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2024-03-13
※この「経理財務部門のためのサステナビリティ情報開示最前線 ~CSRDの本場欧州ドイツから 第1回 CSRDの概要」は、『週刊経営財務』3637号(2024年1月15日)に掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、PwC Japan有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
※一部の図表に関しては週刊「経営財務」にて掲載したものを当法人にて編集しています。
昨今、CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)への対応がEU域内に拠点を置く企業の急務になっている。CSRDは適用範囲が広く、EU域内の現地法人(EU事業者)のみならず、EU域外の事業者も「第三国事業者」としてサステナビリティ情報を開示する必要がある。そのため、日本企業にとっては、EU域内の子会社だけでなく、日本の親会社もCSRDへの対応が必要である。また、CSRDはサステナビリティ情報の開示指令であるため、サステナビリティ部門が対応の中心となることが考えられるが、経理財務部門の関与も必要である。これは、開示するサステナビリティ情報は監査の対象となるため、サステナビリティに関する全社統制や各業務処理統制の構築、監査対応のためのエビデンス準備、保証付与者である監査法人等との事前の協議が必要であることから、内部統制や監査対応の経験および知見を持つ経理財務部門の関与が重要であるためである。
本連載は全3回(月1掲載)にわたり、サステナビリティおよびCSRDの本場欧州ドイツから、CSRDとESRSの概要、ドイツでのサステナビリティ開示や保証の状況、ドイツに進出している日系企業の状況を解説する。
なお、本文中の意見に関する部分は、筆者の私見である。
【これまでの主な掲載内容と掲載予定】
第1回 |
CSRDの概要 |
No.3637 2024年4月15日 |
第2回 |
No.3641 2024年2月12日 |
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第3回 |
No.3646 2024年3月18日 |
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第4回 |
No.3676 2024年10月28日 |
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第5回 |
サステナビリティ開示の準備状況、導入フェーズ(ガバナンス体制の構築・内部統制の整備等)での実施事項 |
2024年12月掲載予定 |
EC(European Commission:欧州委員会) は欧州グリーンディールを背景に、EUにおける2050年の気候中立達成という最終目標や野心的なサステナブル金融戦略に向けて、CSRD提案を2021年4月に公表した。本提案の公表後、数カ月にわたる欧州議会およびEU理事会との政治的な三者協議を経て、2022年6月に暫定合意に達した。その後CSRDは2022年12月16日にEU官報に掲載され、2023年1月5日の発効に至った。これにより、EU加盟国は2024年7月6日までにCSRDに定められた目標を達成するための国内法制化の措置をとる必要がある。CSRDは早ければ2024年1月1日に開始する会計年度から適用される。
また、企業のサステナビリティ報告の具体的な開示内容を規定することを委任されたEFRAG(European Financial Reporting Advisory Group:欧州財務報告諮問グループ)は2022年11月、ECに対し、12の基準により構成されるESRS(European Sustainability Reporting Standards:欧州サステナビリティ報告基準)草案(第1弾として「セクターにとらわれない基準」)を提出し、2023年7月31日、ECは、ESRSの最終的な委任法を採択した。本委任法には、全てのサステナビリティ事項に適用される2つの横断的基準に加えて、環境、社会、ガバナンスに関する幅広い事項を取り扱う10のトピック別基準で構成される12の最終的なESRSが含まれている。
従来、EUではNFRD(Non-Financial Reporting Directive:非財務情報開示指令)により、一定の要件を充たす企業についてはサステナビリティ情報の開示が義務付けられてきた。しかし、NFRDは対象企業が限られている、準拠する基準が存在しない、第三者による保証が義務付けられていない等の課題があり、ステークホルダーにとって、比較可能性や情報の正確性の観点から問題があった(図1参照)。これに対して、CSRDでは、対象企業がより拡大され、詳細かつ標準化されたサステナビリティ報告基準を開発し、外部の第三者による保証を義務付けている。これにより、EUにおけるサステナビリティ報告の一貫性を高め、金融機関、投資家、取引先、そして広く一般の人々が比較可能で信頼できるサステナビリティ情報を利用できるようになる。
