米国ウイグル強制労働防止法の施行と実務上の対応

ESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2022年8月)

近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定又は制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。

今回は、以下のトピックを紹介します。

米国ウイグル強制労働防止法の施行と実務上の対応

米国ウイグル強制労働防止法は、日本企業を含む関連企業における喫緊の対応を生じさせる他、サプライチェーン管理の在り方やサプライチェーンの再構築につき検討の必要性を生じさせるものであるため、日本企業としてその内容等について十分に理解しておく必要があります。

1.米国ウイグル強制労働防止法(UFLPA)の成立と施行

1. UFLPAの成立と施行-1930年改正関税法307条との関係

2021年12月23日、中国の新疆ウイグル自治区において強制労働によって製造等された製品等の輸入を禁止する、ウイグル強制労働防止法(Uyghur Forced Labor Prevention Act)1(以下「UFLPA」といいます)が成立し、2022年6月21日に施行されました。
サプライチェーンやバリューチェーンにおいて中国、米国が関与する日本企業には、UFLPAに基づく喫緊の対応が必要となる他、サプライチェーン管理の在り方やサプライチェーンの再構築につき検討の必要性が生じるものと考えられます。

米国では、合衆国法典第19編1307条(1930年改正関税法307条)(以下「関税法307条」といいます)に基づいて、外国で採掘(mine)、生産(produce)又は製造(manufacture)された物品、製品及び商品の全部又は一部が強制労働によって製造等されていることについて、合理的な疑いがあるときは、当該物品、製品及び商品について、輸入貨物引渡しの保留を命ずる違反商品保留命令(Withhold Release Order(WRO))が発出されていました。2022年6月21日以降に米国に輸入される新疆ウイグル自治区関連製品については、関税法307条の適用に関して、UFLPAが優先的に適用されることとなります。

2. UFLPAの概要-新疆ウイグル自治区産品等輸入の原則的禁止

・新疆ウイグル自治区関連製品等の「強制労働」製造等の推定・輸入禁止(原則)

UFLPAは、2022年6月21日以降、米国税関・国境警備局(Customs and Border Protection)(以下「CBP」といいます)に対し、以下の新疆ウイグル自治区製品等については全て「強制労働」によって製造等されたものと推定し、関税法307条に基づき米国への輸入を差し止め(拘留・排除・押収・没収)するように義務付けています(UFLPA第3条(a))

新疆ウイグル自治区にて 又は

強制労働への関与等の疑いのある事業者(エンティティ)等のリスト(以下「UFLPA エンティティ・リスト」といいます)2上の事業者等によってその全部又は一部が採掘、生産、製造(以下「製造等」といいます)された物品、製品、用品及び商品(以下「製品等」といいます)(以下これらの要件を充足する製品等を「新疆ウイグル自治区関連製品等」といいます)

・推定を覆すための反証(例外)

上記の例外として、CBP長官が以下の3点を充足すると判断した場合には、上記の推定が覆され、輸入が認められます(UFLPA第3条(b))。

(i) 輸入者が、米国強制労働執行タスクフォース(Forced Labor Enforcement Task Force)3(以下「FLETF」といいます)の策定するガイダンス(後に定義する「UFLPA戦略」)その他の規則等を全面的に遵守していること

(ii) CBPからの全ての照会に完全かつ実質的に回答していること

(iii) 輸入者が、明確かつ説得力のある証拠(clear and convincing evidence)によって、新疆ウイグル自治区関連製品等が強制労働によらずに製造等された旨を証明していること

CBP長官は、上記例外の判断をした場合、対象となった新疆ウイグル自治区関連製品等及びその判断に当たり検討した証拠を記載した報告書を30日以内に連邦議会委員会に提出し、かつ一般に公開する必要があります(UFLPA第3条(c))。

2.中国で強制労働により製造等された製品等の輸入を防止するための戦略(UFLPA戦略)

