経理財務のためのサステナビリティ情報開示最前線 ~ CSRDの本場欧州ドイツから 第3回 ドイツでのサステナビリティ開示・保証と日系企業の状況

2024-04-19

※この「経理財務部門のためのサステナビリティ情報開示最前線 ~CSRDの本場欧州ドイツから 第3回ドイツでのサステナビリティ開示・保証と日系企業の状況」は、『週刊経営財務』3646号(2024年3月18日)に掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、PwC Japan有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

※法人名・役職などは掲載当時のものです。

※一部の図表に関しては週刊「経営財務」にて掲載したものを当法人にて編集しています。

1.はじめに

昨今、CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)への対応がEU域内に拠点を置く企業の急務になっている。CSRDは適用範囲が広く、EU域内の現地法人(EU事業者)のみならず、EU域外の事業者も「第三国事業者」としてサステナビリティ情報を開示する必要がある。そのため、日本企業にとっては、EU域内の子会社だけでなく、日本の親会社もCSRDへの対応が必要である。また、CSRDはサステナビリティ情報の開示指令であるため、サステナビリティ部門が対応の中心となることが考えられるが、経理財務部門の関与も必要である。これは、開示するサステナビリティ情報は監査の対象となるため、サステナビリティに関する全社統制や各業務処理統制の構築、監査対応のためのエビデンス準備、保証付与者である監査法人等との事前の協議が必要であることから、内部統制や監査対応の経験および知見を持つ経理財務部門の関与が重要であるためである。

第1回(No.3637)と第2回(No.3641)においてCSRD並びにその基準であるESRS(European Sustainability Reporting Standards:欧州サステナビリティ報告基準)について詳細に解説をした。今回はESGに対する関心が高いドイツのサステナビリティ開示の状況、ドイツ企業におけるCSRD対応、また在独日系企業の対応状況について説明を行う。

なお、本文中の意見に関する部分は、筆者の私見である。

【これまでの主な掲載内容と掲載予定】

第1回

CSRDの概要

No.3637 2024年4月15日

第2回

ESRSの概要(特にGHG排出量・人的資本)と対応ロードマップ

No.3641 2024年2月12日

第3回

ドイツでのサステナビリティ開示・保証の状況、日系企業の対応状況(2024年3月時点)

No.3646 2024年3月18日

第4回

ドイツにおける国内法の立法状況、サステナビリティ保証基準の状況(2024年9月30日時点)

No.3676 2024年10月28日

第5回

サステナビリティ開示の準備状況、導入フェーズ(ガバナンス体制の構築・内部統制の整備等)での実施事項

2024年12月掲載予定

2.ドイツでのサステナビリティ開示

(1)ドイツにおける開示制度

サステナビリティ開示のテーマに入る前にまずはドイツにおける開示制度について解説をしたいと思う。ここでは在独日系企業のほとんどを占める有限会社(GmbH)の開示に限定する。ドイツ商法(Handelsgesetzbuch:HGB)第325条により資本会社(有限会社を含む)のマネジメントは承認された決算書、マネジメントレポート並びに(監査義務のある中規模会社以上では)監査意見を開示しなければならない。なお中規模会社の基準値はドイツ商法第267条第2項に規定されているが、2024年1月1日以降開始する事業年度では、総資産高25百万ユーロ以上、売上高50百万ユーロと従前の基準値よりも 25%引き上げられることになった(従業員数250人は変更なし)。これらの要件のうち2つを2年継続して超えると中規模会社に該当する。

開示期限は決算日から1年以内である。決算書の内容は、貸借対照表、損益計算書、注記の3書類で、中規模会社になるとこれらに加えてマネジメントレポートの作成並びに開示義務が発生する。

ドイツにて連結財務諸表を作成する義務を負う企業は、単体財務諸表に加えて、連結財務諸表も併せて開示する必要がある。ただし、親会社の連結財務諸表を開示することによる免除規定があり、免除規定を利用して商法の連結財務諸表の作成並びに開示を行っていない企業も多々ある。免除規定を適用した場合、単体財務諸表の中の注記(Anhang)に親会社連結財務諸表が準拠している会計基準(例えば日本基準)とドイツ基準の重要な差異について開示しなければならない。免除規定は親会社または中間持株会社がEU域内にある場合は商法291条、日系企業のように第三国の場合は商法292条による。

