内部統制のデジタル化のためのフレームワーク 「J-SOX改善の方向性」×「実現のためのアプローチ」×「テクノロジー」

2022-02-08

内部統制のデジタル化における課題

内部統制報告制度(J-SOX)導入から10年以上が経過し、J-SOXのために導入されたフローチャート、業務記述書、リスクコントロールマトリックスのいわゆる3点セットは少しずつその形を変え、効率化が進んでいると思われます。一方で、J-SOX導入後もほとんどビジネスの形態に変更がなく、3点セットにも大きな変更がないまま現在に至る企業も一定数存在しているのではないでしょうか。近年の企業を取り巻く環境の変化やテクノロジーの進展により、内部統制に関する新たな課題が次々と出現しつつありますが、被監査会社からは特に下記のような課題をよく耳にします。

ITに関係する業務の見直し

  • デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中で、システムの入れ替えによりITに依拠したコントロールが増え、それに応じて業務を簡素化したいが十分に実現できていない。
  • マニュアルでJ-SOXに対応する場合、サンプル数が多く現場の負担が減らないため、ITに依拠できる対応に変更したい。

J-SOX業務そのものの見直し

  • そもそもJ-SOX対応業務の見直しを行いたい。毎年、過年度の踏襲となっており、実態に即したリスク対応が十分に実現できておらず、J-SOXのためだけに業務を行うという感覚を解消したい。
  • 単に業務を簡素化するだけではなく、重要なコントロールを都度確認しながら、不要なコントロールは重要度を下げていくなどリスクに応じた見直しを実施したい。

J-SOXに関するツールの検討

  • DXや組織再編、業務内容の変更に応じて、3点セットを表計算ソフトで管理・更新してきたが、より簡単に管理できるツールを低コストで導入できるなら利用したい。

内部統制のデジタル化に向けたアプローチ

今後もあらゆる業務領域でDXが進み、業務の一層の効率化および迅速化が図られていくと考えられます。そのような中で、企業にはリスク評価を適時に行い業務実態とリスク評価を整合させ、これまで以上にスピーディーに内部統制を更新・改善していくことが求められています。また、テクノロジーの活用ありきではなく、J-SOX業務の見直しをはじめ、現状の課題を解決するための方向性および実現のためのアプローチを明確にした上で、適用すべきテクノロジーを検討することが重要になります。加えて、リスクアプローチの観点から、リスク評価の客観性を担保しつつ精度の向上を図り、リスク評価の結果に則してデザインされた内部統制の効果とテクノロジー活用による効率化のレベルを考慮する必要があります。上記のポイントを踏まえると、図表1のようなフレームワークを活用することが有用であると考えられます。

図表1

適用するテクノロジーの検討に際しては、テクノロジーを活用する具体的な場面を想定することが重要であり、そのためには図表2のような手順で手続きを具体的にイメージできるレベルまでブレイクダウンしていくことが有効です。

図表2

また、テクノロジーを利用して内部統制の改善を進める場合には、特に手作業が多い領域、業務プロセスがデジタル化している領域、定型化された作業が多い領域について優先的に取り組むことで、大幅な業務の効率化につながると考えられます(図表3)。

図表3

*1 PIとは、プロセスをデータに基づいて可視化し、業務プロセスに関する課題意識に対して価値ある新たな気づきを導くデータ分析の手法のことを指します。

*2 ERP評価ツールとは、ERPシステム内におけるシステム設定値の統制、各種マスターDBメンテナンスに係る統制、アクセス権限に係る統制の状況を網羅的にレビューすることを可能とするツールのことを指します。PwCが開発したERPシステムの監査ツール「ACE-S 2」ではシステム設定値統制、アクセス権限統制(高権限、職務分掌)をレビューすることができます(手作業の統制は対象外)。

*3 GRCツールとは、リスクやコンプライアンスなどに関するさまざまな基本情報/基本機能から構成されるプラットフォームと、リスク管理、コンプライアンス管理、内部監査などさまざまな機能を提供するアプリケーションから構成されるツールのことを指します。

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執筆者

真木 靖人

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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