  • FLETFは、UFLPA第2条に基づき、2022年1月24日付官報(Federal Register)において、新疆ウイグル自治区など中国にて強制労働によって製造等された製品等の米国への輸入の防止措置に関して、パブリックコメントの募集を開始し、パブリックヒアリングの実施後、米国商務長官(Secretary of Commerce)および米国国家情報長官(Director of National Intelligence)と協議の上、2022年6月17日付けで、「中国における強制労働によって採掘、生産又は製造された物品等の米国への輸入を防止するための戦略」(以下「UFLPA戦略」といいます)4を策定・公表しました。
  • UFLPA戦略は強制労働により製造等された製品等の輸入防止のための執行指針であり、その主な内容は以下のとおりです(UFLPA第2条(d))。
(1) 中国において強制労働により製造等された製品等を輸入することに関するリスクの包括的評価
  • 強制労働により製造等された製品等がどのように米国に輸入されるリスクが存するかという点について、①サプライチェーンの可視性が欠如していること、②新疆ウイグル自治区で生産された原料又は加工材料を第三国又は他省での合法的な生産プロセスに混入させること、③意図的に第三国を通すことで原産地の隠蔽又はロンダリングを行い、中国以外の原産地申告が行われること等が挙げられています。
  • また、新疆ウイグル自治区にサプライチェーンを持つ全ての事業者は、米国法の遵守を確保し、強制労働にさらされる可能性がないかを確認するために、サプライチェーンを追跡するためのデュー・ディリジェンス措置を講じる必要があると指摘されています。
(2) 強制労働のスキームの評価と説明、及び新疆ウイグル自治区において強制労働を利用している事業者等のリスト(UFLPAエンティティ・リスト)
  • ウイグル人やその他迫害されている少数民族による強制労働を含む中国の労働プログラムの例として、①ペアリング支援プログラム(新疆ウイグル自治区に工場を設立し、収容所と連携することを促進するもの)、②貧困軽減プログラム(少数民族を中国各地の農場や工場に配置し、罰則の脅威の下で強制的に労働させるもの)、③土地の譲渡と再雇用(少数民族から強制的に農地を収容し、非自発的な労働力の移動が促進されるもの)が挙げられています。
  • UFLPAエンティティ・リストhttps://www.dhs.gov/uflpa-entity-list)では、以下のとおり新疆ウイグル自治区において全部又は一部につき強制労働を伴う製品等を製造等する事業者又は製品等が具体的に指定されています。

(i) 新疆ウイグル自治区で強制労働により製品等を製造等している事業者のリスト

(ii) 同自治区政府と協力してウイグル人、カザフ人、キルギス人その他迫害された集団のメンバーを募集、輸送、移送、収容などしている事業者のリスト

(ii) (i)又は(ii)の事業者により製造等がされている製品等のリスト

(iv) (iii)の製品等を中国から米国に輸出した事業者のリスト

(v) 同自治区または同自治区政府若しくは新疆生産建設兵団(XPCC)と協力する事業者から原材料を調達する施設及び事業者のリスト

  • また、執行の優先度が高い分野のリストとして、アパレル、シリカ系製品(ポリシリコンを含む)、綿花と綿製品、トマトとトマト製品が挙げられ、それらの執行計画が説明されています。
(3) 強制労働により製造等された製品等の正確な識別と追跡のための推奨される取組み、イニシアチブ、ツール及び技術
CBPは、貿易ネットワークへの可視性を向上させ、強制労働に関連する製品等を特定するために最先端技術を調達し、既存システムを強化、他省庁間協力を強化し、強制労働の取り締まりと合法的な貿易を促進するプロセスを強化するものとしています。
(4) CBPによる、関税法307条に違反する製品等の持ち込みを防止するための法的権限及びツールの使用に関する強化方針
強制労働に関連する製品等の米国内への持ち込みを確実に防止するため、CBPの拘留、 排除、押収、没収の権限を強化することを検討していること、また、UFLPAによる推定の例外申請に関する判定プロセスの統一化を検討していることが説明されています。
(5) 強制労働で製造等された製品等が米国の港に持ち込まれないことを確保するための必要な追加リソース
UFLPAの執行に向けて、FLETF議長であるDHS戦略・政策・計画局(PLCY)、CBP、米国移民税関執行局(USICE)国土安全保障捜査局(HSI)が必要とする追加リソース(人員・予算など)が説明されています。
(6) 輸入者向けのガイダンス(以下「FLETF輸入者ガイダンス」といいます)
A) 輸入者が中国、特に新疆ウイグル自治区から全体又は一部が強制労働で生産された製品等を輸入しないことを保証するための、(a)デュー・ディリジェンス、(b)効果的なサプライチェーン追跡、(c)サプライチェーン管理措置

(a) デュー・ディリジェンス

反証可能な推定(rebuttable presumption)を覆すために、輸入者は、全部又は一部が強制労働によって製造等されたいかなる製品等も輸入しないことを保証するために、以下のプロセスを含むデュー・ディリジェンスを実施しなければならないとされています。

1)ステークホルダーやパートナーのエンゲージメント

ステークホルダーを特定し、エンゲージメントが必要です。また直接のサプライヤーのみならず、そのサプライヤーを通じて、又は直接に、製品等に使用される原材料や部品の生産者と関わる必要があります。