開示は指定されているサイトで行い、ドイツ語であるが次のサイトにおいて誰でも閲覧可能である(どちらのサイトも開示内容は同じ)。
https://www.unternehmensregister.de 
 https://www.bundesanzeiger.de

CSRDによるレポートはマネジメントレポートの一部としてこのサイトに開示することになる。

(2)ドイツにおける開示制度

2014年10月22日に発効したEU指令NFRD(Non-Financial Reporting Directive:非財務情報開示指令)により、非財務情報報告に関する要求事項が定義された。ドイツでは「非財務情報の強化のための法律」として2017年4月に国内法化され、従業員数が500名を超える上場企業や金融、保険業界の企業には非財務情報の報告義務が課せられた。対象となる年度は 2017年1月1日以後開始する年度である。

報告要件として、まず企業のビジネスモデルについて述べ、次の5項目からなる非財務情報について開示をする。

  • 環境問題
  • 社会的事項および従業員の待遇
  • 人権の尊重
  • 汚職、贈収賄防止
  • 取締役会や監査役会における多様性(年齢、性別、学歴、職歴)

これらの情報をマネジメントレポート内もしくは別途の非財務情報報告書にて開示しなければならない。開示は、マネジメントレポート内にて報告している場合は決算書の開示と同時に、別途の報告書を作成した場合はマネジメントレポートの開示から4月以内の開示が要求されている。

該当企業の監査役は、非財務情報報告の作成者である取締役から報告書を受け取り、報告書の妥当性をチェックする義務を負う。第三者による保証は任意であるが、財務諸表の監査人は、非財務情報報告がなされているかどうか、という事実そして非財務情報報告書が監査対象である決算書とマネジメントレポートに比して一貫性があるかについて判断をする必要がある。

非財務情報報告をしなかった場合の罰則規定はドイツの場合最高で10百万ユーロもしくは年間売上高の5%という厳しいものになっている。

ドイツのNFRDに該当する企業はすでに FY17から非財務情報報告を開始しているわけであるが、NFRDによる開示は上記5項目に関する定性的なものが多く、定量的な情報が少ないことが見受けられる。また第三者保証も任意であることからグリーンウォッシングのリスクが批判されてきた。CSRDはこの批判を踏まえた上で導入されることもあり一段と厳しいものになっている。

3.ドイツにおける第三者保証をめぐる論議

PwCの行った調査によると、現行のNFRDによる非財務情報について第三者の保証(限定的もしくは合理的保証)を受けている企業は3割ほどであった。保証が任意であることから、必ずしも公認会計士(Wirtschaftsprüfer)による保証でなくてもいいのだが、保証の担い手はその中の3割程度が財務諸表の監査法人等だった。CSRDにおける保証付与者は「財務諸表の監査人または監査法人」(本連載第1回4.(4)参照)であるが、詳細はEU加盟国が国内法化する段階でそれぞれ決定することとなっている。財務諸表の監査法人等に加えて別の(公認会計士である)監査人を用いるか、公認会計士以外の監査人を認めるかが焦点になる。遅くとも2024年7月までには国内法化される段階で決定される。ドイツでは、現在(2024年3月8日)のところ公認会計士の独占業務になる可能性が高いと言われているものの、様々な認証機関の団体から反対の声が上がっており、まだわからない状況である。

なお、非財務情報報告の監査基準としては、今までの任意保証の場合は国際監査基準のISAE3000(Revised)に準拠していた。CSRDによる保証義務化に伴い、EUでは2026年10月1日を目途に監査基準を作成する方向でいるが、このタイムスパンだと最初の保証に間に合わないため加盟国では国内の監査基準を暫定的に使用することが許可されている。ドイツ公認会計士協会では2022年に非財務情報の保証に関する3つの監査基準(限定的保証、合理的保証)の草案を公表している(IDW EPS 352, IDW EPS 990, IDW EPS 991)。これらの監査基準は、関連するドイツの法令および欧州の規制に準拠する形で開発されている。