また、CSRD自体はサステナビリティ開示に関する規制であるが、本規制への対応を通じて企業の経営そのものが変化するきっかけとなるように設計されている。したがって、企業内外のステークホルダーの意識が高まり、開示のみならず、各企業における経営の変革とサステナビリティへの取り組みがさらに加速し、強化されることが期待されている。
CSRDはNFRDと比較して適用対象となる会社の範囲が拡大され、その対象となる企業はNFRD対象企業の約10,000社から約50,000社に上ると予想されている。加えて、EU域内企業のみならず、EU域内で一定規模以上の事業を行っているEU域外の企業に対してもサステナビリティ情報の開示が義務付けられている。そのため、欧州に拠点を持つ日本企業の多くはCSRDに従って、サステナビリティ情報を開示する必要がある。
CSRDの適用対象となる具体的な会社は以下の3つのカテゴリーに分かれる(図2参照)。
1つ目は、「EU事業者」である。EU域内で設立された企業または企業グループ(以下、企業等と総称)のうち、一定の基準を充たすものが大企業とされ、CSRDの適用対象となる。上場、非上場を問わず売上高や従業員数といった基準のみによって決定される。そのため、日本企業の欧州子会社で一定規模以上の企業等がこのカテゴリーに該当する可能性が高い。なお、大企業の要件は、貸借対照表合計20百万ユーロ、売上高40百万ユーロ、従業員数250名のうち、2つの要件を2会計期間連続で超えた場合である。この点、現在ECにおいて、インフレに伴う大企業の要件の変更が検討されており、貸借対照表合計が20百万ユーロから25百万ユーロに、売上高が40百万ユーロから50百万ユーロに変更となる見込みである。2023年12月1日現在、ECによるScrutiny(精査)フェーズ中であるため、閾値近辺のEU事業者を持つ日本企業に関しては、ECの採択動向を注視する必要があるだろう。
日本企業にとってより大きな影響がある、と考えられるのが2つ目の「第三国事業者」である。EU域外で設立された企業でも、EU域内に大企業や売上高40百万ユーロを超える支店を持ち、かつ2会計期間連続でEU域内の売上高が150百万ユーロを超えている場合は対象となる。CSRDでは企業グループとしてのサステナビリティ報告が求められるため、日本企業が第三国事業者として対象企業となった場合、EU域外企業も含めたグローバル連結レベルでのサステナビリティ報告を行う必要がある。
3つ目は「(金融商品の)発行体」である。EU域内の市場において証券の取引が認められている事業者(EU域外の事業者も含む)が該当するが、該当する日本企業はまれであると考える。
適用時期はどのカテゴリーに該当するかで異なる。「EU事業者」として欧州子会社が対象になると、これまでNFRDの適用対象ではない企業等の場合には、2025年から適用される(2025年のデータを2026年に開示)。「第三国事業者」に該当する場合は2028年から適用開始となる(2028年のデータを2029年に開示)。CSRD対応およびサステナビリティ報告の作成に当たっては様々な事項を検討・判断しなければならないため、準備にかけられる時間は少ない。早急に動き出す必要があるだろう。
上述のCSRD適用企業がサステナビリティ報告を行う場合、3つの報告方法が考えられる(図3参照)。
1つ目は、単一のEU事業者での報告およびEU事業者を頂点としたグループレベルでの報告である。これは、CSRDのArticle 19aとArticle 29aの適用を受ける全てのEU事業者がそれぞれサステナビリティ報告および連結サステナビリティ報告を行うものである。なお、EU事業者のサステナビリティ情報が連結サステナビリティ報告に含まれている場合、一定の条件で、当該EU事業者単体でのサステナビリティ報告を免除できる可能性がある。
2つ目は、仮想連結(Artificial Consolidation)での報告である。これは、2030年1月6日までの経過措置であるが、Article 19aとArticle 29aの適用を受ける全てのEU事業者が、その資本関係に関わらず、一つの連結サステナビリティ報告を作成して開示を行うものである。なお、仮想連結で連結サステナビリティ報告を行う場合の報告主体は過去5会計年度のうち少なくとも1会計年度において最大の売上高を計上したEU事業者である。
3つ目は、日本の親会社がグローバル連結レベルで、ESRSまたはそれと同等の基準で作成した(グローバルレベルの)連結サステナビリティ報告を行うものである。ただし、現時点で同等の基準は存在していない。ISSB(International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会)がサステナビリティ基準を開発しているが、ESRSで求めているマテリアリティ評価(後述を参照)がダブルマテリアリティ(インパクトマテリアリティおよび財務的マテリアリティ)に対して、ISSBが開発している基準で求められているマテリアリティ評価はシングルマテリアリティ(財務的マテリアリティのみ)とサステナビリティ報告を作成する重要なプロセスに大きな違いがある。そのため、ISSBが開発するサステナビリティ基準がESRSと同等であると認められるかどうかは不透明であることから、グローバル連結レベルでサステナビリティ報告を検討している会社はESRSに準拠して準備することが良いだろう。