2)リスクと影響の評価

強制労働リスク評価を実施するために、輸入者は輸入品のサプライチェーンをマッピングし、強制労働を使用するリスクのあるステップを特定する必要があります。

3)行動規範の策定

サプライチェーンにおける強制労働のリスクに対処するための枠組みを提供する行動規範又はサプライチェーン基準の声明は、デュー・ディリジェンスの重要な要素となります。輸入者は、行動規範をサプライヤー契約に組み込むべきであり、さらに直接の供給業者との契約において、上流供給業者が輸入者の行動規範と一致した基準を実施することを確実にするための措置を手当てすることがあります。

4)サプライチェーン全体でのコミュニケーションとトレーニング

輸入者は、サプライヤーの選定に責任を持つ社員やエージェントに対してトレーニングを提供し、そのトレーニングは、サプライヤーの選択と契約プロセスに統合する必要があります。

5)コンプライアンスの監視

輸入者は、特に新疆にあるサプライヤーや下請業者及びUFLPA エンティティ・リストに掲載されているサプライヤーについて、行動規範の遵守を監視する必要があります。

6)違反の是正

輸入者は、サプライヤーからの調達を継続するためには、是正措置計画を策定する必要があり、是正措置計画は、強制労働の全ての指標に具体的に対処しなければなりません。

7)第三者によるレビュー

独立した第三者による検証は、輸入者のデューディリジェンス・システムの実施と有効性を実証することができ、デュー・ディリジェンスの一部となります。

8)パフォーマンスと関与の報告

輸入者は、監査と検証のプロセスを含むデューディリジェンス・システムについて、定期的かつタイムリーに公的な報告を行うことが推奨されます。

(b) 効果的なサプライチェーンの追跡

輸入者は、サプライチェーンのあらゆるレベルにおいて、サプライヤーと労働力の供給源を把握しなければなりません。サプライチェーンの追跡を行う最初のステップは、輸入される物品又は材料の生産に使用される原材料の供給者に至るまでのサプライチェーン全体を「マッピング」することです。さらに、サプライチェーンの追跡は、サプライチェーンの始まりから完成品の買手まで、物品や材料の管理の連鎖を証明することが必要です。

(c) サプライチェーンの管理措置

サプライチェーン管理措置もデュー・ディリジェンスの一部であり、強制労働のリスクを防止・ 軽減するための施策です。効果的なサプライチェーン管理措置には、契約締結前に強制労働の有無を潜在的サプライヤーに確認するプロセスを設けること、サプライチェーンで強制労働が確認された場合、サプライヤーによる是正措置を要する内容の契約を要求すること、契約関係の終了など、是正措置を取らなかった場合の結果を説明すること、などが含まれます。

  • 上記のガイダンスの他、輸入業者などがグローバル・サプライチェーンにおける強制労働の虐待に対処するために役立つリソースが列挙されています。
B) 中国を原産地とする製品等の全部又は一部において新疆ウイグル自治区で製造等されたものではないことを証明する証拠の種類、性質及び範囲

輸入者に求められる証拠の種類、性質及び程度は、対象となる輸入の事実及び状況に応じて異なりますが、サプライチェーンの追跡は、輸入品が新疆ウイグル自治区で製造等されたものではないことを証明するための一般的な方法です。CBPは、輸入品又は物品の特定の構成品のサプライチェーン全体のトレーシングを証明するための証拠を要求することができ、要求された場合、輸入者はCBPの審査下にある製品等の完全なサプライチェーンを追跡することが必要です。そのための文書としては以下が含まれます。

  • 第三国での物品の調達、製造、加工のあらゆる段階を含む、採掘、生産又は製造の全ての段階を含む、輸入された製品等及びその構成品のサプライチェーンの詳細な説明
  • 輸入された製品等の各構成要素の出所を示す証拠
C) 中国を原産地とする製品等の全部又は一部が強制労働によって製造等されたものではないことを証明する証拠の種類・性質及び程度

輸入者はCBPに、製品等が強制労働によって製造等されていないことを示す「明確かつ説得力のある証拠」を提出しなければなりません。輸入者に求められる証拠の種類、性質、範囲は対象となる輸入の事実と状況に応じて異なりますが、以下の証拠例が挙げられています。

  • サプライチェーン全体及び各段階でどの事業者が関与したかを含むサプライチェーンに沿った輸送をマッピングした証拠
  • 輸入製品等の製造等において推定の対象となる事業者における全労働者の完全なリスト
  • 新疆ウイグル自治区出身の全ての労働者が、脅迫や罰則の脅威なしに自発的に働いていることを確実に証明する証拠
(7) 適切なNGO及び民間団体との間で行う調整と協力
FLETFは、UFLPAの実施に関して、NGOや民間団体との関与を続け、 執行と貿易円滑化の機会について話し合うため、NGOと民間団体との合同省庁間会議を開催する予定であることが説明されています。