4.ドイツ企業のサステナビリティ対応

上記のようにドイツではNFRDによるサステナビリティ開示をすでに行っている企業があるが、ドイツの特徴として上場企業の数がそれほど多くないことから(2020年で438社)、非上場企業も適用しなければならないCSRDによって初めてサステナビリティ開示の対象になる企業が多い。そういう意味で在独日系企業と同じスタート地点にいることになる。ここでは PwCがドイツ、オーストリア、スイス、オランダの170社に取った2023年9月のアンケート調査結果を紹介する。なおスイスはEU加盟国ではないためCSRDに対する直接の義務はないが、EU内の子会社が該当するなど間接的な義務を負うので対応を開始している。

・72%の企業がサステナビリティを重要な戦略と認識している。2021年には24%だったことから重要性が増している。しかし26%の企業はまだサステナビリティ戦略を設定していない。

・サステナビリティ情報の開示が重要な理由は、顧客の要求(70%)、規制対応(55%)、マーケティング(53%)並びに投資家対応(48%)、銀 行(45%)、その他のステークホルダー(40%)、従業員向け(35%)。

・調査対象企業の55%が現在すでに任意で非財務情報報告を行っている。その中の35%が任意で保証を受けている。保証を受けている場合、自社の監査人が保証業務を請け負っている場合が35%、その他の監査法人に依頼をしているケースが13%であった。

・CSRD対応のハードルとして、複雑性とリソース不足が64%、時間不足が50%、専門知識の要求度と組織内の担当決めの難しさが49%となっている。それに対してマネジメントからのサポートの欠如は14%しか挙がっていない。またバリューチェーン全体で対応しなければならないことについても74%がハードルとして挙げている。

・非財務情報への対応は、42%がサステナビリティ推進部が担当している。30%の企業では経理部が担当している。この2部門が共同で進めていくケースが増えてきている。他にはドイツ特有ではあるがコントローリング部門(管理会計を担当)や広報部門が担当することも多い。

・CSRDのKPIを設定した企業が61%、スコープ分析は54%が、マテリアリティ評価を実施した企業は54%であった。それに対し15%の企業がまだCSRD対応を開始していないと回答した。

・過半数を超える企業が、CSRD報告でITツールを使用すると回答している。その中でExcelと回答した企業が27%で一番多かった。 CSRD用に開発されたERPシステムを使用するという回答は19%であった。

・58%の企業が外部コンサルを使用し、29%の企業は自社のリソースのみで対応すると回答している。

・CSRDの要件が今後の企業の戦略決定に影響を与えると考える企業が59%であった。

この調査結果から、ドイツの企業においても CSRD対応はまだまだ道の半ばにあるということが言えるであろう。

5.日系企業の対応状況、特徴、留意点

ここからは日系企業のCSRDへの対応状況を紹介するために、まずはCSRD対応のロードマップを図1に再掲する。各フェーズで実施するタスクの詳細は前回(No.3641・36頁)を参照していただきたい。

筆者が欧州でディスカッションまたは支援している企業の2024年2月現在のおおよそのステータス分布は図2の通りである。

ここでは、(1)未開始、(2)フェーズ1、(3)進捗不明のそれぞれケースについて、筆者の経験に基づいた特徴および留意点を解説する。

(1)未開始

この段階の企業は、CSRD/ESRSの理解、関係者への根回し、対応人員の確保、予算取り等の段階であり、まだCSRD対応を開始していない。

前回(No.3641)に述べたように、フェーズ1を終えなければ、自社が開示するべきトピックおよびフェーズ2の実施事項が分からない。

そのため、対応が開始できない問題を可能な限り早く解消し、適切な対応メンバーを決定して、CSRD対応を開始する必要がある。

また、この段階の企業は、CSRD対応支援の外部アドバイザーの選定にも多くの時間を費やしている。現在、CSRD対応支援は、監査法人、コンサルティング会社、ESG専門会社等、さまざまな企業から提供されており、その選択に頭を悩ませている企業が多い。

