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2020-11-25
PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)は、「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」となることをビジョンとして掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進と個々のデジタルスキル向上に取り組んでいます。
ここでは私たちの監査業務変革の取り組みや、デジタル化の成功事例や失敗を通じて得た知見を紹介します。これからデジタル化に取り組まれる企業やDX推進に行き詰まっている企業の課題解決にお役立ていただければ幸いです。
※法人名、部門名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。
昨年度と同じ作業を繰り返しているかもーー。ふとそう思った時、あらためて考えてみてください。踏襲しているやり方が最善の方法なのか?非効率な業務を見直すことなくそのまま翌年に引き継いでいないか?と。
業務のデジタル化や自動化に着手する際、初期費用をどこで負担するか、費用に見合う効果が得られるかなどさまざまなことが気になり、躊躇してしまうかもしれません。目の前に山積みになっている業務を片付けることが先決、という意見も耳にします。しかし、業務に追われる状況を変えていくためには、まず業務そのものを見直すことが必要です。デジタル化に消極的な現場においてデジタルトランスフォーメーション(DX)推進メンバーができることは何か、PwCあらたの取り組みをもとに考えます。
監査人は、まず企業の規模や複雑性を考慮し、管理組織のレベルや内部統制の整備・運用状況、取引の実体などを分析して、監査を効果的かつ効率的に実施するための監査計画を作成します。監査計画の立案における重要なポイントは、監査人が財務諸表の重要な虚偽の表示を看過して誤った意見を形成する可能性をいかに低く抑えるか、という点です。日々刻々と変化する被監査会社の状況に応じて、監査人は監査計画を随時見直し、どのような監査手続を、どの時期に、どのくらいの範囲に対して実施するのかを決定しています。そのため、監査業務には、長い年月をかけて監査人が培ってきた知識や経験が凝縮されているのです。
いつも業務が山積みになってしまうような状況にある場合は、一度足を止めて、業務全体を俯瞰してみることが重要です。例えば、勘定科目ごとの残高を比較する資料を四半期ごとに表計算ソフトで作成する場合、勘定科目を検索条件として関数を組み、残高を横並びにする作業を年4回実施することになります。使用する勘定科目が増減すれば、関数を更新しなければなりません。関数の更新漏れや検索条件に不備があるとデータに誤りや欠落が生じてしまうため、検索条件と検索結果の行がずれていないか、合計値が貸借で一致しているかなど、毎回確認する必要があります。
この作業にデータ分析ツールを導入したらどうなるでしょう。PwCあらたの場合、クリック一つで比較表を作成できるようになるだけでなく、作成と同時にエラーチェックも行えるようになりました。エラーが発生しても、設定を見直してクリックすれば数分もかからずに更新版の比較表が出来上がり、異常値の有無の確認など、その後に行う判断業務に注力できるようになります。
ツールの活用は、データ加工にかかる時間を大幅に削減できるだけでなく、関数の更新漏れや検索条件の不備などによるデータの誤りや欠落を防止することにつながる可能性があります。さらに、ツールと相性のよい業務を選定する中で、重複していた作業を一本化するなど、業務のスリム化が実現されることもあります。
通常の業務に追われてDXが進まない現場ほど、業務そのものを見直しデジタル化することで、より大きな効果を得られると考えています。そして、そのような現場ほど、業務のデジタル化を計画・実行・改善できる人財を育てることが重要になります。
DXが進まない現場ほど、デジタル化することでより大きな効果を得られる
