
オムニバス法案に基づく「CSDDD」の要件の変更と企業が求められる対応について
CSDDD、EUタクソノミー、CSRD、CBAMなどのサステナビリティ関連規制を簡素化する包括的な提案(オムニバス法案)による、CSDDDに関する修正の提案について、主なポイントを解説します。
2024年6月13日、EUの「コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(以下、CSDDD)※1」が欧州議会で採決され、同年7月に発効されました。これにより、一定規模以上のEU域内企業およびEU域外企業に対し、人権および環境へのデューデリジェンスの実施と開示などが義務化されることとなりました。
2024年11月8日、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、企業に課せられる規制負担の軽減を求める声を受けて、CSDDD※1、EUタクソノミー※2、CSRD※3、CBAM※4などのサステナビリティ関連規制を簡素化する包括的な提案(オムニバス法案)を提出すると発表しました。
2025年2月26日、欧州委員会は、「オムニバス法案」を公表し、CSDDDに関する修正の提案をしています。主なポイントは以下の3点となります。
※1 CSDDDに関する詳細は以下のリンク参照
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/business-and-human-rights/csddd-eu.html
※2 EUタクソノミーに関する詳細は以下のリンク参照
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/journal/eu-taxonomy.html
※3 CSRDに関する詳細は以下のリンク参照
https://www.pwc.com/jp/ja/services/assurance/sustainability/csrd.html
※4 CBAMに関する詳細は以下のリンク参照
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/prmagazine/pwcs-view/202401/48-08.html
2025年2月26日のオムニバス法案の草案提出を受け、国内法への移行期限、第一段階の大企業の適用時期の延期、ガイドラインの公表時期、ステークホルダーの定義・関与の範囲、リスク評価の対象範囲、モニタリングの頻度、契約解除、民事責任、制裁金、加盟国との整合性、気候変動の移行計画に関する要件に変更がありました。
オムニバス法案に基づくCSDDDの主な変更は以下の通りです。
図表1:オムニバス法案による主な変更
オムニバス法案が提出されたことにより、当初CSDDDで求められていたデューデリジェンスのリスク評価の対象範囲と要求事項は緩和されました。
図表2:リスク評価の対象範囲と要求事項のレベル
※5 ビジネスと人権に対する指導原則はスコープに関する詳細について言及はしていない
CSDDDは以下の通り、グローバルバリューチェーンを通じて、人権および環境の側面から、持続可能で責任のある企業行動を促進することを目的としていますが、今回のオムニバス法案の草案が提出されても、その当初の目的は変わっていません。
企業はこれらの目的を達成するために、ポリシーの策定、リスクの特定・評価、リスクの防止・軽減、是正、モニタリング、デューデリジェンスの状況に関する公開・開示、デューデリジェンスの実施、苦情処理制度の策定などを通じて、ステークホルダーとのエンゲージメントを行い、社会的責任を果たしていくことが必須であると言えます。
図表3:CSDDDにおける義務
企業のポリシーやリスク管理システムにデューデリジェンスを取り込み、リスクベースのデューデリジェンスを確保するデューデリジェンスポリシーを策定します。
(第7条)
自社、子会社、ビジネスパートナーの事業から生じる、実際のまたは潜在的な人権および環境への負の影響(=リスク)を特定します。
(第8条)
i. 新たに取引先との関係を構築したり、関係を更新したりしてはならず、
ii. EU加盟各国の法令の許容する範囲で取引関係を一時停止したり、重大な負の影響である場合には取引関係の解除※7が求められる
(第9~12条)
人権および環境についての負の影響に関し、自社、子会社およびビジネスパートナーの対応状況を定期的(少なくとも12カ月ごと※8)にモニタリングします。
(第15条)
ウェブサイト上で、年次報告を開示します。
(第16条)
人権および環境についての負の影響に正当な関心を有する一定の者からの苦情の申し立てを可能とする必要があります。
(第14条)
デューデリジェンスの過程でステークホルダーエンゲージメントを実施します。
(第13条)
※6 オムニバス法案においては、詳細なリスクアセスメントの対象は直接の取引先に限定され、間接の取引先については人権・環境リスクに関する信ぴょう性の高い情報がある場合のみ対象
※7 オムニバス法案においては、取引関係の解除義務は削除
※8 オムニバス法案においては、12カ月ごとから5年ごとに緩和
PwCはこうした課題に直面する企業に対して、現在取り組んでいる人権および環境デューディリジェンスの現状を把握し、CSDDDの要件に対応するために必要な対策の取り組み状況を評価する簡易診断サービスを提供します。
企業が保有・公開している情報からCSDDDで求められるデューディリジェンスに関連する箇所を特定し、課題や改善点をまとめた簡易診断レポートを作成します。既存の社内文書や開示資料のレビューを通じて診断を行うため、約2〜3週間ほどで迅速な診断が提供可能です。
※9 CSDDD簡易診断サービスに関する詳細は以下のリンク参照
https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/risk-consulting/csddd-assessment.html
CSDDD、EUタクソノミー、CSRD、CBAMなどのサステナビリティ関連規制を簡素化する包括的な提案(オムニバス法案)による、CSDDDに関する修正の提案について、主なポイントを解説します。
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