Worldwide Tax Summary 2024年8月号

2024-09-30

Worldwide Tax Summary 2024年8月号トピックス

  1. 第2の柱(GloBE)、および第1の柱(利益B)に関するガイダンスを公表(OECD)
  2. 公開国別報告のアップデート(オーストラリア)
  3. 最高裁、強制みなし本国送金課税の合憲性を支持(米国)
  4. ロシアとの租税条約について、相互合意による停止を通知(米国(2))
  5. 「国際租税協力枠組み条約」交渉のための協議事項草案を公表(国連)

第2の柱(GloBE)、および第1の柱(利益B)に関するガイダンスを公表(OECD)

2024年6月17日、OECD/G20 BEPS包摂的枠組み(IF)は、第2の柱のグローバル税源浸食防止モデルルール(GloBEルール)の運用明確化を目的とした第4弾の執行ガイダンスを公表した。本ガイダンスは、2024年4月に改訂されたGloBEルールのコメンタリーに組み込まれる。本ガイダンスには2つのFAQ文書が添付されている。一つ目はさまざまなトピックをカバーする一般的なFAQで、もう一つは各国・地域におけるGloBEルールの適格性判定に係るピアレビューの方法にフォーカスしている。またOECDは、第1の柱(利益B)に関する追加ガイダンスを公表した。本追加ガイダンスには、営業費用ベースのクロスチェック、およびデータ利用可能性メカニズムを適用するための「適格国・地域」の定義が含まれている。また、利益Bに関する政治的コミットメントの適用範囲となる「対象国・地域」(以前は、「低キャパシティー国・地域」)のリストも含まれている。

本GloBEガイダンスのパッケージには、これまで企業や税務当局が明確化と簡素化を求めてきたいくつかの分野、すなわち、繰延税金負債(DTL)のリキャプチャー、GloBEと会計上の帳簿価額との乖離、クロスボーダー当期税額の配分、クロスボーダー繰延税額の配分、フロースルー事業体を含むストラクチャーにおける利益と税額の配分、証券化ビークルの取扱い、について明確化している。今後、さらなるガイダンスの公表が確実とされるが、早くて2024年末になるとみられる。今後のガイダンスに含まれる可能性のあるトピックとしては、紛争解決に関するルールや、移行期間CbCRセーフハーバーに係るハイブリッド裁定ルールのGloBEルールへの完全適用、といったものが考えられる。また、さらなる恒久的セーフハーバーも検討の余地があろう。

第2の柱のGloBE執行ガイダンス

DTLリキャプチャー – Section 1では、(5会計年度以内に取り崩されない場合に)GloBEルールに基づき、リキャプチャーの対象となるDTLカテゴリーの特定・追跡管理(トラッキング)の方法と、その算定に係る複数の手法の適用方法について概説している。本ガイダンスでは、適用対象企業が、項目ごとや単一の総勘定元帳(GL)勘定ではなく、これらを組み合わせた「Aggregate DTL Category」ベースでDTLをトラッキングできることを明確化している(特定の勘定は、個別トラッキングが可能)。また、本ガイダンスでは、一定の要件のもと、先入先出(FIFO)処理も認めている。

GloBEと会計上の帳簿価額との乖離 – Section 2では、GloBEと会計上の資産・負債の帳簿価額との間に乖離が生じる場合における、GloBE上での繰延税金資産(DTA)およびDTLの算定や調整、および取得事業体が原価で会計処理するグループ内取引の取扱いを説明している。GloBE上のDTLおよびDTAについて、財務会計上の属性項目(attributes)に加えて、継続的なトラッキングが必要となる。

クロスボーダー当期税額の配分 – Section 3では、国内税制で通算控除(cross-crediting)が認められている場合に、親事業体の当期税額を、その恒久的施設(PE)に配分するための4段階のプロセスを説明している。これらの原則は、PE、税務上透明/ハイブリッド事業体、被支配外国会社(CFC)税制(米国GILTIのような(グローバル)合算CFC税制を除く)、分配税、に係る配分に適用されることが明確化されている。なお、今後、GloBEルールの申告後調整や税率変更との相互作用についても、さらなる検討が必要であるとしている。

クロスボーダー繰延税金の配分 – Section 4では、繰越欠損代替税金資産(Substitute Loss Carry-forward DTA)ルールを、ハイブリッド/PE/リバースハイブリッド(CFCに限らない)制度に拡張しており、その配分のための5段階のプロセスを規定している((グローバル)合算CFC税制に係る税額は、配分できない)。なお、多国籍企業(MNE)グループは、これらを考慮しないこともできる(国・地域単位の5年選択)。以上の他、事例を用いて、CFC税制関係国の構成事業体間における繰延税金の配分原則などについても説明している(設例(4.4.1(e)-3など)も掲載)。

