経理財務部門のための非財務情報開示の基礎知識 第4回 非財務情報開示の今後

2023-05-18

※この「経理財務部門のための非財務情報開示の基礎知識 第4回 非財務情報開示の今後」は、『週刊経営財務』3600号(2023年4月10日)に掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、PwCあらた有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

※法人名・役職などは掲載当時のものです。

※一部の図表に関しては週刊「経営財務」にて掲載したものを当法人にて編集しています。

はじめに

本連載では4回にわたり、そもそも非財務情報とは何なのか、なぜ経理財務部門にとって非財務情報開示が重要なのか、ということについて解説している。第1回では非財務情報開示に関わる主要なプレイヤー(情報の発信者である企業、情報の利用者である投資家、何を開示すべきかを規定する基準策定機関、そしてそれらの基準に強制力をもたらす規制当局や証券取引所)がようやく資本市場に出そろったことを説明した。そして第2回第3回では、非財務情報開示においてもその中核をなす主要な情報である自然資本(環境)と人的資本に焦点を当てて、具体的にどのような指標の開示が期待されているかについて主要な基準をベースに解説した。

このような環境下、企業の非財務情報は既に十分な開示がなされ、その開示が企業自らの意思決定や投資家の意思決定に十分に活用されているかというと、必ずしもそうとは言えない状況である。それでは、企業の非財務情報開示がさらに発展し、中長期的な企業経営の視点が投資家に適切に評価されることで、中長期的に健全な資本市場が発展、ひいては持続可能な社会が実現するためには、何が足りていないのであろうか。最終回となる本稿では非財務情報開示の今後のさらなる発展に向けて、企業の非財務情報開示が現在直面している課題について解説する。なお、文中における意見はすべて筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

〈各回での掲載テーマ〉

回数

テーマ

掲載号

1

非財務情報はプレ財務情報

3594

2

自然資本に関する非財務情報とは
(気候変動と生物多様性を含む)

3596

3

人的資本に関する非財務情報とは
(人的資本の潮流など)

3598

4

非財務情報開示の今後
(財務・非財務のコネクティビティの必要性)

3600

1990年代後半から始まった企業による非財務情報開示も25年超の時間が経過し、その過程においては情報開示の量・質ともに大きな進展があった。GRIスタンダードやSASBスタンダードなどの情報開示基準によってより多くの開示要求項目が示されたことに加えて、S&P CSA(Dow Jones Sustainability Indexのベースとなる格付け)、CDP(旧Carbon Disclosure Project)、MSCI、Sustainalytics、FTSEといった主要なESG格付け機関からの開示要請も、企業の非財務情報開示を急速に発展させる大きな要因となった。特に大企業においては、統合報告書やサステナビリティレポートの数十ページを割いて100近い(もしくは100以上の)非財務情報に関する指標が開示されており、様々なサステナビリティ課題を含んだ網羅的な情報開示が行われている。

では、それらの企業が開示している広範な非財務情報のうち、どれだけのものが投資家の投資判断に資するだけの信頼性を担保できており、企業の中長期的な成長と関連した情報なのか。そして、その中で企業の将来の財務情報に影響を及ぼすのは、どれくらいだろうか。本稿では、非財務情報の信頼性や企業戦略との繋がり、非財務情報と財務情報のコネクティビティといった3つの観点から、非財務情報の今後の発展に向けて企業が取り組むべき課題について解説する。

〈目次〉

  1. 非財務情報の信頼性:内部統制と第三者保証の必要性
  2. 企業戦略と情報開示の繋がり:マテリアリティ分析の重要性
  3. コネクティビティ(財務情報と非財務情報の統合)に向けて:インパクト評価の必要性

1. 非財務情報の信頼性:内部統制と第三者保証の必要性

PwCが毎年グローバルに実施している投資家意識調査の最新版(グローバル投資家意識調査2022)の調査結果1によると、グローバルな投資家の87%が、「サステナビリティのパフォーマンスに関する企業報告にはグリーンウォッシュが含まれている」または「サステナビリティ報告には裏付けのない情報が含まれている」と回答している。そのような投資家の認識を裏付ける事実も存在している。例えば、グローバルなNGOのキャンペーン動向を調査し、データベースとして提供している英国Sigwatch社の調査によると、2010年以降、グローバルなNGOが実施したグリーンウォッシュをテーマとする企業へのキャンペーンは急増している。これは、企業の発信する非財務情報やサステナビリティ情報について、それらが必ずしも適切な情報開示になっていない、との指摘が増えているということである。