筆者が欧州において議論している日系企業では、報告方法の選択に頭を悩ませていることが多い。報告方法の選択は、企業のサステナビリティ戦略や報告要件への効果的かつ効率的な遵守とのバランスを取る必要がある。具体的な検討項目は企業の固有の事情によって様々であるが、報告方法の選択はCSRD対応に必要なリソースの性質および範囲に大きな影響を与える可能性がある。筆者が考える一般的な考慮要素としては以下の通りである。
CSRDは2024年7月までに各EU加盟国の国内法に移行され、EU事業者は所在する国の法律に従う必要があるが、例えば、国内法への移行の際に免除規定について制限することを決定したり、その国に所在する全ての企業について単体でのサステナビリティ報告を義務付けるなど、国または企業レベルでの個別報告を要求することができる。そのため、企業は継続して法整備の状況を注視し、CSRDで規定されている免除規定が国内法に準拠した場合でも適用できるか確認する必要がある。
現在、多くの日本企業はグローバル連結レベルで統合報告書やサステナビリティレポートを通じてサステナビリティ報告を行っており、子会社レベルでは行っていない。そのため、サステナビリティに関するデータ収集のプロセスや内部統制が子会社レベルで適切に整備されていない場合が多いと考えられる。したがって、子会社レベルでのサステナビリティ報告を実施する場合には、各子会社レベルでのプロセスや内部統制を整備する必要がある。
ESRSに従って作成されたサステナビリティ報告に含まれる指標には、財務情報に依存するものもある(GHG原単位指標、EUタクソノミ報告など)。この点、EU域内の持株会社や中間事業者は、多くの場合、法定報告目的のEU事業者を頂点とした連結財務諸表の作成が免除されている。しかし、この免除措置は、CSRDに基づくサステナビリティ報告とは別のものであり、自動的に適用されるものではない。そのため、連結財務諸表を作成していないEU事業者がCSRDに従って連結サステナビリティ報告を行う場合には、必要な財務情報をEU事業者を頂点としたグループレベルで入手しなければならず、実務上困難な場合がある。
一般的に、分散型システム(各会社で独立して運用しているシステム)の場合、連結レベルでのサステナビリティ報告に対する障壁となる可能性がある。情報を手作業で収集・整理する必要になることがあるため、分散型システムで運用する場合には、内部統制を十分に細分化したレベルで整備・運用する必要がある。多くの場合、ITシステムとそれに関する内部統制の成熟度は、報告方法を決定する重要な要素となる。
報告範囲に多数のEU事業者を持つ企業にとって、複数の単体サステナビリティ報告の作成と保証には、大きな負担と時間が必要になる可能性がある。よって、単体レベルでの報告ではなく、仮想連結あるいはグローバル連結レベルでの報告を選択した方が良い場合もあるだろう。
連結サステナビリティ報告を行う場合、企業は「重要なインパクト、リスク、機会を偏りなく特定できるような方法で、全ての子会社がカバーされるように」マテリアリティ評価を設計する必要がある。一般的に、仮想連結で連結サステナビリティ報告を行う場合、対象範囲内のEU事業者が類似したオペレーションを行っているとすると、これらのEU事業者間でサステナビリティに関するインパクト、リスク、機会が重複していることがある。その場合、仮想連結を選択することで効率性を高められるかもしれない。
一方で、オペレーションが均質ではない場合、連結レベルで特定したインパクト、リスク、機会が複数の子会社のそれと大きく異なることも考えられる。当該差異については説明が必要になる可能性があるため、連結レベルでサステナビリティ報告を行うことによるメリットは小さくなる。
ESRSでは従業員が750人未満の企業およびグループには特別な免除措置が規定されている。これは、特定の開示要求やデータポイントに関して、従業員750人未満の企業およびグループは、初年度と2年目の開示を省略できるという規定である(詳細は次回解説予定)。この従業員750人という閾値は、報告範囲の単位で適用されると想定される。したがって、仮想連結または(グローバルレベルの)連結サステナビリティ報告を行うことを決定した結果、従業員が750以上となった場合、当該免除措置が適用できなくなる。
それぞれのEU事業者が所在する国の間で、サステナビリティ報告の提出期限が異なる可能性がある。連結サステナビリティ報告の報告主体となるEU事業者が所在する国で規定される提出期限よりも、より遅い提出期限の国にもCSRD適用対象の事業者が所在する場合、実務的には単体サステナビリティ報告を選択しなければいけないことが考えられる。
