デジタル化を推進する業務プロセス変革―PwCあらたの「EPQ」というアプローチ

2021-06-30

PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)は、「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」となることをビジョンとして掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進と個々のデジタルスキル向上に取り組んでいます。

ここでは私たちの監査業務変革の取り組みや、デジタル化の成功事例や失敗を通じて得た知見を紹介します。これからデジタル化に取り組まれる企業やDX推進に行き詰まっている企業の課題解決にお役立ていただければ幸いです。

※法人名、部門名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。


不確実性の高まりやテクノロジーの進展が加速する経営環境の中、デジタル化とそれを支える業務プロセスの変革は、各企業において一層大きな経営課題となっています。会計監査を主たる業務とする私たち監査法人の業務プロセスにおいても、デジタル社会においてプロフェッショナル一人ひとりが、高い専門性をもとにした判断を伴う領域により注力できるよう、業務プロセス変革がグローバルレベルで進んでいます。本稿では、品質と効率性の向上を目指すPwCあらたにおける業務プロセス変革と、そこからもたらされる行動やカルチャーの変容といった効果を紹介します。

PwCあらたが採用する業務プロセス変革フレームワーク

PwCあらたは、業務プロセス変革をEPQ(Engagement Performance and Quality)と称されるフレームワークを活用して行っています。これはPwC米国を中心に7年ほど前に始まったもので、Lean Six SigmaやKAIZENのフレームワークをもとに設計されています。日本においても、2019年より一部のプロジェクトチームにおけるパイロット活動を経て、現在では法人全体での展開が行われています。

EPQでは、自らの業務プロセスの現状把握を起点とし、そこで識別されるペインポイント*1を「改善の種」として捉えることを通じて、業務プロセス改善へとつなげていきます。その推進にあたっては、以下のようないくつかの重要なプロジェクトコンセプトが規定されています。

  • Leadership At All Levels - プロセス改善におけるリーダーは職階や立場、経験に関わらず私たち一人ひとりであること
  • Build Additional Quality in Upfront - 品質上の課題については事後的な対応で解決を図るのではなく、事前に高い品質を確保することができるプロセスを構築すること
  • Blame the Process, Not the Person - 識別された課題については業務の担当者に原因があるのではなく、プロセス上にあると考え、改善すること
図 EPQのフレームワークと主な取り組み

日本におけるEPQプロジェクトの展開

日本におけるEPQを活用した業務プロセス変革プロジェクトの発足にあたっては、まず、監査法人内の各部門から組織変革に対する強い想いを持ったマネージャークラスのメンバーを募り、法人横断的なプロジェクトチームを組成しました。少数のメンバーでの始動となった一方で、東京事務所だけでなく、名古屋事務所や大阪事務所でのセッション開催など、プロジェクトの早期において部門をまたいだ横断的な活動を実施しました*2

その場ではプロジェクトマネジメントスキルやコーチングスキル向上の必要性といった、効率的かつ効果的な業務遂行を妨げる課題が挙げられました。その後、プロセス改善に向けた具体的な取り組みとして、業務プロセスの可視化を通じたデジタル化や標準化の推進、現場でのコーチングやミーティングの進め方についての研修実施やガイドライン策定などを実施し、個々のプロジェクトにおける品質と効率性の向上につなげています。

プロジェクトの初年度は、各監査部門の中でも大規模なチームのみを対象としていましたが、2年目からは対象となるチームを大幅に拡大しています。プロジェクト対象の拡大に合わせ、プロジェクトにおけるそれぞれの施策の高度化と浸透を推進するソリューション別チームと、エンゲージメントのKPI設定や進捗管理を推進する部門別チームのマトリクス型組織を採用することで、現場の課題を適時に把握しながら、より高度な施策の策定につなげられる組織設計を行っています。

自律につながるボトムアップ型組織への変革の重要性

業務プロセス変革プロジェクトの詳細設計にあたっては、プロジェクトを通じて達成すべき経営目標を明確にした上で、組織構造や企業ごとのカルチャーといった要素も勘案しながら、最も適合するであろうアプローチを採ることが有効と考えています。

ともすれば業務プロセス変革のプロジェクトは、利益目標の達成といったマネジメントの要請としてトップダウンで落ちてくるアジェンダになりがちです。現場を十分に考慮しないまま柔軟性のない施策を導入してしまうと、異なる部門やチーム特性を十分に活用することができず、その効果を一人ひとりの職員が実感するに至らず習慣形成につならない、つまり持続的な効果をもたらすことが難しくなってしまいがちです。

プロジェクト設計の段階で、経営機能と各部門、そして各職員間の最適なバランスを考慮し、プロジェクトに落とし込むことで、一人ひとりが自律的に課題発見と解決を行えるようになり、ボトムアップ型の変革が促されます。EPQを活用した業務プロセス変革の推進にあたっても、管理職のみならず、組織変革に向けた新たな挑戦を行いたいという想いを持つ若手メンバーの登用を各所で推進しています。

日本がグローバル規模でのプロセス変革をリードする

「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」となるために、私たちはデジタル化やデータ分析の活用を通じて、業務プロセス変革を大きく推進しています。

具体的には、会計監査においてグローバルで利用するシステムから生成されるデータをRPA(Robotic Process Automation)/BI(Business Intelligence)ツールを活用して分析することで、それぞれの監査チームの年間を通じた行動様態を把握し、個々のチーム特性に合わせたプロセス改善の提案や改善活動の実施を行うことが可能となっています。また、「ディープダイブ」と呼ばれるプロセスの可視化を通じた標準化・デジタル化推進を実施するためのセッションを開催して職員一人ひとりにプロジェクトの価値を知ってもらいながら、可視化やプロセス改善案の策定まで、現在は全てオンライン上で実施するに至っています。

EPQを活用した業務プロセス変革プロジェクトは、現在、日本のチームがリードメンバーの一員となって、約20ヵ国60名程度が参加するグローバルプラットフォームを構築し、PwCグローバルネットワークにおける変革推進やベストプラクティスの共有をリードしています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で人の往来が制限される状況は続きますが、バーチャル環境下におけるグローバル化は依然として加速していると考えられます。デジタルの環境下に国境は存在しません。日本のマーケットのみに目を向けるのではなく、世界水準でのデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、デジタル社会に信頼を築くリーディングファームを体現していきたいと考えています。

*1:業務を実施する上でチームメンバーが直面している課題や困難であり、なおかつ、さらなる品質向上や効率化の源泉となるもの

*2:監査は、各監査対象企業ごとに組成されたチーム単位で実施しています。チームメンバーは主に、監査対象企業が所属する産業ごとに設定されている監査部門に所属しています。

PwCあらたの独自プロジェクトに関するインサイトについては以下もご覧ください。

未来デザインの手法を用いた監査変革の進め方

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監査業務のデジタル進化

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執筆者

鈴木 隆樹

執行役常務, PwC Japan有限責任監査法人

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