3.UFLPAに関するCBPの輸入者向けの運用ガイダンス(CBP輸入者ガイダンス)

UFLPAの執行を担うCBPは、2022年6月13日付けで、貿易関係者に業務上のガイダンスを提供し、UFLPA戦略のガイダンス(FLETF輸入者ガイダンス等)を補完することを目的として、同法執行プロセスや、輸入者が同法を遵守する上で役立ち得る資料やツールなどの情報を示した「輸入者向けの運用ガイダンス」(以下「CBP輸入者ガイダンス」といいます)5を公表しています。

CBP輸入者ガイダンスには、主に以下の内容が記載されています。

① 輸入手続及びUFLPAの執行プロセス
② 反証可能な推定に対する例外適用要請
③ サプライチェーンのデュー・ディリジェンス、追跡及び管理のためのリソース
CBP輸入者ガイダンスには、貿易関係者がサプライチェーン・デューディリジェンス、トレーシング及び管理を行う能力を支援するために利用できるリソースが列挙されており、ウェブサイトで利用できるリソースも含まれています。
④ CBPが要求する可能性のある情報の種類と性質

上記に関連して、UFLPA推定の例外適応要請に際し、CBPが輸入者に要求する可能性のある情報がA~Eまで5種類列挙されています。但し、これらは例示列挙であることに留意が必要です。

A デュー・ディリジェンスのシステムに関する情報

サプライチェーンのデュー・ディリジェンスのシステム又はプロセスを示す情報であり、例えば、以下のような情報が含まれます。

(a) 強制労働のリスクを評価し、対処するためのサプライヤー及びその他のステークホルダーとのエンゲージメント

(b) サプライチェーンのマッピング、及び原材料から輸入品の製造までのサプライチェーンに沿った強制労働リスクの評価

(c) 強制労働の使用を禁じ、中国政府の労働スキームを利用するリスクに対処するサプライヤーの行動規範

(d) サプライヤーの選定やサプライヤーとのやり取りを行う従業員及びエージェントを対象とした、強制労働のリスクに関する研修

(e) サプライヤーが行動規範を遵守しているかどうかのモニタリング

(f) 特定された強制労働条件の是正又は是正が不可能若しくは適時に完了しない場合のサプライヤーとの関係の終了

(g) デューディリジェンス・システムに関するパフォーマンスとエンゲージメントの報告

B サプライチェーンの追跡に関する情報

原材料から製品等が製造されるまでのサプライチェーンを追跡するための情報であり、例えば、以下の情報が含まれます。

(a) 輸入製品等及びその構成品を含むサプライチェーンの詳細な説明(採掘、生産又は製造の全段階を含む)

(b) 荷送人及び輸出者を含むサプライチェーンにおける事業者の役割

(c) 生産工程の各段階に関連する供給業者のリスト

(d) 生産工程に関与する各企業又は事業者からの宣誓供述書

(e) 仕入又は部品に関する証拠書類(発注書、インボイス、支払記録等)

(f) 製造業者等に関する証拠書類(原材料に関する情報、製造等に関する情報、生産指示書、工場現場視察報告書等)

C サプライチェーンの管理措置に関する情報
サプライチェーンの管理措置に関する資料であり、強制労働のリスクを防止又は軽減し、輸入製品等の採掘、生産、製造において確認された強制労働の使用を是正するための内部統制措置の情報等が含まれます。
D 製品等の全部または一部が新疆ウイグル自治区で製造等されていない証拠
製品等のサプライチェーンを追跡する資料等(上記B参照)
E 中国原産の製品等の全部または一部が強制労働によって製造等されていない証拠
製品等の製造等に関与する全ての事業者を特定するサプライチェーンマップ、中国での製品の製造等に関わる各事業者の労働者に関する情報等が挙げられています。

4.日本企業の実務上の対応

日本企業としてはUFLPAのみならず、FLETF輸入者ガイダンス及びCBP輸入者ガイダンスを読み込み、理解し、実務に落とし込むことが必要不可欠となります。その中でも、以下の点に留意する必要があります。

1.原則推定への対応

UFLPAは、①新疆ウイグル自治区にて、又は②UFLPAエンティティ・リスト上の事業者によって、全部又は一部が製造等された製品等(新疆ウイグル自治区関連製品等)は、原則として、全て「強制労働」によって製造等されたものと推定されます。推定の前提として①又は②によってその全部又は一部が製造等された製品等であることが必要となりますが、その立証責任の所在は明確にはされていません。