他方で、世界的にESG投資が進展する中、日本においても2015年の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国連責任投資原則(UNPRI)署名を機に、全運用資産に占めるESG投資の割合が増加。2020年には24.3%に達した。また、ESG投資において、投資家が企業のESGパフォーマンスを評価する際は、統合報告書やサステナビリティレポートなどが主たる情報源となっている。

つまり、企業が開示する非財務情報は既に投資家を始め多くのステークホルダーの意思決定に利用されている一方で、投資家はそれらの情報の全てが必ずしも正確なものではないと考えているようである。では、そもそも非財務情報とは、どのような原則に基づいて作成される必要があるのか、そしてこの状況を改善するために、企業は何をする必要があるのだろうか。

(1)非財務情報開示における基本的な報告原則

本連載で何度も登場しているGRIスタンダードは、非財務情報開示基準としてグローバルで認知度が高く、日本企業においても多く利用されている。同基準では、サステナビリティ報告の報告原則として図表1に示す8つの原則を示し、開示する非財務情報がこれらの原則に基づくことが期待されている。

【図表1】GRIスタンダードの報告原則

正確性

組織は、自らが及ぼすインパクトを評価するための正確さと十分に詳細な情報を報告しなければならない。

バランス

組織は偏りなく情報を報告し、自らが及ぼすプラスとマイナス両面のインパクトを公平に示さなければならない。

明瞭性

組織は、入手しやすく、理解しやすい形で情報を提示しなければならない。

比較可能性

組織は、自らのインパクトに関する経年変化の分析、または他の組織のインパクトとの比較分析ができるように、一貫性を持って情報を選択、編集、報告しなければならない。

網羅性

組織は、報告期間における自らのインパクトを評価できる、十分な情報を提示しなければならない。

サステナビリティの文脈

組織は、持続可能な発展という、より広範な文脈におけるインパクトの情報を報告しなければならない。

適時性

組織は、情報を定期的に報告し、情報利用者が意思決定を行う上で適切な時期に入手できるようにしなければならない。

検証可能性

組織は、情報の品質を保証するために、検証可能な方法で情報を収集、記録、編集、分析しなければならない。

出典:GRIスタンダード

図表1の中で、自社が社会に生み出すプラスとマイナスのインパクトを公平に示す「バランス」や、開示する情報が持続可能な発展(Sustainable Development)の文脈での情報になっているかという「サステナビリティの文脈」は、非財務情報の特性に基づくユニークな原則である。なお、投資家やNGOなどから企業のサステナビリティ情報に裏付けのない情報が含まれていると指摘されている問題は、「正確性」や「検証可能性」といった原則が必ずしも適用されていないことによるものと考えられる。

(2)信頼性の担保に向けた内部統制と第三者保証の必要性

従来の非財務情報開示は法定開示ではなく任意開示であったこと、またかつては開示した情報がどのステークホルダーの意思決定にもあまり利用されていなかったことから、情報の正確性や検証可能性が大きな問題として認識されていなかった。そのような背景から、企業内で非財務情報を集計するプロセスにおいて、財務情報と同じレベルの内部統制が存在せず、特定の部署や担当者の知識と経験によっている企業も多い。

また、情報の利用者が不在であったことから、それらの情報に対する第三者の保証についてもそれほど重要視されてこなかった。例外として、CDPで温室効果ガス排出量の第三者保証が求められていることから、その部分について第三者保証を受審している企業がある程度存在しているが、いずれにしても第三者保証(限定的保証)の付いた情報は極めて限定的である。

このような状況の一方で、EUの新たな非財務情報開示の規制である企業サステナビリティ報告指令(CSRD)では、より広範な情報に対しての第三者保証が求められ、グローバルレベルでは第三者保証がさらに必要になっている。ゆえに、投資家をはじめとしたステークホルダーから正しい評価を得るためにも、非財務情報の第三者保証の受審、そして保証に耐えうるだけの情報品質を維持する必要がある。そのため、非財務情報を適切に管理する内部統制の構築が企業にとって重要な課題となるであろう。

2. 企業戦略と情報開示の繋がり:マテリアリティ分析の重要性

PwCあらたでは、TOPIX100組入銘柄全てを対象に非財務情報開示の調査を毎年実施しており、この調査はSASBスタンダードにどれだけ準拠しているかを含め調べている2。サステナビリティの課題は産業によって大きく異なることから、SASBスタンダードは77の産業に対して、それぞれ重要なサステナビリティのテーマ(開示トピック)と、その重要なテーマにおいて具体的に管理・計測・開示すべき指標(会計メトリクス)を規定している。

