
グローバル投資家意識調査2024
世界各国の投資家345名に、今後の世界経済の見通しや投資先企業等に対する期待について詳しく調査しました。投資家は、世界経済の成長に楽観的なものの、リスクが複雑に絡み合う経営環境を乗り越えられる、レジリエンスに優れた企業への投資を優先しています。
コンプライアンスに抵触する企業倫理の欠如や不正・不祥事は、企業の経営危機につながる重大なリスクとなる。それだけに企業は厳正なコンプライアンス施策を打ち出しているが、思うような効果が出なかったり、管理側の“コンプラ疲れ”を引き起こしたりといった課題もある。ポジティブなコンプライアンス・カルチャーを醸成し、PwC Japan有限責任監査法人(以下、PwC Japan監査法人)の「コンプライアンス意識調査サービス」を活用することで、コンプライアンスへの意識を企業風土から変えようとしている株式会社アドバンテスト(以下、アドバンテスト)の取り組みを紹介する。
半導体検査装置の開発や販売を行う世界トップクラスのメーカーとして、グローバルにビジネスを展開するアドバンテスト。
「拠点が多国籍に渡っており、従業員の半数以上を外国人が占める中、以前から全社的なコンプライアンスの意識統一の必要性を感じていました」と語るのは、同社法務知財コンプライアンス統括部長の東健介氏だ。
東 健介 氏 株式会社アドバンテスト 管理本部 法務知財コンプライアンス統括部 統括部長
「企業にとって社会やステークホルダーから信頼されることは、企業が持続していくための重要な要素です。こうした問題意識の下、当社では2020年にコンプライアンス部を立ち上げました」(東氏)
アドバンテストは2019年に企業理念や行動指針を「The Advantest Way」として策定し、コア・バリューとして真摯・誠実・高潔を意味する「INTEGRITY」を掲げている。コンプライアンス部を立ち上げたのも、このような流れの一つであろう。しかし、同社にはグローバルカンパニーとして成長を続けるからこその悩みもあった。
「事業拡大においては海外企業の買収は不可欠ですが、国ごとに企業文化やコンプライアンスに対する解釈の違いがあります。どうやってグローバルに同じ指標を設け、当社のフィロソフィーを行き渡らせるのかは、コンプライアンス部設立時からの大きな課題でした」(東氏)
さらにアドバンテストが目指していたのが、“コンプラ疲れ”、“コンプラ警察”といった言葉に代表されるネガティブなイメージの払拭だ。
「コンプライアンスを統括する部署として厳しく言わざるを得ない部分はあるのですが、これは事業を持続させるための前向きな取り組みであり、すべての社員と同じ方向を目指す仲間だというのがコンプライアンス部の立ち位置です。ですから、現場の事情を無視して取り締まったり一方的に押し付けたりする組織ではないというメッセージを伝えたいという思いはありました」(東氏)
アドバンテストが企業理念として策定した「The Advantest Way」は、経営理念とビジョンを支えるコア・バリューに、真摯、誠実、高潔を表す言葉である「INTEGRITY」を掲げる。さらに「GLOBAL」「RESPECT」「INCLUSION AND DIVERSITY」といった個別項目もあり、異なる文化や習慣を受け入れ、グローバルに展開する価値観を強調している
同社のコンプライアンス部で実務を担当する尾崎祐子氏も「私たち運営側も実際に遵守する社員側も、双方が負担になり過ぎないような効率的な仕組みにしていくことで、前向きにコンプライアンスへ向き合おうというカルチャーが醸成され、会社を良くすることにつながると考えています」と語る。管理する側だけでなく、現場の社員にも“自分事”としてポジティブにコンプライアンスに取り組んでもらいたいという姿勢がうかがえる。
尾崎 祐子 氏 株式会社アドバンテスト 管理本部 法務知財コンプライアンス統括部 コンプライアンス部
アドバンテストがグローバルなフィロソフィーの浸透やコンプライアンス・カルチャーの醸成を目指す中で実施を思い立ったのが、PwC Japan監査法人の「コンプライアンス意識調査サービス」だ。
「具体的な施策を講じるにしても、自社のコンプライアンスがどのような状態なのかを正確に知る必要があります。こうしたことを客観的に測る指標として、意識調査を実施しようと考えました」(東氏)
同社がコンプライアンスの状況を“見える化”する意識調査サービスを選定する上で重視したポイントは、“グローバル対応”だったという。