筆者が欧州で経験したなかで最も留意しなければいけないケースは、自社の監査を担当している監査法人をCSRD対応支援のアドバイザーとして選択する場合である。2022年12月15日以降に開始する事業年度から、IESBA(International Ethics Standards Board for Accountants:国際会計士倫理基準審議会)の倫理規程が改訂され、財務諸表の監査に関連して自己レビューの阻害要因が生じる可能性がある場合には、その重要性に関わらず、非保証業務(アドバイザリー業務)の提供が厳格に禁止されている。なお、自己レビューの阻害要因とは「監査業務チームが監査の一環として判断をまとめる際に依拠することになる、当該会計事務所等またはネットワーク・ファームに所属する個人が以前に非保証業務の一環として下した判断または行った活動を、適切に評価しないという阻害要因」(参照:IESBA 2021年4月発行「Revisions to the Non- Assurances Services Provisions of the Code」)である。さらに、2024年1月に公開されたサステナビリティ報告・保証業務等に関するIESBA倫理規程の草案にも、自己レビューの阻害要因に関しては、上述した財務諸表の監査と同様の規程が明記されている。

この点、CSRDに準拠して作成されるサステナビリティ報告は監査対象であるため、各監査法人は上述の規程を遵守するため、非監査クライアント向けと監査クライアント向けの2種類のアドバイザリーサービスを開発している。一般的には監査クライアント向けのサービスは、非監査クライアント向けのそれと比較して、支援範囲が狭まっており、その深度にも大きな違いがあることが多いだろう。例えば、CSRD対応の支援方法について、自社の監査法人およびそのネットワーク・ファームが支援する場合には「方法論」の提示のみに限られるが、それ以外の監査法人からは伴走型でより深い支援を受けられることが多い。さらに、監査対象となる可能性の高い事項が多いフェーズ2の支援ができないと監査法人から言われて、フェーズ2から自社の監査法人とは異なるアドバイザリーを探すことに難航している企業も実際に存在している。自社の監査法人は監査の過程で監査先企業のビジネスや取引を既に理解しているため、CSRD対応の準備も効率的に支援してくれるであろうとの期待があるかもしれないが、支援範囲や深度が異なること、全フェーズに渡って一貫した支援を受けられないリスクを考慮して、外部アドバイザーを選定する必要があるだろう。
どの企業もフェーズ1を開始してから完了するまで、最低でも半年程度は費やしている。フェーズ2で必要となる工数はフェーズ1が終わらなければ分からず、多くの日系企業が来年の2025年から適用開始であることを踏まえると、現時点でCSRD対応を開始していない企業は、今すぐに対応を開始しなければ開示までに間に合わないリスクが極めて高くなる。

(2)フェーズ1

フェーズ1では、適用企業・範囲の検討、マテリアリティ評価、ギャップ分析を実施する。弊社の支援実績に基づくと、マテリアリティ評価では以下のような特徴が見受けられる。

①ESRSE1「気候変動」から特定されたマテリアルなトピックは、他の環境に関する基準のトピックよりも多く特定されている。GHG排出量に深く関連している気候変動への適応や緩和は世界的に注目されているサステナビリティ事項であり、ISSB(International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会)が真っ先に気候関連開示事項に関する基準「IFRS第S2号」を開発していることからも、気候変動に関するトピックはステークホルダーからの注目度も高い。そのため、CSRDに準拠したマテリアリティ評価で他の環境トピックよりも多くのマテリアルな事項が特定されることには違和感がないであろう。

②特定するマテリアルなトピックの数は、業界ごとに一般的に「小売業 > 製造業 > ソフトウェア > 人材派遣」といった特徴が見受けられる。これは、検討するマテリアリティ評価で特定するマテリアルな項目数は、自社およびバリューチェーンに含まれるオペレーションや製品・サービスの種類の多寡と相関関係があるためである。自社で多くの製品やサービスを取り扱っており、幅広いバリューチェーンに依存してビジネスを展開している会社は、より多くのマテリアルなトピックを識別する傾向がある。

③一部の開示要件は地域や資産レベルでの開示を要求しているが、この粒度ではマテリアリティ評価が行われていないケースがある。外部アドバイザーの支援を受けてCSRD対応の準備をしている会社は、適切な粒度でマテリアリティ評価を進めていると考えられるが、自社で対応をしている企業に関しては、各開示要求事項に対するマテリアリティ評価を、どういった粒度で実施する必要があるのを十分に把握したうえで実施する必要があるだろう。そうしなければ、実際の開示段階で収集粒度の間違いに気づき、大きな手戻りが発生する可能性が高い。

