのは、このような事前のスコーピング活動により、企業が連結グループレベルまたは個々の企業レベルで報告するのか、また、報告義務を果たすためにどのようなデータが、どのようなトピックについて、どのような情報源から、どのようなスケジュールで必要なのかが決まるということです。チームは、そこで初めて、具体的な作業計画を立てることができます。私たちの経験では、報告基準が企業にどのようなインパクトを与えるかを詳しく理解すれば、CSRDはそれほど難しいものではなくなります。調査回答者のうち75%は、連結グループレベルでCSRDに準拠する予定であると回答しています。

インパクト、リスク、機会(IRO)のダブル・マテリアリティ・アセスメントは、サステナビリティのどの側面が自社の事業やステークホルダーにとってマテリアルであり、そのためCSRD報告に含める必要があるかを企業が決定するためのメカニズムです。調査では、マテリアリティの閾値を適用する前と後で、評価対象としたIROの個数について質問しました。マテリアリティの閾値を適用した結果、100個以上を評価するとしていた企業の割合は半減し、一方で20個未満を評価するとしていた企業の割合は倍増しました(下の図表5を参照)。

回答の幅広さは、企業が報告するトピックの数が、企業の規模、ビジネスモデル、バリューチェーンの複雑さに応じて当然ながら大きく異なることを明確に示しています。さらに、インパクト、リスク、機会の評価は、詳細な報告基準があるとしても、やや主観的になるものです。今後、各社の報告基準の使用実績が増えて、ベストプラクティスが明らかになるにつれて、類似企業間でのコンバージェンスが進むと私たちは予想しています。

最終決定する範囲にかかわらず、企業はデータの入手可能性と品質が導入の最大の障害であるとしています(下の図表6を参照)。CSRD報告で求められる内容の幅広さと詳細さは、多くの新しい種類のデータをチームが収集、検証、統合する際に非常に大きな課題となります。こうした情報の多くは、今日の企業の統合基幹業務システム(ERP)やその他の中央情報システムには存在しません。そのため、企業全体に配布されるスプレッドシートやオリジナルの文書(請求書など)から手作業で追っていかなければなりません。これは、サステナビリティデータをどのように定義し、収集し、管理し、処理するかというデータ戦略の基本に企業が細心の注意を払わない限り、非効率的でミスの起こりやすいプロセスとなることを示しています。

バリューチェーン全体を見るというCSRDの要件もまた、データに関連する新たな課題を示しています。多くの場合、企業はサプライヤー、顧客、第三者データプロバイダーからのデータを初めて使用しなければならず、同時に、その信頼性を評価する必要があります。CSRDのためにバリューチェーンを理解して定義するという最初のステップでさえ、かなりの時間が必要となります。調査の回答者がバリューチェーンの複雑さを導入の2番目に大きな障害と特定しているのも不思議ではありません。

CSRDのための組織

私たちの経験では、CSRDの幅広い報告範囲と複雑性への対処には、上位レベルのリーダーによる支援の下、部門横断の大規模な取り組みが必要です。調査回答者によれば、サステナビリティ、財務、オペレーション、調達、技術、法務など、平均して8つのビジネス部門または部署が現在、あるいは今後、導入活動に関与する予定です。

CSRDに基づく保証の要件を考慮すると、保証プロバイダーは早い段階から関与する必要がありますが、ほとんどの企業は、このことを理解しているようでした。回答者のほぼ80%が、会計監査人(49%)、別の監査法人(14%)、別の第三者保証プロバイダー(16%)のいずれかの保証プロバイダーを関与させていると回答しているからです。

現在、執行委員会(エグゼクティブコミッティ)または取締役会がCSRDの導入に関与している企業は70%を超え、この割合は2025年度に報告を予定している企業では80%近くに達しています(下の図表7を参照)。これは明るい兆しではあるものの、こうした上位のステークホルダーとの関与がまだないチーム、特に2025年度の報告を目指す企業においては、できるだけ早く関与することを強く勧めます。トップが主導し、ビジネス部門全体の役割と責任を明確にする強力なガバナンスがなければ、導入の取り組みが滞ってしまう危険性があるでしょう。

執行委員のうち最高財務責任者(CFO)と最高情報責任者(CIO)は、これまで多くのサステナビリティ報告の取り組みを主導してきた最高サステナビリティ責任者(CSO)をサポートする中心的な役割を果たす必要があります。CFOは、既存の財務報告プロセスの管理者として、投資適格となる開示という点で「良い開示とはどのようなものか」を知っています。私たちの経験では、財務部門と連携するCSOは、企業がサステナビリティ主導の機会を認識しリスクを緩和できるように支援するなど、その専門分野により効果的に注力することができるのです。

ほとんどの回答者が技術部門の関与を計画していますが、すでに関与している回答者の割合は60%未満でした。私たちの経験からすると、早い段階から技術部門の担当者と協働し、新たな要件を新規システムやシステムアップグレードの計画に組み込む方法を検討してもらうことが有効です。全ての企業が大規模な投資プログラムに着手する準備ができているわけではありません。その場合は、既存のクラウドやERPの基盤の上に、的を絞った技術投資を行うことが、効率的かつ継続的な報告を可能にし、企業全体の意思決定プロセスにサステナビリティデータを組み込む唯一の方法であると考えます。

また、そのような投資がなければ、組織は手作業のプロセスに大幅に依存し続けることになってしまいます。テクノロジーツールの利用について質問すると、調査の回答者の90%以上が、サステナビリティ報告のためにスプレッドシートを利用している、または利用する予定であると回答しました。これは、サステナビリティのデータレイク、開示管理ツール、炭素計算ツールなどのツール/技術を活用している割合よりもはるかに高い数字です(下の図表8を参照)。