サステナビリティのテーマ(開示トピック)レベルで見ると、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)が重要だと特定している課題の約8割強は、日本企業のマテリアリティ分析において重要課題と特定されている。つまり、当該基準団体がそれぞれの産業に重要だと設定している課題と、日本企業が自ら重要と認識している課題はほぼ一致している。

一方、開示指標(会計メトリクス)レベルで見ると、その結果は大きく異なる。SASBが開示すべきと指定している開示指標のうちの大部分を日本企業は開示していない(完全に開示している指標が9%、部分的に開示している指標が33%)。ここから、日本企業はサステナビリティの重要な課題を特定しているものの、その重要な領域における具体的な管理指標をあまり開示していない、または管理していないという現状が読み取れる3

(1)マテリアリティ分析とは

前述の通り、サステナビリティの課題は多岐にわたり、全産業に全てのサステナビリティの課題が関係するわけではない。よって企業のサステナビリティマネジメントにおける第一歩として、そもそも自社にとってのサステナビリティ課題を特定する必要があり、それがマテリアリティ分析である。

サステナビリティの開示基準として最も古いGRIスタンダードは、初版が発表された2000年当時より重要な情報(Material information)に焦点を当てて開示することを求めていた。2006年の第3版からは図表2のように、経済・環境・社会へのインパクトの重要性(横軸)と、ステークホルダーの評価と開示への影響(縦軸)でサステナビリティのトピックを評価することで、相対的に重要なトピックを特定し、それらについて開示することが期待されるようになった。

図表2 マテリアリティ分析

本連載の第1回でシングルマテリアリティとダブルマテリアリティについて解説したが、シングルマテリアリティであれ、ダブルマテリアリティであれ、様々なサステナビリティの課題の中から、自社にとっての重要な課題を特定するこのマテリアリティ分析は常に必要である。

(2)企業戦略と情報開示を繋げるマテリアリティ分析の必要性

GRIが提唱するマテリアリティ分析は、あくまでも開示すべきものを特定するための分析手法であるが、非財務の分野においてはそもそも取り組みがなければ開示できない。そのため、様々なサステナビリティの課題において何に取り組むべきかを分析・検討するための手法として多くの日本企業によって活用されている。

本来であれば、特定された重要課題に対して、具体的に達成すべき目標やその目標に到達するために必要な管理指標(KPI)が設定され、それらの指標を収集・管理し開示すれば、マテリアリティ分析で特定された重要なサステナビリティ課題における自社の取り組みの進捗を開示することができるはずである。しかし前述の通り、PwCあらたの調査によると、日本企業の多くでは自ら特定した重要課題について、それらを管理するための指標の開示が進んでいない。全企業には当てはまらないかもしれないが、マテリアリティ分析の結果とは無関係に、ESG格付け機関から求められている開示項目を包括的に開示することで、格付け機関から高い評価を得ることが非財務情報開示の主たる戦略になってしまっているケースもある。

格付け機関は主要なステークホルダーの1つであり、投資家のインプットに大きな影響を与える格付け機関の要請に対応することは企業にとって重要である。しかし、特に公開情報をベースに格付けを行うESG格付け機関は、ESGのリスクサイドの視点から産業特性のない指標の開示を多く求める一方で、産業特有のサステナビリティの機会について開示をあまり求めていない。そのため、ESG格付けで求められる開示要求項目に軸足を置いてしまうと、そもそも自社として特定したサステナビリティの重要課題について(特にビジネス機会の側面について)の開示が不十分になってしまう。

この要因は、中長期の企業戦略を策定する際に実施するマテリアリティ分析と、非財務情報開示を検討する際に何を開示するかを決定する方法が異なっているからだ。非財務情報は投資家のためだけにあるわけではなく、企業にとって自らの中長期的な成長を計測するための重要な指標である。したがって今後は、企業のサステナビリティ戦略と非財務情報開示の戦略が一致するような、マテリアリティ分析の実施と開示が必要になるだろう。

3. コネクティビティ(財務情報と非財務情報の統合)に向けて:インパクト評価の必要性

2021年にIFRS財団が国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設立し、非財務情報開示に関する基準を策定することを発表した。国際統合報告評議会(IIRC)、SASBが価値報告財団(VRF)として統合され、そのVRFもIFRS財団と合併し、いよいよ財務情報と非財務情報の統合に向けた基準の策定に向かっている。