「調査の精度を担保するには母国語であることが必須だからです。当社は世界数十カ国に拠点があるので、日本語だけの調査では目的を達することができません。そこで、最低でも英語、中国語、韓国語に標準対応している調査サービスを検討したところ、PwC Japan監査法人が提供する『コンプライアンス意識調査サービス』に行き着きました」(東氏)
PwC Japan監査法人の「コンプライアンス意識調査サービス」の主な特徴は4つだ。同法人のガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部でシニアマネージャーを務める吉岡美佳氏はこのように説明する。
「1つ目はAIやデジタルツールを活用した視覚的なデータ分析。2つ目は個人情報に配慮した匿名性の確保。3つ目は多言語のグローバル対応。そして4つ目は地域や所属部門、職位、職種など、様々な属性を掛け合わせることができる多様な視点からの調査です」(吉岡氏)
吉岡 美佳 氏 PwC Japan有限責任監査法人 シニアマネージャー ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部
アドバンテストの東氏が選定の決め手になったと語った多言語対応については、日本語・英語・中国語・韓国語に標準で対応しているだけでなく、必要に応じてより多くの国の言語にも対応するという。PwC Japan監査法人でパートナーを務め、執行役員でもある竹内秀輝氏は、その意図についてこう解説する。
「当法人はPwCのグローバルネットワークを構成するファームである以上、グローバルに事業展開されているクライアントのニーズを満たすサービスを提供したいという思いがあります。クライアントからは、共通指標でグローバルにデータを分析したいという要望をいただくこともありますし、国民性や文化の違いを踏まえた助言・支援をして欲しいという相談もあります。しっかりニーズにお応えできるサービスを目指しています」(竹内氏)
竹内 秀輝 氏 PwC Japan有限責任監査法人 執行役員 パートナー ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部
アドバンテストが実施した「コンプライアンス意識調査サービス」の結果は、「楽しい」という声が上がるほどポジティブに受け止められ、同社のコンプライアンス・カルチャーの醸成やネガティブイメージの払拭に寄与したという。同サービスが実際にどのように実施され、どのように寄与したのかについては次ページで見ていきたい。
アドバンテストは、4年前の2021年にPwC Japan監査法人の「コンプライアンス意識調査サービス」を実施した。同社にとっては初めての取り組みだったため、まずは調査票の設問を検討するところからのスタートだった。
「設問は一定のひな型はありますが、クライアントのご要望でカスタマイズ可能ですので、まずはミーティングでお話を丁寧に伺いながら提案する流れで進めました」(吉岡氏)
PwC Japan監査法人が用意した100問以上のリストから50問ほどに絞り込んで実施した調査の結果について、東氏はこう振り返る。
「当社はエンジニアが多く、真面目な企業風土であることは常日頃意識していたのですが、ベンチマークスコアで他社さんと比べても優秀な結果が出て、これまで取り組んできた方向が間違っていなかったことが確認できたのは、報われた気持ちがありました。グローバル全体で見たときに当社のフィロソフィーが届いていないケースがあったのも事実ですが、どこから手をつけるのが効果的なのかがこの調査でデータの形で可視化され、マネジメントを説得する材料として、また具体的な施策を打つための客観的な根拠として役立ってくれたと思っています」(東氏)
さらにアドバンテストがデータを活用する上で有効だったのが、PwC Japan監査法人「コンプライアンス意識調査サービス」の特徴である「視覚的なデータ分析」や「多様な視点からの調査」だったという。
「アウトプットがグラフィカルなので見やすいですし、これまで分析できなかったものが明確に見える“楽しさ”もありました。調査結果の報告書をもらって終わりではなく、データセットの形で提供いただけたので、地域ごとや部署ごとにパラメーターを変えたりデータを組み合わせたりすることでリアルタイムに反映され、そこから新たな気付きもありました。フィードバック先の各部門からも『この切り口で見せて欲しい!』と関心が得られ、教育の検討など活発なディスカッションにつながっています」(尾崎氏)
