{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
2024-12-10
※この「経理財務のためのサステナビリティ情報開示最前線~CSRDの本場欧州ドイツから 第4回 ドイツ国内法の立法状況とサステナビリティ保証基準の状況」は、『週刊経営財務』3676号(2024年10月28日)に掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、PwC Japan有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
※一部の図表に関しては週刊「経営財務」にて掲載したものを当法人にて編集しています。
現在、CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)への対応がEU域内に拠点を置く企業の急務になっている。CSRDは適用範囲が広く、EU域内の現地法人(EU事業者)のみならず、EU域外の事業者も「第三国事業者」としてサステナビリティ情報を開示する必要がある。そのため、日本企業にとっては、EU域内の子会社だけでなく、日本の親会社もCSRDへの対応が必要である。また、CSRDはサステナビリティ情報の開示指令であるため、サステナビリティ部門が対応の中心となることが考えられるが、経理財務部門の関与も必要である。これは、開示するサステナビリティ情報は監査の対象となるため、サステナビリティに関する全社統制や各業務処理統制の構築、監査対応のためのエビデンス準備、保証付与者である監査法人等との事前の協議が必要であることから、内部統制や監査対応の経験および知見を持つ経理財務部門の関与が重要であるためである。
第1回(No.3637・29頁)と第2回(No.3641・30頁)において、CSRD並びにその基準であるESRS(European Sustainability Reporting Standards:欧州サステナビリティ報告基準)について詳細に解説した。また、第3回(No.3646・33頁)において、ドイツでのサステナビリティ保証や日系企業の対応状況を解説した。
今回の第4回は、前回から半年経過して徐々に明らかになってきたドイツにおける国内法の立法状況やサステナビリティ保証基準の状況を解説する。なお、本文中の意見に関する部分は、筆者の私見であり、所属する監査法人の意見ではない。
【これまでの主な掲載内容と掲載予定】
第1回 |
No.3637 2024年4月15日 |
|
第2回 |
No.3641 2024年2月12日 |
|
第3回 |
No.3646 2024年3月18日 |
|
第4回 |
ドイツにおける国内法の立法状況、サステナビリティ保証基準の状況(2024年9月30日時点) |
No.3676 2024年10月28日 |
第5回 |
サステナビリティ開示の準備状況、導入フェーズ(ガバナンス体制の構築・内部統制の整備等)での実施事項 |
2024年12月掲載予定 |
2023年1月5日に発効したCSRDはEU法であり、各EU加盟国は18カ月以内、つまり2024年7月6日までにそれぞれの国内法に移管する必要がある。EU法にはその法体系と法的効力にはさまざまな種類があるため、まずはこれを解説する。
Ⅰ.原則法 (Primary legislation)
Ⅱ.二次法(Secondary legislation) 二次法は、原則法に基づいて制定される法律で、EU機関(欧州議会、欧州理事会、欧州委員会など)が採択する。具体的には以下のものがある。
Ⅲ.判例法(Case Law)
|
CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)はEU法の指令(Directives)に該当する。なお、指令に記載された内容を満たす場合には、各EU加盟国にその範囲内で一定の裁量が認められている。そのため、各EU加盟国は自国のサステナビリティに関する政策や取り組み、国内企業の状況、ステークホルダーからの意見などを踏まえて国内法を議論している。各企業は所在する国の国内法に準拠して、サステナビリティ報告を行っていくことになる。
各EU加盟国は2024年7月6日までにCSRDを国内法に移管することが求められているが、ドイツでの国内法は執筆時点(2024年9月30日)では未だ立法過程である。
