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SDGsやESGに関する取り組みが世界的に広がっています。PwC弁護士法人は、企業および社会が抱えるESGに関する重要な課題を解決し、その持続的な成長・発展を支えるサステナビリティ経営の実現をサポートする法律事務所です。当法人は、さまざまなESG/サステナビリティに関する課題に対して、PwC Japanグループや 世界100カ国に約3,700名の弁護士を擁するグローバルネットワークと密接に連携しながら、特に法的な観点から戦略的な助言を提供するとともに、その実行や事後対応をサポートします。
近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定又は制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。
今回は、以下のトピックを紹介します。
ドイツのサプライチェーン・デュー・ディリジェンス(人権デュー・ディリジェンス)法と日本企業への影響
近時、企業及びそのステークホルダーの「人権」に対する関心や意識が高まっています。2011年の国連人権理事会で採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」といいます。)の公表及び経済協力開発機構(OECD)の「OECD多国籍企業行動指針」の改訂により、企業における人権尊重の責任が明示的に求められたことを皮切りに、企業活動が人権に与える影響に焦点が当てられています。欧米各国では、英国現代奴隷法等をはじめとするハード・ローが制定され(さらに、EUでは、人権・環境デュー・ディリジェンス指令案が検討されています)、OECDの「責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」やEUを中心としたソフト・ローの公表等も相次いでなされています。日本においても、2020年10月、「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)が策定され、企業における人権デュー・ディリジェンスの遂行を含む人権関連対応に対する意識の向上が求められています。
このような流れの中、ドイツにおいて、2021年6月に「サプライチェーンにおける企業のデュー・ディリジェンス義務に関する法律(Act on Corporate Due Diligence Obligations in Supply Chains)」(以下「ドイツDD法」といいます。)1が連邦議会で可決されました。同法は、日本企業及びそのサプライチェーンにも影響を与えるものと考えられるため、その概要について解説します2。
ドイツDD法は、企業のサプライチェーンにおける人権侵害及び環境関連侵害を未然に防止することを目的として、企業のデュー・ディリジェンス義務を定める法律です(同法は、2023年1月に施行される予定です)。同法は、6つのディビジョンに分かれており、①一般条項(適用範囲及び定義)、②デュー・ディリジェンスの義務、③法的手続、④当局によるモニタリングとエンフォースメント(執行)、⑤公共調達、⑥罰則に関する規定が定められています。
なお、同法における「サプライチェーン」とは、企業のすべてのサービス及び製品を意味し、原材料の調達から最終顧客への供給まで、製品の生産やサービスの提供に必要なドイツ国内外のすべての工程が含まれます。また、企業が自ら行う事業領域で行う活動のみならず、直接及び間接のサプライヤーのすべての活動も含まれます(§2(5)-(8))。
ドイツDD法は、以下の企業に適用されます(§1)。
したがって、日本企業においても、ドイツに3,000人(2024年以降は1,000人)以上の従業員を有する子会社を有する場合は当該子会社に対して、日本企業のドイツ支店で3,000人(2024年以降は1,000人)以上の従業員を雇用している場合は当該日本企業に対して、同法は適用されることとなります。また、日本企業やその子会社自体に同法が適用されない場合においても、サプライチェーン上のドイツ企業に同法が適用され、当該ドイツ企業から人権デュー・ディリジェンスの実施やリスク管理等の措置について日本企業等が協力を求められることが考えられます(場合によっては当該協力を取引の条件とされることも考えられます)。
ドイツDD法は、企業が、自らの事業活動やサプライチェーンにおいて、「人権リスク」及び「環境関連リスク」が生じることを防止又は最小化すること、あるいは、既に発生している人権侵害や環境関連の義務違反を停止させることを目的としています。同法で対象とされる「人権リスク」及び「環境関連リスク」は定義されており、その概要は以下のとおりです。
ドイツDD法における人権は、同法附属書の1号から11号所定の人権に関する条約4に基づくものであるとされており、基本的には、指導原則(原則12)に沿うものです。その上で、「人権リスク」とは、事実関係に基づき、以下の禁止事項(主要なものを列挙しています)のいずれかに対する違反が差し迫っている十分な蓋然性がある状態をいうと定義されています(§2(2))。
「環境関連リスク」とは、事実関係に基づいて、§2(3)所定の禁止事項のいずれかに違反する可能性が十分にある状態のことをいうものと定義されています。§2(3)では、健康被害と環境破壊を防止する目的を有する以下の条約の特定の事項が挙げられています。
上記のとおり、ドイツDD法は、①人権リスク及び環境関連リスクの双方について、それらの防止又は最小化及び義務違反の停止等を目的としていること、②人権リスクの中には、環境汚染等が引き起こす人権リスク(食品の保存・生産のための自然基盤の侵害、安全で清潔な飲料水へのアクセスの侵害、健康被害(§2(2)9a)-d))等)についても法文で明記していることなど、これまでの他国での法制よりも広い範囲のリスクに関してデュー・ディリジェンス義務を対象企業に課すものであるため、適用対象企業及び関連企業(適用対象企業と直接・間接の取引関係にある企業を含みます)においては、同法の具体的適用や影響等を考慮した慎重な準備等を進める必要があります。
ドイツDD法では、企業は、前記の人権リスク及び環境関連リスクの防止又は最小化及び義務違反の停止等を目的として、そのサプライチェーンにおいて、人権及び環境関連のデュー・ディリジェンスを実施する義務が課せられています。デュー・ディリジェンス義務は具体的には以下のとおり定められています。
このデュー・ディリジェンス義務を遂行する際には、企業の事業活動の性質と範囲、人権リスク又は環境関連リスク又はそれらの義務違反に直接責任を負う当事者に対する企業の影響力、予想される違反の重大性、可逆性及び発生可能性、並びに因果関係等を踏まえて、具体的方法を決定することとなります(§3(2))。