しかし非財務情報は例えばCO2排出量や女性管理職比率などの情報であり、これらがどのように財務情報と関係しているのか、そしてどのように企業の意思決定に統合した形で利用できるかを考えることは難しい。そこでこうした企業の中長期的な課題の取り組みについて、その結果が最終的に社会や環境にどのようなインパクトを与えるのか、そして将来的な財務にどのような影響を与えるのかを考えることが重要になってくる。

(1)インパクト評価とは

従来の財務報告においては、企業活動におけるインプット(どのような資本が投入されるか)とアウトプット(その結果どのような製品・サービスが生み出されるか)が報告の対象範囲となっている。一方で、生み出された製品・サービスは社会に何かしらの効果を生み出し、その結果、社会の改善に貢献している。例えば、「自動車メーカーが何台の自動車を生産し販売するか」ということが従来の財務報告の範囲である。一方、それらの製品によってより多くの人々がモビリティによる移動を実現し、生活の質の向上に貢献している。地域の生活の質を向上させることは、その自動車メーカーのレピュテーションの向上や、新たな製品の購入に繋がる。

このように、インプット、アウトプットだけではなく、そのアウトプットによる社会や環境へのインパクトの計測がインパクト評価である(図表3参照)。またインパクトについては、企業活動によって社会と環境に与えるインパクトと、それが最終的に企業の財務に与えるインパクトに分けて考えることができる(図表4参照)。サステナビリティの取り組みにおけるこれらのインパクトを計測することで、非財務情報を財務情報と統合して理解し意思決定することができる。

図表3 インパクトの考え方
図表4 環境・社会インパクトと財務インパクト

(2)インパクト評価/統合会計に関する方法論開発の動き

このインパクト評価については先進企業による方法論開発の動きがある。それがValue Balancing Alliance(VBA)であり、世界的に有名な大手の化学メーカー、自動車メーカー、医薬品メーカーなど26社によるコンソーシアムで検討されているものだ。図表5のような考え方のもと、まずは企業活動が社会と環境に与えるインパクトについてImpact Statementと呼ばれる評価方法論を開発するとともに、参加企業によるパイロットテストが実施されている。今後、企業が非財務情報と財務情報を統合的に捉えて意思決定するためには、インパクト評価は重要な要素の1つになると思われる。その際、このVBAで開発されている方法論は多くの企業にとって参考になるだろう。

図表5 VBAの方法論の枠組み

おわりに

本稿においては、全4回にわたり、経理財務部門の皆様にとって今後必要になるであろう非財務情報開示の基礎知識について概説した。

世の中の非財務情報開示への関心がますます高まる中で、クライアントから、「IFRS財団のISSBによるサステナビリティ基準はいつごろ公表されるのか」「欧州のCSRDはどの法人が対象になるのか」などの質問をお引き受けすることが非常に多い。その一方で、開示する内容そのものについて議論されることが非常に少ないと感じている。例えば、CO2排出量のスコープ1、スコープ2、スコープ3が何かを知っている人は企業内にも相当増えてきていると感じるが、気候変動について、世界の議論のベースとなる気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書で言及されている内容や、気候変動は「緩和」と「適応」という2つの対策が基本となっていることを理解している人はあまりいないように思う。それらの基本的な考えを知らなければ、「そもそもCO2排出量のスコープ1、スコープ2、スコープ3をなぜ把握・管理しなければならないか」ということを正しく理解することはできない。

非財務情報はプレ財務情報であり、企業の将来を把握するものでもある。自社の中長期的かつ持続可能な成長に向けては、非財務情報・プレ財務情報を正しく管理し、意思決定に活用するとともに、ステークホルダーに開示する必要がある。そのため、開示基準の動向などの表面的な動きだけではなく、貴社にとって重要なサステナビリティ課題のコンテクスト(文脈)についての知識を深めることも、今後の経理財務部門に求められるのではないだろうか。本連載が、それらの知識収集の出発点となれば幸いである。

1 https://www.pwc.com/jp/ja/press-room/investor-survey221208.htmlを参照。

2 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/turning-point-of-sustainability-information-disclosure.htmlを参照。

3 SASBスタンダードについては米国の上場企業向けに開発された開示基準であったことから、一部の日本企業からは、SASBスタンダードの会計メトリクスは日本企業にはなじまないとの指摘がある。しかしSASBの分析によると、SASBの会計メトリクスの内、米国企業特有の開示指標は15%程度とのことであることから、この指摘は少なくとも部分的な正しさに留まると考えられる。

執筆者

田原 英俊

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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