2024年7月24日にドイツ連邦政府は「サステナビリティ報告に関する規則等を改正する施行法草案」(以下、施行法草案)を採択し、その内容を連邦司法省(BMJ)のウェブサイトで公表している。その後、2024年9月9日にドイツ連邦政府はドイツ連邦議会に対して、両院議会での審議のため施行法草案を送付した。施行法草案によって改正される法律等は、ドイツ商法、株式会社法、有限責任会社法、SE実施法、協同組合法、ドイツ銀行法、ドイツ投資法、REIT法、証券取引法、資産運用法、連邦予算法、公認会計士規定など広範囲に及んでいる。今後は、連邦議会の上院および下院での審議が行われた後、首相の署名および大統領の認証を経て、連邦法律公報にて公布されることとなる。
なお、2024年6月9日にドイツで欧州議会選挙が行われたが、選挙の結果これまでの連立与党である社会民主党(SPD)、緑の党(Greens)および自由民主党(FDP)が大きく議席を減らし、中道右派のキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)が第一党となった。また極右政党であるドイツのための選択肢(AfD)が躍進した。その後のドイツ州議会選挙でもドイツのための選択肢への支持が大きく伸びており、両院議会での審議は混迷を極めることが予想される。
多くの日系企業は、2025年のサステナビリティ情報を2026年に開示することになるが、準備のために必要な膨大な工数を考えると、開示期限までに多くの時間は残されていない。施行法の成立を待つことなく準備を進めることが賢明であるだろう。
上述の通り、CSRDはEU法の「指令」であるため、ドイツ国内法の立法過程で、サステナビリティに関する政策や取り組み、ドイツ国内企業の状況、ステークホルダーからの意見などを踏まえて、内容を変更することができる。そのため、CSRDからの主な変更点を解説する。なお、CSRD自体の内容は当連載の第1回「CSRDの概要」(No.3637・29頁)を見ていただきたい。変更点は細かい事項を含めると数多くあるが、ここでは筆者が日系企業と意見交換をしている際に頻繁に質問を受ける以下の3点に絞って解説する。
CSRDに規定されている報告対象企業である「大企業」の定義は、貸借対照表合計25百万ユーロ、売上高50百万ユーロ、従業員数250名のうち2つの要件を2会計期間連続で超えた場合である。なお、この閾値は、CSRDの発効後にインフレの影響を踏まえて貸借対照表合計20百万ユーロ、売上高40百万ユーロから引き上げられた結果であるが、この大企業の定義は財務報告の対象企業や報告事項の種類を判断する定義と同じであることから、多くの企業では把握済みであろう。
ただし、EU域内の全ての国で同じ閾値が使われているわけではない。ドイツ国内法において、閾値に変更はないが、閾値を変更しているEU加盟国もある。変更を決定あるいは検討しているEU加盟国は後述の「(4)各EU加盟国の国内法の立法状況」で紹介する。
この点、筆者が欧州の日本企業と話していると、サステナビリティ報告の対象拠点の分析では、「貸借対照表合計25百万ユーロ、売上高50百万ユーロ、従業員数250名」を基に企業自身で判断して、その後のタスク(例えば、ダブルマテリアリティ評価)から外部アドバイザーの支援を受けているケースが散見される(図表1参照)。報告対象拠点の分析も含めて外部アドバイザーに業務を依頼した場合には、基本的にはEU域内の全ての拠点を対象として、外部アドバイザーが全ての国の国内法あるいはその草案に基づいて分析・評価しているため、報告対象拠点の判断を誤ることはない。
図表1:対応ロードマップ
一方で、報告対象拠点の分析を企業自身で実施して、その後のダブルマテリアリティ評価から外部アドバイザーに支援を依頼した場合には、外部アドバイザーは企業が決定した報告対象拠点の情報のみを入手して、ダブルマテリアリティの評価を進めることとなる。企業が報告対象外であると判断した拠点が、国内法に照らした結果、実は報告対象拠点であると後で判明する可能性がある。そのため、このような企業は、早めに自社の拠点が存在する全ての国の国内法あるいはその草案を確認し、上記の閾値を元に判断した報告対象拠点と相違がないかを確かめることが重要である。
また、現在は報告対象拠点には該当しないが、将来の事業計画を踏まえて、どの時期からサステナビリティ報告書を作成する義務が発生するのかを分析している企業もあるだろう。この点、事業年度の末日において「大企業」に該当する場合には、当該事業年度に係るサステナビリティ報告を作成する義務が発生する(ドイツ商法 第267条)。この理解が誤っている(例えば、大企業に該当した翌事業年度からサステナビリティ報告を作成する義務があると理解している)ケースも見受けられる。ドイツ商法を正しく理解することは、法令違反を未然に防止するための重要な要素であるため、社内の法務部を交えてドイツ商法の正確な理解を深めると良いだろう。