フロースルー事業体を含むストラクチャーにおける利益と税額の配分 – Section 5では、フロースルー事業体を含むストラクチャーにおける構成事業体間の利益と税額の配分方法、およびそのようなストラクチャーにおける所得や税額の潜在的な二重計上や非計上に対処する方法についてのガイダンスが示されている。本ガイダンスは、フロースルー事業体が、税務上透明な事業体またはリバースハイブリッド事業体であるかどうかの判定は、一般的に、それ自体がフロースルー事業体ではない、所有権連鎖の中でフロースルー事業体に最も近い構成事業体所有者(‘reference entity’)の税法を参照して決定すべきと結論付けている。なお、タックスヘイブンは一般的に、フロースルーとみなすことはできず、また他の事業体をフロースルーとみなすこともできない。ハイブリッド事業体の定義は、透明でない(not fiscally transparent)、タックスヘイブン(法人所得税率ゼロの国・地域)に所在する事業体にも拡大されている。

証券化ビークルの取扱い – Section 6では、証券化ビークルがGloBE上の構成事業体であるかどうかの判定方法、および構成事業体である証券化ビークルに対して、その収益、費用、税の特殊性を考慮したGloBEルールの適用方法についてガイダンスを示している。なお、本ガイダンスによれば、QDMTT を採用している国・地域は、証券化ビークルにトップアップ税額を課す必要はないが、課してもよいとしている。いずれのアプローチも、QDMTT セーフハーバー上、整合性基準を満たすことになる。

GloBEルールにおける適格性認定に関するFAQ

本FAQでは、「移行期間における適格性の認定措置」の主な特徴について説明している。これは、OECDがルールの適格性を有する国のリストを公表する前段階の措置であり、各国・地域は、自国・地域の法律(草案を含む)の適格性を最初に自己認定する。一方、他のIF加盟国・地域は、これに意見を述べることが可能である(各国・地域に、自国・地域のルールの適格性認定を無制限に認めるものではない)。FAQによれば、実施国・地域は、他の実施国・地域の法律に係る移行期間の適格性を認める必要があり、法令の適用については、そのプロセスの結果に依拠することになる。ピアレビューの仕組みによる「完全な法律のレビュー」は、法律の発効日から2年以内に開始される予定である。なお、本レビューにより、ある国のルールが適格でないと判断された場合でも、移行期間の適格性が遡及的に失われることはないとしている。継続的モニタリングも、ピアレビュープロセスの一環で行われる。

第1の柱(利益B)の報告書に係る追加事項

利益Bは、基本的な(卸売)マーケティング・販売活動に対する独立企業間原則の適用を簡素化することを目的とし、低キャパシティー国・地域に焦点を当てている。策定の完了を待って、IFは2024年2月19日に報告書を公表し、各国・地域は2025年1月1日までに導入を開始できるようになった(本誌2024年4月号参照)。利益Bに係る2024年6月の追加ガイダンスには、まず「対象国・地域」(以前は「低キャパシティー国・地域」)となる国・地域の定義とリストが含まれている(なお、IFの政治的コミットメントの下で、表向きは、採用する国・地域が対象国・地域である場合、利益Bに基づいて決定された移転価格の結果を尊重することに合意している)。第2に、売上高利益率を用いた算定結果に対する「営業費用クロスチェック」に関連して、より高い上限利益率レンジが適用される「適格国・地域」のリストを定義し、記載している(利益B報告書のSection 5.2関連)(注)。第3に、データの入手可能性が限られているため、国・地域のソブリン信用格付けに基づく上方修正を基本価格マトリックスに適用できる国・地域のリストを別途提示している(利益B報告書のSection 5.3関連)。これらの国の定義とリストは、OECD移転価格ガイドラインの第4章の附属書(Annex)にある利益Bのガイダンスに直ちに組み込まれることになる。定義と国・地域のリストは、5年ごとに見直される。OECDのプレスリリースによると、利益Bを含む第1の柱パッケージに関するさらなる作業が進行中である。

(注) 世界銀行の国別分類を用いた営業費用ベースでの上限に係る「適格国・地域」の定義には、利益B報告書に留保を表明しているインド、ブラジル*、コロンビアをはじめ多くの国・地域がリスト化され、中国、インドネシア*、マレーシア*、フィリピン*、タイ、ベトナムなどのアジア諸国も含まれる。これらの国々は、より高い営業費用ベースの上限率の適用による恩恵を受けることから、本アプローチの他の側面(定性的スコープ基準のオプションの必要性を含む)の懸念が緩和される可能性がある。なお、*は、Section 5.3関連のリストにも含まれている。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2024年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

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