ギャップ分析では、どの日系企業も事前の想定以上にギャップが識別されていることが特徴である。PwCが支援しているサステナビリティ報告のリーディングカンパニーでは、ESRSに準拠した報告に必要な全データの30%程度しか保有していなかった。これはギャップ部分である70%をフェーズ2で対応する必要があることを意味する。多くの日系企業では、特定したギャップの割合はこれよりも大きい場合が多く、フェーズ2は想定していた工数よりも大幅に増加することとなっている。

ギャップの一例としては次の通りである。ESRSS1「自社の従業員」-10「Adequate wages:適切な賃金」では、全従業員に適切な賃金が支払われているかどうか開示することを求めている。具体的には、各国が定める最低賃金を把握したうえで、それぞれの国で最低賃金を下回っている賃金を受け取っている従業員がいる場合、当該国名およびその従業員の割合を開示する必要がある。既にサステナビリティレポートやESGデータブック等で、自社グループの従業員の平均報酬等を開示している日系企業もあるが、国別で最低賃金を把握し、各従業員に対してそれを上回っている報酬を支払っていることの分析まで実施している企業は少ないだろう。人的資本関係は既に多くの情報を開示しているためESRSに準拠した場合の必要な情報とのギャップは小さいだろうと考えている会社は、収集、分析および開示しなければならない情報の種類と粒度にも意識する必要がある。

(3)進捗不明

これは、欧州の現地スタッフを中心としてCSRD対応を進めているが、日本の親会社および欧州子会社の日本人駐在者が、その進捗を正しく把握していないケースである。CSRD対応では、2028年からのグループ全体でのサステナビリティ情報開示を見据えて、先行する欧州で開示することになるサステナビリティに関する方針や目標、行動等は企業グループ全体のそれと整合することが望ましく、新規に設定する場合には本社がグループ全体の戦略や取り組みとの整合性を考えて判断し、決定する必要がある。そのため、企業グループ全体で設定しているサステナビリティ関連の方針や目標、行動等を欧州子会社でCSRD対応を担当している現地スタッフに理解してもらう必要がある。

また、本社で既に収集しているサステナビリティ関連情報やデータをCSRDに準拠したサステナビリティ情報開示でも利活用するために、ギャップ分析の過程で、どのようなサステナビリティ情報やデータを既に本社が収集しているのか欧州側と共有する必要がある。

しかし、脆弱なグループガバナンス体制や、社内およびグループ間のコミュニケーションカルチャーの貧弱性が起因となりそれが十分にできていない企業もある。こういった企業に関しては、CSRD対応をきっかけにして、グローバルグループガバナンスの強化や円滑なコミュニケーションカルチャーの醸成にも取り組むと良いだろう。

おわりに

解決するべき社会的課題であるサステナビリティに対する関心の高さは世界中で年々高まっている。PwCが2023年に調査した「第27回世界CEO意識調査」において、世界のCEOの40%が気候変動に配慮した投資を行った結果、収益率が低くてもそれを容認すると回答している。これは、短期的には収益が減少するような投資であっても、長期的な視点からビジネスの持続可能性を高めることに世界のCEOが意欲的であるためである。また、気候変動対策としてどのような施策に取り組んでいるか尋ねたところ、日本のCEOは全世界と比較しても各項目に対して「進行中」と答えた割合が高い結果となっている。

また、PwCが2023年に実施した「グローバル投資家意識調査」において、75%の投資家が、企業がサステナビリティに関連するリスクと機会をどのように管理するかが投資意思決定における重要な要素であると回答している。さらに、調査結果から、投資家は企業がサステナビリティについて掲げた目標を達成するためのコスト、目標を達成するための明確なロードマップ、それらが企業の財務諸表の前提条件に及ぼす影響など、より高度な情報を求めていることが明らかになっている。

CSRD/ESRSで求められている要求事項は、この社会的課題の解決やステークホルダーからの要求を満たすため、企業自身のサステナビリティに対する取り組みを強化するように設計されている。そのため、日本企業がこの趣旨を十分に理解して、CSRD対応を単なるコンプライアンス対応に留まらせるだけではなく、サステナビリティ経営の高度化と企業価値の向上に資する取り組みに昇華させることが望まれる。

執筆者

藤村 伊津

パートナー, PwC Germany

Email

戸原 英則

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

Email

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