CSRDでは、サステナビリティ報告に対する保証提供者に関して、各EU加盟国が財務諸表およびマネジメントレポートの監査を行っている公認会計士または監査法人(以下、公認会計士等)以外の公認会計士等あるいは独立した保証サービス提供者がサステナビリティ報告に対する意見を表明することを許可することができると規定している。
この理由として「既に財務諸表およびマネジメントレポートの監査を行っている公認会計士等によるサステナビリティ報告の保証は、財務情報とサステナビリティ情報の接続性(connectivity)および一貫性(consistency)の確保に役立つであろう。これは、サステナビリティ報告書の利用者にとって特に重要である。しかしながら、監査市場がさらに集中するリスクがあり、これは監査人の独立性を危険にさらし、財務報告の監査やサステナビリティ報告の保証に対する監査・保証報酬を増加させる可能性がある」と明記されている(CSRD第61項)。
これを受けて、ドイツでは国内法の立法過程で、公認会計士等以外の独立した保証サービスの提供者がサステナビリティ報告の保証を行うことができるかどうかについて様々な議論が行われた。その結果、施行法草案では、ドイツでサステナビリティ報告の保証を行うことができるのは、公認会計士等のみであると規定された。
CSRDで各EU加盟国に裁量の余地を与えた「独立した保証サービスの提供者」がサステナビリティ報告の保証を行うことができない理由について、Wirtschaftspruferkammer KdoR (日本の公認会計士・監査審査会に相当する組織)は、「EU指令によると、独立した保証サービスの提供者は、公認会計士等に対する要求事項と『同等』の要求事項を遵守している場合にのみ、サステナビリティ報告書の保証を行う権限が与えられる。ここで特に重要なのは、適性検査と研修、品質管理システム、制裁制度、責任と監督に関する問題である。ドイツでは現在、環境検証機関やその他の独立系保証サービス提供者に相当する法的要件はない。したがって、現在の法的状況では、サステナビリティ報告書に対する保証を独立した保証サービス提供者にまで拡大することはできない」と説明している*1。
なお、日本の有価証券報告書に記載したサステナビリティ情報に対する保証の担い手に関しては、金融庁の金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」で検討が行われており、各メンバーによる活発な議論が行われている。事務局が作成した資料やワーキング・グループの議事録は金融庁のWebサイトで誰でも閲覧・入手可能である*2。
サステナビリティ報告の法的根拠である各EU加盟国の国内法の遵守違反に伴う罰則については、各EU加盟国が独自に定めることになる。この点、サステナビリティ報告はマネジメントレポートに独立したセクションとして開示するため、罰則についてもマネジメントレポートに対する罰則と同じになることが見込まれる。この点、ドイツ商法に規定されている罰則の上限は、2百万ユーロ、または、違反により生じた経済的利益の2倍のうち、高い方の金額である。
財務情報とサステナビリティ情報の接続性および一貫性について筆者は以下のように考える。
直接的に関係している指標はEUタクソノミーである。EUタクソノミーは「生物学的にサステナブル(グリーン)」な経済活動を特定する枠組みであるが、CSRDの対象となる企業はEUタクソノミーに基づく報告も義務付けられている。報告する指標は、サステナブルな収益、設備投資、営業費用の割合であり、報告対象期間のEUタクソノミーに適合かつ適格な活動による売上高、設備投資額、営業費用を、それぞれ総売上高、総設備投資額、総営業費用で除することによって算定される。この点、報告期間の売上高、設備投資額、営業費用は財務諸表監査の過程で監査人が検証を行っている。
また、GHG排出量も間接的に関係している指標であると考えられる。例えば、スコープ3(企業のバリューチェーンで発生する全ての間接的排出)のなかのカテゴリー1(購入した物品・サービス)およびカテゴリー11(販売した製品の使用)が該当する。財務諸表の監査人は監査の過程で企業が行った原価計算の確からしさを検証しているが、製造業の場合、原価計算の基礎となる考え方は図表2の通りである。
図表2