私たちが所属する消費財・産業財・サービス部(CIPS)では、監査業務のデジタル化を計画・実行・改善することができる人財を一人でも増やすため、部内のいくつかの監査チームに対して、監査業務のデジタル化をデジタルチャンピオン/デジタルアンバサダーが全面的な支援を行っています。デジタルチャンピオン/デジタルアンバサダーは、DXの取り組みを現場に浸透させるため、監査実務を担当する各部門で選任された、デジタル文化の醸成やデジタルツールの実務導入をリードするメンバーです。
まず監査チームとデジタルチャンピオン/デジタルアンバサダーが会話を重ね、ツールと相性のよい業務の選定やデジタル化を阻む課題および問題点を洗い出します。そして、デジタルチャンピオン/デジタルアンバサダーは、ツールを監査現場へ導入するにあたり、計画から実行までを年度を通じてサポートするだけでなく、運用する中で把握した新たな課題や問題点を翌年度に向けて改善するところまで、継続的にサポートします。さらに、この取り組みを監査業務のデジタル化のモデルケースとして社内ポータルサイトで紹介し、身近な人の成功体験を知ることで現場に、デジタル化に前向きな雰囲気を醸成していくことを目指しています。
実際にツールを導入した現場からは、「作業をボタン一つ、わずか数秒で完了できるようになって大幅に効率化できた」という声が多く上がっています。初めはデジタル化に対する心理的抵抗が少なくなかったCIPSですが、ツールの活用により余力が生まれ、さらなる業務の見直しとツールの導入を行うという好循環が生まれてきつつあります。ツールがもたらしたのは、効率化だけではありません。従来よりも被監査会社とのコミュニケーションや職業的専門家としての判断を求められる業務により多くの時間を割くことができるようになり、監査品質の向上にも寄与しています。
この取り組みの特徴は、汎用的なデジタル化のやり方を講習するのではなく、あえてDX推進メンバーが実際の現場に入り、その現場に合わせたデジタル化を一緒に計画・実行・改善まで行うことにあります。現場で細やかなサポートを行い、一人ひとりのマインドセットを変え、デジタルスキルを着実に向上させることを一番の優先事項にしています。小さな成功体験を積み重ねることでスキルアップした職員がデジタル化の進め方や事例を発信し、周りにいる職員の共感を少しずつでも得ていくことで、DXの輪を確実に広げられ、大きな変革の礎になると考えています。
作業をボタン一つ、わずか数秒で完了できるようになって大幅に効率化できた
PwCあらた内の一部門であるテクノロジー・エンターテインメントアシュアランス部(TMT)ではDXに積極的に取り組んだメンバーを表彰する制度を設けています。これは、デジタルに苦手意識を持つメンバーを刺激し、部門メンバー全員をモチベート取り組みです。年間を通して勉強会や共有会を定期的に実施したほか、開発サポートメンバーも募集し、継続的にデジタルナレッジの浸透やスキル向上に取り組みました。その結果、1年の集大成である表彰式では、参加メンバー全員がデジタルカルチャーの浸透を実感できました。
デジタルカルチャーの醸成には、適切なKPIを設定し、達成状況をモニタリングしながら取り組むことが有効な場合もあります。保険アシュアランス部の「保険アドバイザリーグループ」は、学習ツールを活用し、参加者全員が一定の習熟度スコア獲得をすることを目指すことをKPIとしました。参加者を動機付けるために定期的にメルマガ配信を行い、KPIの達成状況を共有するとともに、デジタルカルチャー醸成にむけた情報発信を継続しました。これらの取り組みの結果、1年後には参加メンバーはデジタルツールをより使いこなせるようになり、クライアントとのコミュニケーションに置いてもデジタルを活用したアプローチを提案できるようになるなど、一人ひとりのデジタルへの感度が高まりました。
PwCあらたのアシュアランス・イノベーション&テクノロジー部は、デジタルツールの開発および導入を推進し、デジタル時代に求められるカルチャーの醸成を担う部署です。彼らは、法人全体のDX推進部署と現場をつなぐためには、現場が本当に求めているものが何かを把握することが重要だと考えており、現状を把握するために全職員を対象としたアンケートや、各部署の職員へのインタビューを実施しました。そして、潜在的な課題の掘り起こしや、定期的なヒアリングなどの取り組みを地道に積み重ねることで、法人全体のDXを着実に推進しています。
大野 真実
シニアアソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人