「コンプライアンス意識調査サービス」アンケートシステムのダッシュボード画面。生成AIを活用することで人間だけでは分析できないデータ処理が可能となり、人間が陥りがちなバイアスも排除することができる。今後も継続的な改善を行い、対象言語の拡大などを実施する予定だという
※画面のデータはサンプルです
特定のリスクに関して、どの地域のどの個社でリスクが高いのかをスコアリングし可視化
一つの設問について、それぞれ全体分析だけでなく、地域別/個社別/年代別/職位別/職種別/など、複数の軸を掛け合わせて評価結果を深堀して分析が可能
自由記述式の回答は、生成AIを活用したクラスタリング分析等の手法も可能。複数の分析軸を用いて可視化することで、自由記述式回答を多層的に分析することが可能
PwC Japan監査法人も「コンプライアンス意識調査サービス」開発の際には、その使い勝手についてこだわりがあったという。
「尾崎さんから“楽しさ”というお言葉がありましたが、コンプライアンスに携わる担当者の方が新たな発見を改善に生かせることを前向きに楽しめるように、UIやUXを重視しています」(吉岡氏)
「アウトプットが分かりやすければ、コンプライアンス部署が経営陣に説明する際にも、営業部門にフィードバックする際にも効果的です。データの組み合わせによる拡張性も含め、活用の可能性は幅広いと自負しています」(竹内氏)
アドバンテストは2024年、「コンプライアンス意識調査サービス」を利用し、3年ぶりとなる2回目のコンプライアンス意識調査を実施した。
「コンプライアンスの状況の定点観測をしたかったからです。前回もスコアは良かったので、今回の結果が劇的に良くなったわけではありませんが、新たに買収した海外企業の意識の確認、この3年間の施策の効果などは確認でき、有意義な調査になりました」(東氏)
自社のコンプライアンスについて調査する際は、定点観測を行うのが重要な視点になるという。この点を吉岡氏は“ヘルスチェック”に例えて説明する。
「コンプライアンスリスクは、以前は不正や不祥事が起きてから対処するものと考えられていましたが、現在のトレンドはヘルスチェックのようにリスクの芽を早期発見し、最小限の投薬で未然に防ぐものへと変化しています」(吉岡氏)
そしてもう一つ、コンプライアンス対策の重要な要素となるのが、組織風土の醸成だ。
「組織風土が土壌だとすれば、コンプライアンスも含めた企業活動の施策は木です。施策という大きな木を育てていくには、そもそもの土壌を豊かにしていくことが必須の前提ですが、土壌改良の道しるべとなるのがコンプライアンス意識調査だと思っています」(吉岡氏)
アドバンテストは、この組織風土の醸成にあたって、コンプライアンス意識調査のみならず、会社全体での取り組みにも挑戦している。
「研修や教育を実施する際にも前向きに取り組んでもらえるようなカリキュラム作りを心掛けています。CEOからのメッセージ発信や、海外社員の負担を減らすための17言語のオプション、社内のオリジナルマスコットを使ったゲーム風の演出など、社員のモチベーションにつながるような施策を全社的に実施しています」(尾崎氏)
コンプライアンスにどう取り組むべきか。コンプライアンスには正解もなければゴールもないとよく言われる。だからこそ常にアップデートを続けていく必要があるが、コンプライアンス部を立ち上げたばかりのアドバンテストがそうであったように、どこから手をつければいいか、悩む企業は少なくないはずだ。
「まずは自社のコンプライアンスの現在地を可視化することがすべての土台になります。当社の場合は、意識調査という形で外部の客観的な指標を活用することでこの土台づくりがスムーズに進みました。専門的な知見を持つエキスパートのサポートは有効だと思います」(東氏)
「コンプライアンスをネガティブワードとして使うのは、もはや時代遅れだと思います。東さんや尾崎さんがおっしゃるように、コンプライアンス部署の目的は、取り締まることではなく会社をより良くすること。だからこそ前向きに取り組むことが成果を生むポイントだと思いますし、私たちもその取り組みに貢献していきたいと思います」(竹内氏)
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