このボックス図の通り、当期購入量はカテゴリー1、当期販売量はカテゴリー11と密接に関係している。なぜなら、GHG排出量は「活動量×排出原単位(排出係数)」で算出されるが、一般的に活動量のデータに関して、カテゴリー1では購入した物品の金額または物量、カテゴリー11では販売した製品の台数などが用いられるためである。そのため例えば、排出原単位の変動がなかった状況で、当期の原材料購入量が前期と比較して大幅に増加しているにも関わらず、カテゴリー1のGHG排出量の変動がそれと整合していない場合、監査人はカテゴリー1のGHG排出量の確からしさについて心証を得るため、追加の手続を計画することになるだろう。一般的に、製造業の場合にはカテゴリー1とカテゴリー11は総GHG排出量の大部分を占める重要な指標となるため、監査人による財務情報とサステナビリティ情報の接続性および一貫性を考慮したサステナビリティ報告に係る保証手続はサステナビリティ報告書の利用者にとって有益である。
ドイツ以外のEU加盟国の国内法の発効状況および報告対象企業の閾値の変更の有無について、PwCが2024年8月1日の状況を調査した結果は以下の図表3の通りである。
調査の結果、複数のEU加盟国で閾値の変更が行われた。過半数のEU加盟国は国内法が未発効であることから、企業は自社の拠点が所在する国の国内法の立法状況を注視していく必要がある。
なお、このような状況を踏まえてEC(European Commission:欧州委員会)は、9月26日にドイツを含む国内法への移管が完了していないEU加盟国に対して2カ月以内の完了を求める正式な書簡を送付している。
図表3:各EU加盟国の国内法の立法状況
備考(進捗度順)
Final:国内法施行済み
Partial Transposition:一部施行済み
Consultation:草案に対する意見収集プロセス中
Draft:草案公開中
Draft under embargo:草案内部レビュー中
※2024年8月1日時点。
※閾値の変更が「×」は、CSRD報告対象企業の定義がCSRDで規定されている定義から変更がないことを意味している。
執筆時点(2024年9月30日)では、サステナビリティ報告書の保証を行う際に準拠する基準は欧州またはドイツ国内の法令等で定められていない。そのため、サステナビリティ報告書の監査人は、特定の基準の適用に拘束されるものではなく、適切な基準の適用についてクライアントと合意する必要がある。現在までのところ、ドイツではサステナビリティ報告書の保証については、ISAE3000(改訂版)「過去財務情報の監査およびレビュー業務以外の保証業務」がほとんどの保証業務で適用されている。なお、ドイツ公認会計士協会(IDW)では、サステナビリティ報告領域における以下の3つの監査・保証基準案を公表している。
|
欧州またはドイツでのサステナビリティ保証基準の確定後には、上記の基準案は採用されないことが想定されているため、現在ドイツ公認会計士協会は上記基準案の継続開発を中断している。ただし、欧州またはドイツでのサステナビリティ報告の保証基準が確定されるまでの間は自主的に適用することを推奨している。
なお、2024年9月20日に、IAASB(国際監査・保証基準審議会)は、質の高いサステナビリティ保証業務の一貫した実施を支える適時な基準を求める公共の利益のニーズなどに対応するため、ISSA5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」を最終承認した。2024年中に最終基準が公表され、2025年1月にはガイダンスが発表される予定である。当該保証基準は今後、ECが委任法(delegated act)として採択し、CSRDに基づくサステナビリティ報告の保証基準となる見込みである。
今回解説したドイツ国内法およびサステナビリティ保証基準についてはまだ確定していないが、特にドイツ国内法に関しては企業が遵守するべき法令等であることから今後も動向を注視していく必要があるだろう。法令等の内容の理解には専門的な知識が必要になる。そのため、CSRD対応準備を推進している部署が、社内の法務部の協力を得ながら適時に正確な情報を得られるようにすることが望ましい。
多くの日系企業の初年度適用(2025年適用、2026年開示)が数カ月に迫っているなか、多数の企業は図1のフェーズ2に該当する導入フェーズ(ダブルマテリアリティ評価およびギャップ分析後のフェーズ)に取り組んでいる。導入フェーズでは、必要なデータの収集方法を検討し、開示する指標や目標、アクションを決定するだけではない。サステナビリティに係るガバナンス体制の構築や業務プロセスおよび内部統制の整備も進める必要がある。
この段階から、財務報告に係る業務プロセスや内部統制の知見および経験を持つ経理財務部門の関与の重要性が高まってくる。次回は、導入フェーズで実施するタスクを説明するとともに、企業にとってサステナビリティに係るガバナンス、業務プロセス、内部統制を運用するメリットについても解説する。