1 リスク管理態勢の構築(§4(1)(2)(4)) |
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2 企業内の責任者の指定(§4(3)) |
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3 定期的なリスク分析の実施(§5) |
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4 ポリシーステートメントの公表(§6(2)) |
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5 自社の事業領域及び直接のサプライヤーに対する予防措置(§6(1)(3)(4)) |
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6 救済措置(§7(1)-(3)) |
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7 苦情処理手続(グリーバンス・メカニズム)の構築(§8) |
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8 間接的なサプライヤーのリスクに関する注意義務(§9) |
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9 文書化及び報告(§10(1)(2)) |
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ドイツDD法では、上記のとおり、デュー・ディリジェンス義務として、企業が人権リスク及び環境関連リスクの防止、最小化及び停止等を目的として講ずべき措置等が詳細に定められています。
特に、適用対象企業のみならず、当該企業の直接のサプライヤーについても適切な予防措置を講じ、義務違反等の場合の救済措置まで適切に対応することが求められています。さらには、間接的なサプライヤーの経済活動についても、苦情処理手続(グリーバンス・メカニズム)の窓口を開放し、義務違反の可能性を示唆する実際の兆候がある場合には、リスク分析を行い、人権関連又は環境関連の義務違反を防止・停止・最小化するための方針策定及び実施等の措置を講じることが求められています。
そのため、日本企業が適用対象企業である場合は勿論のこと、直接又は間接の取引先であるドイツ企業が適用対象企業である場合には、当該ドイツ企業からドイツDD法上の義務を遵守するための然るべき措置を求められることがあることに十分に留意しなければなりません。
ドイツDD法上の義務履行は、人権リスク及び環境関連リスクの防止・最小化・停止等を保証するものではないため、適用対象企業により合理的な予防措置が講じられている限り、人権関連又は環境上の義務違反が生じたとしても、ドイツDD法の違反が生じるものではありません。
しかしながら、ドイツDD法上の義務を遵守しない企業については、金銭的なペナルティが課されることがあります。具体的には、違反事項によるものの、原則として、法人の場合、最大800万ユーロの行政上の罰金が課せられます(§24(2)(1))。さらに、平均年間売上高が4億ユーロを超える法人又は団体に、以下に列挙する違反(§7(救済措置)の違反)がある場合には、行政上の罰金の額は過去3会計年度の全世界の平均売上高の2%に達する可能性があります(§24(3))。
上記行政罰が課された場合には、違反の重大性等により、3年以内の入札参加を禁止される可能性があります(§22)。
なお、ドイツDD法の違反に対する民事責任に関する定めは同法には規定されていません(§3(3))。これは、そのような民事責任は、ドイツ不法行為法上の一般条項に準拠することを意味するものと考えられます(但し、準拠法については事案毎に異なります)。
上記のとおり、2023年1月から施行されるドイツDD法は、ドイツに子会社や支店を有する日本企業のみならず、ドイツ企業などの適用対象企業と直接・間接の取引関係(サプライチェーン)にある日本企業にも大きく影響を及ぼすものであるため、日本企業としても同法で求められるデュー・ディリジェンス義務の内容を理解し、同法の施行に向けての準備をしていく必要があります。
特に、今後、ドイツ企業やそのサプライチェーン上の企業との取引契約に関して、ドイツ企業等の人権方針や調達方針等への合意や遵守の徹底、それらを徹底するための適切なトレーニングの実施、遵守状況の調査協力等に関する契約条項を定めることが求められる可能性(そのような定めが受けられない場合は取引継続が困難となる可能性)がありますので、それらの企業と取引関係にある(又は新規に取引関係に入る)日本企業としては予め日本企業内における人権関連の体制を整備しておく必要があるものと考えられます。
さらに、日本企業としては、このような諸外国のハード・ローの制定を待たずとも、自社及び自社のサプライチェーンやバリューチェーン上の人権課題に向き合い、人権尊重の義務を果たしていくことが、自社のサステナブル(持続可能)な経営に不可欠であることを認識しながら、能動的・積極的に、適切な人権方針の策定によるコミットメントや人権デュー・ディリジェンスの実施等の対応を推進していくことが重要であると考えられます。
1 本稿では、同法のLieferkettensorgfaltspflichtengesetz(LkSG)(Article 1)のセクション(§)を引用しています。
2 ドイツDD法の内容については、PricewaterhouseCoopers Legal AG Rechtsanwaltsgesellschaft の Mario Lindner氏から関連情報及び助言を受領し、検討したものです。
3 なお、ドイツ有限会社法15条所定の結合企業の場合は、従業員数をカウントする際に、グループに属するすべての企業の従業員のうちドイツ国内で雇用されている者を考慮しなければならないものとされています(§1(3))。
4 強制労働に関するILO条約29号及び同号の議定書、結社の自由及び団結権の保護に関するILO条約87号、団結権及び団体交渉権の原則の適用に関するILO条約98号、同一価値の労働に対する男女労働者の同一報酬に関するILO条約100号、強制労働の廃止に関するILO条約105号、雇用及び職業における差別に関するILO条約111号、雇用の最低年齢に関するILO条約138号、児童労働の禁止及び即時措置に関するILO条約182号、市民的及び政治的権利に関する国際規約、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約。
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