財務報告と同様に、サステナビリティ報告の開示に際して、何が重要性(マテリアリティ)があるかについて企業が評価を行う必要がある。ESRSのマテリアリティは、「インパクトマテリアリティ」(内部からの視点)と「財務的マテリアリティ」(外部からの視点)から構成される「ダブルマテリアリティ」に基づいて評価される(図4参照)。
インパクトマテリアリティは、企業や人が環境に与える影響を評価する概念で、企業活動によって人や環境に重大な影響を与える項目がマテリアルと判断される。一方、財務的マテリアリティはサステナビリティに関するリスク・機会を通じて、企業が被る影響を評価する概念で、重要な財務的影響を引き起こすまたは中長期的に将来のキャッシュフローに影響を与えるあるいは影響を与える可能性があるが、現時点では財務報告上では捉えられていない項目がマテリアルと判断される。
筆者が欧州においてサステナビリティに関して議論していると、財務的マテリアリティに重きを置いている日系企業が多い。しかし、上述の通り、ESRSに従ってマテリアリティ評価を行う場合には、財務的マテリアリティの評価のみではなく、インパクトマテリアリティに関する評価も求められている。ESRS 1号「全般的要件」では、インパクトマテリアリティおよび財務的マテリアリティの評価プロセスが規定されているが、財務への影響額という視点で行う財務的マテリアリティ評価より、企業活動が人や環境に対してどのような影響を与えるのかという視点で行うインパクトマテリアリティ評価の方が判断が難しい。さらに、マテリアリティの評価プロセスおよびその結果は、ステークホルダーや監査法人等への説明も考慮しなければならない。どのサステナビリティ課題を重要と判断したか、あるいは重要ではないと判断したのか、それはなぜかを、客観的かつ論理的な判断によってステークホルダーや監査法人等に対して明確に伝える必要がある。
CSRDの主な特徴として最後に挙げるのは、第三者保証が求められる点である。これまでもESG格付けで評価を高めるため、GHG排出量などの個別の指標に関して第三者保証を受けているケースはある。しかし、CSRDでは開示内容全般について第三者保証が必要になる。当初は限定的保証であるが、将来的には合理的保証へ移行することが計画されている。両者の定義は概念的なものだが、合理的保証は現在の会計監査と同程度の保証水準を担保することが求められる。
財務諸表監査では、財務諸表の情報数値を監査する手続の策定に際して、その数値情報の収集プロセスや、内部統制が適切に整備・運用されていることを前提としている。監査実務上では内部統制が適切に整備・運用されていない場合であっても合理的保証は可能であるが、そのためには非常に多くの監査工数と時間を要する。したがって、将来の合理的保証への移行を考えると、サステナビリティ情報の収集プロセスや内部統制の整備といった点を踏まえて対応する必要があるだろう。
CSRDでは保証付与者について「サステナビリティ報告は財務諸表の監査人または監査法人によって監査される。」と規定されている。各EU加盟国が上記以外の保証付与者が監査意見を表明することを認めることも可能であるが、サステナビリティ報告が同じ会計年度の財務諸表と一致していることを監査報告書で表明することが求められている点、監査および保証に関する十分な経験および知見、監査人に対して職業倫理の遵守、独立性、客観性等を求めていることを踏まえると、財務諸表の監査人または監査法人以外が監査意見を表明することが可能になることは小さいと予想される。
なお、昨今は財務諸表監査の実効性を高めるために、自己レビューの脅威を排除する観点から監査人の独立性が強く求められている。2021年4月にIESBA(International Ethics Standards Board for Accountants:国際会計士倫理基準審議会)が、倫理規定の非保証業務および報酬関連の条項を改訂して、財務諸表の監査に関連して自己レビューの阻害要因が生じる可能性がある場合、非保証業務(アドバイザリー業務)の提供が禁止されている。この改訂は、2022年12月15日以降に開始する事業年度に関する監査から適用されており、各監査法人等は当該規定に従って、アドバイザリー業務の受け入れを評価しているであろう。サステナビリティ情報に関しても同様の道をたどるのは想像に難くない。CSRD対応に際して外部のアドバイザーを選定する場合には、この点を考慮に入れる必要がある。
また、第三者保証はサステナビリティ報告で開示される情報や数値だけでなく、CSRDの適用企業の判断やマテリアリティ評価の結果、ガバナンス、プロセス、内部統制の十分性も対象になると考えられる。手戻りを防止するためにも、保証を受けることになる監査法人等と早い段階でコミュニケーションを取るといいだろう。
今回はCSRDの概要および筆者が欧州で日系企業と議論しているなかで得たCSRD対応を進めていく際のペインポイントを解説した。次回は、ESRSの概要および日本企業の注目が特に高いと思われる、GHG排出量と人的資本についてESRSではどのような情報の開示が求められているのか解説するとともに、実際にCSRDに対応するためのロードマップについて説明する。