しかしながら、FLETEF輸入者ガイダンスでは、①「輸入者はその輸入がUFLPAの範囲外であると考える場合、輸入者はその旨を示す情報、すなわち、輸入品およびそのインプットが完全に新疆以外から調達され、UFLPAエンティティ・リストと関係がないという情報をCBPに提供できるものとする。」とされていること、②新疆ウイグル自治区で製造等されたものではないことを証明する証拠の種類、性質及び範囲が示されていることからすると、輸入者において、CBPに対して積極的に情報提供や説明・立証等をしていくことが求められる可能性があるものと考えられます。それ故、日本企業としては、可能な限り、サプライチェーン上の取引先又は取引先を通じて、UFLPAエンティティ・リスト上の事業者がサプライチェーン上で関与していないか、新疆ウイグル自治区が関与していないかという点について、情報収集を行う等の対応が必要となります。

2.推定反証のための対応

輸入者が推定を覆すためには、①UFLPA戦略等を全面的に遵守していること、②CBPからの全ての照会に完全かつ実質的に回答していること、③輸入者が、「明確かつ説得力のある証拠」によって、新疆ウイグル自治区関連製品等が強制労働によらずに製造等された旨を証明していることが必要です。

FLETF輸入者ガイダンス及びCBP輸入者ガイダンスでは、(a)デュー・ディリジェンスを実施すること、(b)サプライチェーンをマッピングして、トレーシングなど追跡をすること(効果的なサプライチェーンの追跡)、(c)契約締結前のプロセスや契約内容において強制労働が確認された場合の是正措置を定めるなどのサプライチェーンの管理措置を採ることなどが、準備すべき書類等と共に、具体的方法として示されています。特に、FLETF輸入者ガイダンスでは、「中国を原産地とする製品等の全部又は一部が強制労働によって製造等されたものではないことを証明する証拠の種類・性質及び程度」として、①サプライチェーン全体及び各段階でどの事業者が関与したかを含むサプライチェーンをマッピングした証拠、②輸入品の製造等において推定の対象となる事業者における全労働者の完全なリスト、③新疆ウイグル自治区出身の全ての労働者が、脅迫や罰則の脅威なしに自発的に働いていることを確実に証明する証拠などが挙げられています。

同ガイダンスで求められている文字通りの対応や証拠収集をすることは、実務上は容易ではないと思われますが、UFLPAに対応するためにも、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく人権デュー・ディリジェンスを推進することは効果的であり、その内容をUFLPAで求められている水準に高度化していくこと(意識的な契約上の手当て(行動規範の遵守や自己監査等の義務付け等)、サプライチェーンの追跡や管理措置の整備及び関連する証拠収集等を含みます)等により、可能な限りの対応を採っていくことが考えられます。他方で、UFLPA対応の困難性を考慮して、サプライチェーンの見直しや再構築等についての検討を要することもあると考えられます。

3.中国との関係での留意点

なお、中国では、2021年6月10日付けで、「中華人民共和国反外国制裁法」(反外国制裁法)が成立し、施行されています。同法では、いかなる組織及び個人も、外国国家が中国の公民、組織に対して講ずる差別的制限措置を実行し、又は実行に協力してはならないなどとされているため、UFLPAへの対応が同法に抵触しないように(例えば、特に中国現地法人における対応に配慮した上で)遂行可能なのかという点も検証が必要となります。この観点からも日本企業には慎重な対応が求められます。

1 https://www.congress.gov/bill/117th-congress/house-bill/6256/text

2 産地が新疆ウイグル自治区であるか否かを問わず、UFLPAエンティティ・リストに掲げられる特定の事業者によって製造等された製品等が対象となります。

3 FLETFは、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の下で設立された機関であり、米国国土安全保障省(DHS)の長官(Secretary of Homeland Security)が議長を務める他、米国通商代表部(USTR)など関係各省庁の代表から構成されます。

4 https://www.dhs.gov/sites/default/files/2022-06/22_0617_fletf_uflpa-strategy.pdf

5 https://www.cbp.gov/sites/default/files/assets/documents/2022-Jun/CBP_Guidance_for_Importers_for_UFLPA_13_June_2022.pdf

主要メンバー

北村 導人

北村 導人

パートナー, PwC弁護士法人

山田 裕貴

山田 裕貴

パートナー, PwC弁護士法人

日比 慎

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ディレクター, PwC弁護士法人

小林 裕輔

小林 裕輔

ディレクター, PwC弁護士法人

蓮輪 真紀子

蓮輪 真紀子

PwC弁護士法人