より多くの企業が、効率的で再現性が高い報告を保証するソリューションに投資し、同時に、サステナビリティ関連のデータを事業全体の意思決定プロセスに取り込むようになれば、今後数年間でこれらの結果は大きく変わるでしょう。同様に、サステナビリティ報告にAIツールを使用する回答者の数も大幅に増加することが予想されます。

コンプライアンスから価値創造へ

CSRDは、欧州だけでなく、米国、オーストラリア、中国、その他の国・地域の政策立案者による、持続可能で低炭素な未来に向けた幅広い取り組みの一環です。新たな報告要件やその他のサステナビリティ政策(例えば、EUの炭素国境調整メカニズムやオーストラリアのセーフガード・メカニズムなど)の他にも、各国政府は大規模な支出計画を策定しています。米国の3,700億米ドルのインフレ削減法や、欧州委員会の2,700億米ドルのグリーンディール産業計画などの財政面でのイニシアチブは、低炭素製品やサービスの需要を高めることにより、それらを供給する産業へ投資を呼び込むことを目的としています。

このような動向により、リーダーたちがサステナビリティを戦略や計画に取り入れれば、間違いなくビジネスに価値創造の機会が生み出されることになります。そうなれば、CSRD報告の取り組みも報われるでしょう。サステナビリティデータを収集し、開示を作成する作業により、経営層にはより良い経営判断を下すための情報が提供されることになるのです。今回の調査では、コンプライアンスのみを重視し続ける企業がある一方で、多くの企業がこの可能性を理解し始めていることが確認されています。

私たちの経験では、次の3つの取り組みにより、CSRDの準備およびサステナビリティと戦略のより深い統合が可能になると考えられます。

  • これまでの進捗を認識しながら、今すぐ行動して自社の取り組み範囲を理解する:CSRDおよびそれに付随するESRSは企業にとって新しいものですが、多くの企業は、規制当局が課す義務または自主的な基準に基づいて、何年も前からサステナビリティ情報を開示してきました。そのために、CSRDに活用できる取り組み(ステークホルダーエンゲージメントやマテリアリティ分析など)を実施し、プロセス(データ収集など)を設定しています。同時に、まだCSRDのスコーピングを完了していない企業は、この取り組みを加速させることを検討しなければなりません。そこで初めて、自分たちが直面している課題を十分に理解し、具体的な計画を立てることができます。また、同業者やパートナーとの交流により、ダブルマテリアリティなど新しい報告基準のあまり馴染みのない側面に、他の企業がどのように取り組んでいるかを知ることができるのです。
  • 長期的な視野に立ち、データプロセスとシステムを構築する:今回の調査では、サステナビリティ情報を一元的に管理しているという回答は比較的少ない結果となりました。他のビジネス領域における一元的なシステムの使用については質問していないものの、一般的には、財務、顧客、商品、人的資本などの領域で使用されていることを確認しています。これらの領域では、信頼性の高い情報が、意思決定や外部報告にとって不可欠であると考えられてきました。賢明な経営層であれば、サステナビリティ情報もまた、一時的なものでなく、毎年入手可能で、正確で、監査に対応できるものでなければならないことを認識しているでしょう。そのため、そのような経営層は、財務報告で使用しているものと同等のデータおよびシステムに投資しています。
  • 経営層のトップを関与させる:前述のとおり、CSRD準備における部門横断的な協働はすでに標準となっています。先進的な企業は、CFO、CIO、CSOをCSRD導入の責任を負う強力なトリオとして組織化し、ハイレベルでのコラボレーションが確実に行われるようにしています。それぞれのチームのサポートを受けながら、CFOは企業の情報管理や意思決定の方法に関する知識を提供し、CIOはデータシステムやソフトウェアの導入を指示し、CSOはサステナビリティのトピックや、ダブル・マテリアリティ・アセスメントなどCSRD特有の手続きに関する専門知識を提供しています。これらのスキルを組み合わせることは、コンプライアンス要件を満たすためだけでなく、企業の事業活動やビジネスモデルに関する議論にサステナビリティを組み込むためにも不可欠となっています。

CSRDおよびESRSに基づく報告は、全体として、規制当局も含めた関係者全員にとって旅のようなものであることを忘れてはいけません。ベストプラクティスについてステークホルダーの共通の理解がまとまっていく中で、初期の数年間は、類似企業間で報告が非常に大きく異なる可能性が高いと考えられます。この段階で最も重要なのは、上位レベルのリーダーがCSRDの詳細な要件だけでなく、その意図、そしてCSRDにより明らかになる価値創造の機会の理解に真剣に取り組むことです。

調査について

2024年4月および5月、PwCは30以上の国と地域で547人の経営層と上級専門職を対象に調査を行った。回答者の約3分の1が経営幹部レベルの役職に就いており、残りはサステナビリティ、財務、リスクなどのビジネス部門の上級専門家である。60%の企業が欧州連合(EU)域内に本社を置いている。半数以上が年間売上高10億米ドル以上である。セクターには、製造業(25%)、金融サービス(21%)、テクノロジー、メディアおよび通信(18%)、消費者および小売(14%)、エネルギー、公益事業および資源(13%)、ヘルスケア(7%)が含まれる。全回答者の57%が、2024年度のデータに基づいて、2025事業年度に初めてCSRDに基づく提出を行うと回答している。特に断りのない限り、グラフは全回答者(547人)を含む。

※本コンテンツは、Global CSRD Survey 2024: The promise and reality of CSRD reportingを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

田原 英俊

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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屋敷 信彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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髙梨 智範

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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德山 馨一

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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中村 良佑

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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