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2021-08-24
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴って働き方が大きく変化する中で、リモートワークによる社内や取引先とのコミュニケーションの難しさや、生産性の低下を課題に感じている方も多いのではないでしょうか。PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)内のある監査チームも同様の課題に直面し、業務の可視化や情報連携の見直しに取り組みました。それにより、リモートワークでも十分なコミュニケーションと業務の効率化を実現し、さらに被監査会社に対して新たな付加価値を提供可能な環境を築き上げました。今回は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するこのチームが業務改善の取り組みを通じて得た、リモートワークの中で生産性を高めるためのノウハウをご紹介します。
監査業務の範囲は、会計処理の妥当性の評価や監査手続の検討のように、考えることに多くの時間を要する業務と、証憑の収集や管理、突合手続のように、限られた期間内に効率よく作業を処理することが求められる業務の2つに大きく分けられます。特に後者は、被監査会社の規模によってはその業務量が膨大となります。コロナ禍以前の働き方であれば、チームで集まってコミュニケーションをとり、議論しながら監査業務を進めることが一般的でした。一見単純な作業とみなされる業務であっても、取引先ごとに請求書のフォーマットが異なるなど、確認すべき点を正確かつ網羅的に把握するためには、会計や監査の知識と経験が必要です。そのため、業務の実施担当者とレビュアーが同じ空間で逐次コミュニケーションを取りながら業務を進められる環境は、作業の効率化につながっていました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大以降のPwCあらたの勤務形態は原則リモートワークであり、同じ空間に集まって業務を行うことがなくなったため、コミュニケーションの取り方の見直しを進めています。私たちの監査チームでもリモートワークになったことで、チーム内のコミュニケーションが減り、それに伴って業務効率の低下も見られたため、業務の進め方を見直すことが急務となりました。
リモートワーク環境下においてチーム内コミュニケーションが低下するという課題に対して、私たちは当初、電話会議による定例会を開催してコミュニケーションの機会を設けたり、チャット機能を活用して適時に情報共有をしたりするなど、さまざまな施策に取り組みました。しかし、これらの施策だけでは従来のように同じ場所で働いている時ほどの効率性は得られず、より抜本的な解決が必要だと考えました。そこで、私たちのチームが対応策を検討するにあたってまず取り組んだのは「一緒に働く場合と、リモートワーク環境下で働く場合の違い」の分析です。それにより、私たちがたどり着いた「違い」は以下の3点にまとめられます。
同じ場所で働いていれば、目の前にいる相手の様子を伺いながら、タイミングを見て話しかけることができ、簡単にコミュニケーションをとることができます。しかし、リモートワーク環境下では相手の状況が見えないため、相手に気を遣ってしまい、会話を始めることにハードルを感じてしまうことがあります。
同じ場所で働いていれば、全てを言語化しなくても資料を指さしながら一緒に見ることで、どこのポイントで質問や懸念点があるのかの共有が容易にできます。一方、リモートワーク環境下では、こういった情報の共有が難しいため、たとえちょっとした質問や懸念点であっても、その解決に必要以上に時間を要してしまいます。
同じ場所で働いていれば、お互いの状況を目で見て確認できますし、チームのメンバーに直接話しかけて進捗状況を確認することもできます。また、困っているメンバーがいれば、周りのメンバーが適時にフォローすることも可能です。一方で、リモートワーク環境下では、状況や進捗を確認するためには、個別に連絡をとる必要があり、また、進捗管理を担当していないメンバーは、チーム全体の状況をつかむことすら難しくなりました。
これらの「違い」について、それぞれ個別には対応できるデジタルツールはあるものの、全てに対応するデジタルツールはなかなか見つかりませんでした。例えば、チャット機能を使えば、「1.コミュニケーションのきっかけに関する課題」には対応できますが、文章でのコミュニケーションになるので「2.質問や懸念点の共有に関する課題」にはうまく対応できません。
試行錯誤を繰り返した結果、私たちの監査チームは上述の「違い」を解決するために「同時編集が可能な表計算シート」を導入しました。このシートを用いて、「売上テスト*1」や「内部統制の運用評価手続*2」など、業務の種類ごとに管理表を作成しました。シートの左側には、細分化された作業レベルでタスクを記載する列を設け、その右側には、担当者やステータスを記載しました。ここまでであれば、通常の管理シートですが、この監査チームの工夫したポイントは、さらに右側にチーム内コミュニケーションのための列を設けたことです。担当者から前任者や上席者への質問や懸念点を記載する列、その反対に、前任者や上席者からの担当者に向けて留意点などを記載する列を設けました。ここでの重要なポイントは、これらの記載日を入力する欄を設けることと、ステータスのルールをあらかじめ明確に決めておくことです。「未着手」「進行中」「完了」といったプロセスのみではなく、「チームへ質問あり」「被監査会社への質問あり」など、プロセスを進めていく上での確認事項の有無やその確認先がわかるようにステータス表記のルールを決めておくことで、フィルター機能を使って「記載日」と「ステータス」で絞り込むことができ、管理表の利便性が格段に高まりました。
この管理表は、メンバー各自がそれぞれの進捗に合わせていつでも自由に記載することができるため、「1.コミュニケーションのきっかけに関する課題」のハードルは下がりました。また、質問や懸念点の左側には細分化されたタスクの内容が記載されているため、コミュニケーションの主題がわかりやすく、「2.質問や懸念点の共有に関する課題」で挙げた、視点の共有が容易になりました。さらにピボット機能を用いることで担当者ごとのステータスの状況を瞬時に確認できるため、進捗のみではなく、質問や懸念点を多く抱えているメンバーも簡単に把握することができ、「3.進捗管理やフォローに関する課題」の解消にもつながりました。
*1:売上テストとは、売上高などの勘定科目に対して重要な虚偽表示リスクを看過しないよう立案し実施する監査手続をいいます。
*2:運用評価手続とは、内部統制の運用状況の有効性を評価するために立案し実施する監査手続をいいます。
監査業務においては、被監査会社とのコミュニケーションも欠かせません。私たちのチームは、被監査会社とのコミュニケーションも同様に効率化することで、さらなる監査品質の向上や付加価値の創出にも挑戦しました。そして、この目的意識を被監査会社に共有し、被監査会社側の管理における効率性も確認しながら管理表をカスタマイズしました。その結果、被監査会社においてもこの管理表を用いることで、監査の進捗状況の可視化ができ、また監査チームとの間のコミュニケーションを透明化することで課題を両者間で共有できるようになりました。あくまで被監査会社への付加価値を生み出すためのプロセスではあるのですが、そこからさらなる価値を提供することができました。この過程からの学びは、デジタルツールの導入は目的ではなく、真の目的を共有し、関連する方々と協業してDXを推進していくことが重要であるということです。
私たちのチームでは、管理表を中心にチャットや電話会議による定例会も組み合わせることで、リモートワーク環境下でもシームレスなコミュニケーションによる効率的な監査を実現しています。そしてこれらの取り組みの結果、被監査会社への付加価値を生み出すための余裕を創出できるようになりました。今後も今回の事例のように監査品質の向上と付加価値を提供できるよう、常に業務の変